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「あれ?」
お風呂から上がって、髪をタオルで拭きながらリビングに戻った瞬間に、その姿が見つからなくって、あたりを見回す。
テーブルの上に置かれている、あのノートパソコンだけが、存在を主張しているようで…。
「あっ、光子郎はん」
自分の姿を見つけた相手が、名前を呼ぶまで、現状が分からずにただそのパソコンを見つめていた。
「あの…あの人は?」
「……その………」
全てを知っているであろう相手に質問を投げかければ、言葉に困る。
「……出て、行ってしまったんですか?」
ポツリと呟けば、慌てて首を振るその姿に、思わずため息をこぼす。
「…あの、光子郎はん!―――はんからの、伝言です……その、自分が戻ってくるまで、皆事を頼むと……」
「……勝手な伝言ですね……」
「光子郎はん?」
伝えられたその言葉に、思わず自嘲的な笑みを浮かべて、ソファへと身を預ける。
そして、そっとテーブルに置かれていたパソコンへと手を伸ばした。
「……これが、全ての原因……」
あの人がいなくなった理由は、あのメールを見たから……。
だったら、自分にも、何が起こっているのか知る権利があるはずである。
そっと、昔のように電源を入れるためにスイッチを押す。
だが、あの時確かに入った電源は、今は何の反応も返さない。
「どうして……」
彼が触った時、確かにで電源が入り、メールが着信していた。
なのに、今はその気配すら見せない。
まるで、あれは夢だったと言うように……。
「……本当に、勝手です……こんなにも、僕の心を乱しておいて、どうして黙って居なくなるのですか?」
「光子郎はん……」
ダンッとテーブルを殴りつけても、自分の気持ちが晴れる事はない。
突然自分の前に現れて、そして、同じように姿をかした人物の事を考えて、盛大なため息をつく。
「……勝手、過ぎます……名前だって、聞けなかったのに……僕は、あなたの事をもっと知りたかった……」
初めて会ったあの時、感じた気持ち。
それは、懐かしさと、確かな信頼。
この人と、一緒に居たいと思う自分の初めての欲求。
今の両親が、自分の本当の親ではないと知った時ですら、感じたことのない絶望感が、自分を支配する。
たった一つ、彼が、自分の前から居なくなったと言うだけなのに……。
「……すんません……」
「どうして、貴方が誤るのですか?」
何も言えずに頭を抱えている中、突然聞こえたその謝罪の言葉に、顔を上げて相手を見る。
「わて等が、光子郎はんを苦しめてるんですな……だけど、信じてやって欲しいんや!―――はんは、必ずここに戻ってくるやって、事」
「……帰ってくる?だって、彼の家は、ここではないのに、どうして戻ってくるんですか?それに……す、すみません!もう一度彼の名前を呼んでみてください!」
必死に自分に言葉を伝えてくる相手に、思わず聞き返した瞬間、確かに彼が、あの人の名前を口にしていた事に気が付いた。
「光子郎、はん?」
「お願いです、もう一度だけ、あの人の名前を……」
「―――はんの、事ですか?」
自分の必死のお願いに、驚きながらも、彼がある言葉を口にする。
しかし、他の言葉は、確かに自分たちと同じものなのに、ある一定の言葉だけが、自分には、聞き取れない事に、初めて気が付いた。
今まで気にしていなかったが、確かに目の前の生き物は、あの少年の名前を呼んでいるのだと分かった瞬間、考えるようにゆっくりと瞳を閉じる。
