漸く、笑顔を見せた相手。
金網の向こう側に広がっていたのは、誰をも引き付けるようなそんな景色。
ヤマトが、好きになったと言う気持ちが分からなくもない。
俺も、その笑顔に魅せられたと言えば、嘘になるから……。
君が笑顔を見せる時 05
俺が、坂の上を指した瞬間、八神とヒカリちゃんが一瞬お互いの顔を見合わせるのに気が付いた。
そして、八神が少し困ったような表情をする。
ヤマトが、心配そうに尋ねても、『大丈夫』だと言って、小さく首を振るだけ。
だけど、俺は一瞬の表情に気が付いてしまった。
ヒカリちゃんと、顔を見合わせた時の複雑な表情は、どう見てもその場所を知ってると言うモノである。
「八神、もしかして、この場所知ってるのか?」
だから、思わず聞いてしまった。
聞かなくては、本当の事は分からないから……。
「あっ、あの……」
「…初めてだよ、なぁ、ヒカリ?」
俺の質問に、ヒカリちゃんが少しだけ困ったような表情を浮かべて、口を開きかけるのを、八神が問い掛ける事で遮った。
八神のそれに、ヒカリちゃんが小さく頷く。
だけど、その顔はやっぱり戸惑いを隠せない様子だ。
「そう、なのか?」
どう見ても、そんな風には見えない。
俺は、不思議に思いながらも、その言葉に問い返してしまう。
「えっと、知ってる所に、似てるなって、思ったんですけど、初めてですよ」
俺の質問に、ヒカリちゃんが慌てて返事を返す。
それに、八神も頷いた。
だから、疑問に思いながらも、それ以上追求する事は出来なくなり、言葉をなくす。
俺が話をしなくなった瞬間、沈黙が流れる。
その気まずい空気に、思わず盛大なため息をついた。
「んじゃ、行こうぜ。腹、ヘッタしな」
その場の空気に、明るい声を出して先へと促す。
腹がへってるのは、本当の事だ。
時計は既に1時を回っているのだから、それも仕方ないだろう。
「そうだな……兎に角、お昼にしようぜ」
俺の言葉に、ヤマトが頷いて歩き出す。
それに、ヒカリちゃんや八神も同意して歩き出した。
目的の場所は、ここからもう5分位の距離である。
「ヒカリ、大丈夫か?」
ちょっとした坂道になっているので、歩くには少し大変な道。
だから、八神が心配して、ヒカリちゃんに声を掛けるのも分かる。
八神の言葉に、小さくヒカリちゃんが頷く。
だけど、やっぱりその顔は少しだけ疲れたように見えるのは、気の所為ではないだろう。
「大丈夫?荷物、持とうか?」
だから俺も心配になって、思わず声を掛けてしまった。
それに、ヒカリちゃんが慌てて首を振る。
「いえ、大丈夫です。後、少しなんですよね?」
「無理せずに、智成に荷物預けても大丈夫。こいつのとりえは、体力と勘の良さだけだからな」
にっこりと笑って、言葉を返したヒカリちゃんの後に、ヤマトが少しだけ笑いながら口を出す。
「……否定はしねぇけど、だけってのは余計だぞ、ヤマト……」
「体力と勘がいいって言うのだけでも、すごいと思うけど……」
引き攣った笑みを見せてヤマトを睨んだ瞬間、八神がポツリと呟いた言葉に、思わず俺達は驚いて八神を見詰めてしまう。
「えっ?!俺、変な事、言ったのか??」
突然全員の視線を向けられた八神が、心配そうに問い掛けてくる。
それに、思わず笑ってしまうのを止められない。
「まぁ、それって一応誉めてくれてるみたいだし、サンキュー八神vv」
「太一!お前、智成の事、誤解してるぞ!!」
俺の感謝の言葉と、ヤマトが八神に詰め寄ったのはほぼ同時。
本当、ヤマトは独占欲の塊となっているようだ。
俺の事まで、ライバル視しかねない勢いがある。
いや、確かに八神の事は嫌いじゃねぇけどな……。
「……誤解って?」
だが、そこで不思議そうに問い掛けられたその言葉に、俺はさらに笑いが止まらなくなってしまった。
鈍いと思っていたが、本当に鈍過ぎる。
ここまで来ると、流石にヤマトに同情したくなるよな、本当。
「…太一……xx」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。ヤマトさんの言ってる事なんて、気にしなくっていいからvv」
ヤマトが情けない声を出す傍で、にっこりと可愛らしい笑顔を見せながら、ヒカリちゃんが、八神に言ったその言葉。
もしかしなくってもこれは、八神が鈍いのって、ヒカリちゃんが原因かも……。
しかも、ヒカリちゃんは、ヤマトの事を余りよく思っていないらしい。
「……おもしれぇ……」
目の前で起こった出来事に、俺は思わずポツリと呟いてしまった。
幸い、誰にも聞かれずにすんだみたいで、ほっとする。
それにしても、なんとも面白い組み合わせだ。
ヤマトの奴、かなり苦労するだろうなぁ……。
なぁんて、思わず第三者ならではの無責任な考えってものが頭を占める。
多分、ヒカリちゃんも、八神と同じ力を持っていて、ヤマトの気持ちを知っていると分かるから……。
「鈍いあいつが、どうするかってとこだな」
八神を観察していると、どう見てもヤマトの事を嫌っているようには見えない。
だからと言って、ヤマトと同じような気持ちを持っているのかどうかと言えば、それは見ている分には全く分からないのだ。
好感を持っている事は、分かる。
八神は、ヤマトの事を『ヤマト』と呼んでいるから……。
それに、ヤマトに対してだけは、普通に接している。
俺に対しては、敬語なのに……。
その事から考えると、やっぱりヤマトは特別な存在だと言うのは、よく分かる。
「智成!」
思わず考え込んでしまった為、立ち止まっていた俺は、ヤマトに名前を呼ばれて我に返った。
そして、顔を上げた瞬間、少し離れた場所で自分のことを待っている3人の姿を見付けて苦笑を零す。
「悪い…」
慌てて、3人の所まで走って行く。
「何やってんだ、体力には、自信があるんじゃなかったのか?」
少しだけ呆れたようにヤマトが問い掛けてくるのに、もう一度苦笑。
「疲れた訳じゃねぇけどな……」
まさか、お前達の事を考えていたとも言えずに、俺は笑う事で誤魔化した。
「それはそうと、着いたな」
そして、先に見えた目的地を見詰めて、ポツリと呟く。
「ああ、久し振りだな」
俺の言葉に、ヤマトも前を見て、同じように呟いた。
『久し振り』確かにこの場所に来るのは、何年か振りだ。
それだけ、この場所に来ていないと言うのは、やっぱり、忙しくなった所為だろうか?
秘密の場所と言っても、この場所は、高台になっているだけの何も無い小さな公園。
いや、公園と言えるような場所ではなく、広場といった方がいいだろうか?
勿論、この町に住んでいる人なら、誰でも知っている場所である。
懐かしい場所に話をしていた俺とヤマトは、複雑な表情を浮かべている八神とヒカリちゃんに気が付く事は無かった。

やってしまいました、智成くん視点。
それにしても、話が進んでません。ごめんなさい!!
やっぱり、今月中は無理でした。すみません(><)
これから、どうなるのか謎ですね、この話……。
行き当たりばったりだから、意味不明です……xx
とりあえず、もう一度太一さんには、泣いていただこうと考えてます。
後、3話ぐらいで終わるかなぁ??
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