何故だか、今日は早くから目が覚めた。
 何時もだったら、まだ寝ている時間。
 明け切らない空を、窓から見詰めて小さくため息をつく。

「起きよう……」

 日課になっているジョギングでもして、すっきりしようと思い、ベッドから起き上がると服を着替える。

「……今日は、ちょっと距離を伸ばしてみようかな…」

 折角早くに目が覚めたのだから、時間を楽しもうと家を出た。
 少し冷たい朝の空気が、肺一杯に入ってくるのを感じながら、軽いストレッチをして走り出す。

 お父さんが、仕事をしているTV局の前の公園へ行って、あそこでUターンする事を決めて、ゆっくりと走る。

 朝のこの独特な空気は、今のお気に入り。
 人なんて、居ない静かな時間。
 自分の走っている足音と吐く息だけが、小さな音を作っているのを聞きながら、空を見上げた。

 まだ明け切らない、薄暗い空。
 今日に限って、こんなに早く目が覚めたのは、どうしてだろう?

「……何か、あるのかなぁ……」

 自分は、運命を信じるような人間ではない。
 だが、今日は、目覚めた時から、何かが呼び掛けて来るのを感じている。
 胸の辺りがざわめいているような、なんとも表現出来ない不思議な気持ち……。

 決して、嫌ではないその感じに、じっとしていられなくって、家を飛び出したといっても、それはあながち間違いではないだろう。

「……何かが、起きようとしている?」

 不安に思う気持ちと、わくわくするような思い。
 その複雑な気持ちが、今自分の中に広がっているのを感じて、小さく首を横に振る。

「……何、考えてるんだろう……何かが、起こるなんて……」

 考え事をしながら走っていた所為だろうか、気が付いた時、不思議な音が、聞こえてきて、その足を止めた。

「あれ?ここは……」

 足を止めて初めて、自分がお台場のシンボルとも言えるTV局の傍に来ていた事に気が付いて、思わず苦笑を零してしまう。

「……そんなに、走ってたんだ……」

 小さく肩で息をしながら、自分が考え事に没頭していた事に、今更ながらに気が付いた。
 そして、そんな自分の耳に、また不思議な音が聞こえてくる。

「……一体、何の音なんだろう?」

 聞いた事も無い音なのに、惹かれるそれ。
 しかも、こんな朝早くから、誰かが居るという事が、興味を引く。
 考えるよりも先に、一歩づつゆっくりと音の方へと吸い寄せられるように足が進み出して居る事を、何処か他人的な感覚で捕らえる自分が居る事に、苦笑を零す。

 そして、気が付いた事。

 段々とその音が大きくなっているのに、気が付いて、素直に首を傾げた。
 それは、自分が近付いているのに反応するように大きくなっていく。
 まるで、自分と言う存在を、知らしているように……。

「…まさかね……」

 ポツリと呟いて、苦笑を零す。そんな事は、ありえないと思いながらも、どうしても拭いきれない何かを感じる。
 そして、一歩踏み出した瞬間、声が聞こえた。

「―――!熱が!!」
「これくらいは、大丈夫だから……それよりも…」

 心配するような、誰かの声。
 そして、それに答える声は、何処か懐かしいと感じる声だった。
 どうしてそんな事を思ったのか、自分でも分からないけれど、確かにそう感じている自分が存在する。
 そして、その声の主に惹かれるように、もう一歩を踏み出した瞬間、

「―――!」

 声にならない声が、響き渡った。
 確かに何かを言ったと分かるのに、何が言われたのか分からない言葉。

 そして、目の前でゆっくりと倒れる、透けた小さな体に、反射的にその体を抱きとめようと、体が動いていた。
 考えるよりも先に、自分の体は、その透けている少年の体を抱き止めている。
 そして、伝わる彼の体温。

「……触れられるとは、思わなかったなぁ……」

 考えるよりも先に、動いた体。
 その透けて見える相手の体に、触れている奇妙な状態にも関わらず、自分でも驚くほどのんびりとした、声が上がる。

「……幽霊かと思ったけど、ちゃんと体温もあるんだ……」

 冷静な自分に感心しながらも、口から出る言葉は、全く場違いな程にのんびりとしたもの。

 だけど、本当に思ったのだ。
 足は、あっても、その体は透けて、向こうが見えている状態。
 そんな相手を、それ以外のなんと呼べばいいのだろうか?

