四川省   九寨溝   黄竜
   

九寨溝   2002年10月

中国各地を旅行した人に、どこが一番よかったかと聞くと、九寨溝(四川省)と黄山(安徽省)だという答えがかなり多い。北京からは九寨溝と黄竜へ行くツアーがたくさん出ているが、今回は重慶経由で行くことにした。なぜ重慶かというと、ずっと以前に神戸から天津への船で一緒になった人が重慶に住んでいて、一度遊びにこないかと誘われていたからである。

重慶は元は四川省の一部であったが、三峡ダム建設に際して、100万人にのぼる住民を水没地区から移転させるという困難な仕事を達成するための「ご褒美」として1997年に直轄市に昇格された。四川省の省都・成都との間には鉄道があるが、今は高速バスの方が便が多く、便利である。
ここにもいくつかのバス会社があるが、この知人が薦めてくれた、石油会社が経営しているバス路線に乗った。もうこの頃のことはかなり忘れてしまったが、確か朝9時頃出発、午後2時前に到着、所要時間は4時間半ほどだったと思う。成都は列車の駅ではなく、石油関係の建物で降ろされたので、先ず市バスを探して、駅前まで行った。

駅前にある小さな旅行会社へ行き、翌日の九寨溝と黄竜のツアーを申し込んだ。山の上は寒いがどんな服を持っているのかと聞かれ、ジャンパーを見せたらOKだった。翌朝の出発時間は7時で結構早い。どこか泊まるところはないかと聞いたら、ツアーに申し込んだので、駅前のホテルを格安にしてあげる、1泊80元だという。近くて便利なので、ここに泊まることにしたが、どうも中国人専用のホテルで、外国人は泊まれないらしい。旅行社の社員がホテルへ出かけ、手続きをしたからこれを持っていけばよいと用紙を手渡してくれた。それを見ると、宿泊者は中国人の名前で、しかも「女性」となっていた。本当の宿泊費は50元以下で、きっとこの社員とホテルのフロントが差額を稼いだのだろう。ホテルは割合大きく、悪くはなかった。

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翌日は指定された時間に出かけ、バスに乗った。どうやら色々な旅行会社へ申し込んだ人たちを集めたようで、満席だった。こうしたツアーでは時々あるが、「お前はいくら払った?」とお互いにたずねていた。私の払った額より200元くらい安い人がいたが、この程度は仕方がない。バスは市内を抜けるとハイテク団地を通り、さらに北へ進み、都江堰に至る。この堰は秦の始皇帝よりももっと古い時代、今から2,200年余り前に灌漑、治水の目的で作られ、現存するが、ストップせずさらに北上した。九寨溝は成都の街から北方へ450kmほど離れていて、先はまだ遠い。

大して広くない道をゆっくり登りながら進み、途中、昼食をとって、多分、午後4時ごろ寺院に到着し見物した。寺の名前は多分川主寺だったと思うが、ゾロゾロと並んで2階に上るとお坊さんが曼荼羅だったと思うが、巻物を売っていたことと、記念品の販売人が多く、うるさく付きまとわれたことくらいしか記憶にない。
さらにバスに乗って、夜の道を走ったが、途中にはたくさんのホテルがあった。いよいよ目指すホテルへ到着したが、すでに夜の7時ごろで、途中昼食をとったり、見物をしたりしたが、ここまでくるのに12時間ほど時間がかかった。有名な観光地だけあって、行きかう観光バスの数はものすごいものだった。発車時や坂道を登るときに真っ黒の排気ガスを吐きながら走っているバスも多く、環境汚染が問題になるだろうと思った。途中でバスガイドが現在空港の建設中だといっていたが、その後、2003年秋に開港し、現在は飛行機で行けるので長い間バスに乗る必要はなくなっており、バスの数も多少は減っているのではないだろうか。

翌朝、弁当を手渡されて、ガイドからは絶対にゴミを捨てないように、ゴミを捨てると罰金を取られるよと、注意があった。バスに乗って九寨溝の入口へ行ったが、あまりに大勢の観光客がいるので驚いた。立派なレセプションホールがあり、四季の風景写真が展示され、売店もあったが、分厚いコートを貸し出していたのが目に付いた。防寒着を準備していない人はここで借りることができる。 九寨溝は世界自然遺産に選ばれており、地区内では天然ガスのバスを走らせ、また人が歩く道はすべて木製の通路がかかっていて、環境保護に注意している。また、地区内には元からの少数民族だけが住むことができ、観光客は宿泊できない。
ここは高度3000m位で、山、滝、渓流、湖、湿原などがとてもきれいなところで、大きく見ると、Y字型をしており、その各辺の和は50kmくらいもある雄大なものだ。日本にも山も滝も湖もすべてあるけれど、こんなに規模の大きいところはないだろう。

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順番が来て、環境保護バスに乗り、Y字型の左側、一番奥まで行った。湖があり、遠くの雪を頂いた山の影が映りとてもきれいだった。ガイドはここからは各自好きなコースで見学するようにと、自由行動を宣言した。バスの料金は入場料に含まれていて、どこでも好きなところで自由に乗り降りできるとのことだった。
しかし、そんなことを言われても前もって何も準備してこなかったので、どうしたものかと思っていると、バスの中で隣の席だった女性が一緒に行こうと誘ってくれた。彼女は福建省からの一人旅だった。リストラにあって仕事がなくなったので、次に働くまでに旅行に出たとのことだった。すでに一ヶ月近くもチベット、外国のミャンマーなどを回り、ここ九寨溝が最後で、これから福建へもどり、次の仕事を探すといっていた。中年女性で、旦那さんもいるとのこと。日本ではリストラされた人がこんな旅行をするケースは少ないと思うが、今の中国にはこんな人もいるんだなあと感心した。

