俺の気持ちを、お前にだけは知られたくない。
でも、本当は、お前にだけ知って欲しいなんて、これは俺の我侭。
だけど今は、俺のそんな些細な気持ちよりも、今だけはお前が目の前で笑ってくれる事の方が大切だから……。
きっと、お前が笑ってくるのなら、俺は何でもするだろう。
例え、自分の気持ちを押し殺す事になっても……。
だから、笑ってくれ、俺の為に……俺だけの為に……。
見えない想い 06
ヤマトが病室に戻ってきたのは、既に日が暮れてからの事だった。
ヒカリと話をしていた太一は、開いたドアから姿を見せたヤマトに嬉しそうな顔を見せる。
「ヤマトvv」
「遅くなってすまない……親父を説得するのに、時間が掛かちまった」
嬉しそうに自分の名前を呼ぶ太一に、ヤマトもこれ以上無いほどの優しい微笑を見せた。
目の前で見せられたその遣り取りに、ヒカリは寂しそうに小さく息を吐き出す。
「それじゃ、私…お母さんに連絡してきます……ヤマトさん、お兄ちゃんを頼みますね」
邪魔をしたくないから、そしてこれ以上悲しい気持ちにはなりたくないから、ヒカリは苦笑を零しながらも、ヤマトにぺこりと頭を下げる。
「ヒカリちゃん?」
「……お母さん、納得してくれましたから、だから、お兄ちゃんをお願いします」
言われた事の意味が分からずに、ヤマトが不思議そうに自分を見詰めて来るのに、ヒカリは精一杯の笑顔を見せる。
「それじゃ……」
「明日、正式にお母さんから挨拶すると思います。お父さんを説得するの、お母さんじゃないと駄目だから……」
苦笑を零しながら言われたそれに、ヤマトは思わず笑顔を返す。
「有難う、ヒカリちゃん」
優しい微笑と共にお礼の言葉を述べられて、ヒカリも微笑んで返すと、そのまま部屋を出て行ってしまう。
「……ヤマト、親父さんの説得って……」
ヒカリが出て行った瞬間に、今まで黙って話を聞いていた太一が、少しだけ不機嫌そうにヤマトを上目使いに見詰めながら問い掛ける。
「……聞いてないのか?」
自分の事を睨みつけてくる太一に、ヤマトは苦笑を零しながら問い返した。
「……聞いたけど、俺は反対だからな!」
「……どうして?」
きっぱりとした口調で言われたそれに、ヤマトはベッドに座りながらそっと太一の頬に触れて、優しい口調で問い掛ける。
真っ直ぐに自分の事を見詰めてるその綺麗な瞳に、太一は居心地悪そうに視線を逸らしてから小さく首を振った。
「……どうしても……お前にこれ以上、迷惑掛けたくないから……」
ギュッとシーツを握り締めながら言われたその言葉に、ヤマトはこっそりと息を吐きだして苦笑を零す。
例え、記憶を失ったとしても、太一は太一であると言う事が、嬉しいなんて不謹慎なことを思ってしまう。
「迷惑なんて掛かる訳ないだろう?どうしてそんな風に思うんだ?」
自分から視線を逸らしている太一の頬にもう一度手を触れて、ヤマトは優しい口調で問い掛けた。
「どうしてって……俺は、記憶が無くって……」
「俺の事は覚えてるんだろう?」
「えっと、だから……おじさんにだって、迷惑……」
「親父の許可は貰った。理由を話してたから、時間が経っただけで、親父も太一が相手なら、問題ないってさ」
自分の言葉を遮りながら、ヤマトが返してきたそれに、太一はそれ以上何も返す言葉が浮かんで来ない。
先手先手で答えを返すヤマトを、少しだけ恨めしそうに見詰めれば、笑顔で返されてしまう。
「ほらな、何が迷惑になるんだ?」
「……ヤマト、意地悪だ……」
自分の事を恨めしそうに見詰めて来る太一に、苦笑を零しながらヤマトは頬に触れていた手をゆっくりと輪郭をなぞる様に動かした。
