「幽霊?」

 突然のその言葉に、驚いて問い返す。

「あら、太一知らないの?」

 驚いたように問われたそれに、意外そうな表情を向けて空が尋ねる。それに太一は、素直に頷いて返した。

「最近クラスの子達も話してるのに……」

 素直に頷いた太一を前に、少しだけ呆れたように空がため息をつく。

「そうなのか?」

 呆れたように呟かれたそれに、太一は直ぐ傍に居たヤマトへと問い掛ける。自分が知らないと言うのなら、誰か他にも仲間を見付けたかったのだが、相手から戻ってきたのは、自分が考えていたものと違っていた。

「お前、本当に知らなかったのか?」

 ヤマトにまで呆れたように言われて、太一は言葉を無くす。確かに知らなかったのは本当の事だが、まさか自分一人だけが知らなかったと言うのは、余りにも悲しすぎる。

「って、やっぱり、ヤマトも知ってたのか……」
「知ってる。って言うか、ライブに来る子が教えてくれたんだよ」

 太一の少し拗ねたような呟きに、ヤマトが本当の事を教えた。興味は無かったが、今そう言う噂があると言うのだけは、自分も知っていたから……。

「今、その噂で学校中が賑いでいるのに、太一さんは、知らなかったんですか?」

 そして、更に追い討ちを掛けるように言われたその言葉に、太一は小さく頷くだけで返事を返す。

「最近下校時間が早くなったのは、その所為だって言われてるのよ」
「えっ?そうなのか??」

 更に空が説明した事に、驚いたように聞き返してしまう太一を前に、3人は顔を見合わせて苦笑を零した。
 確かに自分たちにとっては全く関係の無い噂話ではあるが、これだけ皆が話していると言う噂を知らないと言うのもはっきり言って驚いてしまう。

「でも、その幽霊って、噂、なんだろう?」
「それは確かに、確信ではありませんが、あながち噂だと馬鹿に出来ない所もあるんですよ」

 自分の質問に、光子郎が小さくため息をつくのに、太一は意味が分からないと言うように光子郎を見る。

「まだ分かりませんか?ボク達が集まった理由……」

 不思議そうに自分を見詰めてくる太一に、光子郎が笑みを見せた。そして、言われたその言葉に、太一は一つだけ思い当たる事がある。

「もしかして!」
「そう、デジモンである可能性があるのよ」

 思い当たった事に声を上げた太一に、光子郎ではなく空が口を開く。それに、光子郎とヤマトも同時に頷いて見せた。

「バケモンか?」
「それは分かりません。ウィザーモンのような例もありますし……」

 思わず幽霊と言うそれに太一が口にしたデジモンに、光子郎が苦笑を零しながらも小さく首を振る。幽霊=バケモンという考え方が、太一らしい。

「それを調べるのが、ボク達の役目です。それに、このお台場中学で起こっている事ですから、ボク達が動くのが正しいでしょう」
「そうね、京ちゃん達は、あっちの世界で頑張ってるんですもの」
「ダークタワーの破壊活動……一刻を争う事だからな」

 目の前で真剣な表情を見せている3人に、太一も小さく頷いて返した。確かに大輔達新選ばれし子供達が、デジタル世界で頑張っているのを知っているから……。

「そんじゃ、早速調査してみようぜ」

 そして、重い空気を断ち切るように、太一が立ち上がって声を上げる。制服のズボンについた埃を払いながら、歩き出した。

「調査って、太一さん!噂知らないんですよね?」

 突然立ち上がって校舎に向けて歩き出した太一を、光子郎が慌てて止める。

「噂?知らなねぇ……でも、校舎歩いてたら、遭遇するんじゃねぇのか?」

 立ち止まって振り向きながら言われたその言葉に、全員が同時に盛大なため息をつく。何も考えていない太一を前に、呆れるなと言う方が無理な話であろう。

「何の為に、ここで話をしてると思ってる!作戦立てずにどうする気だ、お前!!」
「だって、相手も分からないのに、どんな作戦立てるつもりだよ。そんなモン会ってみないと何もなんないだろう。それに、本物の幽霊だって言う可能性もあるんだぜ」