「光子郎はん??」
近くで、自分の名前を呼ぶ声が聞こえて、小さく息を吐き出す。
彼は、確かに言った。
全ての答えは、自分の中に存在していると……。
「…だったら、僕自身が、思い出さなければ、いけないと言う事ですね……」
思い出したいと、強く願っている自分が居る。
もっと、彼の事を知りたいと……。
確かに、自分の中に全ての謎を解く鍵が存在している。
だったら、自分自身の力で、全てを理解したいと思うのだ。
目の前に居る、自分のパートナーデジモンだと言う、彼の事も全て……。
「……信じます。あの人が戻ってくる事……」
「光子郎はん…」
「そして、思い出します、絶対に!」
「光子郎はん!」
うとうとしていたのだろう。突然大声で名前を呼ばれて、ゆっくりと瞳を開く。
どうやら、ソファでそのまま眠ってしまった事を理解して、思わず苦笑をこぼした。
そして、自分に掛けられている毛布。
「す、すみません。お世話を掛け……」
誰がこれを掛けてくれたのかが分かるからこそ、迷惑を掛けてしまった事への謝罪の言葉を述べようとした瞬間、自分の目の前に飛び込んできたその映像に、言葉を失う。
TVに映されているのは、飛行機事故の映像。
しかし、そんな事ではなく、驚きを隠せないのは、自分が信じると誓ったあの少年の姿と、不思議な生き物が争っている場面。
ホームビデオで出撮影されたとあって、かなり画像は乱れているが、それは間違いなく彼の姿。
『乗客が映した映像には、落ちる瞬間の空の映像と、暗い海だけが映しだされております。そして、時々、飛行機の爆発なのか、爆発音と、炎が見えますね……そして、その後に、不思議な映像が……』
淡々とした口調でキャスターが説明している声を聞きながら、ただ画面に見入ってしまう。
確かに映し出されているその映像を、キャスターは何も言っていない。
そして、最後の画面で映し出されたのは……。
『妖精のような姿が映っています。これは、飛行機が海に着陸した瞬間の映像のようですが……』
その後も、延々と話される言葉など耳に入らず。
ただ、画面に映されている映像を見つめた。
「……そう言う事なのですね……」
初めて会ったあの時、確かに彼は自分たちの姿は、他の人には見えないと言っていたのを思い出す。
そして、それは、目の前のTVのニュースで理解できた。
誰も、彼の姿が見えていない。
「……彼女は……」
そして、一人の少女の姿が画面に映し出された。
「太刀川ミミさん…」
昔同じクラスだった彼女の姿に、驚いたようにその名前を呟く。
そして、彼女が大切そうに抱えているぬいぐるみ…。
「……タネモンでんな……」
「タネモン?」
不思議に思った瞬間、小さく呟かれたその言葉に、思わず首をかしげる。
はっきりと聞こえたその名前?
「そうですがな……あれは、パルモンの退化した姿でっせ……」
「パルモン?もしかして、ここに居た誰かの一人ですか??」
「そうです。えっと、花が頭に付いたデジモンが、パルモンですがな……」
説明された言葉に、納得したようにうなずいて返す。
確かに、彼が連れていたデジモンの中に、説明されているような姿は確かに、存在していた。
「そう言う、事なのですね……」
彼が、ここから居なくなった理由が、分かる。
彼は、そのパルモンを太刀川さんに届に行ったのだ。
自分に、目の前の相手を届に来た時と同じように……。
そして、彼が戦っていた相手が、自分たちの命を狙うという敵?
