分からない事が多すぎる。
『どうして?』と、問い掛けられるモノならば、問い詰めたい。
なのに、人を寄せ付けないようなその雰囲気。
『近付くな』と彼は言ったけれど、俺にはそんな言葉なんて関係ない。
俺は、俺の意思であいつの事を知りたいと思うのだだから……。
君の笑顔が見たいから 03
「ヤマト!」
突然大きな声で名前を呼ばれて、驚いて顔を上げる。
名前を呼んだ人物が、目の前で呆れたように自分を見詰めている事に気が付いて、ヤマトは疲れたようにため息をついた。
そして、今の時間が、既に昼休みになっている事に気が付いて、更に盛大なため息をつく。
考え事をしていた為、午前中の授業はほとんどまともに聞いていない。
「……お前、大丈夫か?」
「…ああ……悪いけど、朝の分のノート貸してくれないか、智成……」
ため息をつきながら言われそれに、友人は苦笑を零すと自分の机からノートを取り出してヤマトの机の上に置いた。
「明日までには返せよ、それ」
「有難う…」
置かれたノートを手に取って、素直に礼を言えば笑顔が返される。
「んじゃ、お昼にしようぜvv ヤマト、弁当だよな?」
そして、自分の椅子をヤマトの席に持ってきて、嬉しそうに問い掛けられた事に、ヤマトは一瞬驚いたような表情を見せた。
確かに、何時も自分は弁当を持ってきている。
母親が、勤め先に弁当を持っていくから、自分の分も用意してくれる。
しかし、今日の朝の事を思い出して、そのまま頭を抱え込んでしまう。
「……智成、弁当忘れてきたから、先に食べていてくれ……パンでも買ってくる」
思い出した事に盛大なため息をつくと、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「珍しいな、前が忘れ物するなんて……」
「偶にはあるさ…」
驚いたような友人の言葉に苦笑を零しながら、ヤマトはそのまま教室を後にする。
購買に行って目当てのパンを見れば、遅かった事もあって、あまりいいものは残っておらず、ヤマトは適当なモノを数個買って、教室に戻ろうと廊下を歩いていた時、ふと視界に入った人物を見付けて、その足を止めた。
『…八神…太一…』
心の中で、その名前を呼ぶ。
姿が見えないと思っていた彼を見付けて、思わず見詰めてしまう。
相手は、見られている事など気が付かないのだろう、無表情なままただ空を見上げていた。
いや、正確に言えば、ただ見上げているだけ。
その瞳には、何も映されていない。
何も感じていないその瞳を見ていると、胸が締め付けられるような痛みを感じる。
胸の痛みを感じて、ヤマトはぎゅっと自分の手を強く握り締めた。
そんな自分の行動と同時に、太一の何も映していなかった瞳が驚いたように見開かれて、そのままヤマトの方に向けられる。
一瞬だけ、まるで時間が止まったかのように感じられる瞬間。
確かに、今まで何も映していなかったその瞳に、自分が映し出された。
そして、その瞳が、困ったような色を浮かべる。
「……太一…」
ポツリと口に出して、その名前を呼ぶ。
それは、当然のように感じられるほど、すんなりと口をついて出てきた。
今まで呼んでいたように、自然な響き。
そして、暫くの間、そのままの状態が続く。
まるで、他の事等目に入らないように……。
「ヤマト!!」
だが、そんな自分達の時間は後ろから名前を呼ばれた事で遮られた。
名前を呼ばれた瞬間に、太一の視線が自分から逸らされる。
「お前、何やてるんだ?って、八神……」
後ろから声を掛けてきた人物は、少しだけ呆れたようにヤマトの肩を掴む。
だが、ヤマトの見詰めていた先に居た人物に、不思議そうに首をかしげる。
だが、直に考え付いた事に、驚いたようにヤマトを見た。
「……お前、まさか……」
信じられないと言うように見詰めてくる友人を前に、ヤマトはため息をつく。
やはり、この友人の勘の鋭さは、流石だと誉める事しか出来ないだろう。
「…そのまさかだ……お前だから言うけど、俺の一目惚れ……」
苦笑を零しながら、本当の事だけを伝える。
どうせ嘘を付いても、バレてしまうのだから、本当の事を言う方が、話が早い。
自分は、その気持ちを別に秘密にしておく必要は無いのだから……。
一目惚れ。
確かに、始めはそうだった。
しかし、彼が転校して来てから、あの笑顔を見れない今でも自分の気持ちは変わらない。
いや、それだけではなく、更に大きくなっていっている事を、自分はちゃんと知っているから……。
「……女の子に人気のあるお前がかぁ?」
「…そんな事、関係ないだろう……俺は、好きで人気がある訳じゃないし……」
友人の言葉に苦笑を零して返せば、同じように返される。
