目が覚めた瞬間、自分の置かれた立場が分からなかった。
 温かなその体温をずっと傍に感じていたのは、確かな事。
 それは、夢の中でも、確かに存在していて、自分に安心と言うモノをくれた。

「……俺…?」

 既に空は、暗闇に包まれている状態であるにもかかわらず、自分が何時の間に寝てしまったのか、全く記憶にない。
 それだけならまだいいかもしれないが、ここ数日の記憶がはっきりと思い出せないでいる。

 ここ暫く、自分がまともに眠れない状態だった事を思い出して、太一はそっと息を吐き出した。

「…久し振りに、まともに寝られたのって……こいつのお陰か?」

 苦笑を零しながら、自分の事を抱き締めるような形で眠っている目の前の人物に視線を向ける。
 色素の薄い髪が、洞窟の外から入り込んでくる月の光を浴びて、キラキラと輝くのを見ながら、太一はもう一度苦笑を零す。
 今だ、自分の事を抱き締めている相手の息が密着している状態な為、頬に当たって、なんだかくすぐったい。
 そんな相手をじっと見詰めながら、太一はそっと息を吐き出した。
 そして、出来るだけ相手を起こさないように、そっとその手を外すと足音を立てないように洞窟を後にする。

 外に出て気が付く事は、満月が辺りを照らしていると言う事。
 真夜中に、何度も目を覚まして見た今までの月のように、冷たいと感じない柔らかな光。
 そんな風に感じられる位、今の自分は落ち着きを取り戻している。
 そして、今までどれだけ、自分を追い込んでいたのかと言う事に気が付いて、太一は苦笑を零した。

「……心配、掛けたって事なんだろうなぁ……」

 自分の事を抱きしめるように眠っていた相手を振り返って、ため息をつく。
 きっと、その人だけではなく、皆に心配を掛けてしまったんだろう。

「……俺らしくないよな…」

 一度の失敗で、悩んでいた自分。
 確かに、取り返しのつかない事をしてしまったと言う事は分かっている。
 その為に、自分だけではなく他の皆をも危険な目に合わせてしまった。
 そして、何よりも、大切なパートナーを傷付けてしまったと言う事実は消せない。
 だが、消せない事実だからこそ、同じ過ちだけは繰り返してはいけないのだ。

 もう、大切なパートナーを傷付けるような事だけはしたくないから……。

「……ごめんな、アグモン…」

 振り返って見詰めた先に眠っている大切なパートナーに、ポツリと謝罪の言葉を投げかける。

 良く眠っているその姿を前に、太一はもう一度体の力を抜くように息を吐き出した。
 そして、洞窟の中に自分の影が映し出されている事に気が付いて、もう一度視線を外に向ける。

「……月が…」

 自分を照らしているその月が、余りにも綺麗で、太一はそっと瞳を細めた。
 空に浮かんでいる満月。
 その月の光が、優しく辺りを照らし出している。
 その月に誘われるように、太一は皆を起こさないように注意しながら、歩き出す。

 別に、何処かに行きたいと思ったわけではないが、ただ月があんまりにも綺麗だったから……。
 月明かりのお陰で、夜なのにも関わらず辺りははっきりと見える。

「……久し振りだよなぁ…」

 そして、何気に呟いて、太一は苦笑を零した。

 この頃、まともに寝る事が出来なくって、それでも、休まなくてはいけないと自分に言い聞かせて、うとうとしては夢に魘されるように、何度も目を覚ますと言う事を繰り返してきたから、ゆっくりとした気持ちで月を見上げたのは、本当に久し振りなのである。
 月が、暗闇を照らし出すと言う事を、太一は今まで忘れていた自分に再度苦笑を零した。

「…当たり前の事なのに、忘れるなんて……」

 夜の闇を照らし出す淡い光。
 それは、本当に優しくって、心を落ち着かせてくれる。

「まるで……」

 ポツリと呟きかけて、はっとした。
 太一は、自分が零しそうになったそれに、自分でも驚いたように瞳を見開く。

「俺は、何を……」

 信じられないと言うように、自分の口に手を当てる。
 信じられないと頭では思っていながら、心では、その事に納得している自分が居るのに、太一は小さく息を吐き出す。

 ずっと感じていた温もりは、確かに自分を安心させてくれた。
 その髪の色だって、この月の光に似てなくもない。
 だけど、それを全て認めるには、自分はまだ子供で、何も分かっていないのだ。

