何がどうしてどうなったのか、家に戻ると、ほのぼの家庭が展開されていた。
 しかも、自分の妻が、事もあろうに、誰の子供か分からないモノを抱いている。

「た、太一??」
「おう、お帰りヤマトvv」

 ニッコリと笑顔で言われた言葉に、思わず笑みを返すが、今のこの状況を正直って説明してもらいたい。
 よく見れば、太一が抱いている子供は、一乗寺と京ちゃんの一人息子だと分かる。

「お帰りなさい、ヤマトさん。お邪魔してますねvv」

 ニコニコと何時もの笑顔で、挨拶をくれたのは、太一にとっては可愛い妹。
 俺にとっては、永遠のライバルのヒカリちゃん。

「あっ、いや…いらっしゃい、ヒカリちゃん……で、太一、どうなってるんだ?」

 何の説明も受けていないこの状況に、俺は取り合えずヒカリちゃんに返事を返してから、太一へと質問を投げ掛けた。
 何で、一乗寺と京ちゃんの子供が、家に居るのかを頼むから、説明してくれ!!

「あれ?俺、説明してなかったか?」

 だが、俺の質問に、意外そうな表情で太一が質問を返してくる。
 いや、だから説明されてたら、こんなに驚く訳無いだろう。

「……貰ってない」

 少しだけ不機嫌そうに返せば、太一が困ったような笑みを浮かべる。

「だっけ?悪い、説明した気で居た。えっとな、今日、京ちゃんが友達の結婚式で出掛けてるから、治の事預かったんだよ。賢も最近色々忙しくって、殆ど家に戻れないみたいだからな」

 簡単な説明に、少しだけ納得。ヒカリちゃんが居る事も、何となくだが、理由は想像できた。

「そう、なのか……」
「おう!ほら、治、ヤマトにお帰りって、言ってやれ」
「かえりっ、ヤート」

 太一に言われて、抱かれている子供が、俺に手を伸ばしながら、片言の挨拶をしてくれる。

 『ヤート』って、俺の事だよな??

「た、ただいま、治……」
「それじゃ、夕飯食べようぜ。お前が戻ってくるの、皆で待ってたんだからな」

 ニッコリと笑顔を見せて言われたその言葉に、本当にほのぼの家庭と言うか、ホームドラマのような言葉が、自分を迎えてくれて、正直って幸せを感じずには居られない。

 俺に治を預けて、太一はキッチンへと入っていく。
 それを見送りながら、幸せを噛み締めてしまった。

「…ヤマトさん、治くんが、居るんですから、教育上悪い事は、お兄ちゃんに一一切しないで下さいね」

 だが、俺の幸せは、ニッコリと花のような笑みを浮かべた彼女の言葉によって、打ち砕かれてしまう。

 って、俺、今日は太一に何も出来ないのか??

「当たり前です。子供の目の前で、何をするつもりだったんですか?」

 ニコニコ笑顔なのに、暗黒の海が見えるのは、気の所為では無いだろう。
 しかも、心で思っただけなのに、何でばれてるんだ?

「どうしたんだ?」
「いや、何でも……」

 料理を運んできた太一が、不思議そうな顔で問い掛けてきたそれに、ただそう言って返事を返す。

「なら、いいけど……兎に角、飯にしようぜ!頑張って作ったんだから、ちゃんと食べてくれよな」

 そう言って目の前に並べられた料理は、何時も以上に野菜が沢山の、バランスのいい食卓と言うものであった。
 子供が居るからと言う、太一らしい献立。

「治は、ちゃんと、野菜も食べられるもんなぁ」

 そう言いながら、治が野菜をちゃんと食べれれば、きちんと誉める。
 何処からどう見ても、母親のようなその姿に、俺は知らず内に笑みを零す。

 子供って、やっぱりいいよなぁ……。
 これが、俺と太一の本当の子供なら……。

「ヤート、はい、あ〜んして」

 ぼんやりとそんな事を考えていた俺に、子供独特の声が掛けられて、意識が引き戻される。

 そして、目の前には、ホークに刺したニンジンが…。
 言われるままに口を開けば、そのままそれを口へと運ばれる。

「おいし?」
「ああ……」

 小首を傾げての質問に、思わず頷けば、ニパッと嬉しそうな笑みを浮かべた。
 しかし、その笑みを前に、俺にはある事に気が付いた。

「……治、ニンジン嫌いだから、俺に食わせたんだろう?」
「ば〜か、違うぞ。お前がボーっとしてるから、治が心配して、くれたんだぞ」
「えっ?」

 苦手なものを人に食させようとしたのだろうと呼んだ俺のそれは、太一の呆れたような声で、間抜けな声を出してしまう。
 …子供に心配掛けるなんて、俺とした事が……。

「有難うな、治」
「ヤート、ゲンキ、でた?」
「ああ、大丈夫。ちゃんと元気でたぞ」

 俺の言葉に、治が嬉しそうに笑う。
 そんな感じで、食事は和やかと言うか、ほのぼのと勧められた。
 ヒカリちゃんが居ても、何だかどうでもいいように思えるのって、やっぱり治のお陰なのだろうか??

