ねぇ、人を好きになるのは、どんな気持ち?
ボクは、誰か一人を好きになった事が無いから、分からないけど、辛いのかなぁ?それとも、楽しいの?
でも、そんなに楽しそうには見えないね。だって、ずっと悩んでいるから……。
ボクはまだ子供で、そんな気持ちは分かってあげられない。
だけど、応援だけなら出来るよ。
初めて、お兄ちゃんが好きになった人。
だから、早く気付いて欲しい。
お兄ちゃんの気持ちに……。
君の笑顔が見たいから 15
「ヒカリちゃん、話があるんだけど、いいかなぁ?」
教室で、女の子同士で話をしているヒカリに、確認を取るように声を掛ける。
それに、ヒカリは驚いた様子も無く、小さく頷いて返した。
「いいよ、タケルくん」
ニッコリと笑顔を見せるその姿に、タケルは複雑な表情を見せる。
二人で連れたって教室を後にしてから、場所を人気の無い裏庭へと移した。
「ここなら、大丈夫だね。それで、私に話って言うのは、ヤマトさんの事?それとも、私のお兄ちゃんの事かなぁ?」
前を歩いていたヒカリが、笑顔のまま振り返って尋ねてきたそれに、タケルは小さく息を吐く。
「……両方かなぁ……」
ポツリと返事を返したタケルに、ヒカリはその視線を相手から逸らすとため息をついた。
「そっか……でも、私には、答えられないと思うよ」
まるで自分が質問しようとする事を知っているように、苦笑を零しながら言われたそれに、タケルは不思議に思って首をかしげる。
「どうして、そう思うの?」
何もかもを知っているような錯覚さえ起こさせる相手の言葉に、タケルはじっとヒカリを見詰めた。
「……全ては、ヤマトさん次第だから……」
「お兄ちゃん次第?」
ポツリと呟かれたその言葉を、復唱する事で質問に変える。
そんなタケルに、ヒカリはもう一度笑顔を見せた。
「そう、ヤマトさん次第……ねぇ、タケルくんは、ヤマトさんの気持ちを応援しているんでしょう?」
楽しそうな笑顔を見せなが今度は逆に質問をされて、一瞬タケルは驚いたように瞳を見開く。
確かに、自分は兄を応援するつもりだ。
その気持ちに嘘は無い。
だが、まるで、迷っている気持ちを見透かされたような質問に、どう答えを返すべきなのか返事に困ってしまう。
「正直に答えていいよ」
悩んでいる自分に、そっと言われたそれは、本当に自分の気持ちを知っているようで……。
「…ボクは、応援したいと思ってるよ……お兄ちゃんが、初めて好きになった人だから……」
自分の気持ちをもう一度確認するように、小さく呟くように返したそれに、ヒカリは意外そうな表情を返す。
「そう?でも、迷ってるんだよね、タケルくんは……」
そして、苦笑を零すように言われたそれに、タケルは驚いて顔を上げて相手を見た。
自分でも、はっきりと言葉に出来ない気持ちなのに、確信しているように言われたそれ。
「……どうして……?」
「それは、タケルくんが、私のお兄ちゃんの事を知らないから、迷ってるんだって事を言ってるのかなぁ?」
ニッコリと笑顔を見せながら聞き返されたそれに、タケルは言葉もなくただ相手を見詰める。
言われた事は、自分が思っていた事。
それは、誰にも言えない、自分の心の中にある正直な気持ち。
「……た、確かに、ボクはヒカリちゃんのお兄さんの事は知らないけど、だけど、お兄ちゃんが初めて好きになった人だから、いい人だと思うし……」
自分に言い聞かせるように返したそれに、ヒカリはそっとため息をついた。
「……いい人の基準って、私には分からない。だから、その事に関して、私は何も言えないわ」
自分から視線を逸らしながら、ヒカリはもう一度小さく息を吐き出す。
「……ねぇ、タケルくん……普通の人は、相手が何を思っているのか分からないんだよね……口では、どんな優しい事を言っていたとしても、心ではそんな事を思っていない。それなのに、そんな人がいい人だといえるのかなぁ……」
「…ヒカリ…ちゃん?」
自分の目の前で、話をしている少女が一体何を言っているのか分からずに、タケルは相手の名前を呼ぶ。
自分の呼び掛けに、ゆっくりとした動作で、ヒカリが自分に視線を戻した。
「……いい人の基準なんて、誰にも分からないんだよ」
真っ直ぐな視線が、自分を捕らえる。
真剣で、まるで自分の心を読んでいるかのようなその視線を感じて、タケルは慌てて視線を逸らした。
「……だけど、私は知ってるから……」
「えっ?」
慌てて逸らした視線の後、ポツリと呟かれたそれに、タケルは驚いて視線を戻す。
「……例え、心がどんなに傷付いていても、優しい笑顔を見せてくれる人が居るんだって事……」
「ヒカリちゃん……」
泣き笑うようなその表情にただ、名前を呼ぶ事しか出来ない。
「私は、ただ、その人に幸せになってほしいだけ……」
強い願いを口にするヒカリを前に、タケルは何も言えずにただ相手を見詰める。
「だから、ヤマトさんが、お兄ちゃんを苦しめる存在になったりしたら、私はヤマトさんを許さない」
何も言わずに自分を見詰めて来るタケルの視線を真っ直ぐに捉えて、キッパリとした口調で言われたそれに、ただ呆然と見詰めるだけしか出来ない。強い意志を表しているその瞳が、余りにも真剣だから……。
「……タケルくん、教室に戻らないと、チャイムが鳴っちゃうね」
だが、その表情が一瞬で可愛らしい笑顔に掻き消された。
まるで、今までの表情が嘘だったかのように、普通の少女と変わらない笑顔。
「……そうだね…」
その表情の変化に、タケルはそっと息を吐き出して、自分の気持ちを落ち着けるように返事を返した。
珍しく授業を受けているその姿を見ながら、ヤマトはそっとため息をつく。
昨日のあの涙が何も無かったかのように、何時もの無表情を見せている相手は、自分が声を掛ける事も許さないような雰囲気を持っている。
朝、声を掛けた自分には、全く返事を返さなかった相手の事を思い出して、ヤマトは再度ため息をついた。
振り出しに戻った状態では、自分に一体何が出来ると言うのだろうか?
