Magic The Gatherig Replay

 今まで多くの魔導師の血を吸ってきたドミニアの名もなき荒野……多くの者が己の全てを運命の女神にゆだねてここで戦い……そして散っていった。しかし、今はここに動く者の姿はなく、かつての大地を揺るがした戦いの跡はない。全てが時に埋もれていった今、平穏だけがこの地にあった。風だけが荒野を流れていく……砂塵が一瞬視界を覆い尽くした。そして、砂塵が消え去ったとき、平穏な悠久の流れが今、この瞬間途絶えたことを大地は知ることになった。

 そこに、まるで初めからそこにいたかのように二人の人物が立っていた。一人は漆黒のマントに身を包み、長い髪を肩に流していた。一見すると女のように見える細い体からは、強力なマナ……全ての魔力の根元たる強大な力が感じとれる。だが、その端正のとれた表情に浮かぶ落ちつきのある微笑みからは、邪悪の気配が感じとれた。彼の視線は、彼の反対側にいる人物から動こうとしない。彼の視線の先にいるもう一人の人物……白いマントの男からは、黒いマントの男とは全く逆のやすらぎと静寂の気配が感じられる。しかし、その戦いの決意を秘めた表情はどこか幼く、未熟さが感じられる。

 長い沈黙を破ったのは黒いマントの男だった。

「……ついに、この日がやってきたか……」

「今こそ僕は貴方に決闘を申し込みます。どちらが……どちらが真の魔導師たる資格を持つのか、その証を今こそ!」

 黒いマントの男の表情に悲しみがよぎった。だが、それは一瞬で消え、邪悪な微笑みが再び浮かぶ。

「……ラルファード君、君では、私に勝つことはできんよ」

「それは、戦ってみなければわからない! バルドゥーク!」

「わかった……では、神聖なる魔導師の掟に従い、君の挑戦、受けて立とう。」

 次の瞬間、二人はすばやく印を組み、自らの魔導書を次元の狭間より呼び出した。そして、呪文書のページを1枚破り捨て、互いに相手に投げつける。これこそが、古より伝わる戦いの儀式……そう、戦いの時が来たのだ。

 バルデュークが破り捨てた呪術書のページは『沼』、ラルファードは、『真珠色の一角獣』。どちらも決定打となりうるものではない。しかし、時空のゆがみの中からわき出てくる自らの呪文書を眺めてラルファードは閉口した。『鉄爪のオーク』『発火』『ウォーマンモス』『破滅のロッド』『機械仕掛けの獣』『平地』『森 』

 すぐに使えそうな「軽い」呪文はすべて赤なのに、炎の力を呼び起こす『山』の力が得られないとは……まずは、『森』から偉大なる自然の力を呼び起こすが、力不足は明らかだ。バルデュークも 遥か彼方にある遠き『島』から水の精霊力を呼び出すが、動かない。これなら勝てるかも知れない……しかし、次に手にした呪文は『火の玉』。炎の力の得られぬ今は無用の長物だ。ラルファードは聖なる『平地』を呼び寄せ、力を蓄えることにした。

 だが、対するバルデュークは、『沼』から邪悪なる力を呼び起こそうとしている。朗々たる呪文を唱えつつ……まさか!?

「我、ここに古より伝わる『暗黒の儀式』もて、汝、『闇に住まいし者』、我が召喚に応じよ……」

 彼の眼下に広がる巨大な沼が泡立ち、不気味な白い肌をもつ『闇に住まいし者』が姿を現した。

「どうした? 驚くことはない、これが闇の力だ。貴様には永久にわかるまいがな……」

 早い。時空の裂け目より次なる呪文を呼び出す。現れた呪術書は……『オークの軍旗』? 炎の加護の得られぬ今は役に立たない呪文だ。まずい!

「フン、身動きかなわぬか……参色使いの宿命よな……汝、『沼インプ』、我が召喚に応じよ……」

 そんな!  早すぎる! それほどまでに違うというのか、奴と僕とでは!