「それじゃ、治は、ヤマトにお風呂入れてもらえよ。一杯歌ってもらえるぞ」
「おうた、うたって、くれるの?」
「おう!俺なんかよりも、上手いから、一杯歌ってもらえ」

 食器を片付けながらの太一の言葉に、俺は一瞬我が耳を疑ってしまう。

 いや、風呂に入れるのはいいんだが、俺が、入れても大丈夫なのか?
 心配そうに太一を見れば、ニッコリと笑顔で頷かれる。いや、頷かれても……xx
 しかも、治は、目をキラキラさせて、俺の事を見ているし……。
 歌、そんなに歌って欲しいのだろうか?

「分かった、それじゃ、入ってくるな……」
「おう、いってらっしゃい!治、ちゃんと温まって来るんだぞ」
「あい!」

 ピシッと手を上げての元気のいい返事に、俺と太一は思わず笑みを零してしまうのだった。



「ほら、治」

 風呂から出た自分達に、太一が飲み物を準備して待っていてくれる。

「あーとvv」

 ニッコリと笑顔で太一から渡されたオレンジジュースの入ったコップを受け取って、治は本当に嬉しそうにそれを飲む。

「ほら、ヤマトも」

 そんな治を見ていた自分にも、治と同じオレンジジュースが差し出される。

「……オレンジジュースなのか?」

 気分的には、ビールが飲みたいと字正直に思うのだが、俺の質問にニッコリ笑顔で頷かれてしまっては、それを黙って受け取るしか出来ない。

「今日は、治が居るから、酒なし!んじゃ、次は俺が風呂入ってくるな」

 俺たちに飲み物を渡してから、満足したように太一が着替えを持って風呂場へと向う。
 それを見送りながら、俺は小さくため息をついて、渡されたオレンジジュースを一気に飲み干した。

「ヤート、お歌すっごく、じょずvv」

 飲み干したコップをテーブルに置いた瞬間、自分の隣に座っていた治が、嬉しそうにそんな事を口にする。
 確かに、風呂場では、ミニコンサート状態だった。

 もっとも、歌った曲は、童謡が主なのだが……。

「そうか、有難う、治」

 素直に俺の歌を誉めてくれる治に、俺は素直に礼を言う。
 もっとも、一様プロなのだから、ヘタだったら困るんだけどな……。
 と、そんな事を考えている俺の耳に、電話のコール音。
 それに、ソファから立ち上がって電話に出る。

「はい、石田……」
『お久し振りです、ヤマトさん』

 電話に出て挨拶をした瞬間に、よく知った声が受話器から聞えてきた。

「ああ、賢か?」
『はい、京から、治を預かって頂いていると聞いたので……』
「ああ、俺も帰ってきて知った。代わるか?」

 申し訳なさそうにそう言われて、俺がそう質問すれば、『お願いします』と言う返事が返される。

「治、賢…パパから、電話だぞ」
「…とーちゃ?」

 自分の直ぐ傍に居る治に受話器を差し出せば、不思議そうに首を傾げて、見詰めてきた。

 『とーちゃ』って、父親の事なんだろうか??

 思わずそう思っても仕方ないだろう。
 だが、そのまま返事を返さない訳にもいかないので、頷いて返す。
 そうすれば、治の顔が、パッと笑顔になった。

「とーちゃ!」

 そして、受話器に向って謎の叫び声。

『治、ヤマトさんたちに迷惑掛けてないか?』
「あい!」

 治の叫び声に苦笑を零しながらも、しっかりとした口調で問い掛けられたそれに、治が元気な声で返事を返す。

『明日は、漸く仕事も一段落して帰れるから、京が迎えに行くまで、ちゃんと大人しくしてるんだぞ』

 優しい父親の言葉に、治が大きく頷く。
 いや、でも電話の前で頷いても、相手には分からないんじゃ……。

『それじゃ、ヤマトさんに電話返して』

 治の行動を理解しているのか、満足したようにそう言われて、治は俺へと受話器を差し出す。

「賢?」
『本当に、ご迷惑お掛けしてしまってすみません。太一さんも、いらっしゃいますか?』
「いや、今風呂に入ってる」
『そうですか…では、宜しくお伝えください。僕も、明日はちゃんと帰れそうなんで……』
「分かった。お前もあんまり無理はするなよ」

 苦笑交じりの言葉に、そう返せば、『分かってます』という返事が戻る。
 それから、もう一度治へとお休みの挨拶をしてから、電話は切られた。

「電話だったのか?」

 受話器を元の場所へと戻した瞬間、後ろから声が掛けられる。
 風呂から上がって、髪を拭きながらの太一のその質問に、俺は思わず苦笑を零した。

「ああ、賢から……明日には、久し振りに家に戻れれるって……それから、ご迷惑お掛けしてすみませんって言われたな」
「迷惑じゃねぇのに、本当変な所で、似た者夫婦だな、あいつら」