「知らなかったのか?俺は、こう言う奴だって……」
「ちょ、ヤマト!」
自分の輪郭をなぞる様に動いていた手が、そっと自分の唇に触れてきた瞬間、太一は驚いてその手を離そうと慌てだす。
「それとも、太一は意地悪な俺なんかと一緒に居るのは、イヤか?」
そっと自分の唇に触れながら、ヤマトが寂しそうに尋ねてきたその言葉に、太一の抵抗がピタリと止まる。
「……ヤマト、やっぱり、お前ずるい……そんな聞き方されたら、俺……」
「ああ……そうだな……俺は、ずるい……でも、お前とずっと一緒に居たいから……」
「……俺だって、ヤマトとずっと一緒に居たい……でも……」
言い掛けたその言葉を、ヤマトが遮る様に唇を塞ぐ。
ヤマトからの初めてのキス。突然の事に太一は一瞬だけ驚いたように瞳を見開いて、そしてゆっくりとその瞳を閉じた。
時間にすれば、ほんの僅かな時間。
たった数秒の時間なのに、それがやけに長く感じられて、太一は離れていくヤマトを感じてその瞳を開く。
そして、開いた瞬間思わず息を呑んでしまう。
端正なその顔が、自分の直ぐ目の前にある事に、思わず顔が赤くなるのは止められない。
「『でも』なんて言葉は、聞きたくない。太一が、俺と一緒に居たいって気持ちだけで十分だ」
「ヤ、ヤマト・……」
「それ以外を言うつもりなら、何度だってその口塞いでやるよ」
軽いウインクと共に言われたそれに、ますます太一の顔が赤くなってしまう。
「……バカ……」
真っ赤になった顔を逸らしながら、太一にはそれ以上の言葉を言う事が出来ない。
俯いてしまった太一にヤマトは嬉しそうな笑顔を見せると、そっと太一を抱き寄せる。
「じゃあ、OKって事だな、太一……」
優しく耳元に囁けば、太一が擽ったそうに体を震わせてから、小さくコクリと頷いた事に、ヤマトはもう一度笑顔を見せた。
「……わ、分かったから、離れてくれ、ヤマト!」
自分を抱き締めているヤマトを相手に、太一はその手から逃れようとする様にジタバタと暴れ出す。
勿論、その腕の中に居るのがイヤなのではなく、ただ恥ずかしいと思う気持ちがどうしても止められないから・…。
慌てている太一を前に、ヤマトは笑いを零すと悪戯を思い付いた様にもう一度そっと耳元に囁きかけた。
「……好きだ……誰よりも…誰にも、渡したくないくらい……」
「ヤ、ヤマト・……」
言われた内容に胸がドキドキするのは、仕方ないと諦めよう。
だが、平気な顔でサラリと言われたその言葉に、『自分も』だと返事を返す事など、きっとまだ出来ない。
真っ赤になって自分の事を見詰めて来る太一に、ヤマトは少しだけ残念そうにその体を自分から離す。
「だから、太一には嫌われたくない……嫌がる事は、しないって約束する」
「……俺、ヤマトにされるんだったら、きっと何されても嫌いになんて、なれねぇと思う……」
真っ直ぐに見詰めて来る瞳に、ぽつりと漏らされたその言葉が、自分の笑みを誘う。
何気ない太一の言葉の一つ一つが、自分を幸せにしているという事に、きっと本人は気が付いていないだろう。
そして、その言葉にどれだけ救われているのかと言う事も……。
「有難う、太一……」
笑顔を見せながらのお礼の言葉に、太一は不思議そうに首を傾げた。別に、礼を言われるような事は何一つしてない。それに、どちらかと言えば、自分の方こそが礼を言わなければいけないと思うのだ。
「……ヤマト、何で、有難うなんだよ。それは、俺の言葉だぞ……だって、本当は……」
『不安だったから』と言う言葉を飲み込んで、また俯いてしまう。
目が覚めた瞬間、ヤマトの姿がなかった事で、自分はとても不安だった。
ただ、ヤマトの姿がなかったというだけなのに、まるで置いて行かれたような気分になったのだ。
