何時ものように目を覚ませば、隣に温もりを感じる。
温かいその温もりを感じながら、もう一度目を閉じた。
朝の、この時間が好き。
まどろみの中感じられる大切な人の体温。
それが、全て自分だけのモノだと思えるから……。
相手が寝ていると分っているから、甘えるようにその胸に擦り寄る。
相手が寝ているからこそ、出来る事。
きっと、起きていたら、こんな事出来ない。
「……寝てる、よな?」
そっと、目を開いて相手の顔を見上げる。
整った顔が目の前にあって、規則正しい息遣いが聞こえて、ホッと胸を撫で下ろした。
昨日も、帰って来るのが遅かったから、疲れているのだろう。
深夜番組のロケだと言っていた。
人気バンドのボーカルだけに、仕事内容は、ハードで殆ど休みなんて無いに等しい。
「……少し痩せたんじゃねぇか……」
目の前にあるその綺麗な顔が、やつれて見えるのに眉を寄せる。
休みも無く、こうやってウチで朝を迎える事は、一ヶ月に数えるくらいしかない。
だから、少ないそんな朝だからこそ、大切にしたいのだ。
「…でも、起きて朝ご飯作らないと……今日も、仕事だろうしなぁ……」
ずっとこうして居たいと思っても、時間がそれを許してはくれない。
チラッとサイドに置かれている時計に目を向けて、思わずため息。
「……起きよう…」
諦めたように再度ため息をついて、そのまま相手を起こさないようにベッドから起き上がる。
立ち上がって大きく伸びをしてから、眠気を追い出すと、少し肌寒く感じて、小さく体を震わした。
「…寒いよなぁ…暖房入れとくか…」
寝室のエアコンを付けて、近くにあったカーデガンを羽織る。
えっと、キッチンの方も暖房を付けないと、寒くて耐えられないよなぁ。
それに、ヤマトが起きて来た時に、快適な温度で迎えたいし、うん。
自分で考えた事に満足そうに頷いて、部屋を出る前に、もう一度ヤマトへと視線を向ける。
まだ、寝てるのを確認してから、笑みを浮かべると、俺は寝室を後にした。
パタンとドアが閉まる音を確認してから、ヤマトはそっと目を開いた。
「……起きてる時に、あれ位甘えてくれるといいんだけどな……」
苦笑を零して、無くなってしまった体温を感じるように、今まで太一が居たその場所にそっと手を添える。
「…俺が、起きてないと思ってる所は、可愛いんだけどな……」
そして、思い出したことに笑いを零してしまうのは止められない。
久し振りに家で迎える朝。
それは、自分にとっても幸せで、大切なものだった。
隣に感じられる愛しい存在があると思うだけで、満たされる。
そして、何時も自分が寝ていると思って太一がそっと、自分に擦り寄ってくるそれに、更に幸せを感じてしまうのだ。
「…俺が起きてるって知ったら、怒るだろうなぁ……」
ポツリと呟いたその言葉に思わず苦笑を零して、ヤマトはそっと時計に目を向けた。
既に針は、7時半を回っている。
何時もなら、暢気に寝ている場合ではないのだが、何ヶ月振りか忘れるくらい久し振りのオフ。
勿論、その事は、太一に話してはいない。久し振りに出来たこの時間を、大事にしたい。
何時も、この家に一人だけ置き去り状態の大切な相手と、この日を過ごしたいから、一分一秒だって惜しいくらいなのだ。
「さて、俺も起きるか……」
ベッドに座るように起き上がると、大きく伸びをする。
そして、ゆっくりと立ち上がって、羽織る物を適当に掴むと、寝室を後にした。
廊下に出ただけで、部屋との温度差を感じる。
それに、小さく体を震わせて、ヤマトは持っていた上着を羽織ると、ゆっくりとした足取りでキッチンへと向かった。
既に、キッチンからは、お味噌汁のいい香りがしているのに、ヤマトは笑顔を浮かべる。