 呆れたようなヤマトの言葉に、太一がさらりと言葉を返す。だが、その言われた事が太一らしい上に、確かに正論である為に、思わず3人は顔を見合わせた。
 噂が本当で、出る幽霊も本物である可能性も、否定は出来ないと言う事。今更ながらに気付かされた事に、冷たいモノが背中を流れていく。
 デジモンであるなら、怖くは無い。だが、本物と言うのなら、話が変わってくるのだ。

「どうしたんだ?」

 自分の言葉に3人の顔が引き攣っている事に気が付いて、太一が心配そうに声を掛ける。

「……光子郎くん、そんな事考えてた?」
「…た、確かに、それは否定できない事ですが、でも、今のご時世に幽霊なんて……」

 引き攣る笑顔を見せる相手に、光子郎も引き攣った笑みを見せた。しかし、その光子郎の言葉を否定するようにヤマトが、ぼそりと口を開く。

「……バケモンだって、幽霊になるんじゃないのか??」

 ぼそぼそと話を始めた3人に、太一が不思議そうに首を傾げる。

「な、何でもないのよ……そ、それじゃ、行きましょう!確か、噂では、図書館に出るんだったわよね?」

 自分たちの事を見詰める太一を前に、空が意を決したように立ち上がった。しかし、その体が小さく震えているのに気が付いて、ヤマトが小さくため息をつく。

「空は、危険だから帰った方がいいんじゃないのか?」

 そして、ヤマトが一つの提案を出した。それは、女の子だからと言う当たり前の配慮。

「えっ?」
「そ、そうですね。もしも何かあっては大変ですから、空さんは、帰った方がいいと思います」

 ヤマトの提案に、光子郎も慌てて頷く。しかし、空は不満そうな表情で太一を見た。太一だけが、それを否定してくれると信じて……。

「そうだな。空は帰った方がいい。もしそれが嫌なら、光子郎と一緒にパソコンルームに居てくれ」
「ボクも一緒にですか?」

 しかし、太一から出されたのは、余りにも意外な言葉だった。それに驚いて光子郎が問い掛ける。

「ああ、もしも本当にデジモンだったとしたら、デジタルワールドに帰す必要がる。だから、直ぐにヒカリ達の誰かに連絡が取れるようにしておいてくれ。俺とヤマトが真相を確かめるから、それでいいだろう、ヤマト?」
「あ、ああ……」
「空も、それでいいか?」
「え、ええ…でも、二人で大丈夫なの?」

 太一の質問に頷いた空が、心配そうに問い返す、それに太一が笑顔を見せた。

「心配するなって!もし本物だとしても、慣れてるからな」
「慣れてる?」

 にっこりと笑顔で言われたその言葉に、3人が不思議そうに首を傾げる。『慣れている』と言われた意味が分からない。

「気にすんなって!んじゃ、30分後にパソコンルームでな!」

 そして、慌てたようにヤマトの腕を取ると屋上を後にした。後に残された空と光子郎は互いの顔を見合わせて首を傾げる。

「ところで、太一知ってるのかしら……幽霊が出るのって、カップルの前だけだって言う話……」

 しかし、その後で、ある事を思い出した空が、ポツリと呟いた。

「知らないと思いますよ。でも、あの二人なら、カップルと言えますから……」

 呟かれたそれに、光子郎が小さくため息をついて洩らしたそれに、思わず空が苦笑を零す。

「…確かに、年中バカップルよね、あの二人は……」

 苦笑と共に言われたそれに、光子郎も思わず苦笑を零してしまうのは止められない。




「確か、図書室だって言ってたよなぁ?」
「ああ……で、さっきの慣れてるって言うのは、どう言う意味なんだ?」

 確かめるように呟かれたそれに、ヤマトが再度問い掛けた。気にならない方が可笑しいだろう、あの呟きの本当の事が知りたい。

「本当に、知りたいのか?」

 真剣に見詰める先で、太一が少し複雑な表情を見せてヤマトに問い返す。

「……そりゃ、太一の事だから、気になる……」

 自分を見詰めてくる視線に、ヤマトは少しだけ照れたようにその視線を逸らした。

「そう言うモンなのか??」

 照れたように自分から視線を逸らすヤマトを前に、太一は不思議そうに首を傾げる。どうも、それが理由と言うのが納得できないようだ。
 自分が言った事を全く理解していない太一を前に、ヤマトは頭を抱え込むと、盛大なため息をつく。

