何かを望んでも、それは適う事のないモノ。
自分が望むものは、何時だって小さなたった一つのモノなのに、誰もそれを叶えてはくれない。
望む自分が悪いのか、それとも叶えてくれない誰かが悪いのか……。
望みは、何時だって一つだけ。
それが、叶わないと言うのなら、せめて、俺と言う存在を無くして欲しい……。
君の笑顔がみたいから 12
ただ、沈黙が流れる。
黙々と歩いていくその隣を、ヤマトは何とか会話を探そうと頭を働かせていた。
「……本当に、変わってるよなぁ……」
必死で考えを巡らせていたヤマトは、ポツリと漏らされたその言葉に、驚いて太一に視線を向ける。
「……大切な家族、いい友人に恵まれてるのに、俺みたいなヤツに近付くなんて……」
馬鹿にしたような笑顔を見せる相手に、一瞬何を言われているのか理解できなかった。
そんな笑顔を見せているのに、全然馬鹿にされているように思えない。
それどころか、やっぱり泣き出すのではと、思うようなその表情に、ヤマトはぐっと手に力を込めた。
「珍しいから?……俺は、そんなお節介迷惑なんだよ!」
キッと、自分を睨み付けてくるその瞳。
その眼を見ていると、まるで吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥ってしまう。
「……嘘付きだ……」
そして、その瞳を見詰めていた時、自分でも信じられないほどすんなりと言葉が口をついて出てきた。
「なっ!」
ポツリと言われたその言葉に、驚いたように太一が瞳を見開く。
そして、そんな太一を前に、ヤマトは瞳を逸らさずに、真っ直ぐにその眼を見詰め返す。
「…本当は、分ってるんだろう?俺がお節介とかじゃなくって、本気でお前の事を見てるんだって……」
自信なんてないのに、それが間違いではないと何かが教えてくれる。
まるで、自分で話しているのではないように、信じられないほどはっきりとした口調で言葉が紡がれていく。
「俺は、本気で、八神太一と言う人間が気になるし、ずっと見ていたいと思ってる」
「そ、そんなの、ただ珍しいから……」
真っ直ぐに自分を見詰めてくる瞳に耐え切れなくなった太一が、視線を逸らす。
「なぁ、珍しいってさっきから言っているけど、太一の何処が珍しいんだ?」
「…そ、それは……」
ため息をつきながら尋ねられたそれに、太一が言葉に詰まる。
困ったような表情を見せる太一を前に、ヤマトはそっと息を吐き出した。
「俺から見たら、太一は何処も珍しくなんてない。普通だろう?なのに、自分の事を珍獣みたいに言うなよ」
優しい口調で、囁かれるその言葉。
それは、きっと自分が望んで、欲しいと思っていた言葉かもしれない。
だけど、それは、何も知らないから言われているのだ。
だから、本当の事を知ったら、目の前の人物だって、そんな言葉はもう言えなくなってしまうだろう。
そこまで考えて、太一は小さく笑みを零した。
「……珍獣…確かに、珍獣かもしれない……あんたは、俺の事を知らないから、そんな事が言えるんだ!普通?……確かに、見た目だけなら、普通の人と同じだろうな……だけど……」
全てを諦めたような笑顔を見せながら言われたその言葉は、はっとしたような表情と共に、慌てて口を噤んでしまった太一によって、遮られる。
「太一?」
言い掛けた言葉を途中で飲み込んだ相手に、ヤマトは不思議そうに首を傾げた。
全てを諦めたような悲しい笑顔。そんな笑顔が見たかった訳ではない。
それなのに、自分が一緒に居る事で、相手を苦しめていると言う事が分かって、ヤマトは困ったようにため息をつく。
「……俺は、お前を困らせてばっかり居るんだな……でも、これだけは、本当なんだ…珍しいとか、そんな気持ちじゃなくって、俺は、八神太一と言う人間に興味がある。そして、太一の事を大切に思ってるんだ……」
苦笑を零すように語りながら、最後は真剣な瞳で、真っ直ぐに太一を見詰める。
その瞳が真剣だからこそ、太一は真っ直ぐに見詰める事が出来なくって、視線を逸らした。
「……どうして……どうして、そんな事が言えるんだよ!会って、まだ3日しか経ってないのに、なんでそんなにはっきりと言えるんだ!!何も知らないのに、俺の事、本当に何も知っちゃいないくせに!!」
吐き捨てるように言って、太一はその場所から走り去ってしまう。
自分の気持ちだけをぶつけるように言って走り去ってしまったその姿を、ヤマトはただ見送る事しか出来なかった。
それは、言った後、太一が泣いていたから……。
初めて見るその涙を前に、ヤマトは動く事が出来ずに、その場に立ち尽くしてしまう。
そして、もう見えなくなってしまったその姿に、小さく息を吐き出した。
「……3日じゃないのになぁ……」
太一に初めて会ったのは、転校して来る前の話。
自分が一方的に好きになって、ずっと探していたのだ。
