どうして、泣いてるんだ?
 オイラの事、忘れちまったから?

「ジョウ?」

 自分を濡らすその液体を感じながら、オイラはそっとその名前を口にする。

 ずっと、会いたかったオイラの大切な人。
 選ばれし子供の一人で、負けず嫌いなのに臆病で、でも、真っ直ぐな奴。

「泣くなよ……オイラが、泣かせてるみたいじゃんか……」

 泣かせたい、訳じゃない。
 ずっと、笑っていて欲しい。

 だけど、それは、無理な話だって事を誰よりも自分達が知っている。

「……ごめん……だけど、止まらないんだ……」
「なぁ、泣くなよ、ジョウ…」

 必死で涙を拭っている君の姿を、オイラは見詰める事しか出来ない。

 見た目が、変わった。
 なのに、その心が変わっていないのだと、不謹慎だと思いながら嬉しいと感じている自分。

 だって、オイラとずっと一緒にいた君は、何時だって必死に生きていた。
 それが、今も変わらないから……。

 だから今、君は怖いと思う気持ちを隠すように、涙を零すんだよな。

「……一体、何が起ころうとしているのか、教えてくれるんだよね?」

 そして、その涙が止まった時、初めて君がオイラを見た。
 真っ直ぐな瞳で、そしてあの時と同じように少しだけ怯えを含んだ瞳で……。

「…オイラ達にも、何が起こってるのか、分かってないんだよ……だけど、これだけは、約束できる。オイラは、何があっても、ジョウを守ってみせるから…」

 だけど、オイラには、何も説明する事なんて出来ない。

 何も分かっていない、自分達の状態。
 ただ、分かっている事は、何かが、オイラ達の大切な人を傷つけようとしている事だけ……。

「守るって……一体、何から?」

 オイラの言葉に、君がまた質問を投げ掛けてくる。
 でも、それにも、答える言葉が見つけらない。

「……それに、さっきの少年……」
「タイチの事か?」

 何も言えないオイラの言葉を促す気配の無い君が、もう姿の見えなくなった人物を探すように外を見詰めているのに気が付いて、オイラがそっと聞き返せば、驚いたような瞳が、自分を見詰めてくる。

「ごめん、何だって?」

 そして、不思議そうに聞き返されたその言葉に、オイラも意味が分からないと言うように首を傾げた。

「……タイチ…の事だろう?」

 そして、恐る恐るもう一度同じ言葉を口にしてみる。

「……何の、事だって?」

 しかし、それに再度同じ質問が返されて、オイラは、意味が分からなくって、口を開く。

「なんだよ、ジョウ!さっきから、同じ事ばっかり聞いて!!」

 進まない話。
 それに、同じ事を質問される事に、苛立ちを感じるのは、止められない。

「……ごめんよ…でも、聞き取れなかったんだ……」

 オイラの言葉に、申し訳なさそうに誤ってから、そして続けられたその言葉に、オイラは驚いて相手を見上げた。

「…聞き取れなかったって、何が?」
「だから……の事かって、言われても、意味が分からなくって……」

 すまなさそうな瞳が、自分の事を見詰めてくるのに、オイラは一瞬言葉を失った。
 聞き取れない言葉は、名前……?

「ジョウ!オイラの名前は、ゴマモン……なぁ、オイラの名前、呼んでくれるよな??」

 信じたくなくって、初めて自分の名前を相手に伝える。
 聞こえないのは、一人の人の名前だけ?

「えっ?名前??君の名前、なんて言うんだい??」

 しかし、返された言葉は、意味が分からないと言う相手のその問い掛けのみ……。

「……オイラは………」
「ねぇ、どうして、そんなに悲しそうな顔をしているんだい?」

 聞こえない言葉。
 それは、自分達の名前。
 それは、ここに存在していない自分達を表しているのかもしれない……。

 優しく問い掛けてくる君の声を聞きながら、それでもただ首を振って返す。

「…大丈夫……オイラは、それでも、ジョウの傍に居たいんだ……」

 泣き笑うようなその表情で、真っ直ぐに相手を見詰める。
 だって、君と一緒に居られる事を望んだのは、自分自身だから……。

「……もしかして……」

 オイラ達の名前が聞こえなくっても、オイラは君を守れる。

 忘れられていても、オイラが君を覚えているよ。

 臆病な君。
 そして、真っ直ぐな君。
 用心深くって、頼りない君だけど、オイラは、そんな君が大好きだから……。

「……聞こえないのは、オイラ達の名前だよ……」

 驚いて見詰めてくる瞳に、真実を伝える。
 オイラの言葉に、君が瞳を見開いた。
 こんなんじゃ、自己紹介も出来ないなんて、オイラがため息をつきながら言えば、君が少し困ったように笑みを零す。

 強がるのは、オイラの得意技。
 だって、少し臆病な君を、少しおどけながら、励ますように相手してきたのは、オイラだから……。

 少し頑固な君には、それが一番いい方法。
 だから、これからだって、おどける事が出来る。

 だって、そんな事、オイラには、大した問題じゃないから……。
 今、こうして君と一緒に居られる事が、何よりも大切で大事な事。


 ねぇ、だから、オイラは、何があっても君を守るよ。



                                             



   はい、『裏・ウラ・GATE』UPです。
   お約束しておりました、ゴマモン視点!
   いや、言葉使いが謎……xxどうか、突っ込まないでやってください…(切実)
   ゴマモンの言葉使いって、はっきり言って覚えていませんでした。
   ただ、自分の事を『オイラ』って、言っていたのだけはしっかりと覚えていたんですが……。
   また、ビデオを見直して、手直しするかもです……。
   さぁ、次は、テントモン視点だ!こっちは、今回のゴマモン以上に、厄介です…<苦笑>