気が付けば、見詰めている事に気が付いた。
あんな、姿を見せた相手なのに……。
何も無かったかのように声を掛けてきたあいつに、どう答えればいいのか分からなかった。
何も望んでいないのに、一体何に期待しているのだろうか?
こんな気持ちになるのは、俺が弱いから……。
……こんな事になる前に、全てを話してしまえば、期待なんて持たなかった筈なのに……。
全てを話せば、あいつだって……。
君の笑顔が見たいから 16
吹く風を感じながら、ゆっくりと瞳を閉じる。
「……どうかしてる……」
ポツリと呟いて、苦笑を零す。今日の自分の行動を考えると、ため息が止まらない。
自然に目が彼を見ている事に気が付いて、何度慌てて逸らしたかもう覚えていないほどである。
「こんな事、望んでなんていないのに……」
自分には、誰も必要じゃない。
そう言い聞かせていたはずなのに、気が付けば彼を見詰めている自分が居る。
それは、自分にとっては、あってはならない事なのだ。
「……これ以上、傷付きたくなんてない……」
ポツリと呟いて、再度瞳を閉じた。
ずっと言い聞かせているのに、今でも自分は彼の事を心の何処かで考えているのが分る。
もう、そうなってしまっては、自分に後戻りなど出来ないと知っているからこそ、太一は再度大きく息を吐き出した。
「……全てを話せば、あいつだって……」
「太一!!」
自分自身に言い聞かせるように呟いたその言葉と同時に名前を呼ばれて、太一は驚いて振り返る。
ずっと考えていた人物が、今目の前に居ると言う事に、ただ瞳を見開いて相手を見詰めてしまう。
「…なんで……」
今日の朝、挨拶をしてくれた彼を、自分は無視したのに、彼は肩で息をしながら、自分の前に現れた。
探していたと分る彼のその姿に、太一は慌ててその人物から顔を逸らす。
今、この時しかチャンスはないと、自分に言い聞かせるように、瞳を閉じるとギュッと拳を握り締めた。
「……ちょうど良かった。俺、お前に話があるんだ……」
決心した瞳で、真っ直ぐに相手を見詰める。
揺らぐ想いを必死で堪えながら、太一は更に手に力を込めた。
「俺も、お前に話がある」
真っ直ぐに見詰めた瞳が、同じように真剣な瞳で返される。
そして、返されたその言葉に、太一は小さく息を呑んだ。
彼が何を話したいのか、それは自分には分らない。
だが、それを聞かなければ、自分は本当の事を言う事は出来ないと言うように、小さく頷いてみせる。
「……いいぜ、それじゃ、お前から話せよ…その為に、俺の事探してたんだろう?」
「ああ……」
声が震えそうになるのを必死で堪えながら、質問したそれにヤマトが短く頷いて返す。
聞くのが、怖いと思う心と反対に、これで全てが終わると思っている自分が居る。
今、一番知りたいと思う彼の心は、まるで自分の未来を見ているみたいで、何も見えない。
不安を隠しながら、太一は真っ直ぐにヤマトを見詰めた。
自分が見詰める中、ヤマトがそっと息を吐き出して、決心したように、瞳を閉じると、口を開く。
「……俺は、全部知ってる…」
そして、短く言われたその言葉に、太一は言われた事の意味が分からないと言うようにただヤマトを見詰めた。
驚いて自分のことを見詰めて来る太一の視線を感じながら、ヤマトは苦笑を零す。
「…太一、お前の力の事も、お前がどうしたのかも、俺は知っている……だけど、俺はお前が望むような事だけは、絶対に嫌だから、だからお前の傍にいたい……」
「な、何言って……」
真剣に語られるその言葉が信じられなくって、太一は自嘲的な笑みを見せた。
全てを知っていても、自分の傍に居たいと言う目の前の人物が、信じられない。
「……俺の力の事知ってるんだろう?」
「…ああ……」
信じられないモノを見るように、自分を見詰めて来る太一の視線を感じながら、ヤマトははっきりと頷いて返す。
「だったら、なんでそんな事言えるんだよ!俺は、お前の心だって読めるんだぜ!自分が、考えてる事、知られて気味が悪くないのかよ!!」
「…別に、知られて困るような事を考えてる訳じゃないからな。それに、一々口に出して言わなくていいんなら、俺は心の中で何度だって言ってやるよ……読んでみろよ、俺の心……」
そっとヤマトが瞳を閉じながら言ったその言葉に、太一は大きく首を振る。
