2月3日(火)
ブライトエンジェル・トレイル <Bright Angel Trail> を登る

6:30AM ファントム・ランチを出発
やがてコロラド川のそばに着くと、道は2つに分かれる。 左の道は、昨日下りてきた「サウス・カイバブ・トレイル」だ。 今日はもう1つの道、「ブライト・エンジェル・トレイル」を登ることにしていた。
「地球の歩き方」によると、谷の上までは6〜10時間かかると書かれている。 本当にたどりつけるのだろうか。少し途方に暮れている。

間もなく、 コロラド川にかかるもう1つの吊り橋 「シルバー・ブリッジ」 に差し掛かる。 まだ真っ暗なので川はろくに見えなくて、 足元からすごい音だけが聞こえてコワかった。 おそるおそる、なんとか橋を渡り終える。
【写真】

ここからしばらくは、コロラド川を右手に、川沿いの道を西へ向かう。 暗いために、道ばたに落ちているラバの糞を見つけにくい。これは非常に危険だ!

道は、ひたすら川と平行に伸びている。 崖の下は、吸い込まれそうな激しい流れ。 川がカーブしているところでは、流れが岩壁に激しくぶつかりしぶきを上げている。 その岩壁はかなりエグられているように見えて、深そうだ。 グランドキャニオンは、今この瞬間も、少しずつ深くなっているわけだ・・・。

夜明け(7時20分ころ)が近づくにつれ、次第に空が白んでいく。 崖のカゲなので太陽は見えないが、 前方(西側)の崖に日光が反射して、赤く光っている。 グランドキャニオンの谷底で、夜明けをむかえた。
【写真】

ようやく、道が左に90度折れる地点に着く。 パイプクリークという小川が、コロラド川に合流している地点だ。 ここから道はパイプクリークの流れる渓谷に沿って、 コロラド川を背にして南に登って行く。 ファントムランチを出発して、ちょうど1時間経過。 空はすっかり明るくなっていた。 この合流地点には、岩で作られた休憩所があった。

7:30AM 「リバー・レストハウス」到着
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リバー・レストハウス(標高744m)
出発地点からの距離:■■■ 3.3km (■=1km)
出発地点との標高差: −36m (◆=100m)
出発からの経過時間:★★ 1時間 (★=30分)
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出発地点は ファントムランチ(標高780m)
【写真】 【写真】

ブライトエンジェルトレイル中、最も標高の低い地点かもしれない。 ここで最初の休憩。ペットボトルの水を口にする。

ほどなくして再出発。ここでコロラド川とはお別れだ。 時折、小川と交差しながら、道は小川の上流方向に延びている。 【写真】
この道は小川沿いということもあってか、 昨日のカイバブトレイルとはうって変わって、緑が非常に多い。 クリークのせせらぎを聞きながら道を歩いて行く。 ふいに波留子の口から、"春の小川" のフレーズが流れる。

8:10AM
高い崖に囲まれた道を、ひたすら歩く。 【写真】
途中、岩壁の中腹から滝が流れ落ちている。クリークの水源のひとつ。 謎の洞穴もあったが、疲れていて、道を外れて中を覗きに行く気にはならなかった。

小川は次第に細くなり、いつのまにか無くなっていた。 道はいよいよ険しくなって、急な斜面を曲がりくねって登って行く。 【写真】

8:40AM
波留子が鹿の群れを発見。 【写真】
眼下に4匹、谷を渡っている。 ちょっと感激。 赤茶色の岩の中に、白いお尻がはっきり見えた。

しばらくすると、別のクリーク(小川)沿いの谷に出る。 上からでは判らなかったが、こういう小さな流れが沢山集まって、コロラド川になっているのだなと実感。

9:10AM
結構くたびれている。 途中、幾度となく、ペットボトルの水を口にする。 大きな平らな岩を見つけて、その上で仰向けになって休憩。

道の上に、ラバではなさそうな大きな足跡を発見。 先が二股にわかれたヒヅメの形。 この道は、野生の動物達も使っているようだ。 さっきの鹿かな? それとも・・・!? 急に目の前に大きな角でも持った獣が現れたら・・・と思うと、 ちょっとドキドキ。 残念ながら、その後の遭遇はなかった。