「そう言うもんだ!」

 そして、少しだけ不機嫌そうに返事を返した。

「って、何で怒ってるんだよ?」

 怒ったような口調で言われたそれに、太一が驚いたように更に尋ねてくる。

「別に、怒ってない!」
「……それが、怒ってると思うぞ……」

 訳が分からないというような視線をヤマトに向けて、太一は心配そうにその視線を向けた。どうも、自分は何でも無い事で相手を怒らす事があるというのを自覚しているからこそ、心配なのだ。

「怒ってない……だから、心配するな」

 少しだけ小さく息を吐き出して、ヤマトが再度主張する。

「あっ、うん……」

 言われたそれに、太一が頷いてそれから互いの間に沈黙が流れた。ただ、二人の歩く足音だけが、静かな廊下に響くだけ。
 その沈黙に耐えられなくって、太一が躊躇いがちに口を開く。

「……あのさぁ…慣れてるって言う話だけど、ヒカリが……」
「えっ?」
「ヒカリが見える奴だから、なんて言うか、俺もそのそう言う体験って言うの慣れちまって、見えないんだけど、この辺に居るって言うのは分かるようになったって言うか……」

 重い沈黙を破って、少しだけ言い難そうに口を開いた太一の言葉に、ヤマトは何処か納得したように頷いた。

「ああ。ヒカリちゃんか……って、見えるのか?ヒカリちゃん!!」
「ああ……何時もって訳じゃないと思うけど、霊体験は豊富だぞ」

 驚いたように尋ねられたそれに、太一が苦笑交じりに言葉を返す。
 小さい頃、霊体験をするという妹をずっと見守ってきたのだ。そして、自分も同じように体験をした事も、一度や二度ではなくなっている。だからこそ、慣れていると言う言葉が出てくるのだ。

「……だから、隠してる訳じゃねぇんだけど……」

 言い難そうに言葉を続ける太一を前に、ヤマトは自然と笑顔を見せた。
 自分に話せない事があると言うのに、腹が立ってしまったから、こうして話してくれたのが嬉しい。

「太一」

 だから、素直に話してくれたからこそ、自分も本当の事を話す事が出来る。

「んっ?」
「俺が怒ってたのは、太一が俺に隠し事したからだ」
「……やっぱり、怒ってたんじゃねぇかよ……」

 はっきりと言われたそれに、太一が少しだけ顔を赤くしながらもポツリと呟いた。

「ところで太一、幽霊話の事なんだが、カップルの前にしか現れないって事、聞いてるか?」
「はぁ?」
「だから、目撃してるのが、殆どカップルで、図書室が人気の無いのを良い事に、そこでデートしていた奴等が見るって言う話だぞ」

 思い出したと言うように語られるその言葉に、太一は信じられないと言うように相手を見詰めてしまう。
 勿論、そんな噂があること自体知らなかったのだから、そんな話がある事だって知らないのが普通である。

「んじゃ、何かよ、男同士で来ても意味ねぇじゃんか!!」
「いや、俺達もカップルになるだろう?」
「なるか!!世間一般では、男と女でしかカップルって言わねぇんだよ……今から、空呼んで来ようか……」
『あら、そんな必要ないわよ。十分、カップルに見えるから』

 今まで来た道を戻ろうと振り返った瞬間、太一はそのままその場所に立ち止まってしまう。
 しかも、ニッコリと笑顔を見せて立っているその少女に、言葉も出てこない。まさか、人が居ると思っていなかっただけに、今までの自分たちの会話を思い出すと、さっと血の気が引いてくる。

