運命なんて、信じていない。
  そう思うのは、自分の弱さを認めたような気がするから……。
  それに、運命なんて考えながら行動するのは、自分らしくない。
  ただ、その場その場を必死で生きてるから、だから運命なんて、信じない。
  例え、本当に今、自分がこうしている事が、運命だとしても……。


 
                                         GATE 20


 ゆっくりとした足取りで、歩く道。濡れている体は、先ほどから風に曝されて、体温を奪われている。
 それでも、歩く速度は変わらない。

「巻き込んで、ごめん……」

 沈黙の続く中、ポツリと呟かれたその言葉に、一瞬意味が分からず、相手を見詰めてしまう。
 何故謝られたのか、理由が分からないから…。

「どうして、お前が謝るのだ?」

 そっと問い掛ければ、俯いて何も答えない目の前の少年。

「巻き込まれたなどと、思ってはいない。これが、ワタシの運命だったんだ」

 何も言わない相手に、困ったように口を開く。
 目の前の相手を傷つけたくはないから、だから、これ以上謝る事は、ないのだと言うように……。

「…運命だなんて、言うな!こんなの、運命なんかじゃない」

 しかし、相手の反応は、顔を上げて、今にも泣き出してしまいそうな表情を見せていた。
 傷付いたその表情に、アンドロモンは、掛ける言葉を失ってしまう。

「……頼むから、運命だなんて、言わないでくれ…………」

 ぎゅっと、自分の腕を掴むその小さな手。
 全ての事を、この小さな少年は必死で背負っている。

 自分がどんなに傷付いても、前へ進もうと歩いていく。
 その足は、自分が傷付いても止まらない。

 ただ、この少年が大切にしている誰かが傷付いた時だけ、こうして足踏みをしてしまう。
 それでも、直ぐに歩き出す少年の姿は、とても痛々しくって、見ていらない程儚げで危うい。

「……誰かが傷付くのが、運命だなんて、思いたくないんだ………」

 ポツリと呟かれた言葉が、全ての気持ちを表している。
 誰も、傷付く事など無いようにと……。

「すまない、そんなつもりではなかったのだが……」

 目の前で傷付いている少年の心を救えるように、謝罪する。
 誰よりも、笑顔が似合う少年に、これ以上傷付いて欲しくないからこそ。
 自分の謝罪に、太一はただ小さく首を左右に振った。

 それが答え。

 謝って欲しい訳ではないから、だから、そんな言葉は必要ないというように……。
 その気持ちが分かるからこそ、アンドロモンも、それ以上の言葉を口にする事はない。

「もう少しで、ゲートの場所だから……」

 沈黙が続く中、その沈黙を先に破ったのは、太一であった。
 今、自分が知っている唯一のゲートポイント。

「タイチ!!!」

 目指す目的の場所の直ぐ傍で、名前を呼ばれて、太一は顔を上げた。

「アグモン……」
「怪我、してない?あっ!また濡れちゃってる!!!」

 自分にむけて走ってくるパートナーの姿に、太一は思わず苦笑を零す。
 心配をかけていたと言うことは、その表情を見ただけで、十分に理解できた。
 しかも、自分勝手に出歩いていたのだから、申し訳ない気持ちは隠せない。

「すまない、ワタシの所為で……」

 心配そうに太一の傍に走ってきたアグモンに、アンドロモンがすまなさそうに謝罪する。
 それに、太一はもう一度苦笑を零した。

「だから、アンドロモンの所為じゃねぇって……」
「ア、アンドロモン?!」

 苦笑交じりの太一の言葉に、漸くその存在に気が付いたアグモンが、驚いたようにその名前を呼ぶ。

「じゃ、操られてたデジモンって……」
「…ワタシだ……迷惑を掛けて、すまなかった」

 恐る恐るといった様子で問い掛けてくるアグモンに、アンドロモンがもう一度謝罪する。
 それに、太一が小さくため息をついた。

「だから、謝る事ないって言ってるだろう。誰も、悪くなんてねぇんだから……」

 盛大なため息をついて言われたそれに、アグモンも少しだけ困ったような笑みを見せる。
 そして、直ぐにその表情を意地悪な笑みへと変えた。

「うん、悪いのはなかなか戻ってこなかったタイチだもんねvv」

 そして、ニッコリと笑顔で言われたそれに、太一が一瞬きょとんとした表情を見せる。
 何を言われたのか分からないと言うような表情が、次の瞬間、複雑な表情を見せた。

「悪い、確かに、直ぐに戻らなかった俺が悪いんだよな……」
「……心配してたんだからね」

 少しだけからかいを含んだそれから、真剣な表情になって言われたそれに、どれだけ心配を掛けたのかが分かって、太一はもう一度謝罪する。

「そんな話は後にしてはどうだ。濡れたままで居る状態では、体を壊してしまうだろう?」
「あっ!そうだよ、タイチは病み上がりなんだから、無理しちゃ駄目だよ!」
「……いや、無理はしてないって……多分…」

