救う?どうやって?
そんな事は、誰に言われなくっても分かっていたはずなのに、肝心の方法が分からないのなら、意味がない。
始めて会った時の笑顔が忘れられなくって、次に会った時には、その全てに惹かれてしまった相手。
それは、全部嘘じゃない。俺が、救えると言うのなら、どんな事でもする。それも、本当気持ち。
だけど、どうやればあいつを救える?
君の笑顔がみたいから 07
「ヒカリ…?」
恐る恐るという感じで、太一が部屋から出てきた時、ヒカリは何時ものを笑顔を見せた。
「どうしたの、お兄ちゃん」
ニッコリと可愛らしい笑顔を見せる妹に、太一は困ったような表情を浮かべる。
「……その、えっと…誰だったんだ?」
「タケルくん。お兄ちゃんの事心配してわざわざ来てくれたんだよ」
ニコニコと、笑顔を見せている妹を相手に、太一は思わず苦笑を零す。
本当は、相手を聞かなくっても分かる。
今だって、あの人の声は自分に聞こえてくるから……。
「…そうか…本当に、悪い事しちまったな……上がってもらえば良かったのに……」
「そう言ったんだけど、遅いからって断られちゃって……お兄ちゃん?」
笑顔を崩さずに話をしていたヒカリは、突然驚いたように顔を上げて玄関の方に視線を向けた兄に、心配そうに声を掛けた。
「あっ…まだ、居るのか?」
「お兄ちゃん?」
ポツリと漏らされたその言葉に、ヒカリが不思議そうな視線を向ける。
だが、その声が耳に入っていないように、太一は慌てて玄関へと急ぐとそのまま勢いよく扉を開いた。
その瞬間、ここ数日で嫌でも目に入ってきたその金色の髪を見付けて、太一はそのまま玄関に立ち尽くす。
遠去かって行くその後姿を、思わず何も言わずに見送ってしまう。
もしも、このまま追いかける事が出来れば、何かが変わるのだろうか?
「……俺は、何も望んじゃいない……変わる必要なんて、ない……」
ぐっと強くドアノブを握り締めて、太一はゆっくりとその扉を閉めた。
それは、まるで自分の心を閉ざすかのように、静かに閉められる扉。
そして、しっかりと鍵が掛けられた……。
「お兄ちゃん!」
目の前で、自分に向かって手を振っている弟の姿に、ヤマトはそっと右手を上げて答える。
太一の家から少し離れたその場所は、初めてあの笑顔を見た場所。
「お兄ちゃん?」
公園に視線を向けたまま動かなくなってしまったヤマトに、タケルが心配そうに声を掛ける。
「……太一さんに、会えなかったね……」
「ああ……」
ポツリと漏らされたその言葉に、短く返事を返す。
「……タケル、公園に寄って行かないか?」
「別にいいけど……もしかして、お兄ちゃんが、太一さんに初めて会った場所だとか言わないよね?」
少しだけからかうように返されたその言葉に、何も返事を返せない。
こう言う時に思ってしまうのだ、どうして自分の周りには、勘が鋭い相手しか、居ないのだろうかと……。
「……その通りだて言ったら、先に帰るか?」
「帰って欲しいのなら、帰るけど……」
ポツリと問い掛けたその言葉に、すぐに帰ってきたそれに、ヤマトは思わず盛大なため息をつく。
「いいよ、帰らなくって……なぁ、タケル…一つだけ聞いてもいいか?」
「うん?」
疲れたように近くにあったベンチに座りながら、すぐ傍に居る弟に視線を向ければ、不思議そうに返される。
「…太一を見て、どう思った……」
真っ直ぐに自分を見詰めながら言われたそれに、タケルは思わず苦笑を零す。
だが、自分が太一を見て思った事をそのまま素直に口にした。
「……えっと、ヒカリちゃんの事、とっても大事にしてるのが直に分かるぐらい、優しい笑顔を見せてた。でもね、そんな優しい笑顔を見せているのに、とっても、寂しそうに見えたんだ……」
「寂しそう?」
最後の言葉を、復唱する事で先を促す。
「うん、ボクが勝手にそう思っただけかもしれないけど、とっても辛そうだった」
「……そうか……」
言われた事に、ヤマトは小さく息を吐き出した。
初めて会ったタケルでさえもそう感じたのなら、間違いないだろう。
「……俺が、あいつを初めて見た時、幸せそうに笑ってたんだ……なのに、次に会った時、その笑顔が幻だったと言うくらい、あいつは無表情で、辛そうな表情を見せるんだ。まるで、泣き出しそうで……俺が、あいつに笑って欲しいって思うのは、自分勝手な感情でしかないんだろうなぁ……」
「……お兄ちゃん…」
自嘲的な笑顔を見せる兄に、タケルは困ったような表情を見せた。
この表情を見れば、分かる。
本気で、ヤマトが太一の事を思っていると言う事が……。
初めて、自分から誰かに興味を持って、こうして考え込んでいる姿を見せている事に、タケルは複雑ながらも、内心喜んでいた。
自分以外をこうまで心配するなど、今まで一度もなかった事なのである。
兄バカと言われていたヤマトの初めての恋。
応援したいと思うのは、当然だろう。
