ヤマトの事だけを忘れてしまって、もう既に1週間も経ってしまった。

  ヤマトは、無理に思い出す必要なんかないって言ったけど、やっぱり悔しいものは悔しいのだ。

  俺だけが、ヤマトの事を覚えていない。
  それは、俺にとっては小さなシコリトとなって、心の中に残っていた。


                                       見えない想い


「太一、今日も、部活休むんだろう?」

 休み時間、ボンヤリと考え事をしていた中、突然肩をたたかれて、現実世界へと引き戻される。

「えっ?ごめん、何?」

 嬉しそうに自分の肩を叩いた人物を振り返って、太一は驚いたように聞き返した。

「…大丈夫か?」

 自分があまりにもボンヤリとしていた所為だろう、ヤマトが心配そうに尋ねてきた事に、太一は一瞬意味が分からずに首をかしげる。

「ヤマト?」
「調子悪いんなら、早退するか?」

 不思議そうに首を傾げれば、更に自分の体調を心配されて、太一は漸く意味を把握する事が出来て、苦笑を零す。

「大丈夫だって、ちょっとボンヤリしてただけだ。それより、何か用事があるんじゃないのか?」

 無事に退院してから、ヤマトは必要以上に自分の体調を気にしている。
 それが分かるからこそ、太一はできるだけ心配かけないように気を付けていたのだが、今回ばかりは自分の失敗を恨みたくなってしまう。

「……本当に、大丈夫なのか?」
「ああ、心配無いって!」

 ニッコリと笑顔を見せれば、漸く安心したのか、ヤマトも少しだけ笑い返してくれる。
 それに、ホッと胸を撫で下ろして、太一は思わず苦笑を零した。

 『……本当に、心配性だよなぁ……そんな風には、見えないのに……』

 思わず考えてしまった事に、自分でも可笑しくなってしまう。
 見た目からは全然そう見えないが、ヤマトが過保護であると言う事を、この1週間で体験出来た太一は、嬉しくって仕方ないのだ。
  階段から落ちたショックからか、ヤマトの事だけを忘れてしまった自分が、少しでもヤマトの事が分かったのは、嬉しいのである。

「それで、どうかしたのか?」
「えっ、ああ……今日も、部活休むんだろう?」

 進まない話に、問い掛ければ、逆に聞きき返されたそれに、太一は苦笑をこぼした。
 この一週間、自分は大事を取って部活を欠席している。
 そして、ヤマトはバンドの練習を休んでいると言う事実に、太一は少なくとも罪悪感を感じていたのだ。

「ええっと……そろそろ、見学だけでもしようかと思ってる…ヤマトだって、バンドの練習、あるんだろう?」
「まぁな……でも、お前、本当に体、大丈夫なのか?」

 自分の言葉に曖昧な返事をしてから、ヤマトが心配そうに尋ねてきたその言葉に、再度苦笑を零す。

「大丈夫、元々大した事無かったんだぜ。母さんやお前が心配するから、今日まで部活休んでたんだからな。本当だったら、学校来た時には、部活に出たかったのに……」

 ため息混じりに呟いたその言葉に、今度はヤマトが苦笑を零した。

「お前なぁ…頭打ったヤツが、何言ってるんだ!」
「……キャプテンにも言われた……だから、今まで大人しくしてただろう」

 呆れたように言われた言葉に、太一はため息をつきながら正直にそう返す。
 しかし、大人しくと言ったその言葉に、ヤマトは盛大なため息をついてみせる。

「お前、大人しいって言葉、ちゃんと知ってるのか?」
「どう言う意味だよ、ヤマト!!」

 呆れたように問われたそれに、太一はヤマトを睨み付けるが、それには大した威力はなく、ヤマトのため息を誘っただけであった。

「……朝は遅刻だって全速力で学校に来て、昼は食堂に全速力。それの何処が、大人しくなんだ?」
「うっ…そ、それは……」

 ため息をつきながら言われたそれに、太一は思わず言葉に詰まる。
 ヤマトが言っている事は、何一つ間違っていないだけに反論する言葉が、出て来ない。

「それは?」
「……ヤマトの意地悪……」

 意地悪く聞き返してくるヤマトに、太一がポソリと文句を言う。それが、精一杯の抵抗。

 上目使いのその言葉に、ヤマトが思わず苦笑を零しても仕方ないだろう。
 きっと、自分が今、どんな顔をしているのかと言う事に、本人は気付いていないだろうから……。

 それが、太一の魅力であると分かっているが、無防備に見せられるそんな表情に、ヤマトは押さえられない気持ちを抱えるようになっていた。

 太一を、自分だけのものにしたいと言う、欲望。

 気持ちは通じ合ったと言っても、自分達の関係が変わった訳ではない。
 そして、一番の理由は、太一が自分の事だけを覚えていないと言う事。

 無理に思い出す必要は無いと言ってはいても、やはりそれは自分にとって大きな不安になっているのだ。
 もしも、自分の事を思い出した時、この関係が無くなってしまうかもしれないと言う不安感。
 それは、どう拭っても自分の中から無くなる事はない。

「ヤマト?」

 何も話さなくなったヤマトに、太一は不安そうに声を掛けた。

「ああ…それじゃ、部活が終わる頃に、迎えに行くから……」

 少し暗い表情を見せていたその顔が、優しい笑顔を作る。
 そんなヤマトに、太一は困ったような表情を見せて、口を開く。

「でも、ヤマト……お前だって、練習……」
「俺は大丈夫だから、迎えに行くよ」

 自分の言葉を遮って言われたそれに、それ以上何も返せない。
 太一はコクリと頷く事で返事を返した。
 素直に頷く太一を前に、ヤマトはもう一度だけ優しく微笑んで見せる。

 自分の本当の気持ちを隠しながら……。



 可笑しいと感じたのは、もう何度目だろう?

 その度に、ヤマトに問い掛けるが、何時も優しい微笑で誤魔化された。
 何を考えているのか、それを教えて欲しいと思うのに、それを決して表には出してくれない。

 心配掛けたくないって気持ちは分かるけれど、俺はお前と対等で居たいと思ってる。

 でも、それさえも、今の俺には贅沢な望みなのかもしれないな……。


  






   はい、「届かない想い」の続きとなるお話です。
   しかも、無茶苦茶序章…xx
   続き物になる予感はしていたのですが、本当にそうなってしまうなんて……xx
   両想いになったと言うのに、まだお互いが悩んでいるお話って一体……xx
   そして、更なる試練が二人を待っております。
   さて、その試練とは?!
   考えていたのとは、少し話が違っていますが、これから徐々に考えている内容に話を持って
   行きたいですねぇ・・・・xx
   考えている内容は、ヤマト以外の太一の周りの人物が、気の毒になるでしょう…xx
   そして、下手をすると表に置けないような内容に……イエ、何でも無いです!!
   では、近い内に「02」をUPしたいんですが、他の小説が……xx
   なので、出来るだけ頑張ります!