「誰?」

 のんびりとした自分に、彼と一緒にいた、オレンジ色の生き物が、そっと問い掛けてくる。
 それに気が付いて、漸くその姿を確認した自分の目には、オレンジ色の恐竜の姿。
 勿論、こちらも、少年と同じように透けて見えている。
 それどころか、はっきりと、自分に問い掛けてきた言葉は、日本語。
 だが、それが可笑しいとも、奇妙な事だとも思わない。
 当然のことだと、自分の中の何かが、訴え掛けてくる。

「……ボクは、高石タケルだよ。オレンジ色の恐竜さん」

 だから、ニッコリと笑顔で、自分の名前を告げた。
 普通なら、こんな怪しいモノに、笑顔でなんて話は出来ないと思うのに、それは、自分で考えるよりも先に、行動で現れてしまう。

 自分が、自己紹介した瞬間、腕の中の少年の体が、小さく反応したように思うのは、気のせいだろうか?

「あっ」

 そして、そう思った瞬間、腕の中の体が、急に重くなって、慌てて支え直す。

「―――!!」

 両手で、抱きとめた瞬間、オレンジ色の恐竜が、何かを叫んだ。
 だけど、自分には、何を言ったのか分からない。

「えっ?」

 思わず聞き返そうとした瞬間、自分を見詰めてくる緑の瞳に言葉を無くす。

「お願い、―――をコウシロウの所に、連れて行って!!」

 今にも泣き出してしまうのではないだろうかというように、自分を見詰めてくるオレンジ色の生き物の言葉に、素直に首を傾げる。

「……誰を、コウシロウの所って……」

 多分、聞こえないその言葉は、彼の名前??
 そして、コウシロウと言う人物は、彼に関わっている誰かだろうか??

「案内するから!お願いだよ、タケル!!」

 分からない事だが、必死に自分を頼ってくるその瞳を前に、今は、何も聞くべきではないと判断して、頷いて返す。
 それに、嬉しそうな表情を見せるのを確認して、そっと腕の中の存在を抱き上げた。

「……軽い…」

 抱き上げた体は、自分が想像していたよりも軽い事に、驚いてしまう。
 自分と同い年ぐらいの少年。
 しかし、その体は、自分よりもかなり小さい。
 その為か、何処か頼りなく映る。

「タケル!こっち!!」

 ボンヤリとそんな事を思っていた自分の耳に、急かすような声が掛けられて、顔を上げた。
 目の前には、自分に手招きしている、オレンジ色の恐竜。
 その姿に、小さく頷いて、歩き出す。

 きっと、これから、何かが始まるだろう、その場所へと……。



                                                 



   はい、裏『GATE』です。
   ここを探してくださった皆様、お疲れ様でした。
   そして、探してくださって有難うございますねvv
   これが、初の『裏・GATE』となりました。(笑)
     
   この『GATE』は、基本的には、太一さんが中心になって、話が進んでおります。
   なので、今回のように、太一さんの意識がなくなった場合続かなくなる為、それ以外の誰かの視点で、話を進める。
   それが、この『裏・GATE』になるのです。
   あっ!!裏とあるのですが、健全ですよ。(見りゃ、分かるって…xx)
   勿論、この裏を見なくっても、話は、ちゃんと繋がるようになっております。
   時々、裏をUPすると思うのですが、こちらは、完全に隠しですので、興味の無い方は、無視しても大丈夫!
   何も、問題ありませんよ!
   いや、多分、これを読んでいる時点で、興味を持たれた方だと、勝手に解釈しておりますけど……(迷惑!)

   では、次は、再び光子郎さん登場!!