ヤマトが、俺を庇って怪我をした。
 それに俺は腹を立てて、ヤマトと喧嘩をしてしまったのだ。
 頭を冷やす為に、皆から離れて一人で近くの川の傍で腰を下ろした時、心配そうに後を付いて来たアグモンが声を掛けてくる。

「タイチ…まだ、怒ってる?」

 何も話さない自分に、心配そう問い掛けられたその言葉に、俺は少しだけため息をついてアグモンの方を見た。

「……アグモン…怒ってないよ、ごめんな、余計な心配掛けちまったよなぁ……」

 心配そうな瞳をしているアグモンを見て、困った様に笑顔を見せる。
 アグモンに余計な心配を掛けてしまった事が、心苦しい。

「タイチ、ボクは全然気にしてないよ。それよりも、どうしたのタイチらしくないと思うけど……」

 俺の言葉に、大きく首を振って言われたそれに、俺は思わず苦笑を零す。

「俺らしくないかぁ……本当にそうだよな…」

 そして、その言葉を呟いてから困った様に笑いを零した。でも、俺らしいって、一体どんななんだろうなぁ・・…。

「タイチ……」

 考える様に空を見上げた俺は、心配そうに名前を呼ばれって我に返る。
 そして、アグモンに心配掛けさせないように笑顔を見せた。

「大丈夫、心配するなって、少し経てば、何時もの俺に戻るからさ」

 そして、ウインクをしてからもう一度笑顔を見せる。そんな俺に、アグモンは複雑そうな表情を見せたが、直ぐに何時ものように笑ってくれた。
 それにもう一度だけ笑顔を返す。

「あっ!ヤマト」

 その瞬間、アグモンが自分の後ろを見るように叫んだ名前に、驚いて振り返る。

「えっ?」

 慌てて振りかえって、その姿を見た瞬間俺は一瞬泣き出してしまいそうになった。ヤマトの腕に巻かれ包帯は、俺の所為で出来た傷。

「タイチ、ボク席を外すね。だから、ちゃんと、ヤマトに謝るんだよ」

 真っ直ぐヤマトの事を見ていた俺は、突然言われたその言葉に、驚いた様にヤマトからその視線をアグモンへと移した。

「ア、アグモン……」

 ニッコリと笑顔を見せて、アグモンが俺から離れて行く。
 その後姿を複雑な気分で見送っていたら、アグモンに代わってヤマトが俺に近付いてきた。

「…太一……」
「……怪我、ちゃんと手当てしてもらったのか?」

 躊躇いながら名前を呼ばれた事に、俺はヤマトから視線を逸らしたままそれだけを問いかける。

「ああ・…空に、手当てしてもらった……」

 簡潔な答えが戻ってきた事に、息を吐き出して、肩の力を抜く。
 もう十分文句は言った筈なのに、まだ言い足りない気分だ。

「……心配掛けて、悪かった……」

 何も言えないでそのまま地面を見ていた俺は、突然そう言って抱き締められる。
 その瞬間、ずっと堪えていたものが溢れ出す。泣きたくなんてなかったのに、今俺が泣くのは、全部こいつの所為。

「……お前、俺に無茶するなって言うくせに・・…ずるい・…」
「…悪かった・……」

 俺の言葉を遮る様にヤマトが謝る。そう言うところが、ずるいって言うのに、それが分かってない。

「・・…バカ、ヤマト……」
「ああ、だから、泣かないでくれ……」

 悪態をつく俺の言葉に頷いて、もっと強く抱きしめられる。その温もりを感じながら、俺は自分の涙を止める事が出来なかった。
 だって、ヤマトが俺を庇って倒れた時、全然起き上がらなくって、本気で心配したのだ。ヤマトが死んでしまったのかと思って・・…xx
 デジタルワールドで死んでしまったら、現実世界の俺達も死んでしまうのだと言う事を思い出して、怖かった。このまま、ヤマトが自分の前から消えてしまうのが……。
 だから、今その生きている証しでもあるヤマトの体温を感じられた所為で、涙を止める事が出来ない。それだけ、俺はヤマトの事を心配していたって証拠。

「・・…そろそろ、泣き止まないと、空達が心配して様子を見に来るぞ」

 暫くの間、泣いていた俺は、そっと耳元で言われたその言葉に、慌てて目許を拭う。
 だって、泣いているところなんて見られたくない。

「おい!そんなに擦ったら、赤くなるだろう!!顔洗った方が、いいんじゃないのか?」
「えっ?ああ、そうだよなぁ……」

 拭っていた手を乱暴に掴まれて言われた事に、素直に頷く。確かに、目許を真っ赤にしていたら、泣いていたと言うのが直ぐにばれてしまう。
 ラッキーな事に、ここは川の直ぐ傍。俺は、慌ててその水で顔を洗った。
 冷たい川の見ずが、泣いた所為で熱くなった肌には気持ち良い。

「……太一・・…」
「ああ?」

 何度も水をすくっていた俺は、突然名前を呼ばれて、その手を止め顔を上げる。

「……」

 そして目を閉じたまぶたに感じた暖かな感触。その正体を確かめようと目を開こうとした瞬間、今度は唇に暖かなモノが触れる。
 慌てて目を開いた瞬間、目の前に飛び込んできたのは、俺から離れていこうとしているヤマトの顔のアップ。その所為で、俺の唇に触れた正体が分かって、顔が熱くなる。

「好きだからな、太一……」

 そして言われたその言葉に、ますます顔が赤くなるのを止められない。
 ヤマトが俺をスキだって事、それくらいはちゃんと知っている。だけど、改まって口に出されると、それはとっても恥ずかしくって・・…。
 俺だって、ヤマトの事大好きだけど、そんな事平気で口には出せない。

「……俺、皆の所に戻るな!!」

 だから、それだけを言うのが精一杯で、慌ててヤマトに背を向けた。
 後ろから笑い声が聞こえてくる。
 大好きだけど、やっぱり嫌い。
 人の事からかうから……xx


 その後俺が、ヤマトの顔を見る度に顔が赤くなるのを止められなかった。