思わず、じっと相手を見詰めてしまう。
 突き通るその体、そして、何よりも得体の知れない生き物。
 それだけで、警戒するには十分なのに、何処かで、安心している自分を感じる。
 初めて会った筈なのに、懐かしいと感じられる少年に、俺の思考は、完全な麻痺を起こしていた。

「……お前は……」

 相手を探るように見詰めていた自分の口から、小さな声で言葉が出てくる。

 そんな俺の呟きに、一瞬だけ、何処か寂しそうな笑顔。
 どうして、そんな表情をするのかは、分からないが、その笑顔は、本当に一瞬だけで、下手をすれば、見間違いかと思う程、次の瞬間には、困ったような笑みへと変化する。

「ヤマトは、俺の事、どう思う?」

 自分の質問のようなそれに、質問で返されて、俺は、複雑な表情を見せてしまう。
 どう思うと言われても、俺には相手の事なんて、何も分からない。
 だが、俺にその質問を投げ掛けてきた相手の瞳が、また一瞬だけ、寂しさを含んだ事を、俺は見逃さなかった。

 直ぐに、明るい笑顔に隠されたそれは、彼の本当の心?

「……どう思うって………」

 楽しそうに笑っているのに、どうしても、寂しさが付いて回っている彼の笑顔に、俺はどう返事を返せばいいのか分からずに、言葉を濁した。
 目の前には、楽しそうな笑顔を浮かべている不思議な少年と、見たことも無いオレンジ色の生き物。
 それを、表す言葉と言えば……。 

「……変な奴だ……」

 頑張って考えて出した言葉がこれだけと言うのは、情けないかもしれない。
 でも、それ以上に言葉なんて浮かばなかった。

 楽しそうな笑顔を見せるくせに、何もかもを悟ったような顔をする。
 少年の姿なのに、まるで自分よりも大人びているような……。

 調子を狂わせる相手。
 それが、俺の感じた本当の答え。

「…だろうなぁ」

 俺の言葉に、今度は相手が本当に楽しそうな笑みを浮かべた。そんな相手の様子を、隣に居る生き物は、ただ黙って、見守っている。

「それに、その隣の変な生き物……」
「変な生き物じゃなくって、デジモン」

 表情のある不思議な生き物について尋ねようとした瞬間、俺の言葉を遮って、訂正の言葉を述べた。
 キッパリといわれたその言葉に、思わず首を傾げてしまう。

「……デジ…モン…?」

 デジモン?デジモンって、なんだ??
 聞いた事ある言葉なのに、どうしても、思い出せない。
 だけど、何処か懐かしいと感じる響き。

「そう、デジモン。こいつは、俺のパートナーデジモンだ」

 俺の問い掛けるようの呟きに、ニッコリと隣に居る生き物へと笑顔を見せて、その頭を優しく撫でる。
 それに、その生き物も、嬉しそうに微笑んだ。

「……どうして、ここに居るんだ……」

 そんな二人の遣り取りを目の前に、俺は必死で、頭を働かせる。
 『何故?』、『どうして?』と言う疑問は、山のように持っているのに、自分から出たのは、意味の分からない問い掛けだけ。

「………呼ばれたから……」

 俺の質問に、自分を見詰めながら、小さくそれでもはっきりとした声で、答え返される。

「ヤマトが、俺を呼んでくれたから……だから、俺はここに戻ってこられた………」

 まただ。また、あの寂しそうな笑顔。
 どうして、そんな顔をするのか分からない。
 それほど、目の前の少年が見せる笑顔は、その姿からは想像も出来ない程の悲しみを映し出しているのだ。
 そして、何よりも、彼の答えは、俺を混乱させるには、十分すぎるものだった。

 俺に、呼ばれたから、だから、ここに来たのか?

