「それじゃ、話をしようか」

 皆を自分の家に招き入れて、僕は自分の椅子に座ると彼等を見た。
 そして、あの少年が、僕にこのデジモンと言う生き物を連れて来た時の事を話す。

 不思議な、けれど無条件で彼を信じてしまいたくなった自分の心をそのまま素直に話しをした。
 自分の話しを静かに聞いていた彼等も、僕が話し終わった後に、同じように、あの少年に出会った時の事を話してくれる。

 僕と同じように、彼に惹かれた時の事を……。

「ヒカリちゃん、君は少し記憶があると言っていたね」

 だから、この中で唯一彼の記憶を持っている少女に、そっと問い掛けた。

「はい、あの……皆さんは、本当に何も覚えていないんですか?」

 僕の質問に、彼女が不安そうな瞳を向けてくる。

 3年前の記憶。

 太刀川ミミと言う少女が言うように、僕にも、抜け落ちている記憶がある。
 それは、多分、僕や彼女だけではなく、残りの皆も同じだろう。
 そして、デジモンと言うパートナーを持つ僕達。
 それだけで、彼の言っている事が真実だと分かる。

 共通点が、有り過ぎるから……。

「すまない、俺達は、何も覚えていないんだ。だけど、3年前に、確かに1年位の空白の記憶がある。何度考えても、そんな記憶が存在するはずなんて無いのに、可笑しな記憶。そして、見続けている夢……」

 何も答えられない僕に代わって、石田ヤマトと名乗った彼が謝罪の言葉を告げた。

「兄さん、夢って?」

 そして、最後に言われた言葉に、彼の弟が不思議そうに問い掛ける。

「……何時も、夢に出てくるんだ。ボロボロになって、それでも俺の事を『信じていた』と笑顔で言ってくれる少年の夢。俺を信じて待っていてくれたそいつの事を、俺は何も思い出せないんだ!」
「兄さん……」

 ギュッと自分の手を額の前で強く握り締めるその姿は、本当に悔しそうで見ている方が辛い。
 そんな彼の姿に、僕は掛ける言葉を失った。

「ヤマトは、タイチの事を夢で見ていたんだね。オレ、嬉しい。ヤマトがタイチの事忘れないで居てくれて……」
「えっ?」

 僕達が何も言えない中、彼のパートナーデジモンが、初めて口を開いた。
 赤にも見えるその瞳が、嬉しそうに少しその瞳を潤ませながら、彼の事を見詰めている。

「どう言う、事だ」

 突然のデジモンの言葉に、怪訝気な瞳で、彼が自分のパートナーに問い掛けた。

「だって、それは、タイチがヤマトに言った言葉だ」
「あいつが、俺の夢に出てきた奴なのか?」

 自分達とは違い、デジモン達には、僕達が失った記憶が確かに存在する。
 それが、僕達をまた一つ彼を信じさせる事へと導いて行く。

「そうだ。確かに、それは、タイチが言った言葉。だが、記憶の無いお前が覚えているなんて……」

 ヒカリちゃんのパートナーデジモンが、難しい表情で信じられないと言うように、彼を見詰めている。

 確かに、僕達には、彼に関する記憶が無い。
 だけど、今こうしてここに集まっている事が、もう全てを認めていると言う事。

「ねぇ、私達、確かに、あの子の事を覚えていないわ。だけど、無条件で彼を受け入れているの。それが、今ここに居る事が何よりの証。そう、私達が、彼を何処かで覚えていると言う、ね」

 武ノ内空くんと言った少女の言葉に、僕も大きく頷く。

「僕も彼女と同じ意見だよ。だって、僕はもう決めているからね」
「ジョウ?」

 僕の腕の中で、パートナーであるデジモンが不思議そうに見上げてくる。

「僕は、彼と一緒にデジタルワールドに行くよ。そこに、無くしてしまった答えがあると分かっているから」
「ジョウ、お前……」

 はっきりと言った僕の言葉に、腕の中の存在が驚いたように僕を見詰めてきた。
 それに、僕は笑顔で返す。

「私も同じよ!絶対について行っちゃうんだから!!」
「ミミ」

 僕に続いて、太刀川くんも、同じように気合を入れている。

「私も同じです。だって、お兄ちゃんは、一人だと、絶対に無茶な事するんだもん。誰かが見張ってないと心配だわ」
「ヒカリ……ああ、私は、何があっても、絶対にヒカリを護るから」
「有難う、お願いね」

 ヒカリちゃんが、自分のパートナーをギュッと抱き締める。

「私も、行くわ」
「ソラ、本当にイイの?だって、何が起こるか分からないのよ」
「だって、無くしてしまった大切なものは、絶対に取り返さなきゃ!」
「ソラ」

 心配そうに見詰めてくるパートナーにウインクを見せながら、武ノ内くんが、はっきりと言う。
 そう、無くしてしまったモノが、大切なモノだから、僕は、決めた。きっと、それは僕だけじゃなく、彼女達も同じ。

「兄さん…」
「俺も、行く。タケル、お前はどうする?」

 考え込んだように僕達を見詰めている石田くんに、弟が心配そうに声を掛ける。
 それに、強い瞳が真っ直ぐに相手の瞳を見返した。

「勿論、ボクも行くよ!」

 聞かれた言葉が嬉しかったのだろう、弟くんが嬉しそうな笑顔で大きく頷く。

「どんなに危険でもか?」
「うん、だって、ボク達が無くしてしまったモノが、そこにあるから」

 嬉しそうに頷いた弟に、真剣な表情で聞き返す兄の言葉に、もう一度はっきりと強い意思が返される。

「……そうだな。無くしたモノを取り戻す為に……」

 ポツリと告げられた言葉に、誰もが何も言わずにただ自分のパートナーを見詰めた。
 その瞬間、鳴り響く電話の呼び出し音。

「ごめん、少し良いかな?」

 その音に、僕は立ち上がって、その原因を止める為に部屋を出た。



                                               



   はい、『裏・GATE』丈先輩編です。
   そして、この『裏・GATE』まだ続きます。
   次は、この電話の相手。この中に居ない唯一の彼であります。
   もう暫く、本編進みませんね。すみません(><)