人の心は、難しい。
何時だって、俺の事を呼んでいた。
なのに今は、あいつの心がもう聞こえない……。
君が笑顔を見せる時 02
真剣な表情。
何かを考えているその表情に、言葉をなくす。
こんな時に掛ける言葉なんて、俺には思いつかない。
それは、今まで生きてきた自分の過ちが原因だ。
傷付くのが嫌で、逃げていた俺の所為。
両親にも、そして今まで出会った人全てから……。
「八神」
ヤマトに声を掛けられずに見詰めていた俺は、フイに名前を呼ばれてそちらに視線を向けた。
そこには、橘さんの少しだけ呆れたような笑みがある。
「気にする事なんて無いぜ。こいつのは、ただの……」
「智成!」
ヤマトを指すように言われたそれは、指差した相手の声によって遮られてしまう。
少しだけ怒ったようなヤマトの視線が、橘さんを睨み付けているのに、俺は意味が分からずに首を傾げる。
何を、言おうとしてくれてたんだろう?
「……あの……」
今だ、ヤマトは橘さんを睨み付けている。
そんなヤマトの睨みなんて気にした様子も無く、橘さんは笑ってるし……。
こんな場合、第三者はどうするべきなんだろうか??
「いいじゃん、本当の事なんだろう?」
「本当の事でも、お前が言うな!」
楽しそうな笑顔を見せている橘さんと違って、ヤマトは少しだけ顔を赤くして怒鳴っている。
ただのじゃれ合いに見えるけど、ヤマトを見ているとそう言う訳でもなさそうだし……。
でも、橘さんは、本当に楽しそうに見えるから、喧嘩って訳ではないみたいで……。
「……訳分かんねぇ……」
必死で考えている中、結局口から出た言葉は、そんな言葉である。
人の心が読める筈なのに、目の前に居る二人の考えている事が、全く分からない。
それなのに、嬉しいと感じている自分が居る事に、俺はますます理解できなくなる。
分からない二人を見るのが楽しいなんて、本当に変だ。
今までは、分からないと不安だったはずなのに、今は違うなんて……。
「太一?」
「八神??」
自分で考えた事が可笑しくって、笑えてしまう。
そんな俺を、ヤマトと橘さんが不思議そうな顔で見てる。
…俺、変な顔してたのか??
それに、何かクラスの人たちの視線まで感じるような……。
「確かに、見せたく無い訳だ……」
そして、小さくため息をつきながら言われた橘さんの言葉に、ますます意味が分からなくって、助けを求めるようにヤマトに視線を向ければ、複雑な表情をしているのが目に入って……。
「ヤマト?」
「……自覚が無いから、困るんだ……」
名前を呼んだ俺に、ヤマトが小さくため息をついて呟いたそれ。
…自覚?困る??一体、何の事なんだ???
「……ヤマト??」
「確かに、自覚ゼロなのは、問題ありだな」
ヤマトの言っている意味が分からずに首を傾げた俺に耳に、橘さんの少しだけ同情するような声が聞こえてきた。
自覚って、何の話なんだろう??
「太一、考えてないで、席着かないと、そろそろ先生が来る頃だぞ」
頭の中で?マークが回っている中、ヤマトがポンッと頭を叩いて、苦笑を零す。
確かに、もう直ぐ本鈴がなる時間だけど、やっぱり、俺に何の自覚が足りないのかというのが、すごく気になる!!
ヤマトの言われた通り、大人しく席についてから、俺は前の席に座っているその相手を見る。
俺が見詰めている事に気が付いたヤマトは、笑みを見せると、そのまま視線を前に向けた。
それもそうだろう、先生が来てしまったのだから、それも仕方ない。
俺に、自覚が足りないって、一体どう言うことなんだろうか???
こんなに長く他人と話した事なんて、もうどれくらい昔の事になるんだろうか?
