大切な者達を守る事が、自分に出来るたった一つの事。
もしも、それが誰かを傷付ける事だとしても、自分に出来る事はそれだけ。
その為なら、この命が消える事になっても、何も後悔などしない。
望む事は、彼等が無事である事。
それだけが、全てなのだから……。
GATE 34
皆の気配が離れた事を確認し、戦闘態勢に入る。
だが、自分達が有利だと思っていたのにも関わらず、かなりの苦戦を強いられている今の状態。
「タイチ、おかしいよ……」
それに、アグモンが荒い息をつきながら太一へと声を掛けて来た。
何時もなら、絶対に手を組む事の無い2体のデジモンが、その意志とは関係なく協力しあって攻撃をしてくる。
「……分かってる……アグモン、進化出来るか?」
有り得ない2体の攻撃に対して、明らかに自分達が押されている。
それに、太一はこれ以上の体力の消耗を避ける為にアグモンへと問い掛けた。
「大丈夫、行けるよ」
太一の質問に、アグモンはニッコリと笑顔を見せて力強く頷いて返す。
そんなパートナーに、太一も笑顔を返して、デジヴァイスを手に持った。
「アグモン、進化だ!」
太一の手に収まったデジヴァイスから光が溢れて、アグモンをグレイモンへと進化させる。
グレイモンに、進化した事でパワーは確実に上がり同時に襲ってくるクワガーモンとフライモンをその大きな頭で吹き飛ばした。
「グレイモン、先にクワガーモンを!」
「分かった、メガフレイム!!」
そのまま飛ばされたクワガーモンへと攻撃。それは、相手を消滅させる。
消えていくその姿を複雑な表情で見詰めて、太一は残ったもう一体のデジモンへと視線を向けた。
「……うっ」
その瞬間、吹き飛ばされて体制を立て直したフライモンが羽根を振動させる。
それによって発生したノイズに、太一は耳を押さえその場に膝を付いた。
「タ、タイチ……」
その音は、グレイモンをも苦しめる事になる。
音に、顔を歪めながらも、グレイモンは心配そうに自分のパートナーの名前を呼ぶ。
「…グレイモン、俺の、事よりも、先にフライモンを!」
「分かった……メガ、フレイム!」
苦しみに顔を歪めたまま、言われた言葉に頷いて相手へと攻撃を仕掛けた。
だがその攻撃は、簡単に相手に避けられてしまう。
だが、攻撃した事によって自分達を苦しめていたノイズが止まり、太一はホッと息をついた。
「グレイモン、大丈夫か?」
そして、慌ててグレイモンの傍へと走り寄り声を掛ける。
「うん、ボクは大丈夫だよ、それよりも、タイチは?」
「俺も、大丈夫。フライモンは、姿を隠したみたいだな……」
自分の質問に、返されたそれに、太一は言葉を返して、辺りを見回した。
直ぐ傍に、フライモンの姿を見付ける事が出来ずに、小さくため息をつく。
「ごめん、ボクがちゃんと攻撃できなかったから……」
「グレイモンの所為じゃない。明らかに、何時もの動きと違っていたからな……操っている奴が、攻撃方法までも自由に出来るようになったんだと考えるしかない……だとすると、今までのように、弱い相手だからと言って、簡単に倒せなくなるな……ヤマト達がこのデジタルワールドに来た事に、焦りを感じているのかもしれない……」
手を組む事のない2体が、協力し合って自分達に攻撃を仕掛けて来た。
それは、考えずに突進してくるあの手のデジモンにとっては、決してあり得ない事。
だからこそ、操っている力が、確実に上がったと言う事を表している。
今まで、操られていたとしても、デジモン達の性格は変わったりしなかったのだから……。
「ヤマト達、無事にゲンナイさんの所に辿り着けたかなぁ……」
「大丈夫だ。皆が一緒だからな。それに、レオモンも一緒に行ってくれた。心配なら、一度連絡を……」
「タイチ!!」
デジヴァイスを手に持ったまま、言い掛けた言葉が遮られる。
先ほど姿を隠し、完全にその気配までをも消していたフライモンが、突然その姿を現し自分に向けて攻撃が放たれた。
グレイモンの声が遠くに聞こえる。
まるで、スローモーションでも見ているみたいに、自分に流れてくるその攻撃を、何処か他人事のように見詰めて、太一はそっと目を閉じた。
