岐阜県の玩具
01. 美江寺の蚕鈴(岐阜市)
02. 市原土人形の八重垣姫(瑞浪市)
03. 市原土人形の駒曳き三吉(瑞浪市)
04. 高山土人形(高山市)
05. 高山の猿ぼぼと祝棒(高山市)

06. 高山祭の屋台(高山市)
07. 一位細工の合掌造り(高山市)
08. 松倉の紙絵馬(高山市)
09. 木版手染ぬいぐるみ(高山市)



01. 美江寺の蚕鈴(岐阜市)



岐阜県は全国でも7番目に面積の広い自治体で、東海との繋がりが深い南部の美濃地方と、北信越との繋がりが深い北部の飛騨地方とから成るが、郷土玩具の面から言えば、現状はいささか寂しい。美濃地方でまず挙げられるのは大垣の鯰押さえ水族館17、次が美江寺の蚕(かいこ)鈴であろう。旧暦130日のお蚕祭りに露店で売られる土鈴を蚕鈴または福鈴と称し、この鈴を蚕棚のある部屋に吊るしておくと、ネズミの害から蚕を守り、増殖多産を招くと信じられていた。写真は左より釜鈴、宝珠鈴(兎歳のもの)、俵鈴。ほかにも巾着鈴、木魚鈴、家鈴、蔵鈴、おかめ鈴、福助鈴、七福神鈴など、多くの種類があった。作っているのは、木曽川の対岸・愛知県尾西市越(おこし)の土人形作者。宝珠鈴の高さ11p。(H25.3.31

追記:お蚕祭りは3月に日を移して行われていたが、養蚕農家の減少もあって昨年で取り止めとなった。

02. 市原土人形の八重垣姫(瑞浪市)



わが国の陶磁器の半分以上を生産しているのが美濃地方の多治見、土岐、瑞浪、可児である。また、ここは市原(瑞浪市)をはじめ、姫(多治見市)、広見(可児市)など土人形の生産地でもあった。市原の土人形は明治中期に犬山土人形(愛知県)に倣い、三河土人形(愛知県)の型も多く取り入れて作り始められたもの。比較的大型な歌舞伎物、歴史物が多く、描彩には原色を用い、着物の模様なども細かに描かれている。また、顔料にニカワを入れないので、落ち着いた感じがする人形である。八重垣姫は人形浄瑠璃や歌舞伎の「本朝廿四孝」に登場するお姫様で、赤い振袖と打掛を着ている典型的な“赤姫”(若く高貴な女性役)である。写真の人形では塗りもだいぶ剥落しているが、打掛の鳳凰柄の繊細さや泥絵具の落ち着いた色合いをうかがうことができる。残念ながら、市原土人形も最近になって廃絶した。高さ30p。(H25.3.31

03. 市原土人形の駒曳き三吉(瑞浪市)



駒曳き三吉は、歌舞伎「恋女房染分手綱(そめわけたづな)重の井子別れの場」に登場する子供の馬子(まご)。“いやじゃ姫”(「嫌じゃ嫌じゃ」ばかり言っているお姫様)のご機嫌を取るために招き入れられた三吉こそ、乳人・重の井が赤子の時に手放した実子・与之助と判明するが、親子の名乗りをしないまま、泣く泣く別れる場面である。高さ31cm。(H25.3.31

04. 高山土人形(高山市)



北部の飛騨地方には飛騨春慶塗、一位一刀彫、渋草焼など、「匠の技」の伝統を生かした工芸品が多い。一方、郷土玩具は豊富とは言い難いが、飛騨国分寺境内にある民芸店「円空洞」には高山土人形、高山土鈴、縁起物、一位細工、紙絵馬など、地方独特の郷土玩具が集められている。このうち、高山土人形は渋草焼の陶工が大正期に創始したもので、富山やその他の古い土人形から型取りした小ぶりな作品が多い。左は太鼓持ち童子、右は鯛抱き恵比須。いずれも高さ8p。(H25.3.31)

05.高山の猿ぼぼと祝棒(高山市)