「あっ、その…人が居るとは思わなくって…だから、あれは……」

 見ず知らずの相手に、慌てて弁解の言葉を口に出す。今までの会話はそれだけ変なものだったから……。

「太一?」

 突然立ち止まったと思うと、急に慌てている太一を前に、ヤマトは不思議そうに首を傾げた。
 人が居るとはと言っている太一の目の前に、誰も居ない。

「お前、誰に話し掛けてるんだ?」

 心配そうに声を掛けて、その肩を叩く。

「だ、誰って、お前……えっ?」

 肩を叩きながら言われたその言葉に、一瞬理解できずにヤマトに視線を向けるが、その顔を見た瞬間、太一は恐る恐るもう一度突然現れた少女に視線を向けた。

「も、もしかして……」
『私に、会いにきたんでしょう?』

 視線を向けた先に、少女がニッコリと笑いながら、フワリと浮かび上がる。

「……やっぱり……」

 その目の前現象に、疲れたように盛大なため息をついてしまうのを止められない。
 今に始まった事ではないが、こうも普通の人間と変わらない姿をしている相手は、本当に困ってしまうのだ。

「やっぱりって、一体何があるって言うんだ?」

 一人意味の分かっていないヤマトが、太一に問い掛ける。それに、太一はもう一度盛大なため息をついた。

『あら?驚かないのね……私ってば、一応幽霊なんだけど』

 ニコニコと人の良さそうな笑顔を見せている幽霊さんに、太一は苦笑を零す。驚いたところで、事態が変わるわけではないから……。

「ヤマト、良かったな……」
「はぁ?」

 疲れたようにポンッとヤマトの肩を叩きながら言われたそれに、意味が分からずに問い返す。

「デジモンの仕業じゃなかったって事だよ」
「だから、何がだよ?」

 ため息と共に言われた事でも、まだ意味が分からない。
 一体、何の為に自分たちがここに来ているのか、ちゃんと分かっているのだろうか?

「幽霊騒ぎ!」

 呆れたように大きな声で言えば、漸く納得したと言うようにヤマトが頷く。しかし、その後、驚いたように太一を見詰めた。

「って、もしかして、今居るのか??」

 信じられ無いと言うように言われたそれに、太一はもう何度もついているため息を再度ついてしまう。

『なんたの彼氏って、鈍いわね……』 

 そして、ボソッと言われたそれに、思わず同意したくなる気持ちをぐっと堪えて、頭を抱える。

「……幽霊らしくない幽霊ってのも、問題なんじゃねぇの?」
『あら、これでも、怖がられてる幽霊なのよ。って、別に驚かしてるわけじゃないんだけどね』

 ぺロッと舌を出して笑う目の前の少女に、太一は言葉を無くした。幽霊になる理由と言うのは、色々あるから……。そして、何よりも、未練と言うものが一番強い事を誰よりも知っている。

「で、あんたの目的は?」
『やだぁ、行き成り確信を付く質問しないでよ』

 どう聞いても困っているようには全く見えないその姿に、太一は再度盛大なため息をついた。

「……悪いけど、時間無いんだ……デジモンが原因じゃなければ、大した問題でもない……」
「さっきから、一体誰と話してるんだ、太一……やっぱり、誰かいるのか??」
『酷い!可愛い女の子が、一人で寂しくこんな姿になってるのに、大した問題じゃないなんて……あんまりだわ』

 ステレオ放送で聞こえるその声に、太一がげんなりとした表情を見せてしまう。
 見えていない上に、何も聞こえていないヤマトは、幸せなのかもしれない。
 太一は、もう何度もついたため息を止まられずに、大きく吐き出した。こんな状態で疲れない方が難しい。

「……ヤマト、頼みがあるんだけど……」
「なんだ?」

 だから、一つでも問題を遠避ける為に、ヤマトへと呼びかけた。
 呼び掛けに、直ぐに返される問い掛けに思わず苦笑を零してしまう。

「ヤマトは、見えないんだよな?」
「……そ、それって、噂のヤツ……」
「まぁ、一応そうなるんだろうなぁ…ここ図書室の前だし……でも、ヤマトには見えないし、この子話聞いてもらいたいみたいだから……」

