『好き』その言葉が、こんなにも胸に染み込んでくる。
ずっと、聞きたかったその言葉。
誰でもなく、目の前に居る相手から……。
そして、俺は、その体をただ強く抱き締めた。
君が笑顔を見せる時 11
強く抱き締めたその体が、小さく震えているのは、泣いているから?
ずっと、たった一人で泣いていたのだろうか?
誰よりも優しいこの少年は、誰の前でも泣いたりはしない。
それは、悲しいほどの孤独。
誰よりも優しくて、そして誰よりも強くもあり、弱くもあるその心。
「……ずっと、太一の気持ちが聞きたかった……」
震えているその体を強く抱きしめながら、俺は自分の気持ちを素直に言葉にした。
俺のその言葉に、大きく肩が震えたのが、抱き締めた腕から伝わってくるのを感じても、あえて何も言わずに、更に続ける。
「……俺の気持ちは、変わらない。だから、太一が俺の事を好きだって言ってくれて、すごく嬉しいんだ……」
人の心が読める太一なら、俺の醜い心も知られているのかもしれない。
だけど、その力を嫌っている太一だからこそ、ちゃんと言葉にして伝えたいのだ。
「…正直言うと、嫉妬してた……」
「えっ?」
言葉にすると、本当に醜い俺の心。
太一が笑ってくれて、嬉しいと思える心だって、本物。
だけど、これは、その笑顔を自分だけに向けて欲しいと思う、独占欲。
驚いたように俺を見上げる太一に、苦笑を零す。
「…俺だけが手に入れた笑顔のはずなのに、躊躇いもなく智成に向けられた笑顔に……」
「ヤマト?」
「それに、無条件で受け入れてるヒカリちゃんに……」
太一が、俺の名前を呼ぶ。それを聞きながら、俺はただ言葉を続けた。
「そして、今でも太一の胸に残ってる人物に……」
最後の言葉に、太一が驚いて俺から離れる。
真っ直ぐに俺を見詰めてくるその瞳。
見詰めてくる瞳に、涙が月明かりで、光る。
「……太一とここで出会った時、太一は大切な人を亡くして、傷付いていたのに、俺に笑顔を見せてくれたよな?」
初めて、太一とここで出会った時、俺を見た瞬間、太一は確かに笑顔を見せた。
その笑顔は、ずっと自分の中に残っている。
不思議だったのだ、あの時、太一がどうして笑ったのかが……。
「……あの時の事は、覚えてない……どうして、ヤマトを見て笑えたのか……」
俺の質問に、太一はすっとその視線を逸らして、月を見上げた。
その動作は、何処か幻想的で声も掛けられない。
「…この世界は、俺が創った………あの人を助けられなかった自分から逃げ出して、この場所に来た…誰も居ないこの場所で、ヤマトに声を掛けられた時、分からないけど、救われたような気がしたから……」
そう言った太一が振り返って、あの時と同じ笑顔を見せる。
フワリと笑ったその笑顔が、自分を惹き付けて放さない。
あの初めて出会った時から、この笑顔が自分の胸に残された時から……。
「…太一……」
「…分かってる。本当は、あの人が何を望んでいたのかを……どうして、俺の言葉を聞いてくれなかったのか……」
もう涙の流れていないその瞳が、悲しみに揺れる。
分かっていても、それを認める事は、難しい事。
「……太一の大好きだった人は、自分を犠牲にしても誰かを守りたかったんだよな……太一と同じように優しくって、そして、強い人だったんだろう?」
「…あの人は、俺なんかと比べられないくらい、優しくって、強い人だった……」
俺の問い掛けに、小さく首を振って太一が口に出したその言葉に、ただ笑顔を浮かべる。
きっと、太一は認めないだろう。
太一も、同じ強さと優しさを持っているという事を……。
「……俺のこの力を知っていても、真っ直ぐに伸ばしてくれる手。そして、迷いも無く向けられる笑顔が、俺は本当に好きだったんだ……だから、俺は……」
「誰かが傷付いても、その人を助けたかった?」
太一が続けようとするその言葉を、俺が代わりに口に出す。
そんなにまで、太一に想われている相手が、例え肉親だとしてもやっぱり、複雑な気分だ。
「……あの人が、生きて俺に笑顔を見せてくれるなら……でも、あの人は、そんな事望まなかった……」
「太一……」
「最後に、あの人が俺に言った事は、自分の命で、誰かが助かるのなら、それでいいんだって……」
それは、声に出されたものではないだろうが、確かに太一にだけは聞こえた声なのだろう。
太一が傷付くと言う事を、誰よりも知っている人の最後の言葉は、それでも救いにはならない。
「もう俺には、あの血まみれで倒れているあの人の姿しか思い出せない。あの、笑顔もそして、差し出された腕さえも、今は赤く染められてるんだ」
ぎゅっと手を握るその姿に、掛ける言葉が見つけらない自分が、本当に嫌になる。
こんな時、どうやって声を掛ければいいのだろうか?