自分が普通とは違うと知った時から、出来るだけ人と関わる事を避けて来たから……。
それが、間違いだったと教えてくれたのは、俺の造った世界に入り込んできた人物。
誰も入って来れるはずないのに、何の迷いも無くその世界に入ってきた奴が、石田ヤマト。
俺と言う、普通じゃない人間を好きになってくれた、変わった奴。
だけど、俺の中にも、それと同じモノが存在するのかもしれない。
あの世界に現れたヤマトに、ずっと会いたいと思って居たのは、正直な気持ちなのだから……。
「太一!」
ぼんやりと考え事をしていた俺は、突然大声で名前を呼ばれて驚いてしまった。
何時の間にか授業が終わっていたらしくって、ヤマトが俺の事を呼んでいたらしい。
ヤマトが何度も呼んでいるのにも気が付かないほど、考え事に没頭していたのだと思うと、思わずため息が出てしまう。
自分の考えに入ると、周りが見えなくなるのは、子供の頃から変わらないよなぁ……。
「気分でも悪いのか?」
心配そうに俺の様子を伺っているヤマトに、俺は慌てて首を振ることで返す。
「……ちょっと、考え事してた……」
心配している相手に、素直に理由を話せば、少しだけほっとしたような表情。
それに、俺も安心して、小さく息を吐き出す。
「もしかして、朝の事を考えてたのか?」
ほっとしたその顔が、理由を思い付いたように問い掛けてくる。
確かに、それが考えることの原因になったのは間違いじゃないけど、それだけを考えていた訳じゃないから、俺は思わず返事に困った。
「ヤマト、何、八神を苛めてるんだ?」
返答に困っていた俺の耳に、助け舟のように橘さんがヤマトの事をからかうように声を掛けてくる。
「誰が、苛めてるんだ!」
「お前!」
ヤマトが声を上げるのに、橘さんがさらりと言葉を返す。突然会話が変わった事に、俺はほっと胸を撫で下ろした。
どう言えば相手に心配を掛けずに返せるのかが分からなかったから、思わず橘さんに感謝してしまう。
きっと、俺が困ってた顔していたから、助けてくれたんだろうなぁ……。
俺のような力を持っている訳じゃないのに、橘さんは俺の事を分かってくれる。
なんて言うのか、すごく安心できるって言うのか、兎に角、ヤマトとは違った意味で、俺の事を分かってくれる不思議な人。
「智成!!」
「だから、冗談だって……あっ!八神」
「えっ?」
ぼんやりと目の前で繰り広げられている会話を聞いていた俺は、突然呼ばれて意識を取り戻し、橘さんに視線を向ける。
「ヤマトに苛められたら、俺に言えよ。報復してやるからな」
「智成!!」
笑顔を見せながら言われた事に、一瞬驚いて瞳を見開いてしまう。
そして、ヤマトが橘さんの事を睨み付けながら、名前を呼ぶ。
本当、なんだか楽しい漫才でも見ているような二人のやり取り。
楽しいくって、こっちまで可笑しくなる。
俺は、また思わず笑ってしまって、それから、不機嫌そうなヤマトを前にしながら、一緒になってからかう事を思い付いた。
「分かった。ヤマトに苛められたら、橘さんに一番に報告するな」
笑いながら、冗談を言う。
橘さんの言葉に便乗するように……。
「…太一??」
笑いながら言ったその言葉に、ヤマトの驚いたような声。
あれ?俺、また何か変な事、言ったのだろうか??橘さんも、驚いたように俺の事、見てるし……???
「…あっ!冗談だからな、ヤマト!!」
だから、心配になって、慌ててヤマトに手を振った。
「えっ?いや、そうじゃなくって……」
心配になって言った事に、ヤマトが我を取り戻したように苦笑を零す。
「お前が、笑いながらそんな事言うなんて思わなかったから、驚いたんだ」
「確かに、変わったよなぁ、本当……」
変わった??
ヤマトと橘さんの言葉。俺が、変わった…?
「多分、本来の太一が戻ってるんだな」
にっこりと優しい笑顔を見せながら言われた事に、俺は少しだけ考えてみる。
確かに、変わった。それは、自分でも思う。だって、自分の未来が見えたから……。
初めて、先が見えたのだ。今まで何も見えなかった自分の道に、光が差し込んだから…。
それはきっと、ヤマトに出会えたからだ。
今、俺が変われたのだとしたら、ヤマトが俺を好きになってくれたお陰なんだと思う。
「……サンキュー、ヤマト……」

太一の性格が!!
はっ?!すみません(><)『君の笑顔〜』のその後編、第2話目となりました。
終わりそうに無いですね……xx
ただ、ヤマトが独占欲を見せると言うだけに考えていた番外編なんですが……xx
太一さんの笑顔振り撒き話になってますね。<苦笑>
さて、一体何話で終わるんでしょうか?
5話までいかずに終わるといいなぁ……(あくまでも希望です…xx)
ああ、次の話書きたかったのに…(T-T)
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