 彼とは、何度も言い合いをしたから……。

 一番気が合わないと言うように、彼は何かに付けて、自分に文句を言う。
 口喧嘩だけじゃなくって、殴り合いの喧嘩だって何度もしている。
 彼と、気が合わないと思うのは、そんな理由もあるからだ。

 だが、自分から仕掛けた喧嘩など一度も無い。
 何時も彼から、自分に対して文句を言うのだ。
 だから、何時も思う。

 自分は、彼に嫌われているのだと……。

 自分と一緒に居る時、何時も眉間に皺を作って、自分の事を睨んでいる彼。
 その度に、ずっと胸が痛かった。

「……俺に対しては、違うんだよなぁ……」

 彼が自分の弟に接する時、この月の光のように優しく感じられるのは、きっと間違いではないだろう。
 だが、自分を前にした彼は、きっとこんなに穏やかなままでは居てくれない。

 それなのに、あの自分を抱きしめて眠るようにしていた彼は、確かに自分にとって安心できる場所だったのは、本当の事なのだ。

「……嫌われているのは、分かってるんだけどなぁ……」

 ポツリと呟いて、苦笑を零す。
 それが分かっていても、嫌われている理由が分からない。

 自分は、彼を嫌いではないから……。
 出来れば、好きになってもらいたい。
 その為に、気に入らないと言うところは直したいと思っているのだ。

「…無理、なんだろうなぁ…」

 自分の呟いたそれに、太一は苦笑を零す。
 一度人を嫌いになったら、その人の嫌なところしか見えなくなるものである。
 だから、相手から好きになってもらう事は、難しくなるのだ。

「……俺は、嫌いじゃないのに……」

 ポツリと呟いて、太一は盛大なため息をつく。
 ずっと、眠れなかった自分を気遣ってくれた優しさ。
 そして、弟の事を大切にしている彼を、どうしても嫌いにはなれない。
 自分と一緒に居ると、何時も不機嫌な表情をしているのを知っている。
 そして、何をしても彼には気に入らないと言うのも分かるのだ。

 だけど、これが自分で、変える事など出来ない。
 好きになってもらいたいのに、どうすれば好きになってもらえるのか、分からないのだ。

「……バカ、だよなぁ……」

 自分が自分である以上、きっと彼からは好きになってもらえる事などないだろう。
 そう思うと泣きたくなってくる。

「……やば…涙腺、可笑しくなってる……」

 一滴の涙が頬を流れた事に、太一は思わず苦笑を零した。

 考えれば考える程、思考はどんどん暗い方に流れていってしまうのを止められない。
 ゆっくり休んで落ち着いていたはずなのに、今の自分は、どうしても前に進む事が出来ないでいる。

「……情けない……」

 止まらない涙に、太一はその場にしゃがみ込む。
 拭っても拭っても流れてくるそれに、小さく呟く。

「……嫌われたくなんて、ねぇよ……」




 目が覚めた瞬間、確かに寝る前まで自分の腕の中にあった存在が無い事に気が付いて、ヤマトは慌てて起き上がった。
 すっかり眠気の吹き飛んだ頭で、その存在を探すように辺りを見回す。

 だが、その姿を見つける事は出来なかった。

「…何処に……」

 何か、嫌な予感がするのを感じて、ヤマトは急いで洞窟の中を後にした。
 勿論、他のメンバーを起こさないように注意しながら、見えないその姿を探すように辺りを見回す。

「…せめて、ガブモンだけでも、起こせば良かったか……」

 昼間、この辺りを探索してあったが、夜も安全と言う保証は何処にも無い。
 それだけに、一人で出てきた事を、少しだけ後悔してしまう。
 だが、今更戻る事など出来ない。

「……これ以上、人に心配させるなよ……」

 最近、ずっと彼の事を心配しているように思う。
 眠れない為に、貧血を起こしていたのだって知っていた。
 それでも、自分達に心配かけまいと、元気なフリをして笑う彼の姿に、イライラしていた自分を知っている。
 だから、一刻も早く彼を見つけて、安心したいのだ。
 勿論、心配するのが嫌な訳ではない。
 ただ、彼が苦しんでいるのが嫌なのだ。
 それが、自分のわがままだと分かっていても、彼には何時でも笑顔で居てもらいたいと思うから……。
 洞窟から距離の離れていない場所で、蹲っているその人物を見つけて、ヤマトはホッと息を吐きだした。

 しかし、声を掛けようとした瞬間、その肩が小さく震えている事に気が付いて、息を呑む。
 声を殺して肩を震わせながら泣いているその姿に、声が掛けられない。
 泣いている所など、見た事はなかった。
 不安をぶつけてくれたあの時でさえ、太一は自分に涙を見せる事は無かったのだ。

