もし、もしも、あの夢に出て来た相手があいつだったら、本当に運命だと思う。
  俺が、あいつを救うために選ばれたんだと……。
  もっとも、そんな大層なモノじゃない。現実は、あいつを救うなんて夢のまた夢。
  それなのに、『運命だ』なんて、偉そうな事言えるのだろうか?


 
                                        君の笑顔が見たいから 11


「ヤマト!」

 授業が終わったと同時に戻ってきた友人が嬉しそうに自分に手を振っているその姿を見た瞬間、ヤマトは盛大なため息をついた。

「智成、お前なぁ…」
「悪かった。ちょっと、八神と話をしてたんだよ」

 自分の直傍に来た相手に文句の一つでも言おうとした瞬間、遮られるように言われたそれに、ヤマトは驚いて智成に
視線を向ける。

「太一と……?一体…」
「何を話してたのかは、秘密。まぁ、俺としては、決心がついたって気分だな」
「決心?」

 笑顔と共に言われるそれに、ヤマトが不思議そうに首を傾げる姿に、智成はその笑顔を深くした。

「お前と八神の応援をしてやるよ、本気で、な」

 晴れ晴れとした顔で伝えられたそれに、ヤマトは呆れたような表情で智成を見詰める。
 何時もながら、目の前に居る友人の突拍子も無い行動に驚かされてしまうのだ。

「……こう言う場合は、一様サンキューと言えばいいんだろうなぁ……xx」

 複雑な表情をしながらも、ヤマトが一応の礼を伝えれば、満足そうな笑顔が返された。

「んじゃ、そう言う訳で、さっきの授業のノーーと貸してくれよな」

 そして、ニッコリと笑顔で言われたその言葉に苦笑を零しながらも、素直にノートを取り出すとそれを智成に手渡す。

「……ところで、太一は、一緒に戻ってこなかったのか?」

 ノートを預かってから、自分の席に戻り荷物を鞄に詰め込んでいる智成に、ヤマトが疑問に思った事をそのまま尋ねれば、苦笑いされてしまう。

「…あいつが、俺なんかと一緒に戻ってくると思うか?」
「……一時間、一緒にいたんだろう?」
「無理やりな。あいつは、迷惑そうな表情してたぜ。俺としては、結構楽しかったんだけどなぁ・・・・・・」

 ポツリと呟かれたそれに、ヤマトは思わず太一に同情する。
 この友人の強引さを知っているだけに、乾いた笑いは止められない。

「んで、忠告だけど、あいつは強引にじゃないと動かないぜ。意志は固そうだからな」

 全ての荷物を鞄に入れて、それを肩に掛けると、智成がポンッとヤマトの肩を叩いて苦笑を零した。

「ああ……」

 忠告と言われたそれに、素直に頷いて返せば、満足そうに頷く。

「それじゃ、俺これから部活だからさぁ、じゃあな、ヤマト!」
「…また、無茶するなよ」

 教室から出て行こうとする友人に声を掛ければ、手を片方だけ上げて返してくる。
 そんな態度に笑いを零して、ヤマトは疲れたようにため息をついた。

 教室の中は、早くに終わった開放感で楽しそうに賑わいでいる。

 そんなクラスメート達を見詰めながら、何気なく窓の外に視線を移せば、校庭では既にどこかの運動系が部活を始めているようで、校庭を走っている姿が見えた。
 そんな情景を何気なく見詰めながら、ヤマトは再度ため息をつく。

 いろいろな事がありすぎて、正直疲れたと感じてしまうのは、自分が何をすればいいのか迷っているからかもしれない。

 どうすれば、太一の笑顔が見れるのか、そればかりが頭の中を回っている。
 『しなくってはいけない』と思うその気持ちは、ただ自分を追い詰めているだけ。

 それが、分かっているのに、気だけは焦ってしまうのだ。
 早くしなくては、何か取り返しのつかない事が起こってしまいそうな気さえする。

「……俺は、どうすればいい?」

 ポツリと呟いたその言葉は、誰にも聞かれること無く、ただ静かに響いただけであった。





 教室に戻る事も出来ずに、ただボンヤリと部活が始まっているグランドを眺めながら、太一は小さく息を吐き出す。
 新聞部の部室を後にしたまでは良かったのだが、それから直ぐに教室に戻る事も出来ないまま、今を迎えている自分に、どうしてよいのか分からずに、深いため息が出てしまう。

「……あいつ、帰ったかなぁ……」

 ポツリと呟いて、もう一度ため息。
 授業が終わって、かなりの時間が過ぎている。
 なら、教室にはもう誰も居ないかもしれない。
 そう思っても、教室に戻れないのは、彼が居るかもしれないという気持ちがあるから……。

 『会いたくない』と言う気持ちは、自分にとって正直な気持ちである。弱い自分をさらけ出してしまいそうになるのが、怖いのだ。
 彼を見ていると、自分のこの力の事を全て話して、縋りたくなってしまう。