「違うのだよ。違いを教えてやろう」

「なっ」

 次の瞬間、 『闇に住まいし者』がラルファードの眼前に現れ、腕を一閃させた。鋭い痛みが全身を疾る。

「ぐぅっ」

 次なる呪文……山の力を今こそ……しかし、時空の裂け目より現れたのは『荒々しき自然』。魔力が、魔力が足りない! その手からばさりと『ウォーマンモス』召喚の呪術書が落ちる。もはや、次なる魔力で 『荒々しき自然』を唱えるほかには……。

「どうした、遠慮することなどないぞ……遥か彼方にある遠き『島』よ、我がもとに現れよ……」

 何故だ、何故こうも枯れ果てたドミニアの地から魔力を引き出せる? 再び守る者のいないラルファードを、今度は『闇に住まいし者』だけでなく『沼インプ』もが襲いくる。全身を鋭い痛みが切り裂き、激痛が走る。

 次なる呪文は……『治癒の軟膏』

「聖なる力もて、『治癒の軟膏』よ、我が傷を癒したまえ」

 僅かに痛みがやすらぐ、しかしこれでは焼け石に水……。

「……遥か彼方にある遠き『島』よ、我がもとに……その通り、まさしく焼け石に水」

 『闇に住まいし者』が再び襲いかかり、血が飛び散る。まずい、このままでは……。しかし、絶望的な状況に一抹の光が射したのは、その瞬間だった。時空の裂け目より『平地』が現れたのだ。

「聖なる『平地』よ、彼方より現れよ! そして、『森』よ、『平地』よ、新たなる『平地』よ! 力合わせ、新たなる土地、『山』を我がもとに!」

「フン、多少は参色の欠点はわかっているということか……だが、いつまでもつかな? 我がマナは溢れているぞ、『沼』よ、新たにいでよ、そして、行け、『闇に住まいし者』『沼インプ』!」

 激しい痛みに、一瞬気が遠くなる。もう一度殴られれば殺られる……だが!

「いつまでもやられていると思うなよ……」

「負け惜しみは程々にしておけ、もう終わりだ、ラルファード君」

 確かにこのまま無防備で殴られ続ければ、もはや終わりである。しかし、ラルファードには今、炎の力がある。次なる呪文は、『丘巨人』。……呼ぶか? だが、奴の手には多くの呪文と溢れるマナがある。ここで『丘巨人』を召喚したところで、闇の呪文『恐怖』が彼の手にあればそれで全ては終わりである。ならば!

『森』よ、『平地』よ、新たなる『平地』よ! 我に力を、偉大なる炎よ、我が前に立ちふさがる忌まわしき『闇に住まいし者』を焼き尽くせ! 『火の玉』!」

「それで勝ったつもりか、今一度還れ 『闇に住まいし者』よ、汝が国へ! 『送還』!」

「なに!」

  『闇に住まいし者』の影が薄れ、姿を消す。目標を失った『火の玉』は宙に飛び、爆散する。

「そんな!」

「これが戦いというものだ。……新たなる『沼』よ、我が元に……そして再びいでよ 『闇に住まいし者』! ……ゆけ! 『沼インプ』!」

「ぐはっ」

 ラルファードが思わずよろめく。もはや……これまでか? 新たなる呪文は……『森』。いや、まだ手はある!

「まだだ! 『森』よ、『平地』よ、『平地』よ、新たなる『森』よ、そして偉大な炎を生み出す『山』よ! 我に力を、今こそ再び我が前に立ちふさがる全ての者を、その心の中の憎悪の念もて……焼き尽くせ! 『発火』!」

「Pyrotechnicsだと!?」

「ウグォガァァァァァァァァ!!!」

 絶望的な、耳を塞ぎたくなる悲鳴とともに、内部から燃え上がる炎で 『闇に住まいし者』が、『沼インプ』が焼き尽くされていく。醜い白い肌が炎で焼かれた後には、灰すらも残っていない……。

「馬鹿な! ……だが、その体力でいつまで戦える? ……『島』よ、我がもとに!」

「そういう貴方も何も呼べないとは、手駒が尽きたようですね……遠慮することはありませんよ、我が召喚に応じ、いでよ『スクリブ・スプライト』! そして、『丘巨人』よ!」

 ラルファードの両手から現れた呪文書が輝き、その輝きとともに、小さな妖精『スクリブ・スプライト』と巨大な『丘巨人』が現れる。

「フン、その程度で勝ったつもりか……笑わせるな。『魂の枷』よ、彼の 『丘巨人』を束縛せよ、そして『ぐるぐる』よ、彼を脱力せよ!」

「ぐっ」

 巨大な体躯の『丘巨人』が悲鳴を上げて大地にうずくまる。

「フッ、身動きとれまい

「くっ」

 ラルファードは時空より次なる呪文を呼び寄せた……『純白の秘薬』

『森』よ、『森』よ、『平地』よ、『平地』よ、そして『山』よ、我が傷を癒せ……『純白の秘薬』! そして、ゆきなさい、『スクリブ・スプライト』!」

 バルドゥークの頬から血が飛び散る。

「フン、かゆいぞ! 『沼』よ、我が元へ!」

 このままでは長期戦……となれば、明らかに体力に欠ける僕の方が不利……。ラルファードは苦渋に満ちた表情で次の呪文を取り出した。『平地』? ……そうか、まだ手はある!