 言い難い。『邪魔だから、どっか言ってて欲しい』とは、流石に面と向かってはどうしても言えない。
 だが、このまま聞こえない上に何も見えていないヤマトの前で、空中に話し掛けて居る自分を想像すると、やっぱり遠慮したいのだ。

『……席を外せなんて、彼氏に酷い事言うのねぇ……』
「…そこまで、まだ言ってないだろう!大体、誰の所為で!!」
『やっぱり、私の所為って事かしら?』

 ニコニコと笑顔で、言われても説得力が無い。それどころか、本当に楽しそうに見えるのは、自分の気の所為だろうか?

「太一?」
『なら、彼氏にも、見えるようにすればいいんじゃないの?』
「えっ?」

 言われた事が一瞬分からずに、太一が首を傾げる。その瞬間、その少女がヤマトの後ろへと移動して、そのまま首に抱き付くような仕草を見せた。

「……ヤ、ヤマト…重くないか?」
「はぁ??」

 おんぶ状態のその姿に、思わず尋ねてみれば、意味が分からないと言うような表情が返される。

『う〜ん、これでも分からないなんて、本当に鈍いわねぇ……』

 呆れたように呟くそれに、太一はもう言葉を口にするよりもただ疲れたようにがっくりと肩を落とす。本当に、見えない人と言うのは、こんな時とことん羨ましく思えてしまう。

「太一、さっきから、何なんだ?俺にも分かるように説明してくれ」
「説明も何も、本当に分からないのか?」
「だから、何が?」

 自分の問い掛けに戻ってきたそれ。これ以上何を言っても堂堂巡りになる事を悟って、太一は盛大なため息をついた。

「…ヤマト……」
「何だ?」

 太一の呼び掛けと、ヤマトのDターミナルに連絡が入ったのは同時。それに、太一も不思議そうにヤマトを見た。

「どうしたんだ?」
「……光子郎からだ、俺に戻って来いって……太一、一度戻……」
「……悪い、先に戻ってくれよ。ああ、幽霊騒ぎは、デジモンの所為じゃないって伝えてくれていいから」
「た、太一??」

 自分の言葉に同視するだろうと思われた言葉が、全く予想外だった為、ヤマトが疑問に太一の名前を呼ぶ。

「とりあえず、説明は任せた」

 苦笑交じりに言われた事に、ヤマトは納得出来無いと言うように太一を見詰める。

「光子郎が呼んでるんだろう?戻った方がいいぞ」

 納得出来ないと言うヤマトを前に、それでも太一は何時も通りの表情で、戻る事を促した。
 ヤマトはヤマトで、ここに着てからの太一の様子が可笑しいだけに、一人で先に戻っていいものか悩んでいる。突然誰もいない空間に話し掛けるその姿を心配しない方が無理な話だ。
 しかも、ここに来る道すがら、太一から聞かされた話を考えると、きっと、第三者の誰かが居る事になるのである。

「心配するなって、害はなさそうだし、どっちかって言うと、見えない奴が居ると、話に難いんだ……ヒカリみたいな真似は出来ないけど、話を聞くぐらいは、出来るだろう?」
「……太一…」

 笑顔で言われたそれに、納得出来ないが、しぶしぶ状態でヤマトが先に光子郎達の所に戻る事になった。

 その後姿を見送りながら、太一はずっと静かに自分たちを見詰めている、その第三者へと視線を戻す。

「……あのメッセージって、あんただろう?」

 ヤマトが居なくなったからこそ、きっぱりとした口調で質問をする。
 余りにもタイミングが良すぎたから……。

『そうよ……だって、初めてなんだもん。私の姿を見ても、怖がらなかった人って……』

 自分の質問にポツリと呟かれたそれに、太一は一瞬言葉を無くす。

「……話、しよう……あんたが、納得できるくらい」