今まで生きてきて、自分の心を読めと言った人物など、一人も居ない。
口に出す言葉と心に思っている事が同じで無い沢山の人達を知っている。
顔では笑いながらも、心では文句を言っている人を、自分は何人も見てきたのだ。
「……嫌だ…読めない…」
ヤマトの言葉に、太一は大きく頭を振る。
「お前が、人の心を読むの嫌だって言うの分るさ……未来を見る事だって、望んでるものじゃないんだろう?だけど、俺は、自分の言葉に偽りが無い事をお前に知ってもらいたい。だから、俺の心を読んでいいぜ」
瞳を開いて、自分に優しく微笑むその姿に、太一はただ大きく首を振った。
そんな自分に、ヤマトが一歩足を踏み出してくる。
「…俺は、お前の傍にいたい…お前に、どんな力があっても、それは変わらない。お前の笑顔を見た時から、俺は、ずっとそう思ってる……迷惑な話かもしれないけど、俺の気持ちは、変わらないんだ」
一歩、また一歩とゆっくりと自分に近付いてくるヤマトの気配を感じながら、太一はただ首を横に振りつづけた。
まるで、小さい子供のようなその姿に、ヤマトはもう一度優しく微笑んで見せる。
自分には、太一のような力は無いけれど、確かに今その心が見えたような気がした。
本当は、寂しがりやで、愛に飢えている小さな子供。それが、太一の本当の姿。
「…俺は、迷わない。ずっと、お前の事好きだって、言える……だから、もう一人でなんて居させたりしない」
そっと、震えているその体を抱き締める。
頑なになったその心を、優しく包み込むように……。
「……俺は、化け物だ……」
「違う、太一は人間だ」
自分の腕の中で、ポツリと言われたその言葉に、優しく返事を返す。
それに、太一は小さく首を振って返した。
「違う…そうだとしても、気味の悪い人間だ……」
「全然、気味が悪くなんてないさ。太一は、優しい普通の人間だよ」
「優しくなんか無い!俺は……」
自分の言葉に返って来たその言葉に、ヤマトは笑みを浮かべてその言葉を遮った。
「優しいよ。俺なんかよりもずっと…誰かが傷付くのが嫌で、一人で居る事を選んだお前は、誰よりも優しい心を持ってるさ」
自分が居なくなって、誰かが悲しむ事の無いように、距離を置く。
そして、誰かが傷付く事の無いように、自分を犠牲にしてまでも、誰かを守ろうとするそれは、太一が優しいからこその、行動。
「……俺は、誰とも関わりたくないだけ……」
俯いて、ぽつりと言われたそれに、ヤマトは苦笑を零す。
「……嘘吐きだな、太一……」
そして、そっと太一の頬に手を添える。
「…知ってるから、俺は太一の本当の心を……お前が、一人で居る時に、どんな顔をしているかって事も……」
優しい笑顔と共に、頬に添えられたその手によって顔を上げさせられ、太一は目の前にあるその笑顔に、泣き出しそうな表情を見せた。
「……知らない…俺は……」
「約束する、絶対に太一を傷付けたりしない」
真っ直ぐに見詰めてくるその瞳が真剣で、そして言われているその言葉は、嘘偽りのない言葉だと言うことが分かる。
今まで生きてきて、自分に何の躊躇いもなく手を差し出してくれた人。
本当の事を知っているのに、それなのに気味の悪い自分の事を、優しいと言ってくれる人。
自分の事を分かってくれる人なんて、絶対に居ないと思っていた。
なのに、今こうして自分に笑い掛けてくれる人が居る。
何の躊躇いもなく、自分を包んでくれる優しい手。
ずっと望んでいたものが、確かにここにあって、それは存在しているのだと、自分に教えてくれた。
「……俺は、本当の太一の笑顔が見たいんだ……」

漸く、本当に漸く、ヤマトさんが重い腰を上げてくれました!
お陰で断言できます。次で『君の笑顔が見たいから』は終了できそうです。
本当は、無理やり18まで持っていきたい気分なのですが、どうしましょう?(聞いてどうする!)
すんなり終わらせた方がいいですかね、やっぱり……。
ここまで来たら、一話増えても大した問題ではないような気もするしなぁ……。う〜ん…xx
と、取り敢えず、もう暫くお付き合いしてくださると嬉しいです。
これも早く終わらせて、次の話し書きたいですからね。
では、出来るだけ早く次もUPしたいなぁ…。(無理そう……xx)
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