両親が離婚してからは、自分が料理をしなくっては、食べられなかった昔と違って、今は太一が自分の食事を作ってくれる。
朝起きると、料理の準備がされているというのに、始めは慣れなかったが、今では、それを幸せだと感じられるようになった。
始めは、どっちが料理を作るかで、言い合いをした事もあるけれど、自分が仕事が忙しくなった為に、家事全般は、全て太一がしてくれている。
両親が共働きであっただけあって、太一は家の事をしていたのだろう。
だから、料理は上手い。
しかも、色々なバイトをしたと言うだけあって、レパートリーの多さには、頭が下がる程である。
そんな事を考えている中、突然目の前のドアが開いた。
「…お前、こんな寒い所で何やってるんだよ!」
そしてその瞬間、少し怒ったような声が掛けられる。
それに、ヤマトは、苦笑を零すと、その相手に笑顔を見せた。
「おはよう、太一vv」
「…おはようじゃないだろう!そんな所で居たら、風邪ひくだろうが!!」
ニッコリと笑顔で挨拶をするヤマトの腕を掴むと、太一はそのまま部屋の中へと招きいれる。
キッチンは、エアコンを入れてある為に、廊下よりもかなり温かい。
その温度差に、ヤマトはホッと息を吐き出した。
「体冷やして、風邪ひいたらどうするんだよ!お前、ボーカルだって言う自覚あるのか?」
少し怒ったように言葉を投げ掛けて来る太一を前に、ヤマトは思わず笑みを零す。
自分の事を心配して、こうして怒ってくれる人が居る事が嬉しいと思ってしまうのは、止められない。
「何笑ってるんだよ!」
嬉しそうに笑っているヤマトに気が付いて、太一はますます不機嫌そうな表情を見せた。
だが、自分の事を見上げてくるその瞳を怖いとは思えない。
「…別に……太一が、怒ってくれるのが、嬉しいって思ってるんだけだ」
ニッコリと笑顔を見せて言われたそれに、一瞬太一が訳が分からないというような表情を見せた。
それから、複雑な表情をして、ヤマトを見上げてくる。
「……お、お前、俺に怒られて喜ぶなんて、変態だったのか?」
訝しげな表情をしながら、恐る恐ると言った様子で確認してくる太一に、ヤマトは苦笑をこぼす事しか出来ない。
自分が言った言葉を、そのままの意味で捉えている太一に、盛大なため息をついてしまう。
「……自分の旦那を、変態にしたいのか?」
「…いや、出来れば、したくないけど、やっぱりそんな事言われたら、なぁ…」
ポリポリと頬を掻くように言われたそれに、ヤマトはもう一度ため息をつく。
そいう相手に惚れた自分が悪いと、言い聞かせるしかないのか、それとも、鈍い相手を恨むべきなのだろうか、ヤマトの心中は複雑である。
「と、まぁ、それ以上は深く追求したくねぇから、取り合えず、早く飯食わないと、今日も仕事なんだろう?」
そして、慌てたように言われたそれに、再度ため息をついてしまうのは止められない。
「……ヤマト?」
盛大なため息をつく相手に、心配そうにその顔を覗き込むように太一が、名前を呼ぶ。それに、ヤマトは苦笑を零した。
「…今日は、オフだ……」
「えっ?オフって、休みって事か?」
苦笑を零しながら言われたそれに、一瞬意味が分からなくって、太一が驚いたように聞き返す。
信じられないと言うように、自分を見詰めてくる相手に、ヤマトは悪戯が成功した子供のような笑みを見せた。
「ああ……」
「本当の、本当にか?」
素直に頷いた自分に、再度聞き返してくる事に、笑顔で返す。
「だから、今日は太一と一緒にゆっくりと………」
そっと、太一の頬に手を添えてから、相手を抱き寄せようともう一つの手を伸ばそうとした瞬間、目の前に嬉しそうな笑顔があった為に、ヤマトはそれ以上言葉を続けられず、そのままその笑顔に見惚れてしまう。
