何も、分からない。
  本当の事だって、教えられない。

  知る権利を持っている彼等に、自分は何も言えないでいる。
  それなのに、自分に笑顔を見せてくれる人。

  知りたい事は、沢山あるだろう。
  それなのに、何も聞かないで居てくれる、その優しさが、辛い。
  本当は、自分の名前も、そして、知っている事を全て話してしまいたいのに……。

  それでも、何も言えずにいる自分が居る。
  教えられないのだと、自分の中の何かが伝えてくるのだ。

  だから、何も話せない。
  話せば、それだけ相手を更に危険にしてしまう可能性が、高いから……。


 
                                         GATE 07


 メールを開けば、数時間前に別れた相手の顔が現れる。

『今、選ばれし子供達が何処に居るのかを、話すのを忘れておったわい』

 開いた瞬間に言われた言葉に、思わず苦笑を零してしまうのを止められない。

 どうして、そんな大事な事を忘れられるのだろうか?

『7人の内、5人は、同じ場所に住んでおる。後の2人なんじゃが……タケルは、今、お台場に住んでおる。場所は……』

 説明される言葉にただ耳を傾けて、小さく頷いた。
 妹のヒカリと同じ年だった彼が、今は、兄と同じこのお台場に居ると言う事を聞いて、少しだけ嬉しく思える。

 弟と離れて暮らしている彼が、どれだけ相手を大切にしていたのかを知っているからこそ……。

「…そっか、タケルは、こっちに居るんだ……」

 懐かしい名前。そして、その人物を思い出すようにそっと瞳を閉じた。
 その間にも、ゲンナイの言葉は続く。

『そして、もう一人なんじゃが……』 

 タケルの説明が終わった瞬間、困ったようにゲンナイの言葉が途切れてしまった。
 それを前にして、太一はゆっくりと瞳を開くと、液晶画面を見詰める。
 言う事を考えているような、ゲンナイのアイコン姿に、太一は疑問を感じて、首を傾げた。

『……ミミは、今アメリカにおる………』
「アメリカ?!」

 漸く言われたそれに、思わず驚きの声を上げてしまうのは、許される事だろう。
 日本に居る自分に、どうやってミミに会いに行けというか、教えてもらいたい。

『だが、問題はないじゃろう……』
「って、どこが問題ないんだよ!!問題大有り……」
『ミミだけは、デジモンの記憶を持っておる……』

 文句を言おうとした瞬間に、続けられたそれが、自分の言葉を奪う。

「ミミちゃんは、覚えてるのか??」
『どうしてこんな事があったのか、それはわしにも分からんが、あの子だけは、パートナーデジモンの事を覚えておるんじゃ』

 説明されるそれが、信じられなくって、太一はただ画面に映し出されている人物を見詰めた。
 確かに、選ばれし子供には、デジタルワールドの記憶は無いと言っていたのだ。
 それなのに、何故、ミミだけがパートナーの事を覚えていられたのか、それはきっと誰にも分からない事であろう。

『そして、何かに導かれるように、今、日本に向かっておる。太一、ミミの乗ったその飛行機が………』
「えっ?おい、じいさん?!」

 突然画面が乱れたかと思うと、そのまま電源が切れてしまう。
 何も映さなくなった液晶画面を、太一はただ呆然と見詰めるしか出来なかった。
 途中で途切れたそれが、大事な言葉を奪っていったが、何を伝えたかったのか、それは自分には容易に想像できて、慌てて立ち上がる。

「アグモン!」
「……なぁに、太一??」

 直ぐ傍で眠っていたパートナーを揺り起こせば、眠そうに瞳をこすりながら、アグモンが上体を起こした。

「パルモン……」

 そして、その直ぐ隣で、幸せそうに眠っているデジモンを起こす。

「……んっ?どうしたの?何か、あったの??」

 こちらも眠そうに目を擦りながら自分を見詰めてくるのに、太一は思わず苦笑を零してしまう。
 何処か、緊張感のないパルモンに、それでもはっきりとした言葉を伝える為に、口を開く。

