「だから、何でそうなるんだ!」
言われた事に反発するような言葉が返ってきて、思わず溜息をつく。
「さっきから説明しているだろう。二手に分かれた方が、効率的だと!!」
「それは聞いた。だから何で、メンバーがこうなるんだよ!」
呆れたように呟く相手に、太一が納得いかないとばかりに声を荒げる。
事の起こりはこうだった。
森の中の探索。
この広い森の中で、食料の調達と休めそうな場所を探す事。
そんな話から、言い合いは始まったのだ。
「ミミちゃんとタケルがここに残るのは分かる。んでもって、百歩譲って空が残るってのも分かるけど、だからって、何で俺とお前が一緒に行動しなくっちゃいけねぇんだよ!」
「太一、その百歩譲ってとは、どう言う意味かしら?」
太一の言葉に、ニッコリと笑顔を見せて言われたそれに、思わず背筋が寒くなるのは止められない。
「・・・いや、だからその・・・・・ほら、タケルとミミちゃんだけじゃ危険だから、空が残るって言うのは賛成って意味で・・・・・深い意味なんてねぇんだけどな」
空の言葉に渇いた笑いを見せながら、太一が慌てて弁解の言葉を告げた。
「そう?だったら、二人とも早く行ったほうがいいんじゃない。丈先輩達、もうとっくに居なくなちゃってるわよ」
太一の弁解にニッコリと笑顔を見せてから、空がそのまま森の中を指差して行くように指示を出す。
確かに、丈と光子郎の姿は、既に見当たらなくなっている。
勿論、テントモンやゴマモンの姿もであるが・・・。
「諦めろ!行くぞ、太一・・・・・空、すまないが、タケルの事頼むな・・・・・」
「心配しないで・・・二人とも気を付けてね。勿論、アグモンとガブモンもね」
優しい笑顔を見せる空に、ヤマトも笑い返す。
「それじゃ、ボク達も行ってくるね」
アグモンが嬉しそうに手を振るのに、空が笑顔を返した。
「いってらしゃい、アグモン、ガブモン」
優しい笑顔を見せて、デジモン2匹を送り出す。
「お兄ちゃん、太一さん、いってらっしゃい!」
「みんな、気を付けてね」
ミミとタケルも離れて行く二人と2匹を見送るように手を振った。
「・・・・・・まったく、世話が焼けるんだから・・・・・」
二人の姿が完全に見えなくなってから、空は呆れたように溜息をつく。
「行ったみたいだね」
そんな自分に、後ろから声が掛けられて、空は驚いて振り返った。
「丈先輩!それに、光子郎くんも・・・・まだ、居らしゃったんですね・・・・」
自分たちの姿に驚いている空に、苦笑をこぼして丈が溜息をつく。
「まぁね・・・・ああでもしないと、太一の奴、納得しないだろうからね」
少し諦めたように呟いて、丈は苦笑を零した。
「それに、ヤマトなら、なんの疑問も持たれずに太一を元気付けてやれるだろう?」
「・・・・・・気付いてらしたんですか?」
丈の呟きに、空が驚いたように返したそれに、丈と光子郎はお互い顔を見合わせて小さく頷きあう。
「分かりますよ。太一さんが最近夜、まともに寝ていないって事、皆さんも気付いているんでしょう?」
「・・・・ボク、知っている!太一さん、夜ボク達から離れて休んでいるの・・・・・でも、どうしてなんだろう?」
光子郎の言葉に、タケルが一番に名乗りをあげる。
それに空達は困ったような微笑を浮かべた。
ここ数日、太一は自分たちから少しはなれたところで何時も休んでいるというのは本当の事。
それは、魘されて自分達を起こさない為に太一が取った行動。
「太一さんは、責任感の強い人ですから、僕達に余計な心配を掛けたくないという気持ちは分かるのです。ですが、このままにしておいては、太一さんの体が参ってしまいますから・・・・・・」
自分達に迷惑をかけないようにしてくれているのは分かるが、苦しんでいる太一を放っておく事など出来ない。
起きている昼間は、自分達に心配かけないように明るく振る舞っているが、夜は殆ど寝ていない事もちゃんと知っている。
そして、寝不足から来る軽い貧血を起こしている事にも気付いているのだ。