真赤な猿の縫い包み人形は全国的に見られるもの。もとをたどれば、幼子の厄を祓う「形代(かたしろ)」(身代わり人形)として「這子(ほうこ)」という縫い包みを作り、産褥や生まれた子の枕元に置いた室町時代の風習にまで遡る。江戸時代になると、裁縫の手習いに這子を縫うのが習わしとなった。高山ではこれを猿ぼぼ(赤ぼぼ)と呼び、子供たちは負んぶしたり抱っこしたりしながら遊んだという。各地の括り(くくり)猿や吊るし猿に比べると、猿ぼぼの背中は丸くなく、古い這子の形を残している。また、黒い頭巾を着けているのも特徴である。一方の祝棒(招福棒)は、「これで尻を叩かれた花嫁は子宝に恵まれる」という有り難い縁起物。棒には削りかけの装飾が施され、宝船など目出度い絵も描かれていて華やかである。長さ19cm。(H25.3.31

06.高山祭の屋台(高山市)



春の山王祭と秋の八幡祭を総称して高山祭と呼ぶ。祭には江戸時代(文化文政の頃)に飛騨の匠工が一代の名技をふるって寄進した屋台(山車)が出る。山王氏子に12台、八幡氏子に11台、車を軋ませながら山あいの小京都を練り歩く。なかでも、精巧なカラクリ人形を載せた屋台に人気が集まる。例えば、山王祭の石橋(しゃっきょう)台では美女が獅子に変身するカラクリが、八幡祭の布袋台では唐子が布袋和尚の肩に乗って首や手を振るカラクリが演じられる。写真は一位(イチイ)細工による屋台のミニチュア(高さ13p)。ほかに、木や布を使って精巧に作られた屋台やカラクリ玩具もあったが、今では見られない。(H25.3.31

07. 一位細工の合掌造り(高山市)



岐阜県の県木でもあるイチイの特質は、木目と色が美しいこと。特に高山市の南の尾根、位山(くらいやま)に生育するイチイは、古くから笏(しゃく:束帯着用の際、右手に持つ細長い板)の材料として朝廷へ献上された。仁徳天皇の御代に、笏の料として木に正一位を賜ったことから“一位”と呼ばれると伝えられ、“笏の木(しゃくのき)”の別名もある()。幕末からは一位一刀彫の材料として根付、印材、動物の置物、香合などに加工されているほか、最近では観光土産品も作られ、一位細工の名で販売されている。写真は下呂温泉で購入した合掌造り民家(高さ10p)。合掌造りは、掌を合わせたように丸太を三角形に組んだ急勾配の屋根を持つ建築。ユネスコの世界遺産に登録された白川郷(白川村)や五箇山(富山県)が有名だが、高山市の飛騨民俗村・飛騨の里には各地から合掌造りが移築されており、見学も便利になった。(H25.3.31)

08. 松倉の紙絵馬(高山市)



飛騨絵馬は、89日、10日に開催される松倉観音の絵馬市で商われる紙絵馬。また、市中心部にある山櫻神社でも同時に馬頭絵馬市が催される。絵馬は、馬頭を家の奥に向けて貼ると、幸運が勢いよく飛び込んでくるとされている。当日は、商売繁盛、健康第一、学業成就、交通安全等々、思い思いの願いごとをその場で絵馬に書き込んでくれる。また、「一粒万倍(いちりゅうまんばい)」(一粒の籾が万倍の稲穂になる意)の縁起から、絵馬の売り買いには一円を一万両、百円を百万両と呼ぶ習わしがある。絵馬市では手描きの絵馬(右下)のほか、木版多色刷り(左上)の絵馬も売られている。ともに縦32pで千五百万円也。(H25.3.31

09. 木版手染ぬいぐるみ(高山市)



前回紹介した木版多色刷り絵馬の製作者が、昭和48年に創始した縫い包み人形。生木綿に飛騨の木版で染付けし、高温で蒸して色止めするなど、独自に開発した手法を用いて作る。比較的新しい郷土玩具だが、十二支、野鳥、魚、内裏雛など種類も多彩であり、今後がますます期待される。ネズミの高さ10p。(H25.3.31)

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