太一は、決して慰められたい訳では、無いのだから……。
「……あの時、俺の手も赤く染めた、あの人の血の色……ここにある花の色と同じ……」
「太一!!」
自分の手を見ながら言われたその言葉に、俺は大きな声で太一の名前を呼ぶ。
この場所は、太一にとって、逃げ場所でありそして、自分への戒めの場所でもある。
それは、救いを求めていない、太一の悲しいまでの性格の現れ。
「俺の手には、今でもあの人の血が……」
「血なんて付いてない!太一、思い出せよ!!その人は何時だって、太一に笑顔を見せてくれていたんだろう?だったら、覚えているはずだ、その人の笑顔を……そして、その人の腕の温かさを!!」
ぎゅっと、太一を抱き寄せる。
その人の代わりにはなれなくっても、太一が思い出してくれることを祈って……。
誰よりも傷付いているその心を、救いたい。
「……ヤ、マト…?」
「思い出せないのなら、俺がお前に笑顔を見せる。そして、こうやって抱き締めてやるから!だから、もう自分を責めるのだけは、やめてくれ!!」
自分でも一体なにが言いたいのか分からないが、それでも俺の心を太一に伝えたかった。
特殊な力があるからとか、そんな事関係無しに、自分は誰よりも太一が大切で大好きで……
だから、何時だって笑っていて欲しいと思うから……。
「……そんな………」
「えっ?」
俺の腕の中で、ポツリと呟かれた声が聞き取れずに、聞き返す。
「……そんな、泣きそうな顔で、笑えるのか?」
「…太一?」
少しだけ俺から離れて、顔を見上げてくる太一は、少しだけ困ったようなそして苦笑を零しながらも、しっかりと自分を見詰めてくる。
「……ごめん…思い出したから……」
「えっ?何を??」
「……あの人が、俺に笑顔を見せてくれる時は、何時だって『大好きだ』って言ってくれた……ヤマトの心、ちゃんと俺に聞こえたから……」
「…太一……」
そっと自分の胸に手を当てながら、太一がゆっくりと瞳を閉じる。
「俺のことが大切で大好きだって言ってくれるヤマトが居れば、もう逃げない……あの人の笑顔があるこの場所から……」
「太一」
「俺の手を赤く染めたあの血は確かに現実だったけれど、あの人が俺に向けてくれたモノは、もっと大切なモノだと思うから……」
はっきりと伝えられたそれは、やっぱり太一の強さを示していた。
誰でもなく、自分一人で前に進もうとするその姿が、嬉しいのに、少しだけ悲しいと思ってしまう。
「ヤマト……俺が、前に進めるようになったのは、ヤマトが居てくれたからだ……」
俺の心を見透かしたような、太一の言葉。
少しだけ感じたその想いを、きっと太一は、分かっているだろう。
だけど、あえて気付かないフリをする。
「……太一、戻ろう……ヒカリちゃん達が心配してる……もう、大丈夫だろう?」
だから、俺もそれ以上の事を打ち切って、太一を促す。
きっと俺と太一が目を覚まさない事に、心配しているだろうから……。
俺のそれに、太一が小さく頷く。
「なら、戻ろう……あっ!それから…」
ニッコリと笑顔を見せて、俺は太一の肩に手を回す。
そして、思い出したというように、ため息をついた。
「ヤマト?」
「……今度こんな世界を作る時には、一面の向日葵畑と、月じゃなくって太陽にしような」
笑顔を見せながら提案したそれに、一瞬太一がきょとんとした表情を見せて、その次の瞬間呆れたようなため息をつく。
「……普通、そんな華やかな所で、落ち込むモンなのか?」
「こんな暗い所に居るから、笑顔が少なくなるんだ!俺は、向日葵が、太一に一番似合う花だと思うぞ」
どう言う意味が分からないが、確かにそう思ったから言ったのに、呆れたような太一の視線を感じてしまった。
「……ヤマトって、やっぱり変だ……」
キッパリと言われたその言葉に、思わず苦笑を零す。
確かに、何の脈略も無く意味不明な事を言ったと言う自覚はある。
だが、それは少しでも太一の気持ちを浮上させようと思って……。
「でも!」
自分の考えに沈んでいきかけた時、続けられたそれに俺は顔を上げた。
「…そんなヤマトだから、好きになったんだよな……」
ニッコリと今までとは全く違った笑顔を見せる太一に、一瞬言葉が出て来ない。
今までの何処か戸惑ったような笑顔ではなく、心からの笑顔。
そう思えるのは、自分の気の所為ではないと思う。
「じいさんが、俺とヤマトを会わせてくれたのかもしれない……何時までも、自分の殻に篭るなって……」
「太一…」
「自分のことで苦しむ俺なんかを、じいさんが見たいなんて思うはず無いよな?」
まるで自分自身に言い聞かせるような太一の言葉に、大きく頷いて返す。
もしも、本当に俺と太一を引き合わせてくれたのだとしたら、心から感謝したい。
俺に、太一と言う人を会わせてくれた事に……。
「太一」
すっと、迷う事無く相手に手を伸ばす。
出された手にそっと返される温もりは、もうきっと誰にも渡せないくらい大切で大事な存在。
だから、君に笑顔を向ける。
君にだけ向ける、特別な笑顔を……。
「絶対に、離したりしないから……」
ぎゅっと強く手を握り締めて、自分自身に誓うように言葉を口に出す。
誰よりも強く、そして誰よりも優しいその人を絶対に失わないために……。
「ヤマト……」
そして、君が笑顔を見せる時、ゆっくりと誓いの証を……。

わ〜い、終わりました!!
って、意味不明な終了ですみません(><)
いや、だって、これ以上は本当に無理です。って、実は、密かにおまけがあります。
こちらの方は、間違いなくギャグです!!(きっぱり)
このまま、夢を壊したくない方は見ない方がいいですよ。(笑)
本当に、短いものですが、それでもいいよって思った方のみこのページのどこかにあるリンクをお探しくださいね。
い、一応、御止め致しましたよ……後悔しませんね?
では、頑張って、探してください。
そして、本編に続き、この番外編も長くお付き合いくださった皆様、本当に有難うございます。
なんて、言っておきながら、更に短い番外編も考えております。(笑)
こちらは、おまけ状態で、書きます。呆れなければ、また宜しくしてやってくださいね。
覚悟は、いいですね?
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