自分と言う存在が、誰かを傷付けるのなら、自分など存在する意味などない。

  なら自分は何故、ここに居る?

  だって、誰かが泣いていたから、だから、帰らなきゃいけないのだと、そう思った。

  泣いていたのは、誰?
  自分を、呼んだのは??

  どうして、自分は、ここに居る……。


 
                                         GATE 36


「アンドロモン!」

 目を覚ました瞬間、アグモンはその相手を確認して驚いて声を上げる。

「気が付いたようだな」

 心配そうに言われた言葉に、アグモンは今の状況を思い出して、周りを見回した。
 大切な何者にも替えがたい、その人の姿が何処にも見当たらない。

「ねぇ、タイチは?」

 自分なんかよりも、ずっと大切な存在。
 だから、その人が居ない事がこんなにも自分を不安にさせる。

「……探したのだが、何処にも居なかった……」

 訪ねたその言葉に、アンドロモンが困ったように視線を逸らし言葉を返す。
 その言葉を聞いた瞬間、アグモンはその場から外へと飛び出した。

「まだ、完全に毒が抜けた……」
「ボクはもう大丈夫!だから、タイチを探さなきゃ……だって、タイチはボクのたった一人の大事な人だから!!」

 フライモンの毒を受けた自分の身を案じるように言われたその言葉を遮って、アグモンは泣き叫ぶように言葉を返した。

 きっと自分の事を責めたであろう大切なパートナーの事を考えると、傷を負った事が悔まれる。
 自分は、彼の為に傷付いてはいけなかったのだ。
 本当は、知っていたのだ。
 彼が、自分の元に戻ってきてくれた本当の理由を……。

 それを証拠付けるかのように、今その姿は自分の傍に居ない。

「…タイチの所為なんかじゃないんだよ。ボクは、タイチの為ならどんな事だってする。だから、お願いだから、戻って来てよ……」

 聞えないとは分かっていても、言わずには居られないから、アグモンは有らん限りの声で空へと向けて叫ぶ。
 まるで、その先に大切な相手が居るとそう信じているかのように……。

「タイチ……」

 そして、アグモンはその場で泣き崩れた。

「…アグモン……」

 そんなアグモンを前に、アンドロモンは困ったようにその名前を呼ぶ事しか出来ない。

 今、この場に居ない少年が、何故居なくなったのかをきっとこのパートナーデジモンは、全て知っているのだろう。
 だからこそ、自分が傷付き倒れた事を悔んでいるのだ。
 掛ける言葉が見つけられずに、ただ見守る事しか出来ない自分の前で、オレンジ色の恐竜はゆっくりと立ち上がって、少し乱暴に涙を拭う。

「……ボクは、タイチを探しに行く!アンドロモンは、ゲンナイさんにこの事を伝えて!他の皆もそこに居るから……」
「しかし…」
「だってボクのパートナーはタイチだけだもん。だから、ボクにはタイチの居場所が分かるんだ……例え、どんな場所に居ても、絶対に見つけてみせる」

 そして、しっかりとした瞳でその意思を伝えた。
 伝えられたその言葉に、アンドロモンが心配そうに言葉を伝えようと口を開きかけたそれを遮り、アグモンはキッパリとした口調で返す。
 その意志の強い瞳は、パートナーであるあの少年のそれに良く似ていた。
 彼の瞳も、このデジモンと同じ強い色をしていたのだ。
 だからこそ、自分はその瞳を信じ事が出来る。

 全てのモノを魅了してやまない、あの瞳を……。

「…了解した。ワタシは、ゲンナイに事の全てを話そう」
「うん、有難う。アンドロモン」

 そして頷いた自分に、新緑の瞳が真っ直ぐに向けられ、そしてフワリと柔らかな表情を作る。
 何の迷いもなく、ただ一つの事だけを求めるその瞳を前に、アンドロモンは複雑な気持ちを隠すように息を吐き出した。

 何時でも強くあろうとした少年と同じように、人を引き付けるようなその笑み。
 守りたいと、そう思う事が出来たのは、この笑みを見られたから……。
 それなのに何故、彼等だけがこんなにも傷付けられるのだろうか?

 それが、神と言う存在が決めた運命だと言うのなら、それは何という残酷なモノなのだろう。

「大丈夫だよ。だって、タイチはボクの所に戻って来てくれたんだもん。だから、今度はボクがタイチを迎えに行くの。だって、ボクにはタイチが全てだから!」

 だが、自分の心配など彼等には必要ないのかもしれない。
 彼等はそれを受け止めて、前に進んでいく。
 どんなに傷付こうとも、全てを受け止めて……。

 だからこそ、願おう。

 彼等に、本当の幸せと言うものが必ず訪れるのだと言う事を……。










                                                 

   短い……。
   どーも、大嘘吐きの管理人です。
   この話は本当は『裏・GATE』予定でした。
   しかし、どう見ても、表と話が連携していている!と言う事で、表に持ってきました。
   コロコロ変わって本当にすみません。(汗)

   そして、めちゃめちゃ短い……。
   いや、ここからアグモンは一人(一匹??)行動になります。
   勿論、太一さんを探す為にですね。
   書いてて思った事は、アグモンが健気過ぎて、本当に申し訳ない。
   アンドロモンの願いは、作者の願いでもあります。
   早く、平穏無事に話が終わって欲しいなぁと……。
   来年こそは、終わらせる事出来るといいですね。