「……ミミちゃんに、会いに行こう……」

 ジッと、自分を見詰めてくる相手に、それだけど伝えれば、少し驚いたように瞳が見開かれた。

「…会えるの?」

 不安そうに尋ねられたそれに、小さく頷いて、笑顔を見せる。

「……会えるよ……ミミちゃんは、お前の事覚えてるって……」
「本当に?本当??」

 自分が伝えた言葉を確認するように、首を傾げるパルモンの質問に何度も頷いて返す。
 それに、パルモンは、嬉しそうな笑顔を見せた。

「アグモン、進化、出来るか?」
「勿論だよ、太一!」

 そして、自分へのパートナーへ視線を向ければ、ガッツポーズで返事が返される。

「一体、何があったんですやろう?」

 その瞬間、新たな声が掛けられて、驚いて太一は振り返った。
 そして、そこに居る相手を確認して、ほっと胸を撫で下ろす。

「……テントモン、皆を頼むな……」
「タイチはん?」

 誰かに、頼まなければいけなかった事。
 一番の適任者が目を覚ました事に、太一は内心ほっとしていた。

「それから、光子郎に伝えてくれ……俺が戻るまで、こいつ等の事頼むって……」

 そっと伝えられたその言葉に、テントモンが小さく、だがはっきりと頷くのを確認してから、安心したように、笑顔を向ける。

「……サンキュ、テントモン……それじゃ、ミミちゃんに会いに行ってくるよ……皆には、そう言ってくれ」
「承知しましたよって、太一はんも気を付けて……」

 そっと、見送ってくれる相手に、頷いて返す。
 そして、静かにその家を抜け出した。
 




「あれ?」

 風呂から上がった瞬間、違和感を覚える。
 明らかに、人数が足りない。

「あの人は??」
「光子郎はん」

 辺りを見回して、その人物を探そうとした瞬間、名前を呼ばれて、光子郎は振り返った。

「なんですか?」

 自分を見詰めて来る相手に、不思議そうに問い掛ければ、何処か複雑な表情が浮かべられる。

「何か、あったんですね?」

 そして、考えられる事は一つだけ。
 あのメールが全ての原因だと分かる。

 だから、確認するように、今まで彼が持っていたあのノートパソモンを手に取ると、その電源を入れる為に、スイッチを押す。

「……どうして……」

 しかし、あの少年が触れた時は確かに入ったその電源は、今は何の反応も示さない。

「…伝言です……自分が戻るまで、皆を頼むと……」
「……勝手過ぎます……黙って行くなんて……」
「光子郎はん……」

 ぎゅっと、パソコンを持つ手に力が入る。
 まだ、何も話をしていないのに、もう少年の姿は何処にも見当たらない。

「…必ず、帰ってきますよって、光子郎はんは、心配する事ありまへん」
「それが、勝手なんですよ!突然ボクの前に現れて、貴方がボクのパートナーだ、なんて……そんな事言われても…」
「迷惑ですやろうか?」

 自分が言おうとした言葉を、相手が口に出した瞬間、光子郎ははっとして顔を上げる。

 本心で、そんな事を思ったわけではない。
 しかし、それを口に出そうとしていたのは、本当の事。

「……そ、そんな事…」

 思っていないと、否定が出来ない。
 本当は、何を信じていいのか、自分にだって分からないのだから……。

「信じて欲しいなんて贅沢な望みやって事、分かっとります。せやけど、わては、光子郎はんを護りたいんですわ」


                                                 



   『GATE07』です。
   そして、またしても、3人目の選ばれし子供が出てきておりません。
   いや、でも、誰が出てくるのかは、分かるように書いたつもりなんですが……xx
   はい、次に出てくるのは、ミミちゃんになっております。
   しかも、日本に戻ってくる途中……。
   これから、どうなるんでしょうかねぇ??
     
   そ、それにしても、お約束しておいて、本当にすみません。
   次こそは……xx
   その前に、バトルシーンが書けるかどうかが、謎ですね。<苦笑>