ちょうど紅葉の季節で最高にきれいだったが、若葉の季節もきっと素晴らしいと思う。大都市ではきれいな水になかなかお目にかかれないが、ここは透明で澄んだ水が豊富だ。湖の底に太い丸太が、まるで白骨のように横たわっているのも幻想的だった。大きな交換レンズをつけた一眼レフカメラと三脚を持った人が大勢いて、写真を撮っていたが、ここの素晴らしさは自分の目で見るしかないのではなかろうか。高山だから天気が変りやすく、一時、時雨れたが、ほとんどは太陽が出ていて、好天に恵まれた。もし、雨だったら楽しみは半減、いや10分の1減するだろうから、せっかくここまでくるのなら、2、3日余分に泊まってもいいくらいの余裕を持ったスケジュールを立てるべきだろう。

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黄竜   2002年10月

九寨溝とペアで観光するもう一つの名所に黄竜がある。雪宝山(5588m)の麓の斜面に沿ってたくさんの小さな池が連なり、エメラルドグリーンの水をたたえ、光の当り方、見る角度により複雑な色合いを見せてくれる。また、少し黄色がかった魚の鱗のような岩肌に沿って透明な水が延々と流れるさまも素晴らしく、これが黄竜のいわれだろうと思う。少し水が不足気味で、ごくわずかではあったが、水が枯れた部分があったのは残念だったが、それでも純白の雪を被った頂きを背景に、きらきら輝く小さな池の連なりはため息の出るような美しさだった。ここの様子は中国の小学校の国語教科書にも「美しい祖国」の紹介として載っていた。



ここでは高度3000mから3700mまでの高度を、約8kmの斜面に沿って登るので、息苦しくなった。酸素の入った袋を買って酸素を吸いながら登る人や、駕籠に乗って登る人もいた。駕籠を担ぐ人はとても苦しいと思うけれど、料金220元を稼ぐために必死で登っていた。観光をするにも体力が要るなあと言うことを、坂道でハアハアあえぎながら思った。
途中にお堂があり、一休みしたが、まだ息苦しいので、集合時間に遅れては他の人の迷惑になると思い、引き返しかかった。少し帰ったところで、ちょうど同じバスの人に出会い、せっかくここまで来たのだから、もうちょっと頑張って見に行くように勧めてくれた。それで元気を奮い起こして、一番上まで行ったが、その価値は十分あった。
下の写真が一番上の部分を見た写真で、周囲に板敷きの歩道があり、その中にはたくさんの色とりどりの池がある。日本語で言えば「五色池」とでも呼べばよいだろうか。

それからはゆっくりと下山し、ちょうど決められていた時間にバスに戻ることができた。ところが、何人かの人が帰ってこずに、ずいぶん長い間バスの中で待たされた。最後に帰ってきた人はかなりの年配のおじいさんで、もう二度とここへ来るチャンスはないので、一番上まで上ったそうである。ここまできて、途中で断念するのはあまりにも惜しい。少々他人に迷惑がかかっても「冥土の土産」にすべきである。

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なお、黄竜へ行く途中の道路からの眺めも素晴らしいものだった。日本の観光地だったら、バスガイドが必ず何か説明するだろうと思うくらいの景色だったが、ここでは何も説明がなかった。また、乗客のほうも、中には窓のカーテンを閉めて寝ている人もいて、せっかくこんなにきれいなところへ来てもったいないことだと思った。
この道路はまだ最近作られたばかりのようで、2車線の立派なもので、山道を登ったり下りたりしながら約1時間かけて進むが、周囲360度山また山で、白雪を戴いた高山もありとても雄大な眺めで、巨大な山塊の質量に圧倒される思いがした。
しかし、この道路を作るために山腹は削られ、削られた土砂が下方の木々を覆っているさまは無残で、観光開発と自然保護の矛盾を思わずにはいられなかった。ただ、この道路が無ければ私がここへくることは絶対にできないのだから、勝手な思いであることに違いはない。

機会があれば、ぜひ一度見に行くべき観光地である。手軽に団体旅行に参加するのもいいが、気のおけない仲間、あるいは家族数人で行くのが一番いいのではないだろうか。成都にはトヨタ自動車の工場があって「コースター」という小型バスがたくさん走っているから、これを借り切って、見たいところで停車しながら、思うように見物すれば最高である。九寨溝の中にも小型の天然ガスのバスがあったから、チャーターできるはず。 団体旅行に比べ多少費用がかかるが、十分に満足できるだろう。ただし、天気がよければの話。実はその後、仏教の聖地、峨眉山へも行ったが、霧が非常に濃くてほとんど何も見えなかった。だから1日、2日ホテルで天気がよくなるのを待つくらいの余裕が欲しいところである。
ただ、九寨溝は環境保護のために入場者の人数制限をしているので、ピーク時に行くと入れないかもしれないので注意が必要だ。
(記:2005年2月24日)

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