「……―――?」

 俺を見詰めている筈なのに、そいつの瞳は、何処か遠くを見ているようで、まるで、俺なんて、見ていない。
 俺と言う存在なんて、相手に認められていないのだと思わせる、そんな瞳……。
 そして、そのデジモンが、何かを小声で呟いた瞬間、その瞳が一瞬で、光を宿した。

「えっ?」

 一瞬訳がわからないと言うように、不思議そうな表情を見せたそいつに、俺も、ハッと我に返る。

 俺じゃない、何処か遠くを見詰めていたそれが、気に食わない。
 そして、何よりも、こいつのことを知らない俺なのに、どうして、そんな言葉が出てくるのか?

「……俺、何、言ってるんだ……」
「俺に呼ばれたって、どう言うことだよ!!」

 気が付いた瞬間、俺は声を荒げていた。

 どうしてこんなにも、イライラするのだろう。
 知らない奴に、心をかき乱されたくは無い筈なのに、どうして、こんなにも、気になるんだ?

「俺、そんな事言ったのか??」

 俺のその言葉に、そいつは、分からないと言うように、確認するみたいにそのデジモンという生き物に、質問を投げ掛ける。
 その生き物は、その質問に、小さく頷く事で、答えた。
 目の前で繰り広げられる、そんな遣り取りに、俺は、ますますイライラが募るのを感じる。

「……お前、俺の事、馬鹿にしてるのか?」

 自分で考えていたよりも、低い、不機嫌な声が、口から出た。
 どうして、こんなに、イライラするんだろう。

 他人は、俺にとって、何にも関係のない存在だったはずだったのに……。

「……してねぇよ……」

 俺のその言葉に、何処か困ったような、自嘲気味な笑みを浮かべる。
 そんな表情をさせたい訳ではないのに、それでも、やっぱり、許す事が出来ない。

 どうして、何も説明してはくれないのだろうか?

 本当の事を、知りたいと、今は切実に思っている自分が、居るのに…。

「ふざけるな!」

 望んでいるのは、そんな言葉ではない。
 なのに、どうして、自分の口からは、こんな言葉しか出てこないのだろう……。
 本当に、望んでいるのは……。

「俺は、ただ、ヤマトに会いたかっただけなのに、な……」

 ポツリと呟かれたその言葉に、俺は、その動きを止めた。
 本当に聞きたかった、その言葉は……。

「……ふざけている訳でも、馬鹿にしている訳でもねぇんだ。ただ、たださぁ、俺は、お前に会いたかっただけなんだ……」

 ポツリポツリと話されるその言葉。

 自分が、本当に聞きたかったその言葉は、一体どれなのだろう。
 ずっと、ずっと、誰かから聞きたかった、その言葉を……。

「……悪い、迷惑な話だよな……」

 何も言えなくなった俺に、そいつが自嘲的な笑みを見せる。
 あの時々見せる笑顔を覗かせて、そして、小さくため息をつく。

「…帰る、よ……」

 そして、最後にポツリと呟かれたそれと同時に、そのまま踵を返す。
 その後姿を見た瞬間、俺は、もう口を開いていた。

「待てよ!」

 自分で考えるよりも先に、相手を呼び止める言葉が発せられる。
 俺のその言葉に、少年が、驚いて振り返った。

 このまま彼を行かせてはいけない。
 そう、判断したのは、俺自身。


 俺が、何を望んでいたのか。
 それを知っているのは、目の前に現れた、この少年なのかもしれない……。



                                                 



   書き上げ所有時間、30分。
   早……xx
   って、元話とあわせて書いてるから、当然と言えば、当然ですけどね。<苦笑>
   そんな訳で、続けてのUP成功おめでとう、自分。
   言い切って出来なかったらどうしようと、本気で思っておりました。
   出来て良かったvv

   『GATE』でも、皆様からラブラブなヤマ太を期待してますって、頂くんですが、出来るんでしょうか?
   この話で、ラブラブ話……xx
   いや、出来るだけ期待を裏切らないように努力はしたいんですけど、ね。
   この話は基本的にシリアスモノなので、かなり難しいです。<苦笑>
   それにしても、まだまだ、先は長そうですねぇ。