何時ものように仕事から戻ってきた自分を迎えてくれた相手に、疑問が浮かぶ。

「あのね、あのね、治が面白い事覚えて帰ってきたの!!」

 『お帰り』の言葉よりも先に嬉しそうに言われたその言葉に、思わず首を傾げてしまっても仕方ない事だろう。

「……覚えてきたって……。昨日は、ヤマトさんと太一さんに、預かって貰ってたんじゃ……」
「そうなんだけど、あっ!賢くん、夜に、電話入れてくれたんだってね」
「えっ?ああ、一応…」

 元気に言われる言葉に、素直に返事を返せば、ニッコリと嬉しそうな笑顔。

「それで、治はもう寝てるのか?」
「ううん、賢くんが、戻ってくるまでは起きてるって、頑張ってるよ」
「とーちゃ!おかんなさい!!」

 ニコニコと笑う京の後ろから、パタパタと走り寄ってくる実の息子に、賢は笑顔を向ける。

「ただいま、待っててくれたのか?」
「うんvvあーね、あーね、ヤートとたーちがね、まーじないしてくれたのvv」

 自分に走りよってきた子供を抱き上げながら、言われた言葉に、賢は素直に首を傾げた。

「まーじない??」
「そう、おまじないの事ね」

 賢に抱き上げられて、嬉しいのか、ますますニコニコと上機嫌の治。そして、訳が分からないという表情をしている賢に、笑みを浮かべながら、京が通訳をする。
 それに合点がいって、賢も漸く頷いた。

「だかやね、とーちゃもどんの、まったの」

 ニッコリと笑顔で、言われた事の意味が分からないまでも、賢もその笑顔に、思わず笑みを返す。しかし、次の治の行動に、その動きが停止した。

「なっ!」
「やーすみ、とーちゃvv」

 抱き上げている自分の頬に、キスして、お休みの挨拶。

「ねっvv可愛いでしょうvv」

 それに、目の前では、嬉しそうにはしゃぐ妻と、得意げな表情を見せている実の息子の姿。それに、賢は、ただ複雑な表情を見せた。
 そして、自分がしたい事をして満足したのか、治が眠たそうに目を擦り始める。

「はい、治、治!ママにもう一回して!!」

 どう反応を返していいのか分からずに固まっている自分を完全に無視して、自分の腕から息子を取り上げた京が、嬉しそうにそう言う言葉に、賢は漸く思考をとりもどす。

「やーすみ、かーちゃ」
「はい、お休み、治vv」

 頬にキスをしてもらって、そしてキスを返す。そんな目の前の親子の行動に、賢は、複雑な気持ちを隠せない。

「ほら、賢くんも、ちゃんとしてあげないと駄目だよ」

 そして、促されたその言葉。それに、視線を向ければ、期待している息子の眼差し。
 その視線に負けて、お休みの挨拶と、キスを一つ。

「よ〜し!!家でも、これから習慣ずけ決定!!」

 そして、元気良く宣言されたその言葉に、賢はただ深いため息をついた。

「……太一さん達は、当たり前に、やってるのかなぁ……」

 京が、息子を寝かしつけに行くその後姿を見送りながら、ただ複雑な気持ちで、賢がそう呟いたのは、仕方ない事であろう。