「タイチ!!」
覚悟を決めたように瞳を閉じた太一を庇うように、グレイモンがその巨体をぐっと前へと出す。
「ぐっ」
そして、その瞬間聞こえて来た声に、太一は驚いてその瞳を開いた。
目に飛び込んできたのは、自分の受けるはずだったその攻撃をその体で受け止めたグレイモンの姿。
「グレイモン!!」
「ボクは、大丈夫……だから、タイチ……」
「グレイモン……アグモン!!」
フッと自分に笑みを浮かべるその姿に、太一は大声でその名前を呼ぶ。
グレイモンの体が光に包まれて、その体がグレイモンからアグモンへと退化する。
「アグモン!しっかりしろ!!」
戦闘中なのに、気を抜いてしまった自分自身が許せない。
例え気配を感じる事が出来なかったしても、安心できる場面ではなかったのに……。
「俺の、所為で……ごめん、アグモン…」
気を失ってしまったアグモンを抱き締めて、まだ自分達の直ぐ傍に居るフライモンを睨み付ける。
「……絶対に、許せない。俺は、アグモンを……」
自分が、招いてしまった事が許せない。
気を抜くという事が、どれだけ危険な事かを誰よりも知っていると言うのに、自分はそれを失念していたのだ。
だからこそ、自分自身が許せない。
「俺は、皆を護る為だけに、ここに居るんだ。俺が誰かを傷付ける事になるなんて、絶対に駄目なんだ……」
沸き上がって来る思いに、太一はただ相手を見詰め続けた。
「デッドリースティング!」
その間にも、フライモンの技が向けられる。
「ガトリングミサイル!」
技を避ける事無く、見詰め続けている自分の横を聞きなれた声と、見なれたミサイルが横切っていく。
その攻撃は、自分に向けられていた敵の攻撃と一緒に相手を消滅させる。
「……アンドロモン……」
聞こえて来た声とその技に、太一は驚いたように自分を助けてくれた相手を振り返った。
「逃げもせずに、何をしているんだ。ワタシが来なければ、危ないところだったぞ」
自分の視線を受けて、複雑な表情を見せたアンドロモンが小さくため息をつきながら、ゆっくりと近付いてくる。
「……ああ、有難う、アンドロモン……」
「礼など必要無い。アグモンは、フライモンの毒にやられたのか?」
言われた言葉に、ホッと息をついて礼を言えば、心配そうにアンドロモンがアグモンを見る。
「……俺を庇って……薬草を探さなきゃ!」
「薬草なら、近くに幾らでもある。今は、落ち着く事が先決だ」
心配そうにアグモンを見るアンドロモンに、太一が慌てて立ち上がり、森の中に走り出そうとするのを、アンドロモンが引き止めた。
「俺は、落ち着いて、る」
引き止められながら言われた言葉に、太一が俯きながら言葉を返す。
「何時ものお前らしくないぞ。まずは、安全な場所に移動する事が先決だ」
太一の言葉に、再度ため息をついて、アンドロモンは気を失っているアグモンを抱き上げて歩き出した。
言われた言葉に、太一は何とも言えない表情を見せて、それでも、アンドロモンの後ろを黙ってついて行く。
自分がアグモンを傷付けてしまった事で、冷静な判断が取れなかった事に、太一はギュッと下唇を噛締めた。
誰でもなく、自分自身が、アグモンを傷付けたと言う事実は、変わらない。
「……やっぱり俺は、誰かを傷付ける存在なんだな………」
ポツリと呟かれた言葉は、風に流れて掻き消されてしまい、前を行くアンドロモンの耳には、聞こえる事は無かった。

ご無沙汰状態の『GATE』です。
話が全く進んでおりません。
そして、アンドロモン再び!!美味しい役所で出してみました。
操られて、太一さんを傷付けた名誉挽回ですよ!
これにより、漸く本筋に入ってまいります。(って、まだ本筋入ってなかったのかよ!)
ええ、ちょっとづつ、皆さんの記憶が無い理由。そして、太一さんがデジタルワールドに残された理由。
勿論、敵さんが何故選ばれし子供達を狙うのかも!
でも、良くある話になると思います。
そんなんでも宜しければ、お付き合いお願いいたしますね。
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