そんな事無いと自分に言い聞かせても、不安で仕方なくって、そしてヒカリから伝言だと伝えられたその言葉が、どれだけ自分を安心させてくれるものだったか……。
それのお礼を言わなければと、思うのに恥ずかし過ぎて素直に言葉にならない。
「……分かってる。ごめんな、お前が寝てる間に居なくなって……」
俯いてしまった自分を慰める様に、頬にキスをされて、太一は驚いて顔を上げた。
「どうして分かったって、顔だな。分かるさ、太一の事だからな」
ポンッと頭に手を乗せると、優しく撫でられる。
「……ごめん……」
優しく撫でてくれる手に、太一は申し訳なさそうに謝った。
突然謝られてしまった事に、ヤマトは一瞬きょとんとした表情をしてから、苦笑を零す。
「謝る必要なんて無いだろう?俺だって、太一が突然居なくなったら不安になるさ」
「……うん……はい……」
苦笑を零しながら言われた事に、素直に頷いたのと同時に、ノックの音がして返事を返せば、少しの間を置いて静かにドアが開かれた。
「ヒカリちゃん、どうだった?」
「はい、お母さんの話では、お父さんも納得してくれたそうです」
ニッコリと可愛らしい笑顔を見せながら言われた事に、ヤマトも思わず笑顔を返す。
「有難う、ヒカリちゃん」
「私は、何もしてないですから…それじゃ私、もう遅いから、帰りますね……」
「帰るって・…誰か迎えに来ないのか?」
ぺこりと頭を下げるヒカリに、太一が心配そうに声を掛けて来た事にまた笑顔を見せながら頷く。
「うん、一人で帰るって私が断ったから……」
「一人でって、女の子がこんな時間に一人で帰るなんて、危ないだろう!ヤマト、悪いけど、ヒカリの事送っててくれよ」
「私は、大丈夫だよ、お兄ちゃん……」
少しだけ厳しい表情を見せて、隣に居るヤマトに言われたその言葉に、ヒカリが慌てて手を振って見せるが、全く聞く耳を持っていない様である。
「俺は、付き添いなんて必要無いし、ヤマトだって帰えらなきゃいけないんだから、ちゃんと送ってて貰えよ。ヒカリは、女の子なんだからな」
「そうだな…・・それじゃ、俺がちゃんと責任持って送り届けるよ」
太一の言葉に頷く様に、ヤマトがベッドから立ち上がってヒカリの肩を優しく叩く。
「お兄ちゃん……」
ヤマトに肩を叩かれて、その顔を見上げてから兄に視線を向ければ、強く頷いて返される。
それに、ヒカリは諦めた様にため息をついた。
「……それじゃ、ヤマトさん、お願いしますね」
諦めた様に頭を下げれば、満足そうな二人の笑顔が返される。
その後、太一に見送られるような形で、ヤマトとヒカリは病院を後にするのだった。

うきゃ〜!またしても、話しが進んでません。
しかも、ラブラブ状態に、笑いながら話を作ってしまいました。<苦笑>
そして、漸くこの話の中で、初めてのキスです。
06にして漸くって……しかも、『届かない想い』を合わせると10話目にしてですからね・・・・・xx
長かったね、ヤマトさん(笑) 本当によく今まで我慢してたよね。
07からは、同居も始まるし、ヤマトさん大変です。(笑)
次こそは、同居の話が始まる予定です。(ずっと言ってるような気が……xx)
07を書くのが楽しみ状態vv さてさてどうなるんでしょうか?
太一さんの記憶は、何時戻るのでしょう。
07で壁紙の種類が無くなってしまう。う〜ん、どうしようかなぁ……(関係、無いでしょう<苦笑>)
ではまた、『見えない想い 07』も宜しくお願いしますね!
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