「ねぇ、お兄ちゃん。ボクは、そう思うのは悪い事じゃないと思うんだ。だって、好きな人に笑顔で居てもらいたいって思うのは、当然の事だと思うよ」
「タケル……」
「だから、頑張ってよ、ボクは、お兄ちゃんの味方だからね」
ニッコリと笑顔を見せながら言われたそれに、ヤマトもぎこちなく笑顔を返す。
「それじゃ、もう帰ろうよ」
「……ああ、そうだな…」
笑顔で差し出された手を握り返して、ヤマトはベンチから立ち上がった。
そして、ゆっくりと二人並んで歩き出す。
だが、一度だけ振り返ると、小さく息を吐き出した。
どうして、あの時だけ、幸せそうに笑っていたのか、それが分かれば、自分はあの笑顔をもう一度見る事が出来るだろう。
だけど、彼が笑顔を見せていたのは、一度だけ。
あの眩しい笑顔を見る為に、自分に一体何が出来ると言うのだろうか。
「で、昨日はどうだったんだ?」
学校に着くなり、にこやかな笑顔で問い掛けられて、ヤマトは盛大なため息をついた。
自分に太一と一緒に帰るように進めてくれた友人は、楽しそうにその結果を聞きたがっている事に、ヤマトは正直に頭を抱え込んでしまう。
「……智成…」
「…その様子だと、失敗だったみたいだなぁ……」
頭を抱えながら名前を呼ばれた事に、智成が呆れたようにため息をつく。
それに、ヤマトは苦笑を零した。
折角背中を押してもらったと言うのに、自分にはどうする事も出来なかった。
彼の全てが知りたいと思っているのは、本当の事。
だが、自分が知る事で、相手が傷付くのであると言うのなら、知りたくなんかない。
「…見せてくれるんだろう?見惚れるような笑顔……楽しみにしてるんだからな」
「……ああ…」
不機嫌そうに言われたその言葉に、もう一度苦笑を零しながら頷く。
そして、ヤマトはその視線を窓の外へと向けた。
登校してくる生徒達をボンヤリと見詰めながら、そっとため息をつく。
「…ヤマト……」
「んっ?」
ボンヤリと外を眺めていたヤマトは、不意に名前を呼ばれて、視線を友人に向ける。
だが、そちらに視線を向けた瞬間、驚いたように瞳を見開いた。
「お前の想い人の登場だぜ」
からかうような口調で言われた事も耳に入らずに、そのまま入ってきた人物を見詰めてしまう。
ゆっくりとした足取りで、自分達の方に歩いてくるその人物から視線を逸らす事が出来ない。
「あっ、おはよう……」
太一が自分の席に鞄を置いた瞬間、ヤマトは小さく挨拶をする。
勿論返事なんて、期待していない。
だが、自分の考えに反して、太一は一瞬だけ困ったような表情を見せた後、ヤマトから視線を逸らす。
「……昨日は、悪かった……折角来てくれたのに……」
自分を見ないままに言われたその言葉に、ヤマトは驚いたように瞳を見開いて、相手を見詰めてしまった。
少しだけ、頬を染めているように見えるのは気のせいではないだろう。
そんな姿を見せられれば、可愛いと思ってしまうのは止められない。
「あ、ああ……その……俺だって、突然押しかけたんだから……悪い……」
「…弟にも、謝っておいてくれ……」
「あっ、ああ……」
戸惑いながら言われた事に、驚きながらも返事を返す。
それに、太一は漸くほっとしたような表情を見せた。
それから、慌てて教室から出て行ってしまう。
「……八神が、返事を返すとはねぇ……失敗したんじゃねぇみたいだな。何が、あったんだ?」
感心したように呟かれたそれに、ヤマトは驚いた表情そのままに首を傾げてしまう。
「……俺の方が聞きたい……俺は、何もしてないんだからな……」
「ふ〜ん、まぁでも、大した進歩って奴じゃないのか?頑張れよ、見惚れる笑顔、楽しみにしてるんだからな」
「……あっ、ああ……」
友人の言葉に、気の無い返事を返しながら、ヤマトは太一が走り去った方をずっと見詰めていた。
そして、予鈴のチャイムが鳴っても、太一が教室に戻ってくる事はなく。
そのまま本例のチャイムが鳴り響く中、ヤマトは複雑な気分を隠せないまま、自分の後ろの席に置かれたままの鞄を見詰めてしまうのだった。

お待たせしました!っても、全く話が進んでおりません。ごめんなさい(><)
太一さんの心境の変化は、一体何があったのでしょうか!?
『変わる必要ない』って言ってるのに、十分変わってるよ……xx
次に、太一さんよりなお話にしますので、お楽しみに…
それにしても、この話も早くも『7』ですね……。なのに、全く話が進んでないって……xx
10話は過ぎる自信があります!ええ、これは、絶対でしょう。<苦笑>
と、兎に角、早くヤマトと太一のまともな会話を書きたいです。
それまで、後どのくらい書けばいいのでしょうねぇ?(誰に聞いてる、私…xx)
では、『君の笑顔が見たいから 08』も宜しくお願いしますね。
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