「はい、城戸です」

 鳴り響いているその音を止めて、受話器へと声を掛ける。

『突然申し訳ありません。泉と申します』

 そして、受話器の向こうから聞こえてきた丁寧な言葉と、その名前に僕は何となく予想できていたから、小さく頷いた。

「ああ、泉、光子郎くんだったね。今、みんな僕の所に来ているんだよ」
『はい、そうだと思ったので、こうしてご連絡させていただきました。それで、皆さんのお気持ちは?』

 真剣な声が、問い掛けてくる。

 主語もない会話。
 だけど、それが何を尋ねたいのかが分かるからこそ、僕はもう一度頷いた。

「勿論、皆の気持ちは、決まっているよ」

 先程まで話していた、内容。誰も、違う答えは出さなかった。
 それを僕が伝えると、向こうから安堵したようなため息が聞こえる。

『では、皆さんにお伝え下さい。あの人は、太一さんは、今晩行動を起こされると思います』

 はっきりとした口調。
 躊躇いも見せないのは、彼の事を理解しているからだろう。
 だけど、僕もその意見には賛成だから、同意するように頷いた。

「今晩……そうだろうね。多分彼の性格を考えると、それは容易に想像出来る。分かった、皆には、僕から伝えておくよ」
『お願い致します。あの人が向かう場所は、僕達のパートナーデジモンが知っていると思うので、そちらでお尋ね下さい』
「ああ、君は、抜け出せそうなのかい?」

 彼と一緒に居る泉くんが、行動を起こせば、あの子にも、分かってしまうだろう。
 そうなっては、折角の行動も無駄になってしまうのだ。

『大丈夫です。では、今晩、その場所でお会いしましょう』
「うん、分かったよ」

 僕が頷いたのを確認してから、通信が途切れた。
 僕は、その音を暫く耳に残して、ゆっくりと受話器を元の場所へと戻す。

 これからの事を考えると、不安を感じない訳じゃない。
 それでも、これは自分が決めた事だからこそ、逃げたりしちゃいけないんだと、そう思う。
 僕達が無くしてしまった記憶。
 それが、僕にとって、取っても大切なモノだと分かって居るから……。

「今晩、か……」

 参考書なんて存在しない、僕の道。
 今、その道が二つに別れている。
 一つは、今まで通り、何も気にせずに、そのままこの何も無い世界で勉強に追われながら生きて行く道。
 もう一つは、自分の無くしてしまったモノを取り戻す為の道。

「……答えなんて、決まっているのにね……」

 もう出されている答えを考えるなんて、どうかしている。

 迷いなんて、無い。
 僕は、無くしてしまったモノを取り戻したいと、思っているのだから……。

「ジョウ、デンワ、誰からだったんだ?」

 受話器を戻したままの体制で、考え込んでいた僕の耳に、声が聞こえて振り返る。
 僕の、パートナーだと言うデジモン。

「…泉くんからだったよ」
「コウシロウ?」

 自分の足元に来たその体を、ゆっくりと抱き上げて、質問に答えれば、不思議そうに首を傾げ手見せる。
 その姿に、僕は笑みを零した。

「そう、今晩、君達の言う世界に、彼が行くって教えてくれたんだよ」
「えっ?タイチが、デジタルワールドにか?!」

 僕の言葉に、驚いたようにまん丸の瞳が、見上げてくる。

「そう、だから、僕達に、その世界へ行くための道を教えて欲しいんだ」

 見詰めてくる瞳に、僕は真剣に言葉を継げた。
 僕の言葉に、腕の中で、考えるような素振りを一瞬だけ見せてから、問い掛けるようにその瞳が見上げてくる。

「……もしかして、ゲートの場所か?」
「ゲート?それが、その世界へ行くための扉?」

 恐る恐ると言った感じで問い掛けてきたその瞳に、僕も質問で返してしまう。

「ああ、オイラ達は、そのゲートを潜って、この世界に来たんだからな」

 僕の問いに、元気良く返された言葉は、泉くんが言ったように、僕達の行く道を示してくれるようだった。





「今晩だな……」

 僕が、泉くんから聞かされた事を話せば、皆の表情が、複雑なものになる。

 そりゃそうだろう。
 決心が出来ていると行っても、直ぐに行く事になるなど、普通なら、考えもしない。

「お兄ちゃんらしい……分かりました。それで、何処に行けばいいんですか?」

 苦笑交じりに、ヒカリちゃんが頷いて、問い掛けてくる。

「それは、僕達のパートナーが知っていると思う。彼等が、この世界に来たその場所が、ゲートと呼ばれるモノがあるらしいからね」

 僕の言葉に、皆がそれぞれ自分のパートナーへと視線を向けた。

「……ゲート…確かに、私達は、その場所を知っている。だけど、タイチが、他の場所を知っていたら……」
「大丈夫、それは無いよ。タイチも、あの場所しか知らないはずだ」

 一番に口を開いたのは、ヒカリちゃんのパートナー。
 考えるように言われた言葉に、石田くんのパートナーが言葉を返す。

「そうね、私も、タイチはあの場所しか知らないと思うわ」

 その石田くんのパートナーに同意するように、武ノ内くんのパートナーも大きく頷く。

「そうだね、その場所なら、ボク、ちゃんと分かるよ。タケル、案内はまかせて!」
「ミミ、私も大丈夫よ」

 ミミくんと、高石くんのパートナー達も、それぞれが元気にパートナーへと胸を張る。

「なら、行動は、今夜。時間は……」
「多分、お兄ちゃんの事だから、0時過ぎぐらいになるんじゃないかと……」
「そっか、なら、11時30分には、その場所に集まった方がいいね、それでいいかな?」

 ボクの質問に、皆が真剣な表情で頷く。
 それを確認して、僕も大きく頷いた。
 


 間違いなく進み始めた道。
 もう後戻りは、出来ないだろう。

 決められたレールだけではなく、初めて、自分が望んだ道。
 それが、どんな危険な道だとしても、後悔なんてしない。

 だって、僕が、僕自信が、決めた道だから……。


                                             



   進んでいるのか、進んでいないのか、謎な『GATE』であります。
   と言う訳で、今回も丈先輩視点。
   丈さん難しく考えすぎるので、書き難いです。
   ますます意味不明になった『裏・GATE』ですが、お許し下さい……。

   さぁ、次は本編!
   と、言いたいところなんですけど、すみません。次も、『裏・GATE』予定であります。
   次は、誰視点か、楽しみにしてていただけると嬉しいですね。