幸せな夢を見た。
 皆が笑っていて、自分も同じように笑っている夢。

 もう、決してその姿では出会えないだろう、懐かしい彼等。

 それは、過去の幻。



「タイチ!」

 名前を呼ばれて、視線をそちらへと向ける。
 その瞬間感じたのは、自分を襲った痛み。

「タイチ!!」

 大切なパートナーの悲痛な声が、自分の名前を呼ぶ。
 それに、漸く今の状況を理解した。
 こんなミス、何時もだったら絶対にしないのに……。

「だ、大丈夫だから……アグモン、あいつを解放してやって……」

 簡単に敵の罠に嵌ってしまった事に、自分自身驚きを隠せない。

 嫌、本当は分かっている。
 どうして、敵の罠に嵌ってしまったのかを……。

 だけど、それを自分は認めたくないのだ。

「ベビーフレイム!」

 アグモンの声を聞きながら、必死で悲鳴を上げる体を奮い立たせる。
 まだ頭がクラクラしているのは、敵の精神的攻撃の所為だろうか。

「……アグ、モン、角、だ……」

 それでも必死に糸を探し、アグモンへとそれ伝える。

「分かった!」

 太一の声を聞いて、アグモンがベビーフレイムを放つ。
 その炎に糸が燃えるのを見届けてから、太一の意識は闇の中へと沈んでいった。

「タイチ!!」

 パートナーの声を遠くに聞きながら……。


 夢を見るのは、幸せな時。
 きっと、戻りはしないそんな夢。

 流れていく時間だけは、もう後戻り出来ないのだと言うように、残酷な夢を見せる。

 それでも、夢の中では、幸せだと思えるのだろうか?