運命の輪が回る。
  ゆっくりと、しかし確実に……。
  誰にも止められないその輪が、終わりを告げる事は、あるのだろうか?

  そして、自分とは違う時間を過ごした彼等と、今、確実に同じ時間が流れ始めている。


 
                                         GATE 06


 部屋に案内されて、戸惑いながらも中へと入る。
 大人数と言う事もあり、リビングに集まると、やはり部屋が狭く感じてしまうのは、仕方ないだろう。

「実は、僕、夕飯がまだなんです。一緒に召し上がりませんか?」
「ご飯?ボク食べたい!!」

 光子郎の申し出に、一番に名乗りをあげたのは、オレンジ色の小さな恐竜。

「光子郎、夕飯って、そのコンビニか?」
「ええ、お恥ずかしい事なのですが、僕、料理出来ないので……」

 しかし、光子郎が持っているコンビニの袋に、太一が複雑な表情を見せる。
 どう考えてもこの人数では、それだけでは足りないと分かるから……。

「なぁ、冷蔵庫のモノって、勝手に使っちゃ不味いか……」
「いえ、大丈夫ですけど……料理出来るんですか?」

 一瞬考えてから言われた言葉に、光子郎が意外だとでもいうような表情で問い掛ける。
 それに、苦笑を零して、太一は小さく頷いた。

「簡単な料理くらいなら………妹が、居たから、な……」

 そしてポツリと呟かれた言葉は、やはり寂しそうに言われた。
 しかも、過去形のその言葉に、光子郎は何も言えずに、太一を見詰める。

「って、過去形は変だよな。会えないけど、まだ居るんだし……同い年になっちまったけど……」

 自分を見詰めている光子郎に気が付いて、太一が苦笑を零す。
 しかし、最後に呟かれたそれが、何故か気に掛かって首を傾げる。

「同じ年?君は、一体……」
「年齢の事か?俺は光子郎よりも、一つ上なんだぜ、こう見えても」

 不思議そうに呟かれたそれに、太一が複雑な表情で言葉を返した。
 それは、嘘偽りなど全く無い、真実。
 共に過ごしたあの時までは、確かに自分は、目の前の人物よりも一つ上の年齢だったのだ。

「……やっぱり、変ですよ……それとも、透けて見えるその姿の通り、君は幽霊なのですか?」

 信じられないと言うような表情のままに問い掛けられた言葉に、太一が苦笑を零す。
 きっと、それは自分にだって分からない質問だから……。

「ボクは、幽霊なんて、非現実なモノを信じては居ませんが、目で見た事は信じるしかありません。それとも、僕自身が可笑しくなってしまったんでしょうか?」
「光子郎はんは、可笑しくなんてありまへん。ただ、わてらの存在が、この世界に認められてないだけなんですわ」

 頭を抱え込む光子郎に、慌てて弁解するようにテントモが口を開く。
 幽霊、確かに、今の自分達を例えるのなら、それが一番近いのかもしれない。
 選ばれし子供にしか見えないその姿は……。

「認められる?それは、一体……」
「悪い、俺達にも分かんねぇんだ……ただ言えるのは、俺達の存在は、不確かなモノだって事……」

 苦笑交じりの言葉。
 それが、何を意味するのか、きっと自分にはまだ分からない。
 ただ言える事は、自分が何かを聞く度に、目の前の少年が、悲しそうな瞳を見せるという事だけ……。

「んじゃ、夕飯作るか……キッチン借りるな」

 考えをまとめるように黙り込んだ光子郎に、笑顔を見せながら言われた言葉に、はっとして顔を上げれば、テントモン以外のデジモン達と仲良くキッチンへと向かっている姿が見えた。
 その姿は、先程の悲しみなど見せない程明るく見える。

「……彼は、一人で全てを背負っているように見えます……きっと、ボクなんかでは、彼の力にはなれないんでしょうね……」
「光子郎はん……」

 ポツリと呟かれたそれに、テントモンが心配そうに名前を呼ぶ。
 目の前のデジモンが、自分の事を心配そうに見詰めているのに気が付いて、光子郎は複雑な笑顔を見せた。

「…大丈夫ですよ。……ボクは、貴方に心配ばかり掛けていますね」

 苦笑交じりのその言葉に、テントモンが大きく頭を振る。
 それに、光子郎はもう一度曖昧な微笑を浮かべた。



「ご馳走様です。お料理、上手なんですね」

 両手を合わせて頭を下げてから、光子郎がニッコリと笑顔を見せる。

「そっか?普通だと思うけど……ああ、そう言えば、最近デジタルワールドで料理作ってたから、腕が上がったかもな」
「…デジタルワールド?」

 自分の言葉に少しだけ照れたように頭を掻きながら、太一が言ったそれに、分からないと言うように聞き返す。

「あっ、えっと、デジタルワールドは、コンピュータの世界……えっと、つまり、デジタルな世界で、俺達が今まで居た世界なんだ……そこは、デジモン達の世界でもある」

 聞き返されたそれに、太一が出来るだけ、分かるようにと説明をしてくれるのだが、ますます意味が分からなくなってしまう。

「デジモンの世界?ですが、貴方は、そこに居らしたんですよね?では、貴方のような、人の姿をしたデジモンも存在して居るのですか??」
「……俺は、デジモンじゃなくって、一応人なんだよ…見えねぇかもしれないけどな……」
「す、すみません……」

