生活保護受給者としての精神障害者の連携(モデル提示として)

はじめに
主体的に生きるとは何か。その実感とは何か。様々な人とかかわりながら働いている、仲間と作業をするということではないだろうか。または、衣食住が準備されるよりも、アパートに住み自分でいろいろと生活をしたい、働いて自分の給料で食事をしたいといったことではないだろうか。こうした我々が何気なく行っている活動を精神障害者は様々な要因で阻害されている。親に扶養されている、または何らかの援助がないと、生活保護を受けざるを得ないのが現状である。また、生活保護を受けていても精神保健福祉分野につながっていれば特に問題がないという見方も多い。しかしそもそも生活保護=貧困状態→社会福祉の固有の問題であり、精神障害者の取り組みを貧困からの脱却を第一に位置づけることは生活保護行政の存在を捉え直し、リハビリなど専門化した精神保健福祉分野を広くフォローすると同時に自立の指向性を強めると考える。

A.役割について
医療 精神障害者の疾病面の治療を行う。
精神保健福祉 福祉専門機関として、社会資源として役割を果たすと共に、横の連携(医療、行政など)を図りながら生活支援、社会復帰、就労支援を進める。
生活保護
貧困問題として捉え、経済給付を中心としながらも自立助長の視点で精神障害者の生活問題の解消を目指す。また、その方策としてケースワークからソーシャルアクションも含む広範な連携や社会資源の創出などを行う。

貧困の軽減、解消を前提に精神障害者の自立を目指すということは、様々な方法や捉え方がある。しかし、現代日本において自立とは、働くということ(社会の中で生きること)をとおして、自活(経済的自立など)を目指すものであるといえる。また、その一方で、生活保護受給者は多様な生活問題を抱え、貧困状態に陥っているという認識のもと、それらの多様な生活問題の軽減を図りながら自立助長がなされることが重要である。そういったことを背景にして、生活保護は、受給者への訪問、調査を通じて、精神保健福祉分野への連携や場合によっては医療への橋渡しが必要となる。また、状況によっては、生活実態調査から生活要求などをくみ出し、地域活動へまたは社会資源の創設に至ることもあり得る。例えば、
また、退院などはPSW、Dr.精神保健福祉分野などのスタッフと援助計画を立てながら、自立を視点としたカンファレンスに立ち会い、継続して行くことなど。精神保健福祉分野は、主に精神障害者の人権や権利の侵害に対する反省から、出発している。後発ながらも施策や社会資源が充実してきているが、前提として医療が優先していることは今でも否めない。施策としては主に社会復帰と生活支援があるが、就労支援に関しては、社会復帰の中に取り込まれ、いまだ十分ではない状況である。更に言えば、生活支援−長期入院によって剥奪された生活能力の快復、疾病によって荒廃した生活能力の回復−がメインに進められている。確かに、妄想や幻聴が重く、さらには長期入院や様々な要因で社会生活が送れないようなほど荒廃し、回復の見込みのない人もいる。しかし、ある程度障害が軽い人に対しても自ら探して就職するほどではない人々を共同作業所やディケアなど社会復帰施設にとどめてしまう。あるいは、何度も就職に挑戦しては失敗を繰り返した経験を活かすような支援を行わず、再発防止を理由に就労を禁じてしまうケースもある。精神障害の特性や個々の特性を考慮し、適切な就労に至る「道筋」を用意する必要がある。
精神保健福祉分野は、もちろん就労支援だけではなく、精神障害者の状態や医療との連携の中で様々な役割があり(例えば地域精神保健など)、一概には述べることは出来ないが、しばしば生活支援→社会復帰施策に移行することがゴールであるケースが多い中、さらに一般雇用、就労支援の推進によって主体的に生きているという実感を目指すべきである。その時、たとえ、生活保護を受けていたとしても、様々な就労形態やサポート体制の中で選択し、状況によっては生活保護から抜けられる所得が得られるチャンスがあるとか、社会の中で生きている、支えられている、迷惑を掛けているかもしれないが、誰かのためになっているという自己満足感や達成感が得られるのではないだろうか。こうした観点から、生活保護を受給している精神障害者のあり方について、以下に要約する
以下、具体的なモデルを提示し、説明する