「終わりです、バルドゥーク!  『平地』よ、我が元へ……そして、『森』よ、『森』よ、『平地』よ、『平地』よ、『山』よ、そして、新たなる『平地』よ! 全ての我が力もって汝に命ず、我が命に服せ、『機械仕掛けの獣』! ゆきなさい、『スクリブ・スプライト』!」

 バルドゥークの頬が再び切り裂かれる。しかし、バルドゥークが呆然としていたのは、傷の痛みのせいではなかった。

「Clockwork Beast……魔導技術の結晶をお前が何故!」

「形勢逆転と言うところですね」

「くっ……ええい、忌まわしき魔導技術より生まれしものよ、全て瓦解してゆくがよい、『魔力流出』! そして偉大なる女王よ、我が召喚に応じよ……『魔術師の女王』!」

 『機械仕掛けの獣』の眼から光が失われていく。魔力によって作られた体から、魔力が吸われているのだ。しかし……。

「無駄ですよ……僕の体に魔力は溢れています」

 ぼんやりとした光が流出していく魔力を補い、機械仕掛けの獣にすいこまれていく。再び『機械仕掛けの獣』の眼が輝く。

「所詮、『魔力流出』では決定打にはならぬか……」

「その通りです。そして『魔術師の女王』は……」

『機械仕掛けの獣』を無力化させることは出来ない、そういうことか」

「正くその通り、そして貴方には『スクリブ・スプライト』すら、もはや無力ではない……我が元に偉大なる聖なる力を貸し与えたまえ、『平地』! そして、偉大なる旗の元に、出でよ、『オークの軍旗』! ……ゆきなさい 『スクリブ・スプライト』『機械仕掛けの獣』!」

 今までのかすり傷とは比べものにならない衝撃がバルドゥークに襲いかかる。機械仕掛けの牙がマントを切り裂き、血を、そして肉をえぐり取る。常に冷静で、冷たい笑みを浮かべていたバルドゥークの表情が、初めて歪んだ。

「ぐ……いでよ『ウルザの眼鏡』

「そんなものがなんになります? 新たにいでよ、炎の源たる『山』よ、わがもとに!」

 ラルファードの前には、『機械仕掛けの獣』に注いだマナを抽出した『森』『平地』以外に『森』『平地』『平地』『平地』『山』、そして、新たなる『山』が広がっていた……もはや、何も恐れるものはない。

「いでよ『鉄爪のオーク』! 偉大なる古の技術にて創られし魔導器『破滅のロッド』よ、我が元へ! ……そして、ゆきなさい、『スクリブ・スプライト』『機械仕掛けの獣』!」

「ぐっ、『魔術師の女王』『機械仕掛けの獣』を止めい!」

 やや力が衰えたとはいえ未だ巨大な破壊力を持つ、『機械仕掛けの獣』の前に 『魔術師の女王』は無力だった。しかし、踏みにじられる前にまだ彼女には出来ることがある。

『魔術師の女王』よ、『スクリブ・スプライト』を魅了せよ!」

 にこりと微笑んだ『魔術師の女王』の前に、『スクリブ・スプライト』は脱力する。しかし、偉大なる『オークの軍旗』が、力を与えている『スクリブ・スプライト』を完全に止めることは出来ない。バルドゥークのマントが 切り裂かれる。そして、『魔術師の女王』『機械仕掛けの獣』の無慈悲な牙の前に切り裂かれ、肉塊となって果てた……邪悪な微笑みを浮かべたままで。

 僅かな期待を胸に秘め、虚空からバルドゥークが呪文を紡きだす。しかし、彼の口から漏れたのはたった一言だった。

「遅すぎたな……」

 一瞬の静寂があった。

「……『スクリブ・スプライト』『鉄爪のオーク』、そして、『機械仕掛けの獣』! ゆきなさい! バルドゥークにとどめを!」

 次の瞬間、全てが終わりを告げた。

 血煙が消えたとき、そこには巨大な獣の姿も、小さな森の精霊の姿もなかった。

「……今回はお前の勝ちだ……だが、これで全てが終わったわけではない……いつか再びお前とあいまみえようぞ……」

 砂塵の中からバルドゥークの声がどこからともなく響きわたる。その声は苦痛に歪んでいたが、しかし、どこか満足げな気配があった。

「望むところです……僕たちプレーンズ・ウォーカーには所詮安息の地は得られぬ定め……」

 そう答えるラルファードにも、清々しさがあった。結局、彼らの戦いに終わりはないのだ。

 


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