 質問したそれに、苦笑を零しながら返された言葉に、慌てて謝罪する。
 謝った瞬間、太一は苦笑しながらも、『いいよ』と、言葉を返した。

「あっ!こいつ等、寝ちまった……やっぱり、疲れてたんだろうなぁ……」

 沈黙が続く中、突然太一が笑顔を見せる。
 食事が終わって、リビングのソファや床に雑魚寝状態で休んでいるデジモンの姿に、太一はそっとため息をつく。

「……俺、後片付けするな!」

 そして、まだテーブルに並べられている食器を片付ける為に重ね始める。
 そんな太一に、光子郎もそっと息を吐き出すと笑顔を見せた。

「手伝いますよ……」
「いいよ、泊めて貰ってるんだから、やらさせてくれ」

 手伝おうと伸ばした手をやんわりと遮って、言われたそれに、光子郎は再度ため息をつく。

「……分かりました。では、ボクはお風呂の準備をしてきますね。それで、宜しいですか?」
「おう!頼むな」

 ニッと笑顔を見せて言われた言葉に、思わず笑顔を返してしまう。
 そして、その場を任せて、光子郎は風呂場へと向かった。

「……不思議ですね…ボクは、人見知りするはずなんですけど……」

 相手の姿が見えなくなった瞬間、そっとため息をついて苦笑を零す。
 人見知りが激しくって、こんな風に簡単に笑う事など出来なかった。
 なのに、彼の前では、素直に笑う事が出来るのだ。
 そう、まるで、それが当たり前の事のように……。

「…全ての答えは、ボクの中にある……でしたね…」

 知りたい、と思う。
 今、分からない事が、こんなにももどかしく思えるのだ。
 それは、あの少年の事が気に掛かるから……。



 お風呂の準備をしてから、リビングに戻ると少年は既に片付けを終えていた。

「それ、どこから……」

 そして、あるモノを手に持っているのに気が付いて、不思議そうに問い掛ける。
 太一が持っていたのは、壊れたノートパソコン。
 もう使えないそれは、捨てても何ら問題ないものなのに、どうしても捨てられずにずっと部屋に置いていたモノなのだ。

「……悪い…ここに、置いてあったから……」

 しかし、自分の言葉に申し訳なさそうに謝罪され、思わず首を傾げてしまう。
 そう、確かに使えないからと、自分の部屋にずっと置いていたはずなのに、それがどうしてリビングに置かれていたのかが、分からない。
 しかし、少年が嘘をついているようには、見えなかった。

「…いえ、別に問題はないんですよ……だけど、それは壊れているモノなので……」
「壊れてるのに、持っているのか?」
「はい、どうしても捨てられなくって……理由は、分からないんですけどね」

 太一の質問に、苦笑しながら答える。
 確かに、壊れているものを何時までも持っていても仕方がない。
 だが、これだけはどうしても捨てたくないと思ってしまったのだ。

「そっか……触ってもいいか?」
「どうぞ、でも、電源が入りませんよ」

 躊躇いがちに言われた言葉に頷けば、何処か懐かしそうに太一がノートパソコンを開く。
 それを横で見詰めながら、光子郎は、思わず苦笑を零した。

「…光子郎、電源入った……」
「えっ?」

 しかし、太一が電源のスイッチを押した瞬間、それが『ピッ』と音を立てて立ち上がる。
 自分が何度試しても、動かなかったそれは、そんな事が夢だったかのように、画面には正常に立ち上がりを知らせるように文字が並んでいく。

「どうして??」

 横からその様子を見詰めている自分の目の前で、立ち上がったそれは、久振りに懐かしい画面を見せていた。

「メール?」

 そして、メールが届いたと知らせる音。

「…ネットに繋いでいないのに、どうして……」

 ノートパソコンは、今何もケーブルをつけていない。
 電源ケーブルは愚か、勿論通信用の電話線も何もない状態なのである。

「光子郎、悪い……多分、俺宛てのメールだ」

 余りにも不思議な現象に、光子郎がただ驚いて見詰めている中、太一がポツリと呟いたそれに、漸く意識を取り戻す事が出来た。

「どう言う……」
「こう言う事が出来る奴を知ってるから……ゲンナイって言うじいさんなんだけどな」

 驚いて自分を見詰めてくる相手に、太一は笑顔を見せて言葉を返す。
 自分が知る中でも、こんな事が出来る相手は、ゲンナイ意外には、考えられない。

「光子郎は、風呂に入ってこいよ。あっ!これ、暫く借りててもいいか?」
「そ、それは、構わないのですが……」
「サンキュー」

 ニッコリと笑顔を見せて、光子郎がその場を離れるのを待つ。
 見られたくないモノだと言うことを悟って、光子郎は小さくため息をつくと、進められた通りその場を離れた。

「…ごめんな、光子郎……」

 姿が見えなくなった瞬間、ポツリと呟かれたそれは、誰の耳にも聞こえる事はない。
 本当は、分かっているのだ。

 彼が、自分に分からない事を全て尋ねたいと言う事を……。

 しかし、自分が困るから、何も聞かないで居てくれる。
 その気持ちが、有難いと思う反面、教えられない自分自身に苛立ちを感じてしまうのだった。


                                                 



   きゃ〜っ!!3人目の選ばれし子供が出てきていない。
   す、すみません。光太なお話が、まだ続きそうです。<苦笑>
   でも、次こそは、3人目の選ばれし子供を!!
   ええ、お約束いたします!
  
   そんな訳で、クイズも始めてしまったこの『GATE』なのですが、謎多すぎですね。
   一体全てを知っているのは、誰なのか??(その前に、居るのか?)
   そして、ちゃんとHAPPY ENDを迎えられるのでしょうか??
   それすらも、謎なままです。<苦笑>