笑顔を見せてくれた。
  ずっと俺が見たかったあの笑顔を……。
  君に出会えたこの奇跡。それは、俺にとって、大切で大事な事だったんだと思う。

  そして、君が笑う。
  俺の前で、太陽のような眩しい笑顔で……。


 
                                         君が笑顔を見せる時 


「ヤマト」

 昨日の幸せを噛み締めながら歩いていた俺に、声を掛けて来たのは、幼馴染でもあり親友の智成。
 そう言えば、昨日10分間だけ見張りをすると言って、あの後声も掛けずに居なくなっていたよな…。

「……智成、昨日……」
「ああ、声掛けずに帰った。お邪魔虫にはなりたくねぇからな」

 意味ありげな表情を見せて、智成が笑う。
 多分、一応は声を掛けようとはしてくれたのだろう。

 だけど、あの時って……。

「報酬はしっかりと貰うからな、ヤマト」

 楽しそうに笑っている智成を前に、俺は苦笑を零す。
 報酬と言うのは、『見惚れるような笑顔』と言う奴だろうか、やっぱり……。

 でも、本当言うと、太一の笑顔を他の奴に見せるのは勿体無いと思っているのが、正直なところである。
 それは、昨日見せられた笑顔を見て、改めて思った事。
 絶対にあの笑顔を見せられて、惹かれない奴なんて居ないだろう。

 それだけ、太一の笑顔は綺麗で可愛くって……。

「ヤマト、顔笑ってるぞ……」

 昨日の太一の笑顔を思い出していた俺は、呆れたように言われたそれに慌てて真剣な顔を作る。

「……上手くいったからって、デレデレするなよ、色男!」

 その言葉と同時に、思いっきり背中を叩かれて俺は、慌てて走り去っていく智成を睨み付けた。
 しかし、既に構内へと入っていたその姿を見送る形になって、盛大にため息をつく。

 『上手くいった』

 確かに、俺の気持ちは太一に伝えた。
 しかし、良く考えれば、俺は太一の気持ちを聞いていないのだ。
 『会いたかった』とか『好きになってくれて、有難う』と言う言葉は聞いたのだが、肝心の気持ちを聞いていない。

「やっぱり、抜けてるんだろうか……」

 盛大なため息をついてしまうのは、止められない。
 今まで幸せいっぱいだった筈なのに、行き成り現実に戻った俺の気持ちは、複雑である。

「……ヤマト?」

 2度目のため息をついた瞬間、心配そうに名前を呼ばれて、顔を上げた。
 勿論、相手が誰かと言うのは、確認しなくっても一発で言い当てる自信がある。

「…太一…」

 心配そうに自分を見ている相手の姿に、思わず複雑だった気持ちも吹き飛ぶくらい、幸せが復活。

「…おっす……あっ、昨日は、悪かったな……」
「あっ、ああ……き、昨日って…誤るような事なんて、無かっただろう……」

 少しだけ赤い顔をして、俺の事を上目使いに見詰めてくるその姿が可愛すぎる。
 その姿に、抱き締めたくなる衝動を抑えて、俺は太一から少しだけ視線を逸らす。
 その瞬間、他の生徒の視線を感じて、俺は慌てた。
 朝の登校時間中、こんな場所で立ち止まるのは、はっきり言って目立つ。

「た、太一、取り合えず、教室入ろう!」
「えっ?」

 視線を感じる中、慌てて太一の腕を取ると、校舎の中へと移動する。
 その時、後ろで太一が何かを言ったような気がしたが、気のせいだろうか??



「よっ!揃っての登校、おめでとう!!」

 教室に入った瞬間、からかうように言われたその言葉に、俺は今だ、太一の腕を掴んでいる事を思い出して、慌ててその手を離す。

「わ、悪い……」

 ぱっとその手を離して慌てて誤れば、太一がその手を擦りながら、小さく首を振る。
 そんな太一の姿に、自分が強く太一の腕を掴んでいたのだと、再度反省してしまう。

「八神、おはようさん!」

 自己嫌悪している俺を無視するように、智成が太一に声をかける。
 それに、太一が顔を上げた。

「……おはよう、橘、さん……昨日は…」
「おっと、俺は何もしてねぇぜ。全部、ヤマトがした事だからな……」

 しっかりと智成を見詰めて口を開いた太一の言葉を遮って、智成が笑顔を見える。
 こう言う所が、こいつのすごい所だと、俺は正直に思うのだ。

「けど……」
「それでもって言うのなら、俺にもお前の笑顔見せてくれよ。泣き笑いじゃない奴を、さぁ」

 それでも言い募ろうとする太一に、智成がウインク付きで言葉を返す。
 密かに女子に人気があるのは、こいつのこう言う所が理由だろう。
 智成の言葉に一瞬驚いたような表情を見せて、太一が俺の顔を見る。
 それに、俺は苦笑を零して頷いた。

「分かった。努力する……」
「期待、してるぜvv」

 嬉しそうな笑顔を見せる智成を前に、俺はため息をつく。
 そう遠くない内に、あの笑顔を皆に見せる日が来るだろう。

 それは、いい事である。
 俺だけではなく、太一が他の人にも心を許すと言うことだから……。

「ヤマト?」

 自分の心の中で考えた事に、大きく首を振る。
 そんな俺を心配するように、太一が見詰めてくるのに、ぎこちなく笑顔を返した。

「……何でも、無い……」

 自分の考えた事は、間違っている。
 そう言い聞かせるようにして、俺は自分の席に座ってカバンから荷物を出す。

 太一の視線を感じたけれど、今は自分が考えてしまった事で手が一杯で、答えてやれなかった。






  す、すみません!!
  1話で終わると言いながらも、続いています。
  そして、新たな新シリーズになってしまいました。どうしよう……xx
  番外編ではないですね、これは……xx
  可笑しいです、1話で終わるはずだったのですが……xx
  どうやら私は、あのラストに不満があったようですね。<苦笑>
  う〜っ、全く違う話を書きたかったのに、もう暫くお付き合いしていただけると嬉しいです。
  あ〜、自分が嫌になる……xx