ここに居る意味を誰か、教えてください。
  自分で望んだように居られないなら、何故ここに居るんでしょう。

  誰かを傷付けると為だと言うのなら、この世に存在しなくてもいい。
  自分が居ない事で、誰も傷付かずにすむのなら、それが、自分が一番望む事だから……。


 
                                         GATE 35


 アンドロモンの後ろを何も言わずに、ただ歩いて行く。

 自分の大切なパートナーは、今だにその意識を取り戻してはいない。
 毒に犯された体を少しでも早く癒して上げたいのに、それさえも今の自分には出来ない事が何よりも悔しくって太一は握っていた手に力を込めた。

「もう少し先に休める場所があるはずだ」

 今まで何も言わずに歩いていた相手からの突然の声に、ビクリと肩が震えるのを止められない。
 だが、前を向いているアンドロモンは、そんな太一に気付く事はなかった。

 何も、返さずに、ただ頷いて返す。
 今は、何も答えたくなどなかったから……。

 返事をしない自分に対しても、アンドロモンは何も言わないでただ歩いて行く。
 自分は、その後をただ黙って付いて行くだけ。
 そして、小さな洞窟の場所に付いてその足が止まった。

「私は薬草を探してくる。お前はアグモンに付いていた方がいいだろう」

 その洞窟にアグモンをそっと寝かして、それからただ下を向いている太一へと声を掛けてくる。
 それに、太一は小さく頷いて返した。
 それを確認してから、アンドロモンが歩いて行く。
 それを見送りながら、太一は小さく相手を呼び止めた。

「…アンドロモン……」
「何だ?」

 小さな声だが確かに呼ばれた事に反応して、アンドロモンが太一を振り返る。

「……有難う……」

 そして、小さく礼の言葉を呟いてから、洞窟の中へと入って行く。
 それを見送ってから、アンドロモンは小さく微笑んだ。

 取り乱していた姿を見ていた時、まるでそのまま消えてしまうのではないかと本気で心配してしまった。
 小さな体は、間違いなく震えていた事を知っている。
 彼が、仲間を大切に思っている事を知っているからこそ、心配なのだ。
 誰よりも、大切パートナーが傷付いて、それに対してもっと心が疵付いているのだと知れる。

「……自分を追い詰めなければいいのだが……」

 小さく礼を言った少年の心を心配しながら、それでも今は優先しなければいけない事の為に歩き出す。

 彼の心を救う為に……。




「アグモン……ごめんな……」

 苦しそうに息をしているアグモンを前に、太一はそっと手を伸ばしてその体を抱き締めた。
 毒の為だろう、その体は何時もとは違いかなりの熱を持っている。
 本当なら、自分が行って薬草を見つけてきたい。
 そして、アグモンを助けてやりたいのに、今の自分に出来る事は、ただアグモンの傍に居る事だけ。

 自分と言う存在は、なんと無力なのだろうか……。
 助けられながら、存在する自分。

 そして、そんな自分がいるからこそ、誰かが傷付く事になる。

「俺と言う存在が消えても、何も変わらない……違うな、俺が居なくなれば、誰も傷付かなくてすむのかも……」

 この世界は想いの世界。
 そして、今ならこの世界に皆が集まっている。

 なら、自分が望めばその願いは叶えられるだろうか?

「……誰も、傷付く事がないのなら……」

 そっと瞳を閉じ、手を組み祈るように囁く。

 全ての元凶であるのが、己であると言うのなら、その元凶を取り除けば、またこの世界は正常な流れを持つのだろうか?
 それが、自分にとって逃げ道であると分かっていても、願わずに居られない。

「どうか、歪んでしまったこの世界の元凶である俺を…………」
「…タイ…チ…」

 願うようにそっと囁かれた言葉が、苦しそうな息の中呼ばれた自分の名前で、遮られる。

 意識のない状態でも自分を想ってくれている大切なパートナー。
 そんなアグモンを前に、太一は複雑な表情を見せた。

「……ごめんな、アグモン。俺が弱いばかりに………だからこそ、俺は願う。全ての元凶である俺を、消してくれ」

 目の前で、苦しそうな表情を見せているアグモンをそっと抱き締める。
 少しでも、その苦しみが和らいでくれる事を願いながら……。
 自分が居る事で誰かが傷付く事は、何よりも絶えられない事。

 だけど、今その状況に陥って分かった事がある。
 自分が、何故ここに居るのかと言う事実を……。

「望んだ事が叶わないのなら、俺はここに居るべきじゃないんだ……」

 辿り着いたその言葉。
 誰も傷付ける事が無いように、戻ってきた自分。
 その自分が、皆を傷付けていると言うその事実に、心が痛む。

 望んだ願いは叶わない。
 なら、やはり自分は、ここに居るべき存在ではないと言う事。

「……叶わない願いなら、俺の存在なんて………」

 呟かれたその言葉を聞いた者は、誰も居ない。
 それが、太一が呟いた最後の言葉だった。



                                                 



   す、すみません。またしても急遽言葉を追加。
   次に続かなくなった為、慌てて手直し致しました。
   手直しと言っても、何行か追加しただけなんですけど、行き当たりばったりなのでこんな事になるんです。<苦笑>
  
   そして、ここで発表いたします。
   次の回から、太一さん中心的話し語りから、その内容が一転されます。
   この時点で、ちょっと太一さん中心内容に無理が生じて参りました。
   なので、切り良く35話の中に収めてみました。
   と言うよりも、太一さん視点だと続かなくなったと言うのが正直なところであります。
   なので、この中には『裏・GATE』UP予定!
   だったのですが、裏が、表とバッチリと連携する為、裏ではなくなってしまいました。
   なので、『裏・GATE』UPは、なくなります。嘘言ってすみません。(汗)