今、もしも皆に会えたとしても、きっと誰も分かってはくれないだろう。
時を止めてしまった自分。
そして、確実な未来へと歩いている仲間達。
自分の時を止めたのは、誰?
それは、自分自身??
もう動かない時計の針は、二度と時を刻む事はないのだろうか……。
GATE 03
「タイチ!」
名前を呼ばれて、はっと我に返る。
考え事をしていた。
ゲートが開くと言われたのは、今晩。
だから、考えずにはいられない。
もう、帰れないと思ったあの世界に、戻れるのだから……。
「…悪い……それで?」
話を全く聞いていなかった事に反省しながら、問い掛ける。
「もう、聞いてなかったの?あのね、ボク達がこの姿で、タイチ達の世界に行くのは無理があるって、言う話をしてたんだよ」
少し呆れながらも、アグモンが自分に説明した事に、太一は素直に頷いた。
確かに、今のアグモン達の姿では、目立ってしまう。
それは、自分から見ても不自然すぎる程に、だ。
「…そうだな……ゲンナイのじいさんは、何か言ってなかったのか?」
「わて等には、何も……タイチはんは、聞いてないんですやろうか?」
自分の質問に、一瞬顔を見合わせてから、代表でテントモンが聞き返してくる。
それに、太一は考えるように腕を組んだ。
「……タイチ?」
瞳を閉じて考えている自分のパートナーに心配そうにその名前を呼べば、小さくため息をついて、瞳が開かれる。
「……ここで、話してても仕方ない。ゲンナイのじいさんの所に行こうぜ。ゲートが開く場所を知ってるのも、じいさんだけなんだからな」
自分の言葉に皆が頷くのを確認して、皆がゲンナイの居る部屋へと移動をはじめた。
屋敷の広い廊下を歩きながら、ゲンナイの部屋の襖を開く。
「…遅かったのう」
開いた瞬間、待ちわびていたようなゲンナイのその言葉に、思わず苦笑してしまう。
「……偶には、あんたの方から来てくれ……」
「年寄りを働かせるものではないぞ。そんな事よりも、ゲートの開く場所の事であろう?」
自分の言葉に、軽く言葉を返してから、ゲンナイが真剣な表情で問い掛けてくる。
それに、小さく頷いて、太一達は、ゲンナイの前に座り込んだ。
「……でも、その前に、問題があるんだ」
「問題とな?」
確かに、ゲートの事は気に掛かる。
だが、それは場所さえ分かればいい事なのだから、大した問題ではない。
それよりも問題なのは……。
「現実世界で、アグモン達の姿は問題になるんだ。騒がれる訳には、いかないだろう」
「その事なら、問題は無い」
自分の心配にキッパリとした口調で言われて、太一は思わずゲンナイを見る。
「どう言う、意味だ?」
「……わし等は、データの存在。あちらの世界では、その姿を持続出来んじゃろう。太一も、記憶しておろう、あちらの世界でデジモン達の姿は、誰にも見えなかったはずじゃ」
確かに言われたように、一度自分一人だけがあの世界に戻った時、誰もデジモンの姿など見えていなかった。
「…だけど、俺やコロモンは……」
「おぬし等の姿が見えていたのは、ヒカリだけではなかったか?」
質問された事に、太一は言葉を無くす。
あの世界に戻った時、誰に話し掛けても無視された記憶がある。
それは、自分と言うデータを普通の人間には見る事が出来なかったから……。
そして、自分の妹であるヒカリに存在を認めてもらった時、初めて太一とコロモンは、世界に認められた存在となったのだ。
「……だけど、ゲートを潜ったあの時、確かに……」
だが、全員で8人目の選ばれし子供を捜しに現実世界に戻った時、そんな事は無かったのだから……。
「……あのゲートのみが、特別だったんじゃ……しかし、あのゲートは、もう存在しておらん」
「それじゃ、ボク達の存在は、あっちでは不完全って事なの?」
ゲンナイの言葉に、アグモンが心配そうに質問する。
それに、ゲンナイは、ただ小さく頷いて口を開いた。
「そうじゃ、存在を認めてもらえぬ限り、不完全な存在のままなのじゃよ……」
静かな口調。
それが、自分の中で繰り返される。
不完全な存在。
確かに、自分達はこのデジタルの世界でしか、存在できないかもしれない。
だが、自分は、自分だけは、確かにあの世界に存在していた筈なのだ。
「……俺も、不完全な存在なのか?」
搾り出すように太一の口から出たその言葉に、ゲンナイは息を吐き出すと小さく頷いて返す。
「……あの世界で認められなければ、不完全なまま……誰にもその姿を見られる事はない。ただのデータに過ぎない」
「そんな不完全なままで、ヤマト達を助けられるの?!」
ゲンナイの言葉に、今まで黙って話を聞いていたガブモンが、質問を投げ掛ける。
それに、太一ははっとして、ゲンナイに視線を向けた。
自分の事だけしか考えていなかった事が、悔やまれる。
