精神障害者は、規定ではアルコール中毒、躁鬱病なども含まれるが、その対象はほとんどが統合失調症である。精神障害者福祉は統合失調症を対象としているといえる。しかしながら、以下に挙げる精神障害のサイクルは、1.前兆としての前駆期、2.もっとも症状の重く病気と闘う時期としての急性期、3.症状がおさまりかけて、心身共に消耗していた時期から回復していく時期、4.症状がおさまり社会に向けての余裕が出てくる時期としての安定期、5.症状がほとんど固定し、社会生活において障害者として活動が可能な時期としての寛解期に分けることができると考える。
精神障害が長い間、疾病として捉えられてきた背景には、症状に個々人差が大きいこと、他の障害と違いサイクルがあり介入の判断が難しく、医療中心であったことなどが挙げられる。精神障害者にとって生活のしづらさ、人間関係や社会との関わりなど関係性の障害が大きな特徴として挙げられる。その一方で、精神障害者は軽度であれば、知能や身体上の障害を伴わないため、一般生活において能力的に特に支障を来さない場合も多い。よって、上記の社会への復帰が大きな課題となると考える。しかし、精神症状の「再発」を繰り返した場合、意識的にレベルダウンを起こしやすいこと。そのことにより、社会性が喪失していくことなど個人的な波があるという問題もある。

精神保健福祉法により市町村の保健所を中心にした施策の充実が図られようとしているが、福祉行政主体として福祉事務所の裁量が大きく関われるとしたら、生活保護が唯一と言っていい。生活保護を受給している精神障害者が各サイクルでどの様に行政と関わるのか、行政がどの様に関われるのかモデルとして提示する。

前駆期前駆期
医療:30
精神保健福祉:40
生活保護:30

前駆期は、二つの意味合いがある。発症が初めてのケースと再発のケースである。
初めての発症のケースの前兆を捉えることは難しく、しばしば近隣住民による通報、家族によって医療機関に訪問する等の場合が多い。この割合は再発の前兆として捉えている。

前駆期においては地域生活をしているという観点で、ケースワーカーと精神保健福祉の連携で障害者の状況を把握しておくことは重要である。日常生活面での支援として、または本人の活動圏として情報を十分に共有することは必要である。このことによって、急性期に至った場合のフォローアップ、医療への移行においてスムーズに行えると言える。医療サイドにおいても普段から通院している状況などの情報の共有も重要である。また、こうした連携がなされていることにより、本人との信頼関係が双方に結ばれ、安心が得られると考える。

生活の場として精神保健福祉を利用しているという点で生活保護よりもやや比重が大きく、医療においては、通院をしている点や前駆期における状況を引き継ぐ点において重要であり、生活保護においては日常生活の定期的な本人の把握、医療と精神保健福祉との連携という点である。


医療 精神保健福祉 生活保護
カウンセリング
通院
社会的リハビリテーション
作業所等(生活の場)
経済的給付
訪問、就労指導など
(セルフケア)


急性期急性期

医療:60
精神保健福祉:30
生活保護:10

精神障害者は疾病に苦しむ時期が長期間にわたることが多い。急性期(あるいは疾病が表出している場合)においては、まず利用者を苦しめている、精神症状や陰性症状などを薬物療法等によって軽減を図ることを大きな目的になる。その中において、生活保護は治療上の経費などの保障という面が強いが、常に障害者の状況を把握しておくように病院などに働きかけるスタンスは、医療と生活保護の連携の意味でも大きい。また、これまで本人が利用している福祉施設との連携を通じて、受け皿の確保や調整を担う役割があると考える。

精神保健福祉分野での取り組みとしては、急性期にあっても医療との結びつきからリハビリテーションの準備、または院内における各種メニューに対するPSWの調整など多岐にわたる。


医療 精神保健福祉 生活保護
薬物療法
保護(入院等)
本人への疾病の説明など
医療との連携重視
家族との調整(治療同盟)
経済的給付
本人の状況の把握
生活の場である施設との連携


回復期回復期

医療:40
精神保健福祉:50
生活保護:10


例えば、保護室から閉鎖病棟へあるいは開放病棟へ移り、徐々に日常性や幻覚、幻聴がおさまりかけ、療養する時期である。またSSTや院内作業に参加するなどを行いながら関係性の障害を軽減させていく過程にある。生活保護の役割は、経済的な保障という面が依然強いが引き続き本人の状況の確認から今後の見通しなどの相談などの連携をする必要がある。なお、回復期には疾病によって心身共に消耗している時期からの快復が含まれ、ひとまず安定しているという場合もあるため個々に応じた観察や関わりの中で進める必要がある。


