2SK30ATM(東芝)の究極のペアを見つける

 金田式の部品の中で、ここまで一般に普及し、しかも現在(98年8月)で生産中である部品は他には無いでしょう。かのスタンダード・スイッチング・ダイオード・1S1588も、まだあちこちに在庫は豊富ですが、もう生産中止です。

 この2SK30ATM、大量に購入すると一本20円かそれ以下で購入可能です。仲間内でまとめ買いして、DCアンプの入力初段差動用によく揃ったペアを見つけると、安上がりで、かつ、お店で選んだペアよりかなり揃ったものを選ぶことが出来ます。うまく選ぶと、パワーアンプの初段に使う限りオフセット調整ボリュームを削除できるくらいのペアを選ぶことが出来ます。すると、また、ボリュームの音質劣化からも解放されることになります。このペアをプリに使っても、オフセット調整が楽で、温度ドリフトも少なめです。

 2SK30ATMは、ドレインとソースに互換性があります。ですが、このペアリングを考えた場合、ドレインとソースを逆にすると、若干Idss等の特性が異なってしまう。つまりペアまで考えたときには、完全な互換性は無い、と考えるべきでしょう。
 金田先生は、プリント基板のパタンにはドレインとソースが、差動の両側で違っている様に指示しています。これは、作りやすさやパタンの簡略さを考えたもので、これ自体はよく考えられていますが、私の目指す「究極のペア」には、これは一つの問題となります。
 そこで、ペアを選ぶときには、「これは左の足をソース」「これは右の足をソース」と自分で定めてペアをとることにしました。つまり、ものによって右の足がドレインになったりソースになったりするわけで、私はいつもソース側に黒マジックで印をつけています。

 


 さて本題のペアの取り方です。

●まず、大まかなIdssの選別を行います。0.1mA単位で、仕分をします。
 この時の注意は、
 1.温度で変わるので、石の差し替え等はできるだけピンセットやラジオペンチを使い、手で持たない。また手で持つ場合は、一つ一つの石を持っている時間をほぼ一定にする、温度の伝わりにくい手袋をする、などの工夫が必要です。

 2.一つの石を測定する時間を一定にします。また、全ての石を一気に測定してしまいます。出来るだけ短い時間で行います。

●大まかな仕分が出来たら、次には、差動アンプを用意します。つまり、実際のアンプにペアを使ってみて、オフセットやドリフトが大きいか小さいかを見てみると良いわけです。
 何でも良いので、定電流回路(4mA、または作ろうとしているアンプと同じ電流)を作り、差動回路の定電流にします。初段の石を入れるところを、ICソケットなどのソケットにして、差し替えられるように作ります。パタンを作る際、左足がソース(左S)と右足がソース(右S)の石をソケットに挿して、平らな面同志くっつけられるようにパタンを作ります。(測定中は、クリップや選択ばさみで2個の石を挟んで熱結合します。)
 ドレイン抵抗も適当に(作るアンプと同じにすればよい)選びます。作るのは差動アンプのみでOK。±15V位の電源と、1mV以下単位を正確に測れるテスターを用意します。

●差動アンプの入力初段の石を入れるソケットに、Idssがほぼ同じものを差し込みます。そして、左Sでも右Sでもよいので、どちらかを基準に決めてしまいます。そして基準ではない方の石を次々と入れ換えて測定するわけです。
 測定は、電源を入れ、差動出力(両方の石のドレイン間の電圧)をテスターDCVレンジで測定し(クリップで止めておくと良い)、この電圧が±1mV以下程度のものが、究極のペアとなるのです。少し譲ってドレイン負荷抵抗が3.9kΩのときに±5mV以内なら、結構使えます。こんなペア、通常100本中数ペアしか採れません。

 測定上の注意は、温度特性の対策のため、一度測定した基準の石は、しばらく冷やして使う手が有ります。また、逆に長い時間をかけて測定しても良いと思います。長い時間をかけると、二つの石の温度がそろってきます。

 当然、測定の際は二つの石をクリップ等で熱結合します。また、選ばれたペアはソースに使う側にマジックで印を付けておくと良いです。

 また、この方法で温度ドリフトも測定できます。一度ペアを選んだ後、そのペアが本当に揃っているか、揃っていてもドリフトはどうか、石が十分に冷えてから、再度測定用差動回路に石を挿入して、出力電圧の変化を見てみます。変化量が数mV以上に達するようであれば、もう一度ペアを選び直した方がよいでしょう。

●ここまで手をかければ、売るとなればものすごい値段に相当します。メーカーは人件費のかかる素子のペア取りはやりたがりません。できるだけペアを取らないでもよい設計にしてしまう。ところが、音質のためには、下手なペア取り不要回路より、地道なペア選別が回路をシンプルにして有利です。
 こういったことは、面倒臭いようで、実はアマチュアリズムを発揮できる場所なのです!