「そんなに広くはありませんが、どうぞ」

 泉がドアを開いて、全員を中へと促す。
 それに、俺も素直に従って中へと入った。

「やっと戻ってきた!!心配してたんだよ……えっ?えっ?ヤ、ヤマト?!」

 中に入った瞬間、またしても変な生き物が走り寄ってくる。
 そして、俺を見て、驚いたように名前を呼ばれた。
 突然自分の名前を呼ばれて、俺は訳が分からずに、思わずあいつを見る。
 そこには、複雑な表情を見せているあいつが居た。

「……こいつが、お前の言っていた俺に会わせたい奴か?」

 そんな表情を見たくなくって、俺が質問をする。 

「ヤマトは、やっぱりオレの事、覚えてないんだ……」
「す、すまない」

 しかし、自分の質問に、俺に声を掛けてきた生き物……デジモンが、悲しそうな瞳を見せてくるのに、思わず謝罪の言葉を口にした。
 俺が慌てて謝罪した事に対して、そいつは、一瞬驚いたような表情を見せたが、次の瞬間には、複雑な表情ではあったけれど、笑顔を見せた。

「ううん、ヤマトが、悪いんじゃない。それに、今、こうしてヤマトに会えただけで嬉しいんだ」

 何かを吹っ切るようにニッコリと笑顔を見せるその姿に、自分も複雑な気持ちではあるが、笑顔を返す。

「なんにしても、こんな所で話をするより、移動した方がいいでしょう。武之内先輩は、どうしてますか?」

 俺と、そいつの会話が一段落した事を確認して、泉が声を掛けてくる。
 そして、そいつに質問を投げ掛けた。

「武之内って、ソラの事だね?だったら、今は落ち着いて、向こうに居るよ」

 泉の質問に、その蒼い角を生やした息もが返事を返す。
 それに、頷いて返して、泉は全員を部屋の中へと導いた。

「では、狭いですが、上がってください。武之内先輩も、中にいらっしゃるようなので」

 泉の言葉に、あいつが頷く。
 だけど、俺はその言葉に、複雑な気持ちを隠せない。
 出来れば会いたくないと、正直に思うのだ。
 泉の言葉に従うように、そこに居た者達が、仲へと入って行くのを、そのまま見送ってしまう。

「石田先輩、どうかなさったんですか?もう、皆さん部屋に入られてますけど…」

 そんな自分に気が付いて、泉が声を掛けてくる。
 その時には、あいつもあのデジモン達も、玄関にはいなくなっていた。

「今、行く……」

 それを確認して、諦めたように小さくため息をつく。
 そして、自分の心を悟られないように、続いて靴を脱いだ。

「……武之内先輩にお会いしたくないんですね。告白を、断ったんですか?」

 そして、みんなの後に続こうと泉の横を通り過ぎようとした瞬間、尋ねられたその言葉に、その足が止まる。
 まさか、自分の心を言い当てられるような事を言われるとは思っても居なくって、俺は驚いて泉を見た。 

「……有名な話ですよ。驚く事ではありません。告白を断ったお相手が、貴方にとって『仲間』であるその気持ち、残念ながら僕には分かりません。ただ、約束してくださいませんか。彼を、苦しめる事だけはなさらないと……」

 見詰める先の瞳が、真剣に自分を見詰め返してくる。
 まっすぐに見詰めてくるその瞳が、真剣に言葉を紡いだ事に、俺は一瞬返す言葉に迷ってしまった。
 泉の言うように、武之内空と自分が、『仲間』であると言う事は嫌でも理解できる。

 そう、俺が気になる相手を中心に、『仲間』だと言える存在に……。
 それは、俺が武之内を振ったと知ったら、どんな反応を返すのだろうか。
 『仲間』に対して、優しいと言えるあの少年は……。

「……お前に、言われるまでもないはずだ……」

 だから、泉に言われるまでもなく分かっている。そう、分かっているつもりだ。
 あいつに、またあの悲しみを含んだ表情をさせたくないと、俺もそう思うから……。

「ヤマト、光子郎!んな処で、何やってるんだよ!!」

 真剣に見詰め合う自分達を遮ったのは、明るい声で名前を呼ばれたからだろう。
 ひょっこりとリビングから顔を覗かせる少年の姿に、今まで張り詰めていた空気が一瞬で軽くなった。

「すみません。今、行きます」

 その声に先に返事を返したのは、泉。
 今まで自分に向けていた表情が、幻でもあったかのように笑顔を見せている。

「その言葉、しっかりと覚えていてくださいね」

 しかし、自分の横を通り抜ける瞬間、小さな声で囁かれた言葉。
 その笑顔とは裏腹に、『忘れる事は、許さない』と言う響きを含んでいる。

「………忘れない、さ………」

 自分を残して歩いていく後姿に、ポツリと返す。
 例え相手に聞えなくっても、関係ない。
 この言葉は、俺が、俺自身に言い聞かせた言葉。

 もう、あんな顔は見たくはないから、だから、忘れたりなんてしない。


                                                



   まずは、『裏・GATE』ヤマトさん視点です。
   ああ、話が進まない。(いや、裏だから、当たり前だけど……xx)
   今回の教訓、『裏・GATE』を書く時は、間を空けてはいけないと言う事。
   自分が、何を考えて書いてたのか忘れてます。(駄目過ぎ)
   さぁ、次は、光子郎さん視点だ!