 賢に伝えてくれと言われた事をそのまま伝えれば、苦笑交じりにそんな事が言われる。
 どうやら、京ちゃんにも同じ事を言われたのだろう。

「否定は、出来ないか……ほら、ジュース」
「サンキュー」

 冷蔵庫から自分たちが先ほど飲んだオレンジジュースを取り出して自分が使ったコップに注いで、太一へと差し出す。

「美味しいvv」

 俺に渡されたそれの、太一は一気に飲み干した。

「って、治は、眠たそうだな」

 そして、コップを片付けてから、ソファでしきりに目を擦っている治に、笑みを零した。

「寝るか?」
「……んっ」

 太一がそっと質問すれば、小さく頷く。それに、太一はそっと治を抱き上げる。

「治、お休み」

 太一が治を抱き上げたので、俺はそっとその近くに行って、治の額へとキスをした。

「に?」

 突然の俺の行動に、意味が分からないと言うような表情で見詰めてくる治に、俺は意味を浮かべる。

「お休みって言う挨拶。治が、いい夢見られますようにって言う、おまじないだ」
「まーじない?」
「そうだな、お休み。治」

 不思議そうに尋ねる治に、今度は太一が返事を返して、そして、今度は治の頬へと優しいキス。

 って、俺には、してくれないのに、治にはそんなに簡単にキスするのか、太一!
 思わず子供相手に本気で嫉妬してしまった自分に、突然の温かい感触。

「やーすみ、ヤートvv」

 その正体は、俺の頬へとキスをした治。そして、ニッコリとお休みの言葉。

「んじゃ、今日はもう寝ちまうか」
「あい!!」

 太一のその言葉に、元気な声で、返事がされる。
 本当に、今日は健全に終る訳だな……。

「やーすみ、たーち」

 ニッコリ笑顔で、俺にしたように太一にもキス一つしての挨拶。

 子供って、何でも真似たがるって言うのは、本当だな……。
 これは、ちょっとまずかったかもしれない。

 ちなみに今更だが、ヒカリちゃんは、俺と治が風呂に入っている間に帰ってしまったらしい。
 タケルと何か約束があったらしいので、助かったと言えば、正直な気持ちだ。

 早い時間から、寝室に入り、既に半分夢の中にいる治を真中にベッドに横になる。
 家の可愛い子供二匹は、今日はリビングの方に寝てもらう事になっているらしい。
 太一がちゃんと二匹の寝床を準備していたので、しぶしぶながらも納得しているのだろう。

「ヤマト、子供って、スゲー可愛いよなぁ……」

 ポンポンとあやすように布団の上から叩く太一のそれが気持ちいいのか、治は既に夢の住人と化している。
 そして、ポツリと呟かれた太一の言葉に、俺も気持ち良さそうな寝息を立てている治の顔を覗き込んだ。

「確かに、治は、人見知りしないから、余計にそう思うんだろうなぁ……」

 普通の子供は、母親にべったりな子が多いので、治のような子も珍しいだろう。
 こんなに親と離れていても、泣き出すことがないのだから……。
 しかも、聞き分けがいいから、手も掛からない。
 これは、京ちゃんの教育のお陰なのだろうか?それとも、賢??

「治見てると、子供欲しくなるよなぁ」

 クスッと楽しそうに笑いながら、そっと俺に楽しそうな視線を向けてくる太一に、俺は思わず笑みを零す。

「……太一が、望むなら……」

 願ってもない申し出。
 本当に、太一との子供なら、幾らだって欲しい!

「養子でも取るか?」

 だが、俺のその言葉は最後まで続けられず、太一のその言葉によって遮られた。
 確かに、俺達の間で子供が出来ないのは、仕方ないかもしれないが……。

「でも、太一の為なら、不可能も可能に……」
「こら!そう言うのは、無しって言っただろう!!治が起きる!!」

 治を挟んでいるので距離はあるけど、そっとキスしようと思って近付いた瞬間、それを察知した太一が慌てて止めに入った。

 って、キスも、駄目なのか?

「駄目に決まってるだろう!もう、寝る!!」

 顔を真っ赤にして、布団を被る太一に、思わず苦笑を零す。
 照れていると分かるからこそ、それ以上の追求もしない。

「……おやすみ、太一……それから、治も、おやすみ」

 もう一度額に触れるだけの優しいキスを落として、俺もそのまま横になる。

 たった一日だけの親代わり。
 それでも、まるで自分達に、本当の子供が出来たように思えたのは、子供と言うものが、本当に天使からの贈り物だからかもしれない。


 そして、一乗寺家では、寝る前に治が京と賢に挨拶のキスを日課にするようになったのは、石田家から、戻ってきてからであった。

  -おまけ- 

 

               

  手直しさせて頂きました。
  いや、最後の一行が書きたいが為に、手直ししたと言っても過言ではございません。
  自己満足ですが、手直しできたので、満足してます。
  それでも、やっぱり意味不明で、申し訳ない気がするのですが……xx

  本当に、95000HIT有難うございました。
  駄文しか書けない管理人のサイトですが、これからもよろしくお願いいたしますね。