「じゃあ、今日は、ゆっくり出来るんだな」
ニッコリと笑顔で言われた事に、頷いて返す事しか出来ない自分が、情けないと思っても、その笑顔を前にすればそれも仕方ないと、納得出来る。
「良かった…お前、この頃休み無しだったから、心配してたんだ。だから、今日は、ゆっくりと羽を伸ばしていいぜ」
もう一度ニッコリと可愛らしい笑顔で言われたそれに、ヤマトは、幸せを感じずにいられない。
「取り合えず、冷める前に飯にしようぜ……」
自分で言った事に照れたように少しだけ顔を赤くして、太一が慌ててヤマトから離れる。
照れていても可愛いと思ってしまうあたり、どうやらヤマトは重症のようだ。
しかも、テーブルに準備されている料理を前にして、再度感動。
何時もながら、太一の料理は完璧である。
「ほら、座れよ。今、ご飯と味噌汁入れるから」
「ああ……」
太一に声を掛けられて、素直に頷くと椅子に座った。何時も思うのだが、大雑把そうに見えるのに、太一はマメなのである。
色々な理由から、プロのサッカー選手を目指していた太一は、その夢を断念して、今は近くの小学生達のサッカー指導をしているだけなので、殆ど専業主夫に近い状態なのだ。
その為、家事は完璧にしないと気がすまないと言っていたのを思い出して、ヤマトは苦笑を零した。
主夫をしていたヤマトだから、家事がどれだけ大変かと言う事を知っている。
「……手を抜いても、問題ないのに……」
「駄目に決まってるだろう。お前、弁当ばっかりなんだから、栄養偏るだろう」
お茶碗にご飯を入れ、お椀に味噌汁を入れて、それをヤマトの前に置きながら、ポツリと漏らされたそれにキッパリとした返事を返す。
そんな太一にヤマトは、苦笑を零した。
「……すっかり、主婦だよなぁ……」
「お前と結婚して、もう半年だもんな。っても、お前は、殆ど家に居ないけど……」
感心したように言われた事に、少しだけ得意気に見せてからその後、苦笑を零してみせる。
確かに、ツアーなどの為に、家を空けているのは、本当の事なので、ヤマトは何も言えない。
「まっ、有名人と結婚した俺が悪いんだけどな」
少しだけ寂しそうな表情を、ニコッと笑顔に変えて言われたその言葉に、ヤマトは複雑な表情を見せた。
「……俺と結婚した事、後悔してるか?」
そして、真剣な視線を相手に向ける。
突然の質問に、太一は一瞬だけ驚いたような表情を見せたが、直ぐに笑顔を作った。
「俺さぁ、後悔とかするくらいなら、さっさと離婚して、家に帰るぜ。それをしてないって事は、後悔してないって事だろう」
ニッコリと笑顔を見せる相手に、ヤマトは真剣な顔で返事を返す。
「絶対に、後悔なんてさせないし、離婚もしないからな」
「……離婚してくれないのは、困るよなぁ……んじゃ、その時は、定番の『実家に帰らせてもらいます』くらいにしといてやるよ」
真剣なヤマトの言葉に、冗談を言いながら笑う。
そして、その笑みを止めて、真剣な表情を作った。
「でも、お前が浮気したら、考えるぞ」
「う、浮気なんてするはず無いだろう!」
突然真剣な表情になって言われたそれに、ヤマトが慌てて言葉を返してくる。
そんな相手の反応に、太一は笑みを零した。
「芸能人って、やっぱりスキャンダル多いよなぁ……俺、この前読んだ記事に、『ヤマトとモデルの不倫関係か!?』って見たんだけど……」
ニコニコと笑顔を見せながら言われたそれに、どうやら心当たりがあるのだろうヤマトの顔色が変わる。
「俺にも分かるように説明してくれるよな、ヤマトvv」
ハートマークが付いているのに、怖いと思ってしまうのは止められない。
しかし、何もやましい事など一つも無いからこそ、ヤマトはそこでため息をついた。
今までも何度かそう言った記事を書かれた事はある。