 だから、強いのだとずっと思っていた。
 どうして、そんな風に思ったのか、自分自身が信じられない。

 そう、太一は、自分と同じ子供だと言うのに……。 
 それは、強いのではなくって、ただ弱いところを見せてはくれなかっただけ……。

「……太一…」

 小さく震えている背中に呼びかければ、ピクッと体が反応をする。
 そして、驚いたように、太一が振り返った。
 自分を見詰めてくるその瞳から、涙が流れていく。

「…な、なんで…なんで、お前が来るんだよ!お前以外なら、俺は何時もみたいに笑えたのに!!」

 バッと立ち上がって、大きな声で言われたそれに、ヤマトは驚いて言葉が出てこない。
 太一の瞳からは、止まらない涙が、溢れている。

「………俺だと、駄目なのか?」

 そして、自分から顔を逸らした太一の耳に、ポツリとした問い掛けが聞こえてきたのは、重い沈黙の後だった。
 一瞬何を言われたのか分からずに、乱暴に拭った所為で少し赤くなった瞳を相手に向ける。

「俺、以外なら、いいのか?」
「…何、言って……」

 聞かれている意味が分からずに、太一が尋ねようとした瞬間、突然強い力で腕を掴まれて引き寄せられてしまう。

「ヤ、ヤマト!?」

 余りにも突然だった為に、太一はそのままヤマトに抱き締められる。
 そんなヤマトの行動に、太一は更に泣きたくなるのを、ぐっと堪えて、相手から離れようと暴れだす。
 自分の腕の中で暴れている太一に、ヤマトは更に腕に力を込めた。

「……嫌いな癖に……俺の事、嫌いなのに、なんでこんな事、するんだよ!」

 自分を離そうとしない相手に、太一がまた溢れてきた涙を拭えないまま、キッとヤマトの事を睨みつける。
 そして、その涙の溜まった瞳で睨みつけながら言われた言葉は、ヤマトを驚かせるには、十分な威力を持っていた。

「…誰が、誰を嫌ってるって?」

 そして、思わず聞き返したその言葉は、余りにも間抜けだったかもしれない。
 だが、言われたそれに、今度は太一も驚いたように瞳を見開いた。
 そんな二人が、ただ呆然と互いを見詰め合っていたのは、周りから見れば笑いを誘ったかもしれないだろう。
 それだけ、二人とも驚いたように互いを見詰めていたのだから……。

「…だから、ヤマトが、俺の事……」
「俺は、お前の事を嫌ってない!」

 漸く口を開いた太一の言葉に、ヤマトが即答する。
 それに、太一は信じられないというような表情を浮かべて、何度も瞬きを繰り返した。
 自分は先程まで、目の前の人物に嫌われていると思って泣いていたのに、その相手からこうもキッパリとした口調で返されてしまうと、どうしていいかわからなくなってしまうのは、仕方ないだろう。

「でも、お前……」
「言ったはずだ。嫌いな奴の心配なんて、死んだってごめんだって……俺は、ずっとお前の事心配してたんだ」
「ヤマト…?」

 苦笑を零しながら言われたそれに、太一は不思議そうに首を傾げた。
 自分には、そんな事を言われた記憶は無い。
 不思議そうに自分のことを見詰めてくる太一に、ヤマトは嫌な予感を感じてしまう。

