全てを知ることが彼を救う事になる。
  そう信じて、前へと進む。

  その道の先には、一体何があるのか?
  それは、今の自分達には分からない。

  だけど、進む事で、何かを知ることが出来るのだとそう信じて……。


 
                                       GATE 38

 暫く歩いた先には、大きな日本家屋。
 その門を潜り中に入った自分達を待っていたのは、先ほど水の上に現れた人物、ゲンナイと名乗った老人。
 その人物が、池の上に作られている木で出来ている橋の上に立っていた。

「待っておったぞ、選ばれし子供達よ」

 『選ばれし子供達』前にも同じように、この老人からそう呼ばれた事がある、一瞬そんなデジャヴを感じる。
 だけど、みんなそんな錯覚を感じてしまう。

「早くあいつの事を教えてくれ!」

 だが、そんなデジャヴを無視して、一番に口を開いたのは先頭に居たヤマトだった。

「そう慌てるでない。あやつの事なら、今は心配ないじゃろう」
「どうして、そう言い切れるんだ!」

 ため息をつきながら言われたゲンナイのその言葉に、続いてヤマトが声を荒げる。
 先ほどから、まるで全てを知っているかのように言われる言葉の数々。
 それが、何も知らない自分達にとっては苛立たしく感じられる。

「……話は、屋敷に入ってからじゃ……」
「そんな暢気なこと言ってる場合じゃないだろう!」

 だが、ヤマトのそれにも、ゲンナイは何も答えずに屋敷に向けて歩き出す。
 そんなゲンナイに、ヤマトがさらに声を荒げた。

「焦るでないと言うておるじゃろう……お前達には、ちゃんと話をしなければいけないのじゃよ……あやつを助ける為にも……」

 ヤマトの声に進んでいたその足を止め、顔だけを子供達に向け複雑な表情を見せながら口を開く。

「……助けるってそれは、太一さんの事なのですか?」

 何処か辛そうな表情で言われたその言葉に、今度は光子郎が質問した。
 それに、ゲンナイは小さく息を吐くと何も返事を返さずにそのまま屋敷の中へと入って行く。

「おい!」

 何も言わずに屋敷に入って行ったゲンナイに、ヤマトが呼び掛けるが、返事は戻って来ない。

「……なんなんだよ、あのじいさんは!」

 それに対してイライラしたように言うヤマトを前に、誰もが困ったような表情を見せる。

 何も分からずに、自分達は今ここまで来ているのだ。
 全ては太一と言う少年を中心に、今ここに居るのだから……。

 何も分からない自分達。
 そして、漸く全てを話すと言う相手が現れたのだ、だが、今ここに居ない彼の話を聞いてもいいのだろうか?
 ずっと、言葉を濁していた太一の話を、当人を無視して聞いてしまっても……。

 だけど、話を聞かなければ、何も分からないままなのだ。
 自分達に3年前の記憶が無い理由。そして、何よりも、太一と言う少年の事を何も覚えていない理由が……。

「とりあえず、こうしていても何も始まらないからね、あのおじいさんの言うように、屋敷の中に入った方がいいんじゃないのかい?」

 迷いはある。
 だが、知りたいと言う気持ちは常に心にあるのだ。
 だからこそ、全てを知る為に、一番に口を開いたのは最年長の丈だった。

 それに、子供達は顔を見合わせて大きく頷くと屋敷の中へと入っていた老人の後を追い掛けるように一歩を踏み出す。
 そんな子供達の姿を一歩離れた場所で見詰めていたデジモン達は、子供達の姿が屋敷の中に入って行ってもその場を動く事が出来なかった。

「………ゲンナイさんは、本当に全部話すのかなぁ……」

 ポツリと呟いたその言葉は、子供達の耳に届く事は無い。

「…わてらは、ただ見守る事しか出来ないんですやろうか……」
「お前達、一体何を言っているのだ?」

 呟かれたその言葉に、レオモンが分からないと言うように問い掛ける。

 それに、選ばれし子供達のパートナーデジモン達はただ複雑な表情を見せた。
 そう、彼等もまた全てを知る者だから……。

「レオモン、本当は全てあの3年前から始まっていたんだよ……」

 辛そうな表情を見せながら、ガブモンが重い口を開く。
 その言葉に、デジモン達は俯いた。

「知りたければ、ゲンナイさんの話を聞きに行った方がいい……私達は、ここに居るから……」

 そして、ポツリと呟かれたテイルモンの言葉に、全員が屋敷へと視線を向ける。





「あれ?パルモン?」

 屋敷の中に入って直ぐに、自分達のパートナーであるデジモンが付いて来ていない事に気が付いたのはミミだった。
 自分の隣に、先ほどまで居た筈のパートナーの名前を呼ぶがその姿は見当たらない。
 そんなミミに気付いた他の子供達も、同じように振り返る。

「デジモン達なら、心配はいらんぞ」

 子供達が心配そうにパートナーの名前を呼ぼうとした瞬間、新たな声が聞えてくる。

「じいさん!!」
「ゲンナイじゃ……して、選ばれし子供達よ……お主達は、何故ここに来たのじゃ?」

 その声に、ヤマトが睨み付けるような視線を向ければ、ため息をついて名前を正し、さらに質問を投げ掛けてきた。
 その質問に、一瞬誰もが言葉に詰まる。

 今自分達がここに居る理由は、全ての事が知りたかったからだ。
 そして何よりも、太一と言う少年を一人にしたくは無かったから……。

「……それを、あんたに言う必要があるのかよ!」

 沈黙が続いた中、その質問に一番に口を開いたのは、ヤマトだった。
 睨み付けるような視線をゲンナイに向けながら、言われたその言葉に言われた方は大して気にした様子も見せないまま言葉を返す。

「確かに、必要はないかもしれんのう。じゃがのう、お主達の気持ちは、それで十分分かるじゃろう……もっとも、こうなる事は、分かっておったのじゃ……3年も前から……」

 何処か寂しそうな表情を見せながら、遠くを見詰めるように言われたその言葉に、子供達は驚いたような表情を見せる。
 3年前、それは自分達の中にある空白の時間。

「どう言う意味なのですか?」
「それを、お主達に話すのがわしの役目なのじゃろうなぁ……」

 ポツリと呟かれたその言葉に、誰もが息を飲む。

 それは、忘れられている記憶。
 それが、全ての始まりと言ってもいいだろう。

 そう今、ここに自分達が居る全ての理由が、その無くなっている記憶から始まっているのだ。

「長い話になるじゃろう、こちらに来なさい」

 促されるように言われたその言葉に、誰ともなしに足が動く。

 知りたいとそう思う自分の心が、確かにあるから……。
 何故、自分達には、あの太一と言う少年の記憶が無いのか。
 そして、このデジタルワールドを冒険していたと言う全ての記憶が無い理由。
 それが分かれば、もうあの少年を悲しませる事は無いのだろうか?

 悲しいまでに優しいあの少年が、もう泣く事はないのだろうか…………。

 だけど、誰も知らない。
 それが、彼を傷付ける事になると言う事を……。

 そして、その少年が消えてしまった事を知るのは、もう少し先の事だった。


                                                 



   と言う訳で、お約束しておりました『GATE』UPです!
   いや、本気で暗い。
   しかも、どんどん話が可笑しな方向に……。
   あれ?なんで、こんなに変な方向に行ってる上に、急展開してるんだろう??
   うん、でもどんどんクライマックスに近付いてきてるので、もう直ぐ終われそうな予感です。
   今年こそちゃんと終わらせるぞ!!
   もう暫くお付き合いくださいね。