「ヤマト」
授業の内容も聞かずにぼんやりしていた時、突然名前を呼ばれて、ヤマトは驚いたように名前を呼んだ人物を見る。
「授業、終わったぜ」
呆れたような苦笑を浮かべて言われたそれに、ヤマトは慌てて辺りを見回した。
既に昼休みに入った教室の中は、賑やかに活気立っているのに、思わずため息をついてしまう。
「その様子じゃ、授業のノートは全滅だな」
机の上に出されたままでいた教科書やノートを片付けているヤマトに、智成が自分の机からノートを取り出す。
「ほら、明日には返せよ」
呆れた様子ではあるが、親友の親切にヤマトは素直にそのノートを受け取ると、感謝の言葉を伝えた。
「……太一は?」
そこで、思い出したように慌てて自分の後ろの席を見れば、既に目当ての人物の姿は見当たらない。
「とっくに出て行ったぜ。それにしても、かなり追い詰められてるみたいだな……」
「…ああ……電話で、偉そうな事言ったのに、情けないよなぁ……」
ポツリと呟かれたそれに、ヤマトは再度ため息をついて、疲れたように額に手を当てる。
だが、そんなヤマトを前に、智成が呆れたようにため息をついた。
「誰が、お前の事を言ってるんだよ。俺が言ってるのは、八神の事だぜ」
「えっ?」
言われた事が一瞬理解出来ずに、ヤマトが驚いたように智成を見詰める。
自分から見た太一は、昨日よりもずっと無表情で、何を考えているのか分からない。
「お前、気付かなかったのか?ずっと、思い詰めたようにお前の事見てたって言うのに……」
「俺を、見ていた?」
信じられない言葉を聞いたように、その言葉を繰り返すように聞き返せば、相手が大きく頷いて返す。
「太一が、俺の事……」
「お前、本当に気が付いてなかったのか?」
信じられないと言うように、何度も同じ事を繰り返すヤマトを前に、智成が呆れたようにため息をつく。
確かに、気が付いていなかったのだ。
自分から見た太一は、自分の事など全く気にした様子も無く、無表情で、前だけを見詰めていた。
声を掛けた時でさえ、目も合わさずにそのまま自分の横を通り過ぎて行ったのだ。
だからこそ、信じられない。
「……本当に?」
「だから、そうだって言ってるだろう。それとも、俺がお前に嘘言ってると思うのか?」
再度聞き返されたそれに、智成が不機嫌そうにヤマトを睨み付けながら返事を返す。
それに、慌てて首を振って返した。目の前の人物が、嘘を付かないと言う事を、誰よりも知っているから……。
「ほら、探しに行けよ。約束したよな、あいつの笑顔を俺にも見せてくれるんだろう?」
まだ信じられないと言うような表情をしているヤマトに、智成がそっとその背中を押す。
そして、ウインクをしながら言われたそれに、ヤマトははっきりと頷いて見せた。
「ああ……そうだよな……」

わ〜い、漸く話の目処が立ってきたかもvv
そんな訳で、『君の笑顔が見たいから』15をお届けいたしました。
話、ちゃんと進んでますか?(心配…xx)
そして、今回のTOPにあるのは、タケルくんの心の内となっております。
出番少ないのに、目立ってるし…xx
まだ、智成くんの方が、出番多いかも……xx
どうしよう、今度の心の内は、智成くんにしてみようかなぁ……。
智成くんの心の内を書いてもいいですか?(誰に聞いてる…xx)
それにしても、ヒカリちゃんが怖いです。
折角、フォローのお話書いたのに、意味なし。(><)
タケルくんさえも、脅してる状態。これで良いのか、本当に?
まだまだ、続きそうです、本当……xx
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