医療 精神保健福祉 生活保護
薬物療法
精神療法
教育的プログラム
リハビリ
生活適応の支援
経済的給付
本人の状況の把握
社会資源の適切性の考慮


回復期安定期

医療:20
精神保健福祉:40
生活保護:40

病状も収まり、退院のめどが立ってくる時期などを指す。このあたりから、生活保護は単に経済的給付という観点だけでなく、地域生活への自立を精神保健福祉との具体的な連携の中で社会資源の開発や連結を模索したり計画したりする必要がある時期でもある。

その一方で、能力障害や生活障害の除去のための精神保健福祉の支援計画などに参加していきながら、経済給付にとどまらないケースワークとしての就労への準備や相談などが具体的になされてくる時期でもあると考える。


医療 精神保健福祉 生活保護
薬物継続療法
再発の前駆症状への介入
精神療法
SSTなど社会生活技能訓練
ディケア、援護寮への移行
生活、能力障害への支援計画
経済的給付
就労支援、ネットワークなど


寛解期寛解期

医療:10
精神保健福祉:40
生活保護:50

ほとんど症状が固定し、個々人のある意味個性として捉えられる。(寛解期以降は慢性期になる)医療との関わりが少なくなり、月に1回あるいは3ヶ月に一回の処方箋程度となっている時期。表記上は生活保護を50としているが自活し、セルフコントロールをして生活していることも含まれる。この時期においては、生活保護によるケースワークにより就労指導が大きく介入しうる時期でもあると考える。むろん、生活の場として精神保健福祉が関わっているケースが多いと考えるが、自立へ向けた取り組みとして、ケースワークが大きな比重を占めることが重要であると考える。(社会的差別への除去なども含まれる)

ただし、寛解期においてもストレスや差別等の外的な要因、怠薬により再発が起こり前駆期に移行するケースもあるため、トータルな意味での把握と連携は必要であるが、必要以上の支援はむしろ逆効果であり、本人のセルフコントロールの部分を尊重し、うまい具合に生活の軌道を築き続けるケアが必要であると言える。(ただし、前駆期における生活保護と精神保健福祉の連携も含まれる)


医療 精神保健福祉 生活保護
通院
カウンセリング
社会的リハビリテーション
社会復帰施設など
地域生活支援
経済的給付
訪問、就労指導など


まとめまとめ
精神保健福祉と生活保護の連携においては、一つに日常生活に関する生活援助−生活障害、関係障害の軽減という点と、社会復帰を重点とした就労に関する準備や社会資源の開発などを通した自己実現や自立的生活の支援という面があると考える。その際に、精神障害を各ステージがあり、そのときの状態によって適切な介入または援助がなされることが必要である。しかしながら、各ステージの捉え方や期間、再発の程度において落ち着く期間なども個人的に大きな違いがあるため、一概に述べることはできないが、医療、精神保健福祉、生活保護の関わる程度はその状態によって違うことは明らかであると言える。

概略的に述べてきたが、必ずしも社会復帰、あるいは一般就労を通じて自活できる人ばかりではなく、不幸にも再発を繰り返して悪化し続ける人や能力的にかなり落ち込み生活能力がない人もいる。しかしながら、例えば寛解にあっても長期入院によって社会性の回復やその道筋がしっかりしていないため、病院にとどまり続ける人もいる(最近は、外来受診が増えてきていること、薬物療法の向上によって改善されてきているが)。こうした人たちに対しあるいは生み出さないためにも生活保護をはじめとした多様な機関の連携が必要ではないだろうか。それぞれの制度の持っている限界の壁を越え対象者の抱える問題の全体像を把握する事が今後はより重要である。


補足補足:生活保護においては、精神障害者に対して主に経済的給付という観点において医療扶助を中心に行われてきた。また、稼働能力がないという分類がなされ、自立助長の面においては消極的であった。また、精神障害者はある意味特有な障害であるため、専門的な扱いをなされてきたため、医療や保健所にゆだねられてきた。しかしながら、精神保健福祉制度の中で本人がすべて生活しているわけではなく、むしろ、日常生活をいかに送るのかといいったことに対してや生活の困難性の除去等を主眼においたとき、生活保護などケースワーカーが関わることは重要ではないだろうか。生活保護における自立助長はこうした生活問題に立脚していると考える。そう考えると、様々な連携を通じて生活保護などの福祉行政が関わることが必要である。


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