もう、帰れないと言われたあの世界。
仲間たちを見送ったあの時から、あの世界でどの位の時が流れているのか、分からない。
このデジタルワールドと現実世界の時間の流れは、異なると聞いたから……。
既に、この世界でどのくらいの時が流れたのかさえ、覚えていない。
だけど、俺の成長は、みんなと過ごしたあの時から、何も変わっていなかった。
この世界は、データーのみの世界。
だから、俺と言うデーターは、成長しないのだと言われた。そのままのデーターを保つ為に……。
そしてこの間、向こうの世界では、既に3年の月日が流れたのだと聞かされた。
何も変わっていない俺だけを残して、皆はそれぞれ成長をしているだろう。
会いたいと思う気持ちはあるのに、もう会えないと諦めている自分がいる。
あの世界へと続くゲートが何時開くのか、それは誰にも分からないから……。
GATE
「アグモン!!」
敵、本当の敵が何処に居ると言うのだろうか?
自分たちを襲ってくるデジモン達は、何時だって誰かに操られていた。
だけど、その操っているのが一体誰なのか、長い間この世界に居る自分にすら今だに、分からない。
ただ分かっている事は、襲ってくるデジモン達を、正気に戻す方法だけ……。
「タイチ!」
名前を呼ばれ、ハッと我に返る。
敵の攻撃が自分へと向けられているのを見て、慌ててその場所から飛び退いた。
「タイチ!!」
心配そうに、大きな声が自分を呼ぶ。それに答えるように体制を整えて、敵を見上げた。
「アグモン、足だ!」
そして、キラリと光る銀の糸を見付けて、アグモンへと指示を出す。
「ベビーフレイム!!」
その声と同時に、アグモンの口から炎が出て、銀の糸を焼き払った。
「やった!」
デジモン達を操っているのは、銀の糸。
細いその糸が、何故かデジモンを凶暴化させて、自分達を襲って来るのだ。
それは、この世界に居るどの属性のデジモンをも簡単に操る事の出来るモノだった。
だからこそ、今日のように、進化せずとも倒せる相手ならまだいい。
だが、これが完全体になってくると、糸を見付ける事自体も難しくなってくる。
操られているのが一体だけなら、進化できるアグモン一体の力でも何とかなるのだが、いまこの世界にパートナーの居ない他のデジモン達は進化出来ないため、かなりの苦戦を強いられていた。
そしてそれは、同時に戦えるアグモンに、かなりの負担を強いてしまっているのだ。
「アグモン、お疲れ……大丈夫か?」
「ボクなら大丈夫だよ……それより、タイチだって、疲れてるんじゃないの?」
一人戦い続けているパートナーへ心配そうに尋ねれば、逆に聞き返されてしまう。
自分を気遣ってくれる大切なパートナーに、太一は困ったような表情を浮かべた。
「……俺は、大丈夫だよ。それより……」
「タイチはん!」
言い掛けた言葉が、名前を呼ばれた事で遮られてしまう。
「テントモン」
そして、自分の名前を呼んだ相手が、自分達の方に向かってくるのを確認したアグモンが、相手の名前を大きな声で呼んだ。
「お久し振りでんなぁ……と、まぁ、挨拶は置いときまして、ゲンナイさんが呼んどりまっせ」
「ゲンナイのじいさんが?」
「はいな、もうガブモン達は、ゲンナイさんのお屋敷に集まっとります」
「ガブモン達、みんな元気なの?」
久し振りに聞いたその名前に、少しだけ心配そうにアグモンが質問する。
大人数で移動するのは危険だと判断した結果、皆がバラバラになって敵の情報を集めていたのだ。
その為、ここ数ヶ月は、太一とアグモンの二人だけで行動していたので、他のデジモン達がどうしていたのか、全く分からない状態だったのである。
「勿論でっせ。わては、あんさん等を探すのに、話はしてまへんけど、みんな元気にしてましたよって」
テントモンの言葉に、太一とアグモンが顔を見合わせて、ほっと胸を撫で下ろす。