だが、今回は、写真付きと言う事で、かなり話題になってしまったのだ。
「…それは……知り合いに頼まれたんだ……ウチのバンドのメンバーに好きな奴が居るからって……もう直ぐ、真相が出るって……」
盛大なため息をつきながら言われたそれに、太一は笑みを見せた。
本当は全て知っているから、ヤマトが友人に頼まれた事を簡単に断れるような人間ではないと言う事を……。
それに、その写真の相手から、断りの電話がかかってきていたので、心配なんてしていない。
「太一?」
自分の言葉に笑顔を見せているのに気が付いて、ヤマトが不思議そうに首を傾げて見せる。それに気が付いて、太一は笑みを零した。
「……ああ、知ってる。『あんな写真信じないて下さい』って、その子から電話貰った」
嬉しそうに笑顔を見せている相手に、ヤマトは自分が試されたと言う事を知って、一瞬言葉を無くして太一を見詰めてしまう。
そんなヤマトを前にして、太一は小さく息を吐き出して、少しだけ怒ったような表情を見せた。
「ヤマトの事信じてるけど、突然女の子から電話が来たのには、驚いたんだからな!ちゃんとそう言う事は前もって話しとけよ、バカ…」
そして言われたそれに、ヤマトも自分の失敗に改めて気が付く。
確かに、前もって話していれば、不安にさせる事は無かったのだ。
仕事が忙しくって、太一とそんな話さえ出来ていなかった事に、思わず反省してしまう。
「……悪かった…」
「いいよ…お前のした事は、間違ってないんだかな」
素直に反省しているヤマトに、苦笑を零しながら、太一はもう一度小さく息を吐き出した。
そして、真剣にヤマトを見詰める。
「……でも、出来れば、もっとヤマトと色々話したい……お前、仕事で忙しいの分かるけど、俺だって、お前と一緒に居たいんだからな…」
少しだけ拗ねたように呟かれたそれに、ヤマトは驚いたように太一を見詰めた。
太一は、顔を赤くしてそっぽを向いている。
自分の正直な気持ちを言った事が、恥ずかしいのだろう。
「……ごめん、太一……俺だって、お前と話をしたいって思ってた……だけど……」
「謝るな!ヤマトが悪いんじゃないんだから……うん、ヤマトもそう思ってくれてるって、知ってる……だから、これからは、そう言う話をしようぜ。お互いに、小さな事でもいいから、話をしよう……今日は、一日あるんだろう?だったら、二人でゆっくりと色んな話をしようぜ」
ニッコリと笑顔で言われた事に、頷いて返す。
久し振りの休日、今日は二人でゆっくりと過ごそう。
まずは、朝食を食べてから、それから、二人だけで話をしよう。
久し振りだから、誰にも邪魔されないように……。
この場所は、心休まる場所。
それは、君と言う大切な人が居るから……。

はい、26000HITリクエスト小説。
リクエスト内容は、『上から下まで、ヤマ太な小説』との事なのですが、ただのラブラブ小説(T-T)
砂吐いた方、すみません。でも、書いていて、楽しかったvv
基本的に、ラブラブ書くの苦手なくせに、何故か書くのはラブ小説が多いんですよね。<苦笑>
……それって、苦手って言うのかなぁ?
それにしても、ヤマ太の新婚小説は、これで3つ目。今までの中で、一番のラブ振りを発揮してくれました。
いや、きっとこれ以上を目指すのは、難しいでしょう。(笑)
でも、そんなリクエスト受けたら、又書くかもです。って、今回は、甘々のリクエストじゃない(><)
駄目じゃん、私……<苦笑>
そんな訳で、意味不明な小説第2段となってしまいました。本当にすみません、悠美様。
こんなので、宜しかったですか?(不安……xx)
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