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呼び止めた瞬間、自分の気持ちが分からずに、思わず言葉を失ってしまう。
どうして自分が、相手を呼び止めてしまったのか……。
どうしても、知りたかったのだ。
何故、この少年の事が、気になるのかを……。
そして、何故、あんな事を言ったのか…。
俺の呼びかけに、少年が振り返る。
それを見詰めながら、その後の言葉が続かずに、困惑してしまう。
本当は、尋ねたい事が沢山あるのに、そのどれもが、自分の中で言葉に出来ない。
「……本当に、分かり易いよなぁ……」
振り返った瞬間、相手が苦笑して何かを呟いた。
それは、小さくって、何を言ったのか聞えないが、それに、顔を上げ、相手を見る。
「俺に、何が聞きたいんだ?」
そして、はっきりとした口調で問い掛けられたその言葉に、驚きを隠せない。
俺自身、どうして呼び止めたのかさえ、分からないと言うように……。
「………お前は、勝手な奴だ……」
ポツリと呟いたのは、自分でも考えていないような言葉。
考えるよりも先に、呟いたその言葉に、少年が笑みを浮かべる。
「…そうだな……俺は、勝手だよ……俺は、お前達に災いしか運んで来れないのに……それでも、会いたかったんだ」
自分の言葉に返されたそれと、その笑みは、何もかもを諦めたような表情で、小学生の子供が見せる表情では決してありえないもの。
しかし、その言葉の意味が更に、自分を分からなくさせる。
自分だけではなく、確かに目の前の相手は、『達』と言う言葉を遣ったのだ。
「『お前達』?どう言う意味だ?!」
「……丈や光子郎、ミミちゃんにタケル。空や、お前……そして、自分の妹までをも、危険な目に合わせる事になる……俺が望んでいる事じゃなくたって、運命は、見逃しちゃくれない」
辛そうなその表情でさえも、笑みに変える。
その泣き出しそうな笑みを見せた相手に、言葉を掛けようとした瞬間、授業の終了を告げるチャイムの音が鳴り響いた。
「……授業、終ったな。……ヤマトが、その運命に流されたいなら、俺に付いて来てくれないか?」
一瞬校舎を見詰めてから、少しだけ考えるような素振りを見せ、そして、決心したように自分に視線を向けてくる相手に、俺は、ただ、その瞳を見詰め返す。
突然の質問は、まるで、自分の心のすべて見透かしているかのようなもの……。
「ヤマトに、どうしても会わせたい奴がいるんだ」
そっと微笑むその笑みは、先ほどの諦めたような笑みとは違い、人の心を安心させる何かを感じさせる。
「どうして、あなたが、此処にいらっしゃるんですか?!」
その笑みに、返事を返そうとした瞬間、新たな声が、それを遮った。
「光子郎……」
その声の人物の名前を、少しだけ驚いたように呼び、少年が困ったような表情を見せる。
「それに、石田、先輩ですよね?貴方にも、彼が見えるんですか?」
そんな相手の表情を見詰めていた俺に、少し冷たいとも取れる声が掛けられた。
質問された内容は、その声の主が、この少年の事を、自分よりも知っていると言う事。
「……確か、泉だったな……見えるさオレンジ色の生き物も、な……お前は、こいつ等の事を、知ってるのか?」
振り返って、相手を見る。そして、質問に答えを返して、質問を返した。
「…知っていても、貴方に教えるつもりはありませんよ」
しかし、自分の質問に返されたのは、不適とも取れる相手の笑みと、そして拒絶の言葉。
そんな相手を、思わず睨みつけてしまっても、仕方ないだろう。
「光子郎!」
無言で睨み合っている自分達の間に、少年が相手の名前を呼ぶ事で、漸く終止符が打たれた。
「……なんですか?」
名前を呼ばれて、泉が俺から視線を少年へと向ける。
それが、やっぱり、面白くないと感じてしまうのは、どうしてなのだろうか?
「お前の家に、空が行ってるんだ。これからヤマト連れてって、こいつのパートナーを渡してやりたい」
「……では、彼も、デジモンのパートナーが……」
そして、目の前で遣り取りされるその訳の分からない会話に、ますます機嫌は下降していくのを止められない。
「分かりました。では、僕も一緒に行きます。宜しいですか?」
「えっ?でも、光子郎は、授業が……」
「僕にとっては下らない講師の言葉よりも、今は目の前で起こっている事の方が重大な事ですから……」
自分を無視して、そのまま話が終了を迎える。
ニッコリと泉が笑顔を見せると、そのまま窓を飛び越えた。
「では、行きましょうか」
そして、再度ニッコリと笑顔で言われた言葉に、少年が、複雑な表情でため息をつく。
俺自身、目の前の後輩が、まさかそんな事をするような人物だとは思っていなかったので、驚きを隠せないのが正直なところだ。
この泉は、無気力で、こうやって学校で笑顔を見せるような事も無い人物である。
それが、ここまで表情を見せる事にも驚きだが、何よりも、平気で授業をボイコット出来る奴だとは思っていなかった。
「石田先輩は、どうするんですか?このままここに……」
驚きに、今だに座ったまま二人の遣り取りを見詰めていた俺に、泉の声が掛けられる。
それは、まるで、人を馬鹿にしているようで、そして、『来るな』と闇に聞えた気がして、それを遮るように返事を返す。
「行くさ!!」
キッパリと伝えた言葉は、この訳の分からない状態を、理解したい為と、そして、何よりも、どうしてこの少年の事が、こんなにも気になるのかが、知りたかったからだ。
そして、俺は、運命に流される決心をした。

はい、『裏・GATE』まずは、ヤマトさん視点からであります。
次は、光子郎さん視点の『裏・GATE』を書かなくっては……。
それにしても、全く話が進んでませんねぇ。
もっとも、『裏・GATE』は、太一さん以外の視点からになってるんで、進まないといえば、進まないんですけど…。
一応、『裏・GATE』を読まなくっても、話は繋がるようになってますしね。
さぁ、次の更新は、28日になるかな?
頑張ります!!
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