「光子郎はん?」
必死で頭を働かせようとした瞬間、玄関の呼び出し音が響き渡る。
勿論、今は早朝で、両親が戻って来たとは、考えられない。
しかも、両親の戻ってくる予定は、二日後。
「……こんな早くに……」
相手を確認しようと受話器を取る。
「どちらさまですか?」
「朝早くにすみません、あの……」
自分の声に答えたのは、まったく聞き覚えのない声。
まだ幼さの残るその声に、思わず首を傾げてしまう。
「コウシロウ!ボク…――――!―――が、―――が大変なんだ!!」
知らない相手の声に、間違いだろうと言葉を返そうとした瞬間、勢い良く名前を呼ばれて、言葉をなくす。
そして、あの聞き取れない言葉を耳にして、慌てて受話器を置くと、玄関の扉を開いた。
勢い良く開いた扉に、外に居た少年が驚いたような表情を見せる。
やっぱり、その少年に、心当たりはない。
ただ、何処か、自分が通っている中学の先輩に、雰囲気が似ていると思えるのは、その金茶の髪の色と、日本人離れした瞳の色が、同じだったからかもしれない。
「あの、朝早くにすみません……この恐竜が、ここに連れて行くのが、一番だと言うので……」
困ったように言われた言葉に、直ぐ傍に居た、オレンジ色の恐竜に気が付く。
そして、彼の腕の中に居る存在に気が付いて、慌ててその様子を伺った。
「何が、あったのですか?」
「コウシロウ、―――、凄い熱なんだ……お願いだよ、―――を助けて!」
必死で訴え掛けてくる緑色の瞳に、そっとその額に触れれば、漸く事の重大さに気が付いた。
確か、あの画像では、彼は海の中に……。
「こんな季節に、寒中水泳なんてするなんて、馬鹿ですね……」
「えっ?」
冷え切った体と、まだ少し湿気っているその服を感じて、ポツリと呟いたその言葉に、少年が不思議そうに首をかしげる。
「貴方にも、彼等の姿が見えるんですね……彼を、ここまで運んできてくださって、有難うございます」
「いえ……あの…」
礼儀正しく頭を下げて、彼の腕から、少年の体を引き受ける。
「……すみません。僕にも、彼の事を説明することはできないんです。ただ言える事は、彼等が見える僕達には、共通する何かがあるのかもしれませんね」
不思議そうに自分を見つめてくる少年に、少しだけ困ったように言葉を継げる。
何も説明できない自分。
そして、今分かる事は、彼等の姿が見えるのは、ごく限られた人間であるという事。
それは、何処かに共通する何かを持っているのだと、今ならはっきりと言える。
彼女が、デジモンを抱いていた姿を見た、あの時から……。
「すみません。ご紹介がまだでしたね。僕の名前は、泉光子郎と言います」
「あっ!ボクは、高石タケルって言います。あの、泉さん……ボク達に共通する事って……」
「今はまだ分かりません。ただ、言える事は、その答えは、全て僕達の中に存在していると言うことだけです」
「タケリュ!!」
「えっ?」
困ったように呟いた言葉と、後ろから嬉しそうな言葉が聞こえたのは、殆ど同時。
黄色小さな生き物が、目の前の少年に抱き付いている。
「……どうやら、貴方にもパートナーデジモンが存在している。それが、共通点かもしれませんね」
「あの、どう言う事なんですか?」
「全ては、自分の心の中に……それが、今僕が言える答えです。すみません、この子の事は、君にお願いしてもいいですか?それが、この人の願いだと思うので……」
嬉しそうに彼の腕の中で頬を摺り寄せて居るそれを指しながら、言葉を伝えれば、少年が、一瞬困ったような表情を見せるが、腕の中の存在を一度確認して、そして小さく頷く。
「……分かりました。この子は連れて帰ります。あの、泉さん……」
「はい、何ですか?」
「今日、学校が終わってから、その人の様子を見に来てもかまいませんか?その、迷惑でなければ……」
「迷惑じゃありませんよ……分かりました、彼には、ちゃんと伝えておきます」
「有難う……それじゃ、ボク、母さんに黙って出てきたから、戻りますね」
「気を付けて……」
深々と頭を下げる少年を見送って、小さくため息をつく。
そして、自分の腕の中で力なく眠る、小さな少年に視線を向けた。
「……貴方は、この小さな体に一体何を隠しているんですか?」

はい、『裏.GATE』2話目になります!
今回の視点は、光子郎さん。……性格が、分かり難い…xx
彼の視点で書くのは、難しいです。いや、本当に……xx
そんな訳で、光子郎とタケルくんの再会(?)です!そして、太一さんともvv
いつでも、冷静な彼は、私の所では、もしかしなくっても最強かもですね。(笑)
取り乱さない光子郎を書いていて思った事は、こんな中学生、いや……でした。
まぁ、ウチの彼は、ずっとこんな調子だと思います。
冷静沈着。(笑)
それにしても、『裏・GATE』の方が長いかも……xx
さて、続きはどうなるのか?!
それにしても、パタモンとタケルの再会って、すごく短い。
ごめんね、パタモン…xx
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