ずっと言いたくって、言えなかった言葉。
全てを諦めたような笑顔ではなく、君の本当の笑顔が見たいとずっと思っていたのに……。
それを言う事で、太一を傷付けてしまうような気がして言えなかった。
だけど今は、太一が、何を望んでいるのか知った。だからこそ、本当の気持ちを伝えることが出る。
俺は、どんな太一だって、この気持ちは変わらないと言う事を……。
君の笑顔が見たいから 17
「俺は、ずっと太一の本当の笑顔を見たいって、思ってる」
もう一度だけ驚いたように自分を見詰めてくる太一に、はっきりとした口調で言葉を伝える。
信じられないと言うように見詰めてくるその瞳に、ヤマトはそっと微笑んで見せた。
ずっと言いたかった言葉は、嘘偽りの無い自分の正直な気持ち。
だから、太一が自分の心を読んでもいいと本気で思えるのだ。
「……俺の笑顔なんて、意味ないだろう……」
自分が無理やり合わせていた視線が外されて、俯いた太一の口からポツリと小さく言葉が紡がれる。
言われた事は、自分の言葉を否定するような言葉で、一瞬どう返せばいいのか困ってしまう。
「……言ったはずなのに、俺に近付くなって……本当に、馬鹿だ……」
本気であせっていた自分の耳に、小さく振るえる声がさらに言葉を続ける。
そして、そっと自分の胸に太一が凭れ掛かって来た。
太一の触れた場所が、暖かい。
そして、触れた肩が小さく震えているのに気が付いて、ヤマトはそっとその頭を優しく撫でた。
「いいさ、馬鹿でも……俺は、太一の笑顔に惹かれたんだからな……」
優しく呟いて、そのまま太一を抱きしめる。
ずっと、手を伸ばしたかった存在が、確かに自分の腕の中にある事に、ヤマトは幸せを感じるように、瞳を閉じた。
自分の腕に感じる、確かな暖かさ。
声を殺して小さく肩を震わせている存在が、愛しい。
「……だから、自分の存在を否定しないでくれ……」
ぎゅっと、その体を抱き締める。
自分の前からその姿が消えないように、存在を確かめるように……。
「……どうして……」
強く抱き締めながら言われたその言葉に、太一は驚いて瞳を見開く。
誰も知らない筈の気持ちを否定するように言われた。
自分は、ずっと己と言う存在をこの世から消し去りたいと願っていたのだ。
本当の、願いが叶わないと言う事を知っていたから……。
信じられないと言うように自分の事を見詰めてくる太一に、ヤマトは一瞬言葉に詰まる。
そんなヤマトを前に、太一は息を呑んだ。
こう言う時、自分の力が嫌になる。
相手が言いたくない事だって、分かってしまうから……。
「……ヒカリ…」
ポツリと妹の名前を口にした太一に、ヤマトが驚いて瞳を見開く。
太一の力を知っていたとしても、自分の思った事を口に出されて、驚くなと言う方が難しいだろう。
「……悪い…」
驚いたように自分を見詰めてくるヤマトの視線に、太一は慌ててヤマトから離れた。
一瞬だけ傷付いたように太一が瞳を伏せるのを見た瞬間、ヤマトは自分の失敗に気付いて、盛大なため息をつく。
「違うからな」
「えっ?」
そして、はっきりと今の気持ちをそのまま口に出した。
突然言われたその言葉に、太一は驚いて顔を上げるとヤマトを見る。
「確かに驚いたけど、そんなんじゃないからな」
「……分かってる……」
必死に自分に伝えようとするヤマトの言葉に、太一はそっと息を吐き出して、瞳を閉じた。
今、伝わってくるヤマトの心は、今まで感じた誰の心にも無い、自分を安心させてくれる。
「太一」
そっと瞳を閉じて、何かを考えているようなその姿に、ヤマトはそっとその名前を呼ぶ。
「……ヒカリは、俺と違って、こんな忌まわしい力なんて持ってないと思ってた……だけど、全部知ってたんだな……」
「…太一」
ポツリと呟かれたその言葉に、ヤマトは名前を呼ぶ事しか出来ない。
「……知っていて、俺に笑顔を見せてくれていたんだな……」
泣き笑うようなその表情が、胸を締め付ける。
「…人の心が読めて、見たくない未来を見せる力……こんな力、俺だけでいいのに……なんで、ヒカリまで!」
