あのクリスマスの一件以来、バンドの仲間に何度も彼女を紹介しろと言われてきたヤマト……なにしろクールが売りのヤマトをここまで骨抜きにできる女性に興味があるらしい。しかしヤマトは仲間に紹介するなんて全くない。第一見せるなんて勿体無いと思っているヤマトであるので、その意見を却下し続けてきたのである。
しかし……バンド仲間には強気で入れても、愛する恋人には、そんなことできるはずもなかった。
太一の家で恒例の家庭教師をしている時に、太一がふと漏らした一言である。
「えっ?練習を見に行きたい?」
「はい。一回で良いから、ヤマトさんの歌ってる姿見たいんです」
頬をうっすらと染め、上目遣いでお願いしてくる太一に、ヤマトはもちろんダメなんてことは言えず、次の練習の時に遊びにいくことになった。
ヤマトは不本意ながらも、仲間達に太一をお披露目することになってしまったのだった。
そして練習日、普段から太一と待ち合わせに使っている場所の駅前に、早めにきたヤマトは、眉間にしわを寄せながら、タバコをふかしながら
事前にメンバーには今日のことを伝えると、皆一発OKしてくれた。基本的にはメンバー全員、練習風景を見学はされたくないのだが、ヤマトの恋人を見たい気持ちが上回ったらしい。内心断って欲しいと思っていたヤマトだったが、そんなことになったら太一が悲しむので、それはそれで困ってしまう。ヤマトの胸中は複雑そのものであった。
「ヤマトさ〜〜〜〜ん!!」
待ち合わせ場所に嬉しそうにやってきた太一を見たとたん、眉間のしわが取れ、口元には笑みもこぼれる。
「ん〜〜、ちょっと遅刻かな」
「えっ!?うそ!!まだ時間ま……」
ヤマトの言葉に、太一は驚いたように自分の時計を見ると、まだ待ち合わせ5分前だった。
「もう!!ヤマトさんのウソツキ!!」
「ゴメン、ゴメン。お詫びに今日のお昼はごちそうするよ」
プ〜と膨れてしまった太一に、笑いながら謝ると、膨れながらもヤマトの腕を組んで、引っ張るように駅構内へと入っていった。
お台場から電車を乗り継いで、スタジオ近所のコンビニで飲み物を買い出ししてから、スタジオのある地下階段を降りていく。
「太一くんいい?あいつらに何言われても本気にしちゃいけないよ」
「??……わかりました」
真剣な顔で言うヤマトに、太一は不思議そうに思いながらも、取り敢えず頷いておく。
「それじゃあ、開けるよ……」
ヤマトは一言言ってから深呼吸をして、ドアノブを廻しドアを開ける。
「「「いらっしゃ〜〜〜〜〜い!!!!」」」
パーーーンッとクラッカーの音と拍手で迎えられた二人は、唖然としてします。
「な〜に驚いてんだよ。んで、お前の彼女は……あれっ?」
バンドのリーダーである椎名は、ヤマトの後ろにいるであろう彼女を覗き込むと、首をかしげる。
「……ヤマト。お前彼女連れてくるんじゃなかったのかよ……」
太一とヤマトを交互に見ながら、訪ねてくる椎名に、ヤマトはなんて言って良いのか困ってしまう。すると不安そうに見つめる太一を眼が合い、ヤマトは1つの決心を固めた。
「この子が、恋人の太一くんだよ」
「「「……」」」
「ヤマトさん……」
太一の方を抱き寄せ堂々と宣言をするヤマトに、メンバーは口を開け呆然とし、太一は真っ赤になってヤマトを見つめる。
「ヤ……ヤマト。だってこの子、男の子だよな??」
「そうだよ」
見て判らないのか?とでも言いたそうな眼で言うヤマトに、メンバーはぐるぐると頭を悩ませる。しかしあまりにもヤマトが愛しそうに太一を見つめるものだから、悩んでいるのも馬鹿らしくなってしまう。
「太一くんって言ったよね?俺はリーダーの椎名だよ。キーボード担当ね」
「俺は、尾藤、ドラム担当」
「俺は野乃。ギター担当だよ。よろしく」
3人が順番にあいさつをしてく中、太一は不安そうにヤマトの服の裾を掴む。
「太一くんもあいさつしないと……」
不安そうな太一の肩を抱き寄せ、ヤマトは耳元で囁くと、太一は慌ててお辞儀をして、
「あっ、八神太一です。ヤマトさんには家庭教師をしてもらってます」
と自己紹介すると、メンバーからはなんとも言えない奇妙な声が上がる。
