「今朝、学校に向かう電車で、先生を見つけたんです。斜め後ろの方に立っていたんで、先生は気づかなかったでしょうけど」

 間違いない。雄哉は見てしまったのだ。

 「それで」

 和恵は、平静に振舞おうとしたが、その声は震えていた。

 「それでって……。見たんです」

 「何を?」

 和恵が聞き返してくることに、雄哉はすこし気圧されたのか、小さな声で答えた。

 「先生が痴漢に遭っているところです」

 決定的だった。すべて見られていたに違いない。恐怖が極限まで高まり、和恵は大声で怒鳴りつけていた。

 「何で、あなたは助けなかったのよ。どういうつもり。あなたも痴漢をしたいと思っていたから、見物していたんでしょう。そんなの共犯と同じよ。私がどれだけ酷い目にあっても、あなたはにやにやして見ていたのね」

 和恵の剣幕に雄哉は泣きそうな顔になって答えた。

 「そんな、僕、恐くって何も……。先生が恥ずかしいかもしれないし。それに先生綺麗だったし」

 「ふざけたこといわないで。あんたのような変態高校生が痴漢になるのよ」

 決め付けられて、雄哉はついに謝ってしまった。

 「ごめんなさい。僕も助けようと思って、S駅でいっしょに降りてついて行ったんです。それから、駐車場に行って、それから先生が……」

 和恵は、もう駄目だと思った。絶頂する様をすべてみられていたのだ。会話までは聞こえなかったかもしれないが、自分から求めていたことは気づいたかもしれない。それに悦びに喘いだ表情を見れば十分だ。

 「わかったわ。もうやめて。言わないで。私の負けよ」

 敗北感を味わいながらも、これから雄哉が要求してくるものを思って、胸が鳴った。この年頃の男なら間違いなく身体を求めてくる。野獣のように乱暴に押し入ってくるに違いない。そう思うと、また下腹部の方から熱いものが降りてくる。履き替えたばかりの下着にも染みができているかもしれない。この場は、それで解決するしかない。

 「僕、先生のことが好きだから。それで、どうしようもなくて。ごめんなさい。それだけ言いたくて。僕、帰ります」

 その言葉に嘘はなさそうだった。本当にそうなら、雄哉は優しい生徒なのだ。このままでもこの事を言いふらしたりする虞はないように思われる。しかし、一抹の不安はある。この際、弱みを握っておかねばならない。それに、和恵の身体はもうすでに潤いはじめていた。

 「待って」

 腰を上げようとした雄哉の目の前で、和恵は脚を組み替えた。薄手のワンピースの奥に薄い水色の布が見えたはずだ。雄哉が息を呑んで視線を止める。

 「あなた、みんなに言いふらすつもりね。私がしたことをみんな。きっとそうだわ、何が目的なの。お金? 酷い人だわ」雄哉に答える猶予を与えず続ける。「そうやって脅せば、私があなたの言うことを何でもきくと分かっているんでしょう。お金なの? 身体なの?」

 雄哉は、ベッドに近づくと弁解した。

 「そんなこと、お金なんか欲しくて来たんじゃないんです。僕は……」

 「それじゃあ、やっぱり身体なのね」そう言いながら、ベッドから腰を落とすし雄哉の前に跪いた。素早くファスナーを下ろし、ブリーフの合わせ目から、指を挿しいれる。それはとても熱く、火傷しそうに思えた。ゆるゆると揉み込むと、たちまち大きさが増し、窮屈になる。ベルトを抜き取りズボンを下着ごと引き下ろすと、ぷるん、と姿を見せた。武史とも今日の男とも違った、綺麗な色をしている。亀頭の半分まで被った皮の間から、透明な露の浮いたピンクの粘膜が覗いている。そっと左手を竿に添えると右手で皮を引き下ろす。現れた鈴口は、仮性包茎特有の臭気を放っていたが、大層立派だった。雄哉は、されるがままになっている。

 「ひどい人……」無理強いされているのだ、と言い聞かせてから、舌を裏筋の沿って滑らせた。雄哉がたまらず声を漏らす。左手で袋を揉みながら、時折中指を蟻の門渡りに滑らせる。カリ裏を舐ってから、亀頭を口に含む。舌で周囲を捏ね回し、唇を締付けると一段と硬度が増す。右手をゆるゆると摺り上げると、雄哉は、ベッドに腰を落とした。もう雄哉は自分で自分をコントロールできないはずだ。下半身に覆い被さるようにして、和恵は頭を振りたてた。唇で強く締付けたりゆるめたりして、喉の奥まで呑み込む。武史に教えられた技だ。これをすると武史は、女のように身悶える。

 「うっ。大きいわ」

 今まで気づかなかったが、雄哉のそれはとても長く太いようだ。奥まで呑み込んでも、まだ余る。舌を激しく絡めながら、唾を擦り付ける。いっそう速度を増すと、いきなり亀頭がぷわっと膨らんだ。

 「あっ」

 そう思ったときは、喉の奥に精液が大量に叩き付けられていた。むせながら、何とかそれを嚥下する。苦味が広がる。鼻の奥に強烈な匂いが篭り、くらくらする。まるで膣内に浴びたかのように、和恵は感じていた。こんなことは初めてだった。武史とのセックスでも、必ずオーラルプレイはしていたが、それは彼が望むからにすぎない。女性にとっては決して気持ちの良いものではないと思っていた。それなのに、こんなに幸福感に包まれるなんて。放出が終って萎えたものを、きゅっと吸い上げる。尿道に残った精液が引出される感覚に、雄哉が悲鳴を上げた。これで、もう雄哉は逆らえまい。危険はなくなった。そう計算しながら、皮を裏返して丁寧に後始末をしてやる。

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