「……もしかして、記憶無いのか?」

 心配そうに尋ねたその言葉に、太一は小さくだがはっきりと頷いて返す。
 そんな相手に、ヤマトは盛大なため息を付いた。

「……記憶に残らないんだったら、告白しとくんだった……」
「ヤマト?」

 疲れたようにため息をつきながら言われたことの意味が分からなくって、太一はただ心配そうにヤマトを見詰める。

「…ごめん…俺、ここ数日の記憶が曖昧で……もしかして、迷惑掛けたのか?」

 まだ、涙の残っている瞳で自分の事を見上げてくる太一に、ヤマトは苦笑を零す。

「心配するなよ、迷惑だなんて思ってないさ……でも、俺がお前の事を嫌いだって言う勝手な解釈は、迷惑な話だな……」

 盛大なため息をつきながら、少し意地悪するように言われたそれに、太一がヤマトから視線を逸らした。

「……悪い…でも…」

 少しだけ困ったように謝罪の言葉を続けようとする太一の頭にポンッと手を乗せると、ヤマトは笑顔を見せる。

「…俺が、誤解を招くような態度とったのが原因だからな。でも、今度のは、ちゃんと覚えてろよ……俺は、太一の事を嫌いじゃない」
「ああ……」

 しっかりと自分の事を抱きしめるように、はっきりと言われたその言葉に、太一も大きく頷いて返す。
 そんな太一に、ヤマトはもう一度その体を抱きしめた。

「……だから、もう少ししたら、俺の本当の気持ちを聞いてくれよ」
「…ヤマトの本当の気持ち?」

 突然強く抱きしめられて、ポツリと呟くように言われたそれに、太一は不思議そうに首を傾げて見せる。
 自分の事を見上げてくる太一を前に、ヤマトはただ曖昧な笑顔を返す。

「ああ…そのうち、な」

 ニッコリと綺麗な笑顔を見せる相手にそれ以上尋ねる事が出来なくって、太一は小さく頷く事で返事を返した。

「……約束、だからな……」

 そして、ポツリと呟かれた太一の言葉に、ヤマトはただ笑顔を見せる。
 そして、小さくだがはっきりと太一にも分かるように、返事を返した。

「ああ、約束だ……」

 ヤマトの返事に満足そうに頷いて、太一も笑顔を返す。

「……とりあえず今は、寝ようぜ」
「えっ?ヤマト?」

 突然自分を抱きしめていた腕を離して言われたその言葉に、太一が驚いたようにヤマトの名前を呼ぶ。

「夜は、寝るもんだからな」

 笑顔で自分の腕を取ると歩き出すヤマトに、太一も否応無く付いて行く。
 今は、誰にも言えない自分の気持ちを、何時か君に話す事を約束しよう。
 それは、遠くない未来、ずっと君と一緒に居ると言う一つの約束の証。





  ― 1年後 ―

「そう言えば、あの時、デジタルワールドで約束したよな……あれって、なんだったんだ?」

 突然自分の家に来た瞬間尋ねられたその事に、ヤマトは一瞬意味が分からないと言うように、太一を見詰めた。

「……忘れたのか?そのうち、ヤマトの本当の気持ちを聞かせてくれるって、言っただろう!」

 デジタルワールドから戻って来て、毎日平穏な日々を過ごしていた自分達。
 そして、あれから何が変わったのかと言えば、そんなに仲が良くなかった自分と太一が、こうして休みの日にお互いの家に遊びに行くというのが当然になったと言う事と、父親が仕事で家に帰って来れない時、太一が自分の家に泊まりに来るのが当たり前になったと言う事。

 今日だって、父親が泊りがけの仕事をしているお陰で、太一が泊りに来ているのだ。
 そして、そんな中突然言われたそれに、ヤマトは昔の事を思い出すように頭を働かせた。

「……本当は、お前が言ってくれるの待とうと思ってたんだけど、1年も経つのに、お前何も言わないし……だから、ずっと気になってたんだ……」

 言い難そうにポツリポツリと口を開く太一を前に、ヤマトは必死で記憶を探った瞬間、思い出した内容に、一瞬でヤマトの顔が真っ赤に染まる。

「ヤ、ヤマト?」

 突然顔を赤くしてうろたえているヤマトを前にして、太一は訳が分からないと言うように、首を傾げた。
 どうして、ヤマトの顔が赤くなったのか、理由が分からない。
 自分の話していた内容は、そんなに動揺を誘うものだったのだろうか?

「……お、お前、覚えてたのか?!」

 真っ赤な顔のまま、ヤマトが大声を出す。
 それに、太一は少しだけ複雑な表情をして見せた。

「…それって覚えてて、迷惑な内容なのか?」

 少しだけむっとした表情をして、ヤマトを見る。
 ヤマトは、確かに自分の本当の気持ちを教えてくれると言った。
 だから、ずっと覚えていたのに、それをそんな風に言われると、やっぱり少しだけ不機嫌になってしまうのは止められない。

「……迷惑とかじゃなくって……お、お前が覚えてるなんて、思ってなかったんだ!」

 信じられないと言うような表情で言われたそれに、太一の表情が険しくなる。

「……どうせ、俺はお前と違って記憶力ないよ……だけど、自分から約束しておいて、そんな風に言う事無いだろう!」

 少しだけ怒ったように返されたそれに、ヤマトは慌てて首を振った。

「ち、違う!そう言う意味じゃなくって……だから……」

 真っ赤になった顔のまま、何とか説明しようとするが、上手く説明できない。
 必死で言い訳をしようとしているヤマトを前に、太一は訳が分からないと言うような表情をする。