しばらくすると、また傾斜の緩やかな、割合まっすぐに道が伸びる地域に到達する。 一つ難所を越えたようだ。ふう。

9:45AM 「インディアン・ガーデン」到着
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インディアン・ガーデン(標高1158m)
出発地点からの距離:■■■■■■■■ 8.3km
出発地点との標高差:◆◆◆ +378m
出発からの経過時間:★★★★★★ 3時間15分
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(残り距離 7.4km、残り標高 933m)
【写真】 【写真】

ここは、距離的に、谷の上と谷底のちょうど中間地点だ。 キャンプ場なんかがあるポイントで、サウスリムビレッジから見ることもできる。
また、ここでは道が分かれていて、 「プラトー・ポイント」という、コロラド川を左右に見下ろせる絶景ポイントまで、 往復1時間程度で行けるようだ。 (そんな気力はなかったけど)

ここでトイレタイム。気温10度。 休憩していると、後からファントムランチを出発した、 7時朝食組の二人に追い抜かれる。 久しぶりに他の人間に会った。

10:30AM
しばらく、傾斜の緩やかな真っ直ぐな道が続いていたが、 やがて前方に立ちはだかる、急な壁が近づいてくる。 よく見ると、その斜面をスイッチバックしている道が見える。 あれを登のか・・・と思うと、いささかうんざりする。

谷の上からやって来た、ラバツアーとすれ違ったりする。

お腹が空いてきた。 次の休憩所に付いたら、お昼ご飯にしようと決める。 朝食が5時半だったので、全然「早弁」ではない。 よっぽど道端に座り込んで食べようと思ったが・・・。

この辺から、どんどん傾斜がきつくなる。 何度も何度も、道端に座って休憩しながら、少しずつ先へ進んでいく。 つらいことはつらいが、 振り返ると、今まで歩いてきた渓谷が眼下に広がっている。 充実感との相乗効果で、より素晴らしい眺めに見える。

静かな渓谷内。 静寂を破っているのは、あちこちから聞こえる鳥の声。 「人間が来たぞ〜」とでも、会話しているように聞こえる。 リスとも遭遇。 いい所に住んでいるよなぁ。

11:10AM 「3マイル・レスト」着 ランチタイム!
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3マイル・レスト(標高1439m)
出発地点からの距離:■■■■■■■■■■ 10.9km
出発地点との標高差:◆◆◆◆◆◆ +659m
出発からの経過時間:★★★★★★★★★ 4時間40分
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(残り距離 4.8km、残り標高 652m)

次の休憩所。ようやくお昼にありつける! 一番見晴らしのいい所を選び、ファントム・ランチでもらった昼食の包みを広げる。 ベーグル、りんご、レーズン、サラミ、ナッツの入った小袋、アップルジュース などの詰め合わせ。 疲れと素晴らしい眺めのおかげで、ちょっと味気ない(?)食事もおいしさも倍増だ。

休んでいる間に、汗ばんでた体が冷えてきた。気温5度。  

11:50AM 再び出発
出発しようとすると、 どこの国の人だかわからないが、 男性2人、女性1人の3人組パーティが同じく休憩していた。 彼らもファントムランチの宿泊者で、 ここからゴールまで、抜きつ抜かれつ進むことになる。 しんどくて座り込んで休んでいると彼らに抜かれ、 こちらが歩いていると、今度は彼らが座り込んで休んでいるという具合に。

この辺から、頻繁に下りのハイカーとすれ違うようになる。 広い渓谷内だが、人の気配があると、かなり遠くからでも感じられる。 人間とは、自然の中でなんて浮いた存在なんだろう・・・とチラリと感じる。