あの世界に行く理由を考えて、太一はただゲンナイの言葉を待った。
「問題は無い」
「本当か、じいさん」
「ああ、あの世界で認めてもらえぬだけで、お前達には、何の影響も無い。お前達は、何も変わらずに向こうに居られるじゃろう」
その言葉に、安心したように太一がそっと息を吐き出す。
あの世界に行く事、それが意味しているのは、自分が戻る為ではなく、仲間を助ける為。
「なら、問題はないな……」
「だが、それはあちらも同じだと言う事を忘れてはならんぞ」
ほっとしたように呟いたそれに、ゲンナイの言葉が続けられる。
確かに、自分達と同じこの世界のモノならば、データの存在。
それはつまり、自分達以外には、その存在を認める事は、出来ないと言う事。
「……それは、オレ達にしか、敵を見つけられないって事?」
ガブモンが不安そうな表情で、質問を投げ掛ける。
「そう言うことじゃな……」
「同じデータは、データ同士って事でんな…」
テントモンのその言葉に、ゲンナイがただ頷く。
「……良し悪しだな……人間に見えないと言う事は、それだけ誰かを傷付ける事にもなる……」
相手の攻撃を受けた時、回りに居る人を巻き込む事になる。
それは、見えない攻撃を受けると言う事だから……。
「……問題が多過ぎる……オイラ達は、ジョウ達を守りたいだけなのに……」
悔しそうに、ゴマモンが床を手で叩く。
そんな姿を見詰めながら、全員が言葉を無くした。
「……それでも、俺達がやらなきゃいけないんだろう?」
誰もが言葉を無くしている中、小さくだがはっきりとした口調で太一が言葉を続ける。
「……大丈夫、絶対に誰も傷付けたりしない。誰も、巻き込まない……俺達が守るのは、大切な相手だけじゃないはずだ」
「タイチ……そうだよ、皆!まだやってもいないうちから諦めてちゃ何も始まらないよ!」
にっと笑顔を見せた太一に続いて、アグモンが皆を元気つけるように明るい声を出す。
「そうだね、オレ達の大切なパートナーや、その人が大切だと思っている人達を助けられるのは、オレ達だけなんだ」
アグモンの言葉に、ガブモンも大きく頷いてみせる。
「ワタシは、ソラやソラのお母さんを守りたい」
「ワタシも同じだ……ヒカリや、ヒカリが大切にしている人達を守りたい……」
そっと胸に手を当てながらのテイルモンのその言葉に、誰もがただ頷いて返す。
皆の決心が固まったのを確認してから、太一はその様子をただ何も言わすに見詰めているゲンナイへと視線を向ける。
「……じいさん、それで、ゲートの開く場所は、何処なんだ?」
決心した真剣な瞳で、質問されたそれに、ゲンナイは大きく頷いて、ゆっくりと口を開いた。
「ゲートが開かれる場所は、恐らく……」
「……タイチ…本当に、大丈夫?」
心配そうに尋ねられて、太一は一瞬困ったような表情を見せる。
大丈夫と言えば、嘘になるから……。
「……平気って言えば、嘘になるな……でも、仕方ない事なんだ……」
「……タイチ…」
自分の代わりに泣きそうな表情をしているパートナーを抱き締める。
ずっと、自分の傍に居てくれて、支えてくれたパートナー。
彼が居なければ、自分はこんなに普通では居られなかっただろう。
「……今は、俺の事よりも、ヤマト達の事が先だ。大丈夫、俺は俺だよ、アグモン」
何時もの笑顔を見せる相手に、アグモンはただ複雑な表情をうかべながらも、頷いて返した。
本当に泣きたい時も、この少年が、泣かずに笑顔を見せる事を誰よりも知っているから……。
それは、誰にも心配を掛けないように……、そして、何よりも、誰にもその弱さを見せない為に……。
「タイチ!ゲートが開いてる場所を見つけたよ」
複雑なまま抱き合っている自分達に、緊張した声が掛けられる。
それに、太一はアグモンから離れると、きっと表情を厳しいものへと変えた。
「行くぜ、アグモン……皆の居る世界に……皆を助ける為に、な」
まるで自分に言い聞かせるようなその言葉に、アグモンはただ力強く頷いて返す。
そして、開かれたゲートへと、ゆっくりとその足を進めるのだった。

はい、お待たせいたしました。
『GATE 03』如何だったでしょうか?
予定では、この話で現実世界に戻れるはずだったのですが、予定はあくまでも予定でした……xx
そんな訳で、予定してました、他の選ばれし子供も誰も出てきてません。
次こそは、現実世界!!誰が、一番に出てくるかは、お楽しみに!
いや、本当誰を一番に出しましょう。
って、まだ考えてないのか、私……xx
ではでは、頑張って続きも書きます!
本当に長くなりそうですね、この話……まだまだ謎のまま続きます。
さて、これからどうなっていくのでしょう。それは、書いている本人にも謎です。<苦笑>
|