「…だから、何が言いたいんだよ、お前……」

 先に進まない会話に、呆れたようにため息をついてしまうのは止められない。
 先程から顔を赤くして慌てているヤマトを見る事自体は楽しいのだが、会話にならないのには、流石に困ってしまう。

「えっと、だから……俺の気持ちって言うのが……」

 身振り手振りまで入れて言葉を続けているのに、その先に進まない。
 ただ、慌てているヤマトの姿に、太一はそっとため息をついた。

『……こいつ、変わってないよなぁ……』

 動揺しているヤマトを前に、のんびりとそんなことを考えて苦笑を零す。
 あの冒険で、ヤマトのパートナーデジモンだったガブモンが言っていた事を思い出して、太一はもう一度苦笑を零した。

「ヤマトは照れ屋だから……」
「はぁ?」

 ポツリと零したその言葉に、驚いてヤマトが声を上げる。
 突然言われたそれは、自分のパートナーが口癖のように言っていた事。

「ガブモンの言う通りだよなぁ……お前、本当に照れ屋だったんだ。俺、今までそんな風に思ったこと無かったから、何か新鮮vv」

 嬉しそうに笑っている太一を前に、ヤマトは一瞬どう反応を返せば良いのか悩んでしまう。
 今まで、自分が何も言わなかったが為に不満そうな表情をしていた相手が、今は嬉しそうに笑っている。
 いや、確かにあの内容についてこれ以上突っ込みを入れられたら、困っていただろうが、既に話がずれていると言う事に、本人は気が付いているのだろうか?

「た、太一?」

 複雑な表情で相手を見詰めれば、太一がニッコリと笑顔を見せた。

「んっ、まだお前の気持ち聞くの早かったみたいだから、もう少しだけ待ってやるよ……でも、絶対に聞かせてくれよな!」

 びしっと自分を指差して言われたその言葉に、ヤマトは少しだけ驚いたような表情を見せたが、直ぐに笑顔を作った。

「ああ、約束する……今度は、俺からを伝えるから、聞いてくれ……」
「……絶対、約束したからな!」
「ああ…」

 念を押すように聞き返された事に頷いて見せれば、満足したように笑顔を見せる。
 そんな相手を前に、ヤマトはホッと胸を撫で下ろした。
 今すぐに、自分の気持ちを伝えられないのは、まだ自分に勇気がないから……。
 そして、今はこのままで居られる関係を大切にしたい。

「なぁ、ヤマト……」
「んっ?」

 何気なく名前を呼ばれる事が好き。
 そして、自分を見詰めてくれる真っ直ぐな瞳が、大切。

「俺は、ヤマトの事、好きだからな……」
「えっ?」

 そして、ポツリと呟かれたその言葉に、ヤマトは一瞬何を言われたのか理解できなかった。

「だから、お前の気持ちってヤツ、ちゃんと話してくれよ……約束、だからな!」

 ニコッと少しだけ照れたように頬を赤くして言われたその言葉に、ヤマトはただ呆然としてしまう。
 何時だって、突然の行動に驚かされる。

 だけど、それが嫌じゃない。
 漸く我に返って、言われたその言葉を自分の中で整理してから、ヤマトは苦笑を零した。

「……本当、お前には適わないよなぁ……」
「…どう言う意味だよ!」
「……そのまんまの意味だ……分かった、俺の負け!今言うよ、俺の気持ち……しっかり、聞けよ」

 苦笑を零しながら、しっかりと相手を見詰めて言葉を続ける。
 言い終わった瞬間の相手の顔を、きっと一生忘れないだろう。

 それは、自分達が、お互いの気持ちを伝えられた瞬間。
 あいかわらずな自分達の関係から、また少しだけ何かが変わった一瞬。

 言わないと伝わらない。
 だから、今君に、本当の気持ちだけを伝えよう。






   はい、お疲れ様でした。
   そんな訳で、『あいかわらずなボクら』続編手直し版、如何だったでしょうか?
   ……再UP希望してくださったかいてー様、すみません(><)
   見事に期待を裏切ったと思います……xx 
   ただ、1年後の彼らが書きたかっただけなのです。でも、進歩してないよ、二人とも(T-T)
   しかも、ヤマトさん、太一から告白させてるし…駄目じゃん…xx
   でも、念願を果たせましたので、満足です。(これを人は、自己満足と言うんです<苦笑>)
   
   お付き合いしてくださって有難うございましたvv
   ・・…そ、それにしても、前作とあわせると、話し繋がってないよ、これ……xx(駄目過ぎ、私 ><)