「ヤマト〜〜。お前生徒に手を出したのかよ……」
ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながら、尾藤がヤマトの脇を小突く。
「なにはともあれ、自己紹介も済んだことだし、練習しようぜ!!」
椎名の一言で、いまだにドアの前にいることに気が付き、ヤマトと太一は部屋の中に入り、太一のために用意しておいた椅子へと案内する。
「さてと……今日はヤマトの恋人のために、張り切っていくぜ!!」
野乃がギターをかき鳴らして、練習が始まった。
練習と言うくらいなので、自分達の作った曲を練習するかと思っていた太一は、さながらカラオケ大会だなと思ってしまうくらい、練習とは程遠い光景だった。
椎名がリクエストする曲をヤマトが歌ったり、野乃が即席で作ったメロディーに尾藤がダミ声で歌い出したりと、遊んでいるようにしか思えない。椎名曰く「練習は仲間とのコミュニケーションを取る所であり、それほど切羽詰まって音合わせをする必要はない」そうである。とは言ってもライブが近付くと、そうは言っておれず、真剣に音合わせや打ち合わせもやったりする。
「そうだ!太一くん。なにかリクエストあるかい?」
ニコニコ笑顔で聞いてくる尾藤に、突然振られた話題に困惑してしまう太一だが、とりあえず思い付いた曲をリクエストする。
「それじゃあ、恋人ご紹介記念に、二人で歌ってもらいましょう〜〜♪」
ダッダンっとドラムを叩いて発表する尾藤に、椎名と野乃は拍手をし、ヤマトと太一は唖然としてしまう。
野乃は太一を引っ張ってヤマトの隣に立たせ、3人はアイコンタクトで前奏を弾き始める。
「……一緒に歌ってくれるかい?」
前奏に合わせてヤマトはリズムを取りながら、優しく太一を見つめる。
「はい……」
そんなヤマトを恥ずかしそうに見ながら、差し出されたマイクを受け取り、ヤマトと同じようにリズムを取る。
そして二人同じ思いを込めて歌い出す。
出逢いは風の中 凍えた季節越えて 少しだけ微笑みを 取り戻したあの頃
ボロボロに破れてた 胸の中のハンカチで 君の涙ぬぐえるのか ためらったけど
まぶしい朝に 歩きながらKISSして 星降る夜は時が止まったね
波にさらわれぬ様 肩を抱き寄せたなら もう一度強くKISSして
ねぇ 君に言っておきたい事があるんだ
もしも 生まれ変わったとしても 君を探しに行こう
分けあえるものなんて 本当はないけれど 風に揺れる二人のシーソーに 戸惑うけど
同じGlass使う毎日で 涙でむくむ顔で 笑ってくれる君に
僕は背中を向けて 早く朝が来ればと ため息のみ込むけど
ねぇ 一人じゃ生きられない事 教えてくれた
僕らがきっと 行き着く場所には あの風が吹く
いつかもっともっと大きな声で 君に告げよう
いつもいつの日も 風に吹かれて 君と揺れていたい
ねぇ 君に言っておきたい事があるんだ
もしも 生まれ変わったとしても 君に出逢って
ねぇ 一人じゃ生きられない事 教えてくれた
僕らがきっと 行き着く場所には あの風が吹く
揺れて揺れて 風に吹かれながら このシーソーで
そしてもっと青いあの空を 見せてあげたいから
二人のシーソーで
遠く高い空で
君と揺れていたい・・・


65000Hitの申告者が出ませんでしたので、64999Hitのニアピンを取りましたharuka様からリクエストを頂きました。ありがとうございました。
後振りを書いていないのは、その方が綺麗かなと思ったのですが、どうでしょうか?やっぱりあったほうがいいですかね〜〜?harukaさん?
私の我侭に、答えてくださって本当に有難うございます。
キリ番では、年の差シリーズ受け付けてないのに、ご無理を言ってすみません。
しかし、お陰で、こんなにも素敵なものがvvv
ニアピンだったのに、こんなに幸せ頂いてもいいんでしょうか??
そして、コメントにあります後振りも、書いて貰っちゃいました!(ズーズーしいぞ、自分!!)
続きが見たい方は、『おまけ』から、どうぞ!!
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