「まぁ、気持ちは分かってやれないけど、頑張れよ……俺としちゃ、あんな愛想の無い奴の何処がいいのか分からないけどな」
苦笑を零しながら、呆れたように呟かれたそれに、ヤマトは笑顔を見せた。
「……俺が惚れたのは、あいつの笑顔だ」
「はぁ?」
嬉しそうな笑顔で呟いた言葉で、信じられないというような表情を見せて驚く友人に、ヤマトは再度苦笑を零す。
きっとまだ、誰も気が付いていないだろう。
彼の笑顔がどれだけ人を惹きつけるものなのかを……。
「多分、お前も惚れるさ、あいつの笑顔を見たら……」
優しく微笑むその姿を前に、思わず言葉を無くしてしまう。
まるで、自分の事のように嬉しそうに笑うそんな笑顔を初めて見せられた事に、納得するしか方法は無い。
「……お前に、そんな顔をさせる奴なら、俺も惚れるかもなぁ……」
「えっ?」
「今、自分がどんな顔してるのか、分かってないだろう?」
少しだけ呆れたように言われた事に驚いて、自分の顔に手を当てる。
今、自分がどんな顔をしているのか、分からないから…。
「…あいつに出会えて、嬉しいって顔してるぜ。まぁ頑張れよ!そして、俺にも、あいつの笑顔を見せてくれよな」
からかうように、それでも応援してくれる友人の言葉に、ヤマトは苦笑を零しながらも頷いて返した。
今はまだ、あの笑顔を見る事も、ましてや彼に近付く事も出来ないのに、何時かは……。
そんな願いを込めて、ヤマトはもう一度太一に視線を戻す。
だが、その場所には既に太一の姿はなかった。
「……ヤマト、早くメシ食わないと、午後の授業が始まるぜ」
「……ああ…」
促された事に、素直に従ってその場を離れる。
居なくなった彼の事を気にしながら……。
漸く遠去かって行く気配に、ほっと胸を撫で下ろす。
隠れるように近くの木の後ろに移動して、太一はそっと自分の体を抱き締めた。
「……どうして…聞こえるんだよ!……お願いだから、俺を放って置いてくれ……」
ぎゅっと強く自分の腕を掴む、それにより自分の腕に爪が食い込んでいくが、太一はその痛みも気にせずに、更に腕に力を込める。
自分の事を真っ直ぐに見詰めてきた相手に、戸惑いを隠せなかった。
失礼だと分かっていて言った自分の言葉なんて全く気にせずに、彼は自分だけを真っ直ぐに見詰めてきたのだ。
そして……。
「……好きなんて知らない!そんなの、俺には関係ない!!だから、俺に関わるな……」
耳を塞いでいても聞こえてくる『声』。
その『声』は、何時だって自分の意志とは関係なく、聞こえてくるから……。
『…気持ち悪い……』
『化け物!』
言葉に出されなくっても聞こえてくるそれらは、何時だって自分の事を傷つける。
知りたくなんか無いのに、自分だってこんな気味の悪い力なんて欲しくない。
『……どうして、こんな子が出来たのかしら……嫌だわ……』
本当の自分を見て欲しかった。気味の悪い子なのは分かってる……でも、抱き締めて欲しかったのだ。
誰かに分かって貰う。
そんな事きっと無いと分かっていても、そう願わずには居られない。
小さい頃に比べれば、『声』を聞かなくても済む方法だって身に付けたと思う。
だが、時々どうしようもなく流れてくるその『声』だけは、何をしても聞こえてくる。
何時だって突然流れてくるその『声』は、感情的な『声』だった。
だけど、今聞こえてくる『声』だけは、今まで聞いたどの『声』とも違う、自分の事を『好き』だと言う。
他の誰でもなく、ただ自分の『笑顔』が見たいと……。
「……俺は……」
親にまで、自分は気味悪がられた事を知っている。
今、自分に何の迷いも無く笑顔を見せてくれるのは、妹のヒカリだけ……。
自分の事を知って、変わらなかったのもヒカリだけなのだ。
両親でさえも、自分のこの力を気味悪がって、どう接するかを戸惑っているのに……。
「……今だけだ…その内…」
どんなに自分の力を隠していても、その事に気が付けば、誰だって同じ反応。
知られたと同時に、誰も自分の傍には近付かない。それが、当然の反応だから……。
誰だって、自分の『心の声』を知られたくはないだろう。
だから……。
「……だから、俺を…開放させてくれ……」

く、暗い……xx
ごめんね、太一さん!こんな役で……xx
そして、漸くヤマトの友人に名前を付けました!!って言うか、漸く名前を呼んだよ、ヤマト(笑)
そう言う訳で、友人くんの名前は、『橘 智成』で〜す!
フルネームを紹介したのは、今度から友人ではなく『智成』と文面に使う為。
漸く、友人から開放されます…。(笑)
って、この話も、早くも3話目なのに、話が全く進んでません。
本当に5話で終わるのか!?それは、この後の展開次第。<苦笑> 無理だとは思いますけどね…xx
では、次はもう少し明るくなるように頑張ります!
|