― 大好きvv ―

 タイチとヤマトが喧嘩をした。それは、いつもの事だけど、今回の喧嘩はタイチがヤマトに売った喧嘩。
 ヤマトからタイチに絡む事は多々あっても、タイチがヤマトに突っ掛かっていったのは初めての事。

「タイチ…まだ、怒ってる?」

 何も話さないタイチに心配そうに声を掛ける。だって、タイチは何時でも笑っている事の方が多いから、こんな顔は珍しい。

「……アグモン…怒ってないよ、ごめんな、余計な心配掛けちまったよなぁ……」

 心配そうに尋ねたボクの言葉に、タイチは少しだけ困ったような表情で笑顔を見せた。
 あっ、これってボクに心配掛けた事を本当に悪いって思ってる時の顔。
 不器用な太一の優しさ。人に心配を掛けたりするの、本当にイヤなんだって事、ボクはちゃんと知ってるよ。

「タイチ、ボクは全然気にしてないよ。それよりも、どうしたのタイチらしくないと思うけど……」
「俺らしくないかぁ……本当にそうだよな…」

 ボクの言葉に、タイチが苦笑する。そして、ゆっくりと空を仰ぎ見るその姿に、何も言えない。

「タイチ……」

 心配そうにその名前を呼べば、少し困ったような笑顔が返される。

「大丈夫、心配するなって、少し経てば、何時もの俺に戻るからさ」

 ウインクをして、無理に笑顔を向けてくれるタイチにボクは何も言えない。何時だってそうだ、タイチは本当に弱音を吐かないから……。
 それは、強さとは少し違う、タイチの心。

「あっ!ヤマト」
「えっ?」

 何も言葉を返せない中、良く知った人物の姿を見付けて、ボクはその名前を呼ぶ。
 そんなボクの声に、タイチが驚いた様に振り返った。そして、その顔を見た瞬間、ボクは漸くタイチが怒った理由が分かる。
 本当に、不器用だね、タイチは……。

「タイチ、ボク席を外すね。だから、ちゃんと、ヤマトに謝るんだよ」
「ア、アグモン……」

 ニッコリと笑顔を見せて、ボクはタイチから離れた。
 だって、ボクが居たら、きっとタイチは素直になれないから……。

「アグモン!」
「あっ!ガブモン」

 タイチから少し離れた所で名前を呼ばれて振り返れば、ガブモンが心配そうにボクの事を見てる。

「いいのか、アグモン……」
「いいって、何が?」

 ガブモンの言っている意味が分からなくって、思わず首を傾げればガブモンが自分の手を引いてタイチ達が見える場所へと連れて来られた。

「ガブモン?」
「……ヤマトが一番好きなのは、タイチだ。そして、タイチがヤマトを好きだって事、アグモンは気付いてるんだろう?」

 言われてるその事は、自分が一番分かってる事。
 だって、タイチが本当は誰の事を見ているのかなんて、隣に居る自分が気付かない筈が無い。

「……そんな事、分かってるもん。でも、ボクだってタイチの事が大好きだから……」
「……ごめん、泣かせたい訳じゃないから……」

 ボクが泣いてしまったから、ガブモンが申し訳なさそうに謝ってくれる。
 でも、分かってるから、ガブモンが言ってる事が正しいって事……。ボクだって、タイチの事大好きで、何時だって笑っていて欲しいと思う。
 だけど、タイチが心からの笑顔を見せる相手は、ボクじゃないって事ちゃんと知ってるから……。

「でも、ボクは、タイチが笑ってくれれば、それでいいんだ……」
「アグモン……」

 心配そうに見詰めて来るガブモンに精一杯の笑顔を見せる。
 そう、ボクはタイチが笑ってくれる事が一番大事。タイチが笑ってくるのなら、ボクはどんな事だってしてみせる。

「……オレは、アグモンが好きだよ……」
「ガブモン?」
「オレが一番好きなのは、アグモンだから……」

 照れた様に言われたその言葉が、嬉しくって、ボクはもう一度ガブモンに笑顔を見せた。

「有難う、ガブモンv ボクもタイチの次にガブモンの事、大好きだからねvv」

 ボクのその言葉に、ガブモンが複雑そうな笑みを見せたのは、どうしてなのかなぁ?


 そして、それからボク達の所に戻ってきたタイチが、何時もの笑顔を見せてくれた事が嬉しかった。。
 でも、ヤマトの事を見詰めて顔を赤くするのは、何か意味があるのか、ボクには良く分からなかったけどね。