「だから、ヤマトに太一を任せたんだよ」
丈のその言葉に、空は頷いて返した。
「そうですね。でも・・・・・あの二人の事だから、喧嘩しなきゃいいんですけど・・・・・・」
意見に納得しながらも、何時も軽い衝突をしている二人だけに、その事が心配になるのは仕方ない事だろう。
空の言葉に、光子郎と丈は顔を見合わせると、思わず苦笑を零してしまうのだった。
「タイチ、本当に大丈夫?」
自分についてくるように歩いているアグモンが心配そうに訊ねてきた事に、太一は一瞬不思議そうな表情を見せる。
「何が、大丈夫なんだ、アグモン?」
「だって、顔色悪いよ・・・・」
言い難そうに言われたそれに、一瞬太一の表情が硬くなった。
「・・・・な、何言ってるんだよ、アグモン・・・・俺はこんなにも元気だぜ!心配ないって」
だが、直ぐに何時もの笑顔を見せると、アグモンを安心させるようにガッツポーズをとる。
そんな二人の遣り取りを、数歩前を行くヤマトは無表情に見詰めていた。
「ヤマト・・・太一・・・・・」
「分かっている・・・余計な事言わなくっていい・・・・・」
後ろを気にする様に歩く自分に、パートナーのガブモンが何か言いたそうにしている言葉を遮ってから、ヤマトは苛立たしげに歩くスピードを上げる。
「あっ!おい、ヤマト・・・・」
突然スピードを上げたヤマトに驚いて、太一とアグモンは慌てたようにその後を追いかけた。
「なんだよ、急にスピード上げて・・・・はぐれちまったらどうするんだよ」
追いついたヤマトの肩を掴むと、そのままグイッと自分の方に向ける。
そして、勢いのままに文句を言った太一は、そのヤマトの表情を見て一瞬言葉に詰まってしまった。
どう見ても怒っていると分かるヤマトの表情は、正直言って迫力があるのだ。
「ヤマト・・・?」
だが、何に対して怒っているのか分からない以上、このまま黙っている訳にもいかず、太一は不思議そうに首を傾げた。
「何、怒ってんだよ?」
分からない事は、聞かなければ分からない。
だが、自分の質問に、ヤマトは急に立ち止まってしまった。
「ヤマト?」
その突然の態度に、太一も立ち止まってそのままヤマトを見詰める。
だが、下を向いているヤマトの表情は全く見えない。
「ヤマト?」
太一は心配そうにもう一度だけ呼びかけた。
そして、その肩を掴もうと手を伸ばす。
「えっ?」
だが、その伸ばした手を逆に捕まえられて、太一は驚いて手を引こうとするが、その手は強い力によって遮られてしまった。
手首を取られたまま、太一は一瞬どうしたものかと考えを巡らせる。
今だに、下を向いているヤマトの表情は読めない。
一体ヤマトが何を考えているのか分からないだけに、太一は小さく息を吐き出した。
「・・・・・アグモン、悪いんだけどさぁ、俺、喉渇いちゃたから・・・・・水、探してきてくれないか?」
「タイチ?」
突然の太一の申し出に、アグモンが不思議そうに首を傾げてみせる。
それに、太一は笑顔を見せてもう一度お願いした。
「アグモン、頼むよ」
「分かった!直ぐに見付けて来るからね!」
太一の言葉に大きく頷いて、アグモンが走り出そうとするのに、太一は思わず苦笑してしまう。
「ああ・・・・・・ガブモン、悪いけど、お前も一緒に行ってくれ、俺は、ヤマトと話、するから・・・・・・」
「・・・・・・太一・・・・分かった。ヤマトを宜しくね」
「ああ、サンキュ、ガブモン」
自分の気持ちを間違う事なく受け取ってくれたガブモンに、太一は素直に礼の言葉を述べる。
それにガブモンが答えるように頷いて、アグモンの後を追いかけるのを見送ってから、太一はもう一度溜息をついた。
今だに自分の手を掴んでいるヤマトに視線を戻して、更に息を吐き出す。
自分は、そこまで鈍くないと自任している。
そして、今ヤマトが怒っている理由が自分にあると分かってしまっただけに、太一は
どうしたものかと空いている方の手で頭をかいた。
「・・・・・・ヤマト、言ってくれねぇと、分かんねぇぞ・・・・・・」
「・・・・・・だ」