 それが、自分にとってどれだけ愚かな行為だと分かっていても、止められなくなるのだ。

 諦めていたモノを、求めてしまう。
 望んでも、手に入らなかったモノを、彼が与えてくれるのでは、と言う期待。

 その全ては、自分にとって、既に諦めているモノであり、求めてはいけないモノなのに……。
 それが分かっているから、自分は彼を危険だと感じている。

「……席が後ろなんて…なぁ……」

 教室に入れば、嫌でも彼は自分の視界に入ってくるのだ。

 しかも、あの目立つ髪の色。
 そして、整った顔立ちは、人を惹きつけるには、十分であろう。

 避けたいと思っているのに、目が彼を探している。
 聞こえてくる声は、何時だって優しくって、耳を塞ぎたいのに、それさえも出来ない。

 矛盾だらけの自分に、太一は苦笑を零した。

「……何も望んでなんていない筈なのに……諦めた筈なのに……」

 呟いてギュッと拳を握り締める。

「どうして、俺の事を呼ぶんだ?」

 何度も何度も、自分を呼ぶ声。

 誰の声なのか、確認しなくっても分かっている、それ…。
 自分の名前と一緒に、『好き』だと言うその声

「…頼むから、俺の事なんて、放って置いてくれ!」

 叫び声と同時に、近くの壁に握り締めていた拳を叩きつける。
 鈍い音と同時に、手に走る痛みさえも感じないように、太一はその手で頭を抱え込んだ。

 聞こえる声。

 幾ら、耳を塞いでも、自分には幾つもの声が聞こえてくる。
 それら一つ一つは、自分とは全く関係のないもの。
 そう、今までは、自分とは何の関係もないものだった筈なのに、今聞こえてくるのは、優しく自分の名前を呼び続けているその声だけ。

 耳を塞いでも聞こえてくる優しいその声は、今まで聞こえてきたどんな声とも違うもの。

「……お願いだから、俺を呼ばないでくれ……」

 哀願するように呟かれたそれは、誰にも聞こえる事はなかった。





 幾ら待っても戻って来ない相手に、ヤマトは盛大なため息をつく。
 置き去りにされた鞄を見詰めながら、もう誰も居なくなった教室の中で、ヤマトのため息だけが響いた。

「……戻ってこないつもりなのか?」

 荷物を置いたまま、帰ったと言う事だって考えられる。
 ヤマトは仕方がないと言うように、置かれたままの鞄を持ち上げた。
 それは、中身も出されないままずっとそこに置かれているモノ。

 学校に来ても、太一は一日この教室には居ない。
 朝来ても、直ぐに何処かに居なくなってしまう。

「……やっぱり、避けられてるのか?」

 考えたくはないが、それしか思いつかない。
 自分で呟いたそれに、ヤマトは再度盛大なため息をついた。

 もう、これ以上待っていても仕方ないだろうと諦めて、自分の鞄を持つと、ゆっくりとした足取りで椅子から立ち上がる。
 それと同時に、今まで閉ざされていた戸が、小さな音を立てて開く。
 誰も居なくなった教室の中、その音は、やけに響き渡って聞こえた。

「……太一…?」

 扉を開いて現れた人物は、自分を見た瞬間、大きく瞳を見開いて、信じられないモノでも見つけたかのように、その場所から動けなくなっている。
 帰ろうと思って立ち上がったヤマトも、突然の相手の出現に、そのまま動けない。

 お互いが動けずに、真っ直ぐにただ見詰め合う。

 時間にすれば、ほんの僅かな時間の筈が、それが長く感じられる。
 そんな時間を破ったのは、太一だった。
 すっと、ヤマトから視線を逸らして、そのまま教室に入ると、自分の机に置いてある鞄を手に取る。

「……それじゃ…」

 鞄を掴んで一言だけを告げると、そのまま走り去ろうとしている相手に気が付いて、ヤマトは漸く我に返り、慌ててその去ろうとしている腕を掴んだ。

「なっ…」

 去ろうとしたその腕を掴まれて、太一が驚いたようにヤマトを振り返る。

「あっと……その、一緒に帰らないか?」

 振り返った瞬間、困ったように少しだけ顔を赤くしているヤマトに、太一は何も言えないまま掴まれた腕を見詰めた。

「あっ!悪い……」

 今だ掴んでいた腕を慌てて離して、ヤマトは苦笑を零すと素直に謝ってしまう。
 太一の表情は、俯いている為に読めない。

「……イヤなら、いいんだけど……xxその……」
「別に、帰り道は、一緒なんだろう?」
「えっ?」

 言い訳するように語っていたそれを、太一の小さな声が遮る。
 一瞬、何を言われたのか理解できないで、ヤマトは太一を見詰めた。

「……ただ、一緒に歩くだけだ……」

 ポツリと、まるで自分自身に言い聞かせるように言われたその言葉に、ヤマトは信じられないと言うような表情を見せる。
 素直に喜んでいいような返事ではないのだが、『OK』を貰えた事には間違いない。

「そ、それじゃ、帰ろうぜ……」

 緊張するな、と言う方が無理な話である。

 ドキドキする気持ちは止められない。

 そして、歩き出した自分に合わせたように、太一はその後ろをゆっくりとした足取りで一歩を踏み出す。

 その時の、太一の内心は、誰にも分からない程、複雑で、自分自身でも分からない程、客観的に己自信を見詰めていた。



                                           




      漸く、続きが書けました!
      そして、太一とヤマトの会話vv(少しだけですけど……xx)
      この続きは、来年となります。出来るだけ、頑張りますが……遅くなるかも……xx
      いや、一緒に帰るくせに、多分会話無さそうだから、書くの大変そうです。<苦笑>
      それにしても、この話何時終わるんでしょうか?
      誰かに聞いても分からないって……書いている本人にさえ分からないのに……xx
      
      ……意味不明なあとがきですね、すみません。
      では、皆様良いお年を!