誰に対しての言葉なのだろう。
そして、どれだけその力が、目の前にいる人物を傷付けて来たのか、想像も出来ない。
「もう、沢山だ!!」
「太一!!」
突然拳を握り締めると、そのまま屋上のフェンスに叩きつける。
そんな太一の行動に、ヤマトは慌ててその腕を掴んだ。
「……なぁ、この力が消せないと言うのなら、俺と言う存在を消すしかないだろう!」
「違う!」
縋るように自分を見詰めながら問い掛けられたその言葉に、ヤマトが否定の言葉を返す。
「なんで、自分の存在を否定するんだ。俺は、俺は…八神太一と言う存在が必要だと思ってる。なのに、何で!!」
「……親にまで、気味悪がられるような人間だから……」
自嘲的な笑みと共に言われた言葉に、ヤマトは瞳を見開いた。
驚いたように自分の事を見詰める相手に、太一は全てを諦めたような笑みを見せる。
「母さんは、俺を生んだ事を後悔してた。小さい頃から、俺と言う存在を恐れてた。……そりゃそうだよな、俺は、人の心を読む。そして、不幸な未来を言い当てるんだから、そう思うのが普通だ……だからこそ、俺と言う存在をこの世から消せば、母さん達だって、安心して……」
「違う!そんな事で、安心する訳ないだろう。絶対に、誰も喜んだりしない!」
太一の言葉を遮って。ヤマトが声を荒げた。
自分の言葉を否定する相手を、太一は信じられないと言うように見詰める。
「……そんな風に思うのは、お前だけだ……」
「本当に、そう思うのか?」
すっと、見詰めていた視線を逸らして呟かれた言葉に、ヤマトが少しだけ怒ったような声で聞き返す。
全てに対して、腹が立っている自分が居る。
自分の存在を否定する太一に対しても……。
そして、そんな風に思うようになる前に、太一に会えなかった自分自身に……。
「……何で、お前が怒るんだよ……」
強く自分の腕を掴んでいる相手の気持ちに、太一は訳が分からない。
自分の事に、真剣に怒ってくれていると言うのが分かるからこそ、どうしてそんなに思ってくれるのかが分からない。
「お前に、早く会えなかったから……」
そして、自分の質問に返されたそれに、太一はただ信じられないと言うようにヤマトを見詰めた。
「…太一が、自分と言う存在を否定する前に、俺はお前に会いたかった……」
信じられないと言うように自分を見詰めてくる瞳を、真っ直ぐ見詰め返して、ヤマトははっきりとした口調で言葉を伝える。
そんなヤマトを前に、太一は小さく息を吐き出すと、呆れたような苦笑を零す。
「……やっぱり、お前って、変だ……」
そして苦笑交じりに言われたその言葉に、一瞬言われた意味を理解できずに、ただ相手を見詰めてしまう。
「……会ってるよ…」
「えっ?」
続けてポツリと言われた事が、己の耳を疑ってしまった。
「…ヤマトとは、何度か会ってる……」
「太一?」
信じられないと言うように聞き返したそれに、更に言葉が続けられる。
そんなヤマトを前に、太一は少しだけ困ったような表情を浮かべた。
「……俺が、今まで生きて来られたのは、多分、お前と言う存在があった所為だ……」
「どう言う意味だ?」
なんとも言えない複雑な笑みを浮かべる太一に、ヤマトはその意味を問い掛ける。
そんな自分に、太一はもう一度何とも言い表せないような笑顔を見せた。

はい、お待たせいたしました。『君の笑顔〜』17になります。
そして、予想通りと言いましょうか、やはり終わりませんでした。<苦笑>
いや、分かっていた事なのですが、太一さんが私の思い通りに動いてくれません。
お願いだから、ちゃんと動いてください…と言うより、素直になってね、太一さん!
はっ!失礼いたしました。
そ、そんな訳で、20話までには、終わる予定であります。
終わると心配して下さった皆様、もう暫くお付き合いください、すみません。
兎に角、頑張って終わらせますね。
そして、新しい話を!(私の一番の野望です……)
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