願いは、叶うのだろうか?
願えば、叶うのだろうか?
だったら、願い続けよう。
叶える為に、願おう。
今、目の前に居てくれる、大切な人達が、誰も傷付きませんように……。
心から、そう願おう。
その願いを叶えるためだけに……。。
GATE 32
泣いたのは、一体どれくらい振りだろう。
ずっと泣くまいと、気を張っていたはずなのに、こんなに簡単に泣いてしまった事を、少しだけ恥ずかしく思いながら、そっと抱き締めてくれているヤマトの腕から、離れた。
「………本当に、いいのか?」
泣いた所を見られて照れ臭いのもあり、俯いたまま、そっと最後の確認と言うように問い掛ける。
「俺達は、自分の意志で行く事を決めた。だから、お前を一人で行かせたりしない」
自分の質問に、ハッキリと返される言葉。
それに、太一は、そっと顔を上げて仲間の顔を見上げた。
自分の目に入るのは、優しい笑顔と何の迷いもない真っ直ぐな瞳。
「言ったはずですよ。これは、僕達の我侭なんです」
「光子郎……」
向けられるのは、真剣な気持ち。
迷いなどなく、ただ前だけを見詰めている、強い意思。
「……タイチ、ヤマト達は、オレ達が護る。だから、その意志を……」
そして、ずっと大切なパートナーの傍に居た彼等からの真剣な瞳と言葉に、太一はそっと小さく息を吐くと困ったように、笑みを浮かべる。
「………本当は、嬉しいって思ってる」
「お兄ちゃん?」
そして、ポツリと呟かれた言葉に、ヒカリが不思議そうに首を傾げた。
「皆が、一緒に行ってくれるって言ってくれた事……でも、本当は、そんな事思っちゃいけないんだ……俺が、皆を危険な目に合わせているって言うのに……こんなことになったのは、全部俺の所為なのに……」
続けて言われた言葉は、自分を責めるだけのもの。
言われたそれに、誰もが一瞬言葉に詰まる。
自分達は、それを否定できるだけの情報がない。
『違う』と言うのは簡単だ。
だが、何も知らない状況では、下手な言葉は返せない。
「違うよ、タイチ」
誰もが言葉に困っている中、それを否定したのは、彼の大切なパートナー。
「絶対に、タイチの所為なんかじゃない。だから、自分を責めないでよ。もし、もしも、タイチの所為だって言うなら、パートナーであるボクにだって、責任があるんだ!」
「アグ、モン……」
「ボク達の責任だと言うなら、ボク等のしなきゃいけない事を考えようよ」
優しく笑うアグモンに、太一は何も答えず、ただギュットその大切なパートナーを抱き締めた。
「ごめんな、アグモン。俺は、一人じゃなかったのに……」
「うん、タイチは、一人なんかじゃない。ボクだって居るし、ヤマト達やガブモン達だって、居るんだ。だから、そんな悲しい事言わないでよ」
ハッキリと伝えられる言葉は、ずっと彼と一緒に居たからこそ言える確かな言葉。
それが、何も覚えていない自分達にとって、嫉妬にも近い感情を与える。
確かな信頼は、彼等の時間を自分達に知らしめるから……。
「そうだよ、オレ達だって、ずっとタイチと一緒に居たんだ。タイチが悪いんじゃないって事、ちゃんと知っているよ、それは、皆も同じなんだよ」
「…ガブモン、みんな……」
そして、それは自分達のパートナーだと言うデジモン達も同じで、ガブモンの言葉に、全員が力強く頷く。
そんなデジモン達に、太一が、泣き笑うような表情で、聞こえるか聞こえないかの声で『有難う』と呟いた。
目の前で見せられた彼等の絆に、複雑な気持ちを隠せない。
確かな絆は、彼と共に生きて来た者だけが、勝ち得るものだ。
それは、確かに、自分達には感じられないモノ。
「……行こう、何があっても、俺は皆を護るから……それが、ここに戻ってきた理由。そして、願い……皆が、傷付かないで、笑ってくれるんなら、俺は、それだけで、十分だから……」
真っ直ぐに顔を上げて言われた言葉に、誰もが一瞬何も言えなくなる。
「お前……」
その言葉は、自分がどうなっても護ると言うモノ。
自虐的で、己を省みない言葉。