あの、眩しい笑顔を見たいと思って……。
「……それ自体が、迷惑な話だな……」
ポツリと呟いて、自嘲的な笑みを零す。
初めて会った時のあの笑顔。あれは、幻だったのかもしれない。
今、彼が見せるのは、全てを諦めてしまったような笑顔だけ……。
そして……。
「……泣かせたい訳じゃない……」
初めて見せられた涙。
ずっと泣きそうな顔をしていた彼が流したその涙は、本当に胸を締め付けるものだった。
何が、太一を追い詰めているのか分からないが、その傷は、自分が思っているよりも深刻で大きなモノ。
「……それでも、俺は、諦めたくないんだ……」
泣かせたい訳じゃない。
ただ、笑って欲しいと思うから、自分は諦められないのだ。
それが、自分のエゴだとしても、初めて見た笑顔が、彼の本当の姿だと知っているから……。
全速力で走って、気が付いた時には家の直ぐ傍にある公園だった。
この公園は、引越ししてきたその日に来て、気に入った公園。
そんなに大きな公園ではなく、自然の多いこの場所は、自分にとって安らげる場所。
小さい公園だけあって、人気は何時も殆ど無いのも、太一にとって気に入っている理由の一つだった。
「……言い逃げだ……」
走った為に整わない息を直すように、大きく息を吐き出す。
そして、ぐっと目元を乱暴に拭った。
人前で泣いた事など一度も無い。
こんな風に取り乱してしかも、訳の分からない事を言って逃げてきた事に、後悔だけが先に立ってしまう。
他人への接し方なんて、もう忘れてしまった。
出来るだけ人と係りを持たないようにしていたから……。
自分の力を知られる事の恐怖を、知っている。
例え、表面上は笑顔を見せていたとしても、自分にはその相手の心が見えてしまうから……。
『気味が悪い』その言葉が、どれだけ自分を傷付けるのか、言っている方はきっと知らないだろう。
「……言われても、仕方ないのに……」
ポツリと呟いて、苦笑を零す。
心が見えてしまうと言うのが、どれだけ相手にとって嫌な事であるかを知っている。
隠そうとしているものを知られてしまうのがどれだけ相手にとって恐怖であるかも、ちゃんと分かるのだ。
だから、言われても仕方がないと、自分に言い聞かせてきた。
「……自分でも、気味が悪いと思うんだから、言われても仕方ないよなぁ……」
自嘲的な笑みを見せて、太一はそっと瞳を閉じる。
何も考えたくないと思っても、自分の意志と反対に、考える事をやめられない。
頭に浮かんでくるものは、何時だって自分の事を傷付ける。
そう分かっていても、自分には考える事を止める事が出来ないのだ。
「……俺は……」
ポツリと呟いて、息を吐き出す。
気持ちを落ち着かせるように、太一は直ぐ傍にある木にそっと手を伸ばした。
流れてくる、温かい何をか感じるように瞳を閉じる。
そうする事によって、落ち着いてくるから……。
「……もう俺は……」
木に寄り添うように体を預ければ、止まったはずの涙がまた頬を流れていく。
一度流れ出してしまった感情は、もう止められない。太一は、声を殺しながら、ただ涙を流した。
知られなたくないと思っている事なのに、それが自分を縛り付けて傷付ける。
知られてしまえば、どうなるか分かっているのに……。
自分の事が、気になると言ってくれた人が居る。
そして、自分の事を大切にしたいと言ってくれた。
それだけで、満足しなくってはいけないのだ。
本当なら、自分はそんな事を言ってもらえるような人間ではないと、自分自身が一番良く分かっている。
本当の事を知られてしまう恐怖だけは、何時だって自分を苦しめて離さない。
「……あいつも、同じだ…期待なんて、しちゃいけないんだ……」
自分に言い聞かせるように呟いて、太一はギュッと手を握り締めた。
これが、これだけが、自分を守る為の砦なのである。
だから、誰にも心を許す事なんて、出来ないのだ。
「今、だけだ……だから……」
再度呟いて、太一は少し乱暴に目元を拭った。

はい、お待たせいたしました。『君の笑顔が見たいから 12』になります。
この話を書いて、気が付いた事なんですが、まだ3日しか過ぎてないんですね、この話って……xx
無茶苦茶遅い(><)
本当に、何時終わるんだろう……。
太一さんが逃げてる状態なので、このままの状態で話が続きそうです。
でも、20話までは、いかないかなぁ?……それは、ヤマトさん次第!<苦笑>
ヤマトが頑張れば、きっと太一の未来は明るいはず!!(…多分…xx)
そんな訳で、本当にボチボチと更新していく予定です。
続きも気長に待っていて頂けると嬉しいですね。<苦笑>
出来るだけ、頑張りますです、はい……xx
では、次こそは、太一の笑顔が見られますように……(無理だって…xx)
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