 怒ったように言われた言葉に、苦笑を零しながら返事を返す。
 しかし、最後の方は小さくボソリと呟いたそれは、きっと自分以外から見れば、無理をしたと言われると分かっているからかもしれない。

 目の前で困っている太一に、アンドロモンが笑みを零す。
 しかし、このままでは話が進まない状態なので、それを終わらせる為に、口を開いた。

「それでは、すまないがゲートを開いてくれ。ワタシはデジタルワールドに戻り、『糸』の事を調べよう」
「分かった。アンドロモン、気を付けろよ」
「ああ、お前も、無茶な事はするな」
「そうだよ、アンドロモンの言う通りなんだからね、タイチ!」

 真剣に言われたその言葉に、アグモンまでもが口を開く。
 それに、太一は複雑な表情を見せた。
 自分が無理をしてしまう性格であるのは、誰よりも己自信が知っている事。
 だからこそ、その言葉に返す言葉が見付からない。

「では、ゲートを……」
「…ああ……」

 何も言わない太一に、アンドロモンが小さくため息をついて、ゲートを開く事を促す。
 それに、太一も小さく頷いて、デジヴァイスを手に持ち、それを反応を示す場所へと向けた。

「ワタシは、ワタシが出来る事をしよう。タイチ、お前ならば、どんな困難にも立ち向かう勇気を持っていると信じている」
「アンドロモン……」
「では、子供たちの未来の為に……」

 パッと眩しい光が、辺りを包む。
 それを見守りながら、太一はそっと小さく息を吐き出した。

「……困難に立ち向かう勇気……か。今の俺に、その紋章は反応してくれるんだろうか……」
「タイチ?」

 小さく呟かれたその言葉に、アグモンが不思議そうに首を傾げて自分を見上げてくるのに、太一は、複雑な笑みを浮かべると、そっと首を横に振る。

「……何でもない。それじゃアグモン。俺たちは、お台場中学に行こう」
「って、タイチ!光子郎に、言われたのに!!」

 約束をしたからこそ、それを破るようなその言葉に、アグモンが咎めるように口を開く。
 それに太一は、少しだけ困ったような表情を見せたが、ぐっと拳を握り締めた。

「今、行かなきゃ行けない気がするんだ」

 何かに追い立てられているような、そんな気分なのだ。
 だからこそ、約束を破る事になっても、どうしても行かなければ、いけないのだと言う。

「でも、光子郎の家には、空だって居るんだよ?」
「空の事は、ピヨモンやガブモン達が居るから大丈夫。それに、空の事があったからこそ、俺は行かなきゃならないんだ」

 真剣な瞳が、前だけを見詰めている。
 それに、アグモンは小さくため息をついた。
 目の前のパートナーが、一度言い出したら何を言っても聞かないと言う事を誰よりも知っているからこそ……。

「分かったよ。だけど、これだけは約束して、絶対に無理はしないって…でないと、ボクはどんな事をしても、君を連れて帰るからね!」

 だから、これが精一杯の譲歩。
 そんなアグモンを前に、太一はニッコリと笑顔を見せた。

「サンキュー、アグモン。約束するよ」
「って、まずは、濡れた服とかどうにかしないといけないね……」
「あっ!すっかり忘れてた」
「って、タイチ!!」

 今だに濡れた髪からは雫が流れているのに、それを忘れられると言うのもどうかと思う。
 そして、アグモンは、約束をしてくれた相手のその言葉を本当に信じていいのか、疑問に思ったのは仕方ない事である。



                                                         



   はい、『GATE』20話目です!!そして、祝・30話目!!
   祝い話なので、最後の方は、ギャグタッチで書かせていただきました。(笑)
   いや、暗いのに耐えられなかったのが分かっていただけると思うのですが……xx
   そして、放って置かれる空さん。気の毒です。<苦笑>
   いや、だって空の方に行っても、これ以上話をする事も無いので、パートナーであるピヨモンにお任せしようかと…。

   なので、お約束いたします。
   来る8月1日に、6人目の選ばれし子供を出し、クイズの正解者さまの発表を!!
   頑張りますので、よろしくお願いいたします。