「駄目よ、そんなんじゃ、私達安心して行けないわよ」
何も言えずに、ただ太一を見詰める子供達の中で、一番に口を開いたのは、ミミだった。
「ミミちゃん?」
だが、言われた言葉の意味が理解できずに、太一が不思議そうに首を傾げた。
「だって、きっと私は貴方が傷付いたら泣いちゃうんだもん。今でもこんな風に思うのに、記憶が戻った時、私は絶対に自分が許せないと思うわ」
「そうよ!私も、彼女と同じ!!貴方が、約束してくれないと、安心して行けないわ!」
「……空……」
今にも泣き出しそうな程の勢いで言われたミミの言葉に、直ぐ隣に居た空が大きく頷き、同意しながら声を荒げる。
「そうですね。約束していただきましょう。その方が、僕も安心できます」
「光子郎??」
次々に同意される言葉に、太一は意味が分からないと言うように首を傾げた。
どうして彼等がこんなに、怒っているのかが、本気で分かっていないのだろう。
「そうだね、約束した方が、いいと思うよ」
不安そうに見詰める太一の視線を受けて、最年長の丈が笑顔で同意する。
「うん、僕も賛成!」
「私も、賛成です」
そして、年少組の二人も元気に手を上げた。
それでも、一体に何を約束すればいいのか理解できない太一は、まだ何も言わない金色の髪を持つ自分がもっとも信頼している人物へと視線を向ける。
太一の視線を受けて、ヤマトもやはり頷いて、少しだけ困ったような笑みを浮かべた。
「お前は、自分を分かってないんだ。俺達が、約束して欲しいのは、絶対に自分を犠牲にしない事。俺達を護ると言うなら、お前自身の事も護ってくれ。それが、俺達がして欲しい約束だ」
「……ヤマト……」
「うん、そうだね、ボクも賛成!」
照れたように言われた言葉に、皆の気持ちが分かって、ただ名前を呼ぶ事しか出来ない。
説明された事に、自分のパートナーも嬉しそうに同意の言葉を口にした。
「約束、出来るか?」
真剣に見詰めてくる瞳が、問い掛けてくる。
自分を心配してくれると分かる、確かな言葉。
それに、太一は、困ったようなそれでも嬉しそうな複雑な表情で、小さく頷く。
折角止まった涙が、またゆっくりと頬を伝うのを感じながら……。
泣いて、慰められて、自分は、何時からこんなに弱くなってしまったのだろう。
皆が居てくれる事が、嬉しくて、こんなにも心を強くも弱くもさせる。
「……お前、泣き虫だな」
そう言って、自分を抱き寄せてくれるその腕が温かくって、そっと目を閉じた。
ずっと感じられなかった、誰かの体温。
それは、あの世界では、決して自分の傍に無かったモノ。
「タイチは、泣き虫じゃないよ。ずっと泣けなかったから、今、泣ける場所を見つけられたんだ」
からかう様に言われたヤマトの言葉に、アグモンがムキになって反論の言葉を、口にする。
それに、全員が、ただ柔らかな笑みを見せた。
「向こうへ行ったら、一番に自己紹介しようよ!こっちでは、オレ達の名前聞こえなくっても、向こうでは聞こえるよね!」
「そうですな、まずは、わて等の自己紹介が一番です。タイチはん、ほな行きましょうか!」
おどけた様に言われた言葉に、太一もヤマトから離れて、しっかりと頷く。
知っていたから、彼等が、パートナーに名前を呼ばれない事への悲しみを……。
「……ゲート、オープン」
手にデジヴァイスを持ち、すっと前へ向ける。
開かれるその扉が、自分達を飲み込んでいくのが分かって、思わず目を閉じた。

書けない理由が分かって、こちらに追加。
ここまでで、『GATE』一段落です。次からは、確実に、デジタルワールド編。
お待たせして、すみません。
拍手の殆どが、『GATE』に関してで、書いた本人、かなり驚いております。
こんなショボ小説を気に入って頂けて嬉しいです、本当に有難うございますねvv
そんな訳で、手直しUPですみませんでした。(汗)
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