この辺は赤い柔らかい土の層で、昨日の雪が溶けたせいか、ぬかるんでいる。 歩きづらい。ラバの糞もまじってぐちゃぐちゃである。 【写真】

12:22PM
向こうから、今度は、 東アジア系の顔立ちの若者が下りて来た。 いつものように
「ハ〜イ!」
と挨拶を交わしてすれちがって2、3歩。 お互いハッと気が付いて振り返り、指を差し合って、
「あ〜ゆ〜、じゃぱに〜ず?」
日本人の学生さんらしかった。 なぜに英語(爆笑)!? 思わず笑って、少しの間 "日本語で" 会話する。 彼もファントムランチまで行くそうだ。 つらそうな我々を見て、彼はボソっと、「明日はわが身」。

13:00 「1.5マイル・レスト」着
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1.5マイル・レスト(標高1743m)
出発地点からの距離:■■■■■■■■■■■■■ 13.3km
出発地点との標高差:◆◆◆◆◆◆◆◆◆ +963m
出発からの経過時間:★★★★★★★★★★★★★ 6時間半
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(残り距離 2.4km、残り標高 348m)
【写真】

谷の上まで、最後の休憩所だ。なんとかここまでやって来た。 ここで10分休憩。すぐ近くで、青い綺麗な鳥が鳴いている。 眼下に歩いて来たトレイルが見渡せる。 もう、かなり高い地点だ。 頭の中で 「♪思えば遠くへ来たもんだ」 が流れる。 【写真】

13:20
いよいよ最後の難所。切り立った白い地層へ。 遠くからスイッチバックの連続が見え、またまた気が遠くなる。 【写真】
グランドキャニオンの崖は、 日本の戦国時代の城の石垣のように、 上に行くほど勾配が急になっている。 ここまで来て、これはコタエル!

とにかく、少し歩いては休み、少し歩いては休み・・・を繰り返し、 ゆっくり登って行く。

さらにこのころから、あきぼんを腹痛が襲う。 とりあえず持って来ておいた下痢止めの薬を飲む。 昼食のとき、波留子の分の分までもらって食べたのだが、食べ過ぎ??               

14:00
ゴールが近いようだが、腹痛のため、何度も座り込む。ピンチ。 上に着くまでトイレは無い・・・もつだろうか? 最悪の場合、ラバの糞に混ぜて・・・(以下自粛)。
雪も残っていて、滑ってなかなか前に進まない。 疲れてるわ、腹は痛いわ、滑るわで散々な気分。 【写真】

腹を押さえて休んでいると、さっきの3人組に抜かれ、 再び歩き出し、少し進むと彼らが休憩していて、追い抜く。それの繰り返し。
途中、適当なタイミングで彼らに声をかけると、彼らはイスラエルから来たとのことだった。 結構若いパーティ。学生さんかな? 「イスラエル」 という発音が、僕らの普段発しているものとかなり違うので、 答えが聞き取れるまで、3回くらい聞き返してしまった。

そうこうしてるうちにも、頭上の崖に、建造物を確認する。 サウスリムの建物だ。 ゴールはもう目の前。 【写真】

14:35 ついにゴール!!
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トレイルヘッド(標高2091m)
出発地点からの距離:■■■■■■■■■■■■■■■ 15.7km
出発地点との標高差:◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ +1311m
出発からの経過時間:★★★★★★★★★★★★★★★★ 8時間5分
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サウスリム、ブライトエンジェル・ロッジのすぐそばにあるトレイル・ヘッドに到着した。 バンザイをして坂を登り切る。 思わず笑みがこぼれ、軽い興奮で背筋がゾクッとした。
ほぼ一緒にゴールした、イスラエル3人組と喜びあう。 1人に記念撮影をお願いする。 【写真】

なんとも晴れやかな気分だ。なんとかお腹ももった。
めでたしめでたし!

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