「……そうか…それじゃ、ゲンナイのじいさんの所に急ごう」
「うん!」
自分の言葉に、アグモンが大きく頷く。
それに、テントモンも頷いて、先に歩き出した。
「アグモン、太一!」
屋敷についた瞬間、ガブモン達が出迎えてくれる。
その姿を認めた瞬間、アグモンが慌てて走り出した。
「みんな、大丈夫だった??」
「オレ達の方は、敵に襲われる事も無かったからね。それよりも、アグモン達は大丈夫だったの?」
ガブモンが心配そうに尋ねたそれに、アグモンと太一は思わず顔を見合わせてしまう。
「ワタシ達は、バラバラになってから、一度も敵に襲われなかった。タイチ達は、違うのか?」
不思議そうに顔を見合わせている太一とアグモンの姿に、簡単に状況を説明しながら、テイルモンが問い掛ける。
テイルモンの質問に、太一は複雑な表情を浮かべて、小さく頷いてから口を開いた。
「……俺達は、殆ど毎日と言っていいくらい、襲われてた……テントモンが来る前も、クワガーモンに襲われた後だったんだ」
「……どう言う事なの、タイチ??」
パタモンが、不思議そうに太一を見ながら質問してくる。
それに太一は、困ったような表情を浮かべた。
「…さぁな……でも、一つだけ言えるのは、俺が居る所為かもしれないって、事だ……」
「タイチ…」
辛そうに呟かれたその言葉に、アグモンが複雑な表情を見せる。
誰もが、そんな太一に、掛ける言葉を、失ってしまう。
何も言えないまま、重い沈黙が続く。
だが、その空気を、テントモンの明るい声が吹き飛ばした。
「タイチはん、ゲンナイさんが、呼んどりまっせ」
「ああ……」
「一体、何なんだろう??」
テントモンの声に普段の表情をとり戻した太一に、アグモンも安心したように、ホッと息つくと、興味津々と言った様子で、歩き出した太一の後を追う様に一歩を踏み出す。
そんなアグモンに、テントモンが口を開いた。
「それが、お一人でと、言っとりましたよ」
申し訳なさそうに言われたそれに、アグモンがピタリとその足を止めると、『え〜っ』と言う声で、抗議する。
そんなアグモンに、太一は笑みを浮かべて、その頭を慰めるように、ポンと軽く叩くと、了解の意を伝えた。
「……分かった。アグモンは、疲れているだろう?ここでゆっくりとしていてくれ。ガブモン、悪いけどアグモンを頼むな」
「OK、タイチ」
気遣うように、アグモンに声を掛け、直ぐ傍にいたガブモンへと声を掛ければ、当然のように返される言葉に、感謝の気持ちを伝えるように笑顔で頷いて、その視線をもう一度自分の大切なパートナーへと向けた。
「タイチ……」
不安そうに自分を見上げてくるその瞳に笑顔を見せて、安心させるようにその頭を優しく撫で、そっとその手を離して、歩き出す。
「アグモン、疲れてるんだろう?ゆっくり休んだ方がいいよ」
後ろから聞こえてくる声を振り切る様に、太一は自分を待つゲンナイの所へとその足を進めた。
そんな太一の後姿を見送っているアグモンに、ガブモンが優しく声を掛ける。
「でも……」
ガブモンに声を掛けられても、もう既に見えなくなった姿をそのまま見詰めるように、アグモンの視線は動かない。
その瞳は、不安そうに揺れている。
「心配しなくても、大丈夫だ。ここには、ワタシ達も居るんだからな」
「そうだぜ、心配しなくっても、オイラ達が居るんだ!タイチは絶対に、守ってやるって!」
優しい響きを持ったテイルモンの言葉と、ドンと胸を叩きながら言われたゴマモンのそれに、漸く安心したのか、アグモンが小さく頷いた。
「じいさん、俺に話って?」
襖を開いて、中に居る相手へと軽く呼び掛ける。
だが、中に居た相手が、余りにも真剣な表情で自分を見詰めて居た事で、その表情を一瞬で引き締めた。
「太一よ、お主なら、もう気が付いておろう。敵の目的が……」