溜息をつきながら、どうしたものかと考えを巡らせて呟いたそれに、小さい声が返される。
その声があまりにも小さすぎて、太一は聞き返すように小さく首を捻った。
「えっ?」
「それは、こっちの台詞だと言ったんだ!!」
バッと顔を上げて、目の前の太一を睨み付ける。
「ヤ、ヤマト?」
自分の問い掛けに返ってきたそれに、太一は訳が分からないと言う表情をして、ヤマトの顔を見た。
そんな太一を前に、ヤマトはイライラしたように太一から視線を逸らす。
「言いたい事があるのは、お前の方だろう!!」
バッと掴んでいた手を乱暴に離して、ヤマトがその勢いのままに声を荒げる。
「べ、別に、俺は言いたい事なんてないぜ・・・・・・」
ヤマトの迫力に一瞬押されて、太一は視線を逸らしてから小さく返した。
自分の返した言葉に、更にヤマトが腹を立てたように、近くの木を殴りつける。
「嘘だ!じゃあ聞くが、お前最近寝てるのか?」
自分から顔を逸らしている太一の態度にイライラが増すのを感じながら、ヤマトは問う。
その問いに、一瞬太一は瞳を見開いて、辛そうに唇を噛むと自分の手をぎゅっと握り締めた。
だが、ヤマトから顔を逸らしているのが幸いしたのか、その一瞬の表情は気付かれずにすんだらしい。
太一は、体の力を抜くように深呼吸をすると、何時もと変わらない表情をヤマトに向ける。
「寝てるに決まってるだろう!何、言ってるんだよ、ヤマト・・・・・」
少し呆れたように苦笑を見せながらそう返せば、更にヤマトが怒りを表すのが分かって、太一は困った様に溜息をついた。
「・・・・・・悪かった・・・・俺、お前を怒らせるのは、得意らしいな・・・・・」
少し寂しそうに呟いて、太一は小さく息を吐き出すと、困ったような笑顔をヤマトに向ける。
「・・・・・だから、お前と一緒に行くのイヤだったんだ・・・・・俺、お前の事を怒らせてばかりだからな・・・・」
言い難そうに、だがはっきりとそう言って、太一はそのまま苦笑をこぼす。
「お前、俺と一緒だと、疲れるだろう?」
困ったような言葉に、ヤマトは何を言われているのか分からないというように太一を見詰めた。
自分の言葉に訳が分からないというような表情を見せる相手に、笑顔を見せる。
「・・・・俺に対して、何時もそんな調子だもんな・・・・・お前さぁ、気付いてないかもしれないけど、俺と居る時、いつもここに皺が寄ってるんだよなぁ・・・・・・」
自分の眉間を指差しながら、太一は更に笑顔を見せた。
そして、その笑顔を一瞬で消し去ってから、悲しそうな瞳をヤマトに向ける。
「・・・・・・それって、俺と二人っきりの時だけなんだよなぁ。理由考えてみたんだけど、やっぱり、俺がお前の事怒らせてばっかりだからってのしか考えつかなかった。それって、やっぱり俺の所為なんだろう・・・・」
断定するように言われたそれに、ヤマトは何も言えずに唇をかんだ。
『違う』と否定できない・・・それが、太一の所為だというのは、本当の事。
しかし、太一が言うような理由からでは決して無い。
確かに、太一の言うように、自分にもちゃんと分かっていたのだ。
太一と二人だけの時、自分がどんな表情をしていたかと言う事に・・・・。
だがそれは、太一が言うような理由からではない。
太一の所為だと言うのは、本当の事なだけに、ヤマトはどう答えるべきか分からずに、何も言えずに立ち尽くした。
そんなヤマトの心中など分からない太一は、諦めたような溜息をつくと、振り切りように笑顔を見せる。
「だからさぁ、俺の事なんて、気にする事ねぇから・・・・・・俺が、居るってだけでも気に入らないっていうんだったら・・・・・・・」
「違うんだ!!」
笑顔を見せたまま言われる太一の言葉を遮るように、漸くヤマトが口を開く。
突然大声で自分の言葉を遮られた太一は、驚いたようにヤマトを見た。
「そうじゃない、違うんだ」
太一が言う事を否定して、ヤマトはそのまま太一を抱き寄せる。
「ヤ、ヤマト・…」
