どうして、全てを隠そうとするのだろうか?
   辛い事も全部その胸に隠して、人の心配ばかりをする。

   きっと、分かっていない。
   どれだけ、それが心配になるかと言う事に……。
   俺が、どれだけ傷付くかと言う事にも……。


 
                                         君が笑顔を見せる時 07 


「太一!」

 糸の切れたマリオネットのように、倒れる体を慌てて抱き止めた。
 まだ涙の流れている太一の顔色は、明らかに色を失っている。
 何が、あったのか分からないが、その表情をみると胸が痛くなってくる位、辛そうだと言う事が分かった。

「お兄ちゃん」

 ヒカリちゃんが今にも泣き出しそうな表情で太一を見ている。

「ヒカリちゃん、ここに来るの、初めてじゃないね」

 どうすればいいのか分からない中、智成がヒカリちゃんに尋ねた。
 それは、質問ではなく確認。

 それに、ヒカリちゃんが一瞬驚いたように智成を見たが、その後小さく頷いて返す。

「……やっぱり…」
「あそこが、祖父母の家なんです。今、誰も住んでいない状態なので、お兄ちゃんをそちらにお願いできますか?」

 そして、躊躇いながらも口を開いて、直ぐ近くにある家を指差した。
 しかし、家があると言われても、その後に誰も住んでいないと続けられて、素直に疑問に思った。

 太一達が今住んでいる場所は、団地である。
 祖父母の家があるのなら、そちらに住むのが普通だろう。

「ヒカリちゃん?」
「ヤマト、とりあえず、八神を連れて行く方が先だ。その後、ヒカリちゃんが説明してくれるだろう」

 複雑な表情を見せているヒカリちゃんに問いかけようとした瞬間、智成に促される。
 確かに、このままこの場所に太一を置いておく事も出来ずに、俺はそれに頷いて、太一を抱き上げた。

「一人で大丈夫か?」
「…ああ……智成、荷物頼む」

 太一を抱き上げた俺に、心配そうに尋ねられて頷いて返す。
 人一人抱え上げるのは大変だが、誰かにこの役を譲るつもりは全く無い。
 それに、太一の体は、自分が考えているよりも軽かった。


 ヒカリちゃんが慌てて自分のポケットからカギを取り出して家のドアを開く。

「お母さんが毎日来てるから、大丈夫だと思うんですけど……」

 心配そうにドアを開き、中へと案内される。
 そして、6畳くらいの和室へと太一を寝かせた。

「窓、開けますね」

 ヒカリちゃんが、俺たちの返事も聞かずに窓を開く。
 その開いた窓から、気持ちの良い風が入り込んできた。

「……ヒカリちゃん、話してもらえるかな……」

 カーテンが、入り込んでくる風に揺れる。
 それを見ながら、俺は真剣な表情のままヒカリちゃんへと真相を確かめるために声を掛けた。

 太一のあれは、拒絶反応。

 それは、あの場所で、太一を傷つける何かがあったと言う事なのだ。

「……本当は、家族でここに住む予定だったんです……」

 何の前触れも無く、ヒカリちゃんが重い口調で話を始める。
 それは、あのアパートではなく、本当はここに住む予定だったと言う話。

「だけど、お兄ちゃんが、ここに来ただけで体調を崩すので……。酷い時には今日みたいに倒れる事もあって……だから、お母さん達が、相談してあのアパートを借りる事にしたんです。この町に引っ越す事はもう決まっていた事なので……」

 そっと視線を太一に向けて、ヒカリちゃんが話を続ける。
 その表情は、少しだけ辛そうで、見ているこちらの方が胸が痛くなるほどだ。

「…お兄ちゃんや私の力の事は、ご存知ですよね?」
「……ああ、全部じゃねぇけど、大体な」

 ヒカリちゃんの質問に、俺ではなく智成が返事を返した。
 俺は、智成が何処まで太一たちの事を知ってるのか、本当は分かっていなかっただけに、そんな風にきっぱりと言われて、少し驚いて智成を見てしまう。

「驚くなよ……俺は、そこまで鈍くないぜ。それに、お前に教えたのは俺だって事、忘れてないか?」

 信じられない瞳で見る俺に、苦笑を零して智成がウインクして見せる。

「だから、今更何を聞いても驚きゃしねぇよ。ヒカリちゃん、続けてくれていいぜ」
「……はい…」

 智成に促されて、ヒカリちゃんが小さく頷くとそっと息を吐き出す。

「…私とお兄ちゃんは、人の心と未来を見る力を持っています。未来を見る力は、人の心を読むよりも曖昧で、知りたい事が分かる訳ではないんですが、この力が、お兄ちゃんにとっては、一番辛いものなのかもしれません」

 泣き笑うような表情を見せて、語られたそれの意味が理解できずに、俺はただ黙ってヒカリちゃんの言葉を待つ。

 未来が、見える力。

 それは、あの夢の中で見せられた笑顔を思い出される。
 何もかもを諦めたかのような、あの笑顔を……。

「…私と違って、お兄ちゃんが見える未来は、誰かが傷付くモノだから……」

 ざっと強い風が入り込んできて、カーテンを強く揺らす。

「……人が、傷付く?」
「……もしも、自分の知っている人の嫌な未来を見てしまったとしたら……そして、それが目の前で同じように起こったとしたら?」
「…トラウマになるわなぁ……」

 ヒカリちゃんの言葉に、ポツリと呟かれた智成のそれ。
 それに、俺はただ驚いてヒカリちゃんを見詰めた。
 ヒカリちゃんは、智成のそれに小さく、頷く。

「…はい……お兄ちゃんは、それを体験している……だから、ここはお兄ちゃんにとって、辛い場所なんです」

 眠っている太一に視線を向ければ、まだ顔色が悪いのが見て取れる。
 一体、どれだけの悲しみがこの眠っている少年の中にあるのかという事を考えると、胸が痛い。

 誰よりも悲しみを知っているのに、これ以上の悲しみを与える必要などあるのだろうか?

「ヤマトさん、だから、私は貴方がお兄ちゃんを泣かせたりしたら、許さない」

 真剣な瞳が、俺を見詰めてくる。
 だけど、そんな風に言うヒカリちゃんの気持ちが分かるからこそ、俺はぎゅっと両手を握り締めた。

「俺は、太一にずっと笑っていて欲しいと思ってる……」

 だからこそ、はっきりと言葉を返す事も出来るのだ。

 泣かせたくないから……。


  





   って、結局、昔何があったんだ!!
   あっ、お待たせいたしました、漸く07を書き上げる事が出来ました。
   それにしても、話し進んでないじゃん(T-T) 
   小説書けない病も、なんとか克服。本当の病気になると書けるようになる、私(><)
   今も、まだ微熱ある状態です。完全な風邪ひきさん。<苦笑>
   夏風邪ってひいたのって、何年ぶりだろう?皆様も、気をつけましょう!
   って、なんの感想にもなってない……xx