ゆっくりとした口調で語られた内容に、複雑な気持ちは隠せない。
それでも、問われた事に答えるように、そっと口を開く。
「……俺………だろう?」
確かめるように言えば、小さく頷いて返される。
実際、太一も、ここに来るまで、その確信を持ってはいなかった。
ここに来て、ガブモン達の話を聞き、敵の目的を知る事となったのだ。
ゲンナイに肯定されて、太一は自分を落ち着かせるように、小さく息を吐き出す。
分かっていた答えではあったのだが、否定してもらいたかったのが、本音である。
それなのに、あっさりと頷かれた事に、複雑な気持ちは隠せない。
「………俺が、この世界に残った所為で、世界が可笑しくなっているのか?」
「そうではない。お前がこの世界に残されたのには、何か意味があるはずじゃ」
だからこそ、自分が目的であると言うその理由を知りたくって、問い掛ける。
だが、返されたのは、何時ものように、曖昧な答えとは呼べないモノ。
「……意味?アグモンに、迷惑掛けるようなそんな俺の何処に、意味があるんだよ!」
分からない事に、イライラしてしまうのは、止められない。
自分の所為で、間違いなく大切なパートナーが、疲労している事を知っているから……。
自分が狙われていたという事は、共に行動していたアグモンに負担を掛けたのは、自分の所為だと言う事。
それなのに、自分がこの世界に残された意味など、分かるはずも無い。
「敵が襲ってくるのが、何よりもの証拠だわい」
しかし、自分の言葉に落ち着いた声が返される。
その言葉に、太一は、一気に冷静さを取り戻した。
確かに、意味が無ければ、自分が襲われる事は無い筈である。
太一は、自分を落ち着かせるように、大きく息を吐き出す。
「…で、俺に話って?」
落ち着いた頭で、ここに呼び出された理由を問い掛けた。
「……ゲートが開かれようとしておる」
自分の質問に、重い口調で言われた言葉。
だが、一瞬その言われた言葉の意味が理解できずに、太一は思わず首を傾げて、問い掛けれしまう。
「…ゲート?」
「お前さん達の世界へと繋がるゲートじゃよ」
説明するようなその言葉さえも、今の太一の耳には届かない。
自分が、帰れなかった世界。
この世界に残されて、一体どれくらいの時が流れたのかさえ、もう覚えてはいない。
一度だけ聞かされたのは、あの世界では既に3年もの月日が流れていると言う事だけ。
その時感じたのは、一人だけ取り残されたと言う想い。
「今、わしが言える事は、敵の目的が、選ばれし子供達の抹殺と言う事……」
自分の考えに夢中になっていた太一の耳に、信じられない言葉が聞こえて、その顔を上げて、相手を見詰めた。
聞かされた言葉が、信じられなくって、いや、信じたくなくって、ただ相手をそのまま凝視してしまう。
「ゲートが開かれるのを、わしの手で止める事は出来ん。太一よ、仲間を救えるのは、お前しか居らんのだ」
だが、続けて言われる言葉は、先ほどの言葉を否定するモノではなく、更に現実を、自分へと知らしめるものでしかなかった。
今、あの冒険を共にした仲間達には、このデジタルワールドでの記憶は無いのだと聞かされている。
なのに、そんな子供達さえも、敵は容赦なく標的にしていると、ごく当たり前な事のように言うのだった。

8月1日に、スタートしたモノです。
ええっと、手直しも結局何もしてませんが、大丈夫かなぁ??
2話と同時UP!(って、これは再UPだし……xx)
更に、’04年5月6日に、修正いたしました。
こんなに、下手な小説で、本当にすみません。
2年前の私って、本当に駄目駄目。(それは、今も同じ)
こんな読み難いものを、読んでくださる皆様、本当に有難うございますね。
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