あまりにも突然の事に、太一は驚いてその腕から離れようとしたが、意外なほど強い力で抱きしめられていたため、それは徒労に終わってしまった。
「・・…お前が、そんなんだから、俺は……」
「ヤマト・…?」
強く抱きしめられて、耳元で言われたそれに、太一は意味が分からないというように首をかしげる。
「……お前を嫌いだとか、そんな風に思った事なんてない」
「そ、それって……」
続けて言われたその言葉に、太一は信じられないというように、聞き返す。
「…嫌いな奴に、こんな事するわけないだろう!!それに、嫌いな奴の心配なんて、死んでもごめんだ」
「・・…ヤマト・…」
自分に抱き付いているその体を、思わず抱き返してしまう。
それだけ、ヤマトの言葉が嬉しかったのだ。
ずっと不安に押しつぶされそうだった心が、急に軽くなるのを感じて、太一は満面の笑顔を見せた。
「サンキュ、ヤマト」
漸く笑顔を見せた相手に、ヤマトも安心したように笑顔を返す。そして、その体を開放すると、真っ直ぐに太一の瞳を見詰めて、口を開く。
「だから、お前が感じている不安を、俺に話してくれないか?」
真剣な瞳で見詰められながら言われたそれに、太一は少し辛そうに瞳を揺らすと、そっと視線を伏せて小さく息を吐き出す。
そして、言い辛そうに話し始めた。
「・・…俺、アグモンにあんな危険な進化をさせちまった自分が、許せなかった…・みんなを危険な目に合わせて、俺の所為なのに、アグモンに余計な心配掛けさせちまった事。俺は、またアグモンをあんな風に進化させちまったらって思ったら・・…!」
「もういい!!」
自分が言わせた事なのに、ヤマトは太一から言われたそれに、もう一度その体を強く抱きしめてその言葉を遮る。
「分かったから、もう何も言うな!」
強く抱きしめられて、太一は何も言えずにそのままゆっくりと瞳を閉じた。
ずっと、抱えていた想い。
それは、あの時からずっと自分を不安にさせていたのだ。
誰にも言えずに、ずっと夢にまで魘され続けていたそれを漸く口に出す事が出来た事で、太一は自分の心が漸く開放されたような気持ちだった。
そんな安心感が訪れたせいか、急激な眠気に意識が襲われて、そのまま自分の体をヤマトに預けたまま眠りへと誘われてしまう。
「太一?」
突然感じた重さに、驚いて自分の腕の中の人物に視線を向ければ、相手は幸せそうに眠っている。
そんな太一にため息をつくと、ヤマトはそのまま太一を起こさないように場所に座り込む。
「……お休み、太一・・…」
自分の体を木に預けるようにして、太一を抱え直すとそのまま眠っている太一の耳元に囁きかける。
「・・…お前の事が好きだから、感情的になっちまうんだって言っても、お前には分からないんだろうなぁ・・・・・」
そして、自分が呟いたそれに思わず苦笑をこぼして、ヤマトはため息をつく。
「俺の気持ちを、ちゃんと理解してくれよ・…」
その後、アグモン達が戻ってきても眠っている太一が起きる事はなかった。
近頃眠っていなかった疲れが一度に出たらしい太一を気遣って、アグモン達が空達に知らせに行ってくれたのは、もう空が夕日に染められた時間になってからである。

うきゃ〜!何が書きたいのか、訳が分からなくなってしまいました。
始めは、こんなに長くなる話ではなかったんですが……xx
ただ、スカルグレイモンの後の話が書きたかっただけなのに、TVを完全に無視した内容ですね。<苦笑>
そして、予定では、もっとラブラブ状態になる予定でったのに……全然、ラブラブじゃないよぉ〜(><)
大体、寝ている太一に告白してどうするんだ、ヤマトの意気地なし!!ウチの太一は、言葉にしても伝わらないぞ!!(笑)
って、後書きで怒ってどうするんだ私……xx
気が向いたら、これの続き書いてみたいですね。でも、今は、これでおしまいです。無茶苦茶中途半端ですみません。
早く、「届かない想い」の続きも書かなくっては……xx
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