B.モデル
1.疾病モデル(前回のレポートにて説明)
  特徴 医療 精神保健福祉 生活保護
1.前駆期 発症、再発 30
通院
40
生活の場
30
訪問調査
医療へ
2.急性期 疾病の表出 60
薬物療法
30
治療同盟
10
経済的給付
3.回復期
療養中心
50(40)
薬物療法
40(50)
教育的プログラム
10
経済的給付
4.安定期
生活能力の回復
リハビリテーション
30(20)
精神療法
60(40)
生活支援
10(40)
経済的給付
5.寛解期
慢性、固定
10
再発予防
40
社会復帰
就労支援
50
自立助長重視

前回の資料の追加あるいは変更点について(生活保護を中心に)

2.福祉モデル
前回は、疾病モデルのみの提示であったが、就労など社会参加を中心に捉えた際のモデルを提示し、精神保健福祉のリハビリ以外の福祉機能、生活保護の貧困状態からの自立、連携、役割を考察する。(中心的な要素を挙げる)


  医療 精神保健福祉
生活保護
A.生活保障中心
入院中
訪問看護
生活支援
経済給付
訪問調査
B.就労支援が必要
通院
訪問看護
社会復帰
サポート体制
訪問調査
連携・同行・創出
C.就労支援が不要
通院
一般雇用へ展開
バックアップ体制
訪問
地域活動


説明(生活保護を中心に)
A.疾病モデルの急性期から安定期を含む。また、寛解期であっても重度であり、就労を目指すよりも、療養を中心に生活の保障を第1に考える必要がある人。しかし、就労する能力がある−ないは、どの基準でどの様に判断するのかは難しく、しばしば、精神障害者ということで、社会参加や就労が阻まれている人もいることを考慮すると、生活保護=貧困→社会福祉の問題と考え、解消を目指すことが必要となる。よって、Aに同定することなく、医療・精神保健福祉と連携しながらBに移行するなどの働きかけが必要になる。
B.適切な就労支援を行えば就労、雇用などが行える状態の人である。精神保健福祉、生活保護においても自立をメインに取り組むことが求められる。精神保健福祉においては、Aの生活支援(ディケア)など生活能力の快復などよりも、社会生活能力の回復、中間的雇用、福祉的雇用を通して就労(一般雇用など)に結びつけていく過程である。生活保護におけるこれまでの就労指導のノウハウや地域活動への活動の歴史などを総動員して社会資源の開拓や連携が求められる。ハローワークへ精神保健福祉や医療との連携の中で同行する、引きこもっている在宅の精神障害者を訪問によって適切な福祉サービスに結びつけるなどは現実によく行われているCWの職務であるが、場合によっては、労働行政、医療、精神保健福祉をケースごとに結びつけて、それぞれの専門性を横断的に結びつけることも必要となる。
C.継続的な医療のケアのみでことさら就労支援を必要とせず、自力で就労する人を指す。ただし、生活保護を受給している状態からの脱却は果たせていないのも現状であり、Bよりも地域生活の整備や社会資源の創出に向けた生活実態調査を通した施策策定への提言などが必要となると言える。なお、救護施設で勤務していた際に思ったのだが、明らかに能力があり、社会性も特に問題もない統合失調症の利用者がいた。彼は、通報、措置入院、救護施設入所ということで、様々な要因が絡んでもいた。しかし、救護施設のスタッフ、CWが積極的にアパートや共同生活の施設への働きかけ、障害者就労センターへ足を運び、必要なら地域活動を通して、生活保護を要せずにも生活できる状況が作れたのではと考える(あるいは構築し得たのではないか)。また、こうした人たちは、障害者になる前には、結婚、就労、一人暮らしなどをしていたため、ちょっとしたきっかけでいくらでも就労にこぎ着けることができるケースもある。

C.考察
今回は、前回のレポートをもとに精神障害者の中でも多数といわれる統合失調症を中心としてモデルを提示した。疾病モデルについては、精神障害者は、他にも主に、そう鬱、アルコール依存、神経症などが含まれる。しかし、精神障害は関係性の障害であることは疾病によって特色があるとしても変わらないと言える。また、就労支援を巡る福祉モデルについては、一般雇用に関しては週40時間フルタイムだけが就労形態ではなく、様々な形態があることを念頭にし、その人のあった労働形態や条件はあり得るし、その人にあった仕事は必ずあると考える。問題は、その職業や勤務先が理解があるとか連携しうるのかといった雇用関係の構築であろう。また、社会福祉法人など専門機関だけではなく、民間の働きかけや立ち上がりつつある様々な社会資源のバックアップやサポート、助成などができるのは行政である。生活保護=貧困状態という視点で積極的に介入なり、発展への活動を行っていくことが、生活保護受給者